はぐれ一誠の非日常   作:ミスター超合金

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オーフィス可愛い(鶏そぼろ丼美味しいよね)


life.71 不死鳥狩り⑥

 レイヴェルの顔を見た途端に、芋虫達は慌てて弁解を始める。見捨てたつもりは無いだの、何れお前にも話すつもりだっただの、実に自分達にとって都合の良い話ばかりを並べた。手足を失った今は彼女だけが頼りで、故に必死ですがろうとしているのだ。

 顔を蒼白にさせて小娘を神のように崇める姿は虫けらのように醜く、栄華を誇ったフェニックス家のあまりにも無様な醜態に、レイヴェルは思わず吐き気すら覚えた。

 

 一誠の言葉を鵜呑みにした訳では決して無いのだが、前々から怪しいと思う点はそれなりにあった。そして積み上げられた荷物の数々という確固たる物的証拠を見せ付けられた状況で、果たして誰が連中の言うことを信じるのだろうか。

 

「……分かっただろう? あいつらは君のことなど微塵も考えちゃいない。自分の命さえ助かれば良いんだ」

「……」

「無論、君の戸惑う気持ちも理解出来る。家族に捨てられたと言われても受け止めきれないよなぁ」

 

 甘く優しく語られる一誠の言葉は、ゆっくりと確実にレイヴェルの冷静さを蝕んでいく。

 才女たる彼女にも年相応の面は残されていたのか、あれだけ絶望して泣き叫んでも未だ信じきれていない様子だ。或いは無意識に逃避しているのかもしれない。

 荒い息を繰り返しながら、前面の芋虫と背後に佇む一誠を交互に見つめた。今にも溺れてしまいそうになりながらも、助けて欲しい、と瞳はすがるように訴えていた。

 

 そして何かを期待するような眼差しの奥底に、どす黒い炎が宿っていることに一誠は気付いていた。裏切られた者、見捨てられた者だけが宿す感情をレイヴェルもまた抱いてしまったのだ。

 つまり彼女は揺れている。家族への憎悪と消しきれない情を天秤に掛けて迷っている状態にある。

 

「迷っているね。それも仕方無い。状況証拠を突き付けられても尚、家族の潔白を主張するのは当然だよ。でもねぇ、連中の眼をよーく見てごらん。レイヴェル・フェニックス」

「……」

「君に怯えているだろう?」

 

 フェニックス夫妻も、ライザーも。

 皆が恐怖に歪んだ眼をしている。レイヴェルを讃え、恐れ、怯えた視線を向けている。その瞳に彼女本人はもう映されていない。

 

「あ……」

 

 ソロモン七十二柱のフェニックス家として名を馳せた名門の当主達が保身の為に家族を見捨て、失敗して何もできない芋虫にされてしまった挙げ句に、命欲しさに見捨てた筈の少女にすがり付く。

 彼らが名を呼ぶ理由は別に情愛や絆を取り戻した訳では無い。徹頭徹尾、保身の為だ。

 だからこそ連中は怯えている。満足な抵抗すら叶わない現状だからこそ、余計にレイヴェルの報復を恐れている。

 そして連中の思惑に気付かないようなレイヴェルでは無かった。聡明な彼女は全てを悟ってしまった。

 

 本当の意味で自分は捨てられたのだと。

 

「迷いは吹っ切れたかい?」

「ええ、お陰様で。ところで、この芋虫についてですが……」

 

 ニコニコとレイヴェルは笑みを浮かべる。

 右手には魔力を、左手には壁に飾ってあった剣を、その心に悪意を込めて。

 

「──解体しても構いませんよね?」

「勿論♪」

 

 ──life.71 不死鳥狩り⑥──

 

 両手両足を引き千切られ文字通りの芋虫となったライザーは、ただ心の底から救いを求めるしか無かった。直ぐ隣では父親と母親だったパーツがあちこちに転がっている。

 骨、臓器、肉。二人はそれこそ加工された出荷用の生肉並みに細かく分解されており、フェニックスの力を以てしても再生は不可能だろう。つまり死んでしまったという事だ。

 

「あら、根性が足りませんわね。もっとバラバラにしようと考えていましたのに」

「焼き鳥を寸断したって、鶏そぼろ丼の具材にしかならんだろ」

 

 それもみんな、満面の笑みを浮かべ続ける実妹が行ったのだ。彼女は泣き叫ぶ両親を生きたまま捌いた。切断した箇所が再生した瞬間から即座に切り捨てて、スライスして、最後には解体してしまったのである。

 それもたっぷりと悪意を絡ませ、わざわざ必要もないのに臓器を抉って再生させたり、耳をスライサーで裂いていったり……。

 

『こ、殺してくれぇ!! ……もう楽にしてくれぇ!!』

『んー、死にたい? でも我慢なさって下さい。なにせフェニックスなのですから』

『おーおー、自殺願望持ちの不死鳥とか笑い話にもならんぞ』

 

 両親が殺されていく一部始終を、ライザーは見せ付けられた。そして凄惨な光景に戦慄すると共に、それらを心底から楽しそうに行っているレイヴェルに恐怖した。笑いながら実の両親を殺す彼女に得体の知れない感情が溢れて仕方がなかった。

 あれはもう頭のネジがどうのとか、狂っているだとか、そんな生易しい話では断じて無い。

 

 そして自分への拷問が始まる直前、ライザーは悔やんだ。

 何と愚かなことをしてしまったのだろう。あのときに一誠を陥れてなければ殺されずに済んだのに。そもそもこんな騒ぎにもならなかったのに。

 ポロポロ涙を流すも全ては後の祭り。自業自得。ライザーの軽率さが滅亡を招いてしまったのだ。

 

「ほら、お兄様の出番ですわよ」

「あの芋虫共は三十分ぐらいミキサーに頭を突っ込ませただけで発狂したからなー。お前は記録更新してくれよ?」

 

 ──悪魔は、選択を間違えた。

 

 こうしてフェニックス家は僅か一日足らずで滅ぼされ、一誠の復讐は僅かに果たされた。されど彼の戦いは未だ終わった訳ではない。

 

 兵藤一誠は次なる戦場──シトリー領に赴く。

 


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