はぐれ一誠の非日常   作:ミスター超合金

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オーフィス可愛い(当たり前)


life.85 兵藤一誠③

「俺は、オーフィスの為だけに生きよう」

 

 いつ頃から一誠にその心が根付いたかは今や定かではなく、また覚えてもいないが、ふと気付いた頃には目標は確かに二つになっていた。

 

 復讐と、(オーフィス)

 

 どちらかを選ぶのか?

 残念ながら答えはNOだ。そもそも前提条件が間違っている。二つの目標は天秤にかけるべきではない。

 故に両方共に果たそうとした。

 少なくとも、両親を失った時から腹は括った。

 

 全力で、

 代償を恐れずに、

 過去の宿主達の立ち回りや末路も参考に、

 

「滅ぼしながら愛そうと決意した」

 

 一誠の策を聞いたドライグやフリードには散々に反対されたが、無理矢理に押し切った。元より復讐も愛も無償で進む筈がない。安い取引だ。

 

 ──life.85 兵藤一誠③──

 

「……赤龍帝?」

「どうした、オーフィス。っと、あまり無理すんなよ?」

「……この番組つまらない」

 

 どこまでも殺風景な彼の部屋は、宛がわれてからずっとこの内装だ。簡易ベッドに机に簡単なトレーニング器具。それと冥界のテレビ番組が見れるテレビぐらいか。

 オーフィスと同棲中の身としては些か味気ないが、二人共に派手なインテリアに興味がないものだから、壁なんかコンクリート剥き出しのままだ。

 

 まるで隔離施設に閉じ込められた実験生物のような生活だが、彼はこの部屋で過ごす時間が特別に好きだ。ベッドに腰掛け、膝の上にオーフィスを乗せて、ぼんやりとテレビを眺めながら情報収集に勤しむ時間を何よりも大切にしている。

 尤も、ここ最近は膝の上に乗せていない。断じて嫌ったのではない。

 

 彼女の子宮の中に新たな命が宿っていると知らされた今となっては、危なくてとても乗せられないのだ。

 

 万が一に備えて、空いていた隣室には拾ってきたレイヴェルを放り込み、何かあれば直ぐに駆けつけるように言い含めた。

 フェニックス家令嬢としてやはり相応の英才教育を受けてきたらしく、妊娠や出産に関する類の知識も叩き込まれたらしい。

 

 将来的には決して無関係ではないのだから当然か。後々の件も含めて、それだけはフェニックスに感謝しても良いと思う。

 

「……誰もいない悪魔の街を眺めてるだけ。ちっとも面白くない」

 

 オーフィスは頬を膨らませて主張した。

 

「そりゃ首都圏──特に上層部の住居区はそうだろ。反対に辺境地域は賑わってるだろ?」

「……ん。正規軍と……反乱軍? 彼等の間で武力衝突が頻発しているらしい。それを次期魔王筆頭候補ディハウザーやロイガンが次々と鎮圧していってる。でも、次から次に反乱が起きる。どうして?」

「彼等は強固なネットワークで繋がってるからさ」

 

 反乱軍が決起したタイミングや地域、その動員規模も、果ては掲げる指導者に至るまで異なる。だが、一見すると無謀で無計画な決起は裏で全て繋がっていて、軍の指導者はあくまでお飾りに過ぎない。

 指導者と称される連中は全員が旧魔王派の生き残りであり、カテレア達の死後に一誠が秘密裏に接収した連中なのだから。

 

 故に、一誠はカテレア達を死に追いやる必要があった。

 ある程度の数と力があり、思想が単純明快で読みやすく、尚且つオツムだけが足りない手駒が欲しかったからだ。二人の敵討ちを煽ると彼らはあっさり頷いた。

 

 故に、一誠は貴族領を順番に襲撃し、最後にソーナ・シトリーを名指しした。

 甚大な被害が出ると悟った領民は他貴族の領に避難した。一誠への迎撃に人員を割いてくれたお陰で避難民の身元確認がおざなりになった。避難民に紛れて潜り込んだ旧魔王派の連中に気付かない程度に。

 

 ゆえに、一誠は襲撃の最後に下級悪魔や元眷属悪魔の不満を煽り、反乱を誘発させ、それらをディハウザーに鎮圧させた。

 こうすることで彼やロイガンが魔王に就任しやすくさせると同時に政府上層部の信頼も得やすい状況を作れる。

 現に上層部の間ではサーゼクス達を解任し、ディハウザーとロイガンの二人を魔王の座に据える案が出ているらしい。

 

「安心してくれ、オーフィス。ここまでは全て俺の計画通りに動いている。順調だ」

 

 とはいえ、懸念事項は幾つか残っている。その最たるが、ソーナ・シトリー及びその眷属の足取りが掴めていない点である。

 どうやら政府によって一家とは別の場所に匿われていたようだが、頭脳明晰な彼女のことだ、交渉材料に使われる可能性を危惧して逃走したのだろう。

 無論、顔を知られている冥界には潜伏していないだろう。人間界、それも駒王町と離れた地域に隠れた可能性が高い。

 悪魔とはいえ別に彼女から危害を受けた訳でもないし、細々と暮らすなら見逃すか、と一瞬考えたものの、彼は即座に却下する。

 

「いや、駄目だな。やるんなら徹底的にだ」

 

 彼女達はきっと第二の兵藤一誠になる。長い年月を経て必ず彼の目の前に立ち塞がる。

 その目的は復讐で、対象は彼の子供だ。ならば絶対に見つけ出して始末しなければならない。

 

 そして、もう一つ妙な点がある。

 

 避難民とした送り込んだ旧魔王派の残党部隊の中で、未だに連絡が取れない者達がいる。それも一人や二人ではない、ディハウザーが潰した分を差し引いても明らかに多過ぎるのだ。まるで集団で忽然と消えてしまったかのように。

 決起する前に、避難民の段階で政府軍にバレて捕縛されたのか。それなら公式発表で言及する筈だ。旧魔王派が裏で反乱の糸を引いていたと言えば、責任を押し付けられる。

 

 ──俺の把握していない第三者が動いているのか?

 

 このときは仮説に過ぎなかったが、後に正しかったことを証明されることとなる。

 

「どうした、フリード。そんな血相を変えて」

「マジでやべぇんスよ!! ルフェイたんがっ、ルフェイたんが血塗れで帰ってきた!!」

 

 それも最悪の形で。

 


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