はぐれ一誠の非日常   作:ミスター超合金

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どーも、ミスター超合金です


クライマックス、一歩手前までやって参りました


このまま圧勝となれば良いのですが……(ゲス笑顔



life.75 内通者②

『最前線のロイガン氏より緊急連絡です! ビィディゼ・アバドンが手勢を率いて反乱を起こしました!!』

『ただいま交戦中ですが兵力差に圧され敗北は必至との模様!! 至急、応援を!!』

 

 頭が真っ白になるとはこの事だろう。部下からの報告に、ファルビウムは全ての動作を停止させた。

 何故なら、彼にとってディハウザーの裏切りは想定内であっても、ビィディゼの反乱は全く予想の範疇を越えていたからだ。無論、彼の背後に一誠が居る事は明らかである。

 

 アザゼルは、ようやっと自分達の過ちに気付く。

 兵藤一誠は確かに貴族領を襲撃して回った。ファルビウムはフェニックス家襲撃のカモフラージュと読んでいた。だからこそ罠を張り、結果としてディハウザーへの疑惑が浮上したのだから。

 

「……奴は襲撃を繰り返した。一週間に一度、貴族領を襲った。──()()()()()()()、奴は襲撃を開始した!!」

 

 兵藤一誠の襲撃予告。周期的に行われた凶行は、内通者であるディハウザーの立場をより強固な物にする茶番であり、或いは本当の狙いだったフェニックス家から注目を逸らさせる為でもあった。

 上層部や魔王、そしてリアスを追い詰める周到な策にして、一部始終を眺めているだろう神話群に自身を売り込むアピールだった。

 

 ファルビウムの読みは全て的中していた。一つ残らず的を得ていた。

 兵藤一誠の作戦の本質も見抜いていた。流石は魔王を名乗るだけはあって、安くない被害を出しながらも対策を編み出して見せた。しかし、足りなかった。

 

「ディハウザーは必ずビィディゼの反乱を鎮圧する。恐らくは事前に兵藤一誠と打ち合わせをしている筈だ。今回の一連の計画は内部からの反乱を誘発する為で、ディハウザーの活躍でそれは失敗した──そういう筋書きなんだろうね……」

 

 彼らは気付かなかったのだ。三大勢力連合軍の前に颯爽と現れた兵藤一誠の表情に。その台詞は単なる挑発目的ではなく、まんまと踊らされた首脳陣への嘲笑を意味していたことに。

 もしも、彼がファルビウムの呟きを聞いていたならば、きっと薄っぺらい笑みを貼り付けて同じ言葉を放ったのだ。

 

 ──足りねぇよ、ボケ。

 

 果たして何が足りなかったのだろう? 赤龍帝と一戦を交える覚悟か、成長の兆しを見せない学習能力か、必死にかき集めた軍勢か? それとも……内通者の人数だろうか?

 

 ──life.75 内通者②──

 

 ビィディゼが最初に兵藤一誠と接触したのは、アバドン領襲撃事件だった。予告に備えて配置した眷属や大量の私兵はあっけなく倒され、一誠は悠々とビィディゼの私室まで侵入してきた。

 集めた者達は全員が上級悪魔クラスの腕利きであり、その質や量もあって彼はすっかり慢心していた。

 

『──冥界と″さよなら″しようか?』

 

 それだけに、一誠が満面の笑みで歩み寄って来た際には酷く狼狽したものだ。護衛は全滅し、目の前にはアリーナ攻撃と若手悪魔殺害を平然とやってのけた危険人物が立っているのだから。死を覚悟したのも懸命に命乞いしたのも仕方無いだろう。

 しかしながら、予想に反して兵藤一誠は取引を持ち掛けてきただけだった。即ち、配下として勧誘されたのである。

 

「そればかりじゃない。奴は戦後の地位と名誉を保証すると約束した。テロリストを撃退した英雄にしてやると誘った。私は遂にディハウザーを越えられるのだッ!!」

 

 ビィディゼは嗤う。まるで可笑しくて堪らないといった風に口元を吊り上げて笑い続けた。その眼はただ自分の栄華しか映しておらず、ロイガンは呆れたように溜め息を吐くしか無かった。

 

 あくまで彼の説明であり、実際にどのようなやり取りを交わしたかは定かでない。しかし、一誠の性格と手口を知っているならば容易に想像がつく。

 

「……愚か者め。口車に乗せられたな、ビィディゼ。断言しておくが、貴様は絶対に殺されるぞ。兵藤一誠は貴様を囮としか見ていない」

「何とでも吠えろ、ロイガン!! そう言うお前はこの場で無様に死ぬんだ!! 幾らお前でも、我が百の精鋭を相手取れるものか!!」

 

 ロイガン・ベルフェゴールには理解できなかった。

 何故、その程度の兵力で笑えるのか本気で分からない。何故、既に自分の野望が破綻していると気付けない。

 

 ロイガン・ベルフェゴールは理解している。

 兵藤一誠がビィディゼの器量を見抜いた上で勧誘して、死んでも構わない適当な陽動役を見繕っただけであると。

 更に付け加えると、ビィディゼの用意した精鋭が実は一誠から与えられた借り物の兵力である事も、彼に悟られぬように手勢達が攻撃魔術を手元に生み出している事も、連中の操る術式が揃って()()()()に属した者のそれである点も察している。

 

 そして、彼女は悟っている。

 テロリストに加担した最上級悪魔という極上の敵を用意した理由も、兵藤一誠が描いているシナリオも、激変するであろう冥界の未来も。

 ついでに自身の予言が当たっていることも。

 

「ディハウザー!? 何故、貴様が!! 有り得ない、予定と違う!! 兵藤一誠は指示に合わせて反乱を起こせば必ず成功すると──」

「礼を言わせてもらう。計画は確かに成功したからな。そして貴様の役目はもう終わりだ」

 

 踵を返して、ロイガンは歩み始める。背後からは何十もの発射音と断末魔が聞こえてくるが、特に気にした素振りも見せないまま、ただ彼女は魔王ファルビウムに報告を飛ばした。

 

「ディハウザー氏の協力もあり、鎮圧に無事成功しました。首謀者のビィディゼは討伐したものの、一味の捕縛には失敗。確たる証拠を持って一旦、本陣に帰還します」

 


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