はぐれ一誠の非日常   作:ミスター超合金

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life.7 月下迅龍

 聖と魔の融合。

 目の前で起きたイレギュラーを、コカビエルは欠伸をしながら見ていた。どうやら金髪の少年は禁手(バランスブレイカー)に至ったようだ。それもとびきり凶悪な聖魔融合の剣。

 この時代だから出来たのか、とコカビエルは頭の隅で考えた。尤も、彼にとっては些細な事だ。

 

 敵は、駒王学園を根城にするリアス・グレモリー並びにその眷属。リアスの婿であるライザー・フェニックス。教会から派遣された戦士、ゼノヴィア。

 其々が滅び・不死・聖剣デュランダルという厄介極まりない特性或いは聖剣を所有している。

 そこにリアスの騎士である木場祐斗が至って見せた″双覇の聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)″、同じく僧侶のアーシア・アルジェントが所有する″聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)″、更にリアスと共に駒王町を任されているというソーナ・シトリーの存在も考慮すれば、中々に強力なチームになる。

 

 並の堕天使なら圧倒。組織幹部にして上級堕天使たるコカビエルでも、侮れば痛い目を見る。

 

 数々の修羅場を潜り抜けてきた彼は、決して慢心や油断をしない。先だってケルベロスや元教会戦士のフリード・セルゼンをけしかけたが、それも敵の力を測る為だ。

 ケルベロスは消滅し、フリードは木場に敗北し気絶しているがそれも構わない。そもそも彼等は捨て駒に過ぎず、要らなくなれば捨てるしか無いのだから。

 

 その意味では、エクスカリバーの統合を目論んでいたバルパー・ガリレイとは馬が合った。だから仲間に引き込んだのだが、そのバルパーすらも不必要とあれば殺す。彼にとっては当然の話だった。

 

「コカビエル! 貴方の企みもそこまでよ!!」

 

 魔王サーゼクスの実妹、リアスが指を指す。コカビエルは、兄と同じ紅を忌々しく感じた。古の三大勢力戦争時、コカビエルは一度サーゼクスに敗北していた。その時は何とか逃げおおせたが、代償として部下は全滅した。自分を逃がして死んだのだ。

 

 彼が戦争続行を願ったのは部下の敵討ちでもあった。柄ではないと自身は決して認めなかったが。

 しかし、あれからかなりの年月が経過した今でもその悔しさが胸中にあるのも事実だ。

 

 リアス・グレモリー。矛は彼女に向けられた。

 

「……やるじゃないか、グレモリー。それにフェニックス。サーゼクスが来るまでの余興にはなるだろうな!」

「コカビエル……! 聖書に名前を刻んだ程の男、相手にとって不足は無いわ!」

「戦争を経験していないガキ共が!! 俺にとっては不足だ!!」

 

 苛立ちを示すかのように暴風が吹き荒れる。十枚の黒翼で生み出された暴風は容赦なくリアス達を襲う。砂混じりの風が皆の顔に直撃した。

 そして怯んだ隙に、コカビエルはライザーに急接近したのだ。

 

「何だ、見えなかった!?」

「──先ずはお前からだ、フェニックス!!」

 

 骨の軋む音が響く。目視不可能の速度で叩き込まれた蹴りは、不死を持つライザーにもダメージを与えるには充分過ぎた。錐揉み回転しながら吹き飛んでいくライザー。

 咄嗟に炎を拡げ体勢を整えたが、様子を確認しようと開けた視界を、空かさず放たれた第二撃が覆う。

 

 速度に比例して破壊力は上昇する。それが音速であればどうなるか。それは地面にライザーが転がっている時点で解るだろう。再生能力に命を救われたが、心は折れたかもしれない。

 しかし、それは自業自得。上層部からの評価を得る為に強引に参加したライザーが幾ら悔いても遅い。

 

 そんな彼の無様な姿に、コカビエルはもう特に興味を示すことも無かった。フェニックスの名を冠するというから期待していればこの程度である。落胆の色を隠せなかった。

 

 ゆっくりとコカビエルはグラウンドを見渡した。どいつもこいつも弱すぎる。戦えば十秒も持たないだろう。実に退屈だ。一方的な戦いは好まない。

 

「エクスカリバー統合時に描いた崩壊魔法陣を解くには、俺を倒すしか無いというのに……弱い、弱すぎるぞ! 余りにつまらんなぁ!!」

「く……ッ! 勝てなくても何でも、私達は生きて再びこの学園に通うのよ!!」

 

 返答として魔力弾と雷が飛んでくるが大したダメージは無い。どうやら、本当に弱いらしい。ここまで実力差があると怒りを通り越して呆れが出てくるというものだ。ならば、殺そうか。

 

 その時、第六感が反応した。

 脳裏で鈴を鳴らして警告してくる。

 

 戦場で何度も命を救ってくれた直感だ。長年の経験から咄嗟に背後に光槍を投げた。見れば剣士二人が顔を悔しさに滲ませながら必死で槍を受け止めている。

 魔力弾はカモフラージュ。本命は背後からの不意打ち。

 

 通用しない。彼相手に不意打ち等通用する筈が無い。不意打ちもまた立派な作戦であることは認めよう。しかし真の強者はそんな事をしない。

 正面から正々堂々と殴り会うだけ。それだけで強者は力と存在を誇示してきた。小手先の技術で勝てる筈も無い。

 

「おいおい、嘗められたものだ。その程度の不意打ちが成功すると本気で思っていたのか……?」

 

 重圧が増した。ズズズズ、と全てを飲み込むであろう力が放たれる。リアス達は蛇に睨まれた蛙となってしまった。咎める者は何処にも居ない。自分だって恐いのだ、何故他人にだけ万能を求められよう。

 と、コカビエルは不意に笑いだした。可笑しなものを見つけたかのように。

 

「ククク………。それにしても、お前らは親玉を失ってもよく戦えるな」

「それはどういう事よ!」

 

 怒鳴り付けるリアス。その声に、彼はより笑みを深めながら口を開いた。

 

「──三大勢力戦争の時、四大魔王のみならず神も死んでいるのさ」

 

 最重要機密、神の不在。

 

 決して外部に漏らされる事の無かった情報をリアス、ゼノヴィア、そして漸く起き上がったライザーはしっかりと聞いた。有り得ない話では無かった。証拠ならそこにある。

 

「そこの金髪が至った聖魔剣。あれは神と魔王の死により世界のバランスが崩れたからこそ実現する代物だ。……これ以上の証拠はあるまい」

 

 熱心な信徒であったアーシアは崩れ落ちた。小猫が必死に落ち着かせようとしているが暫くはあのままだろう。それを見たコカビエルは更に捲し立てていく。

 

「人間の信仰心や対価に依存しなければ滅んでしまう程に疲弊した三大勢力。各勢力のトップは不都合な真実を隠蔽する事に決定した。故にもう大きな戦争は起きない。それだけ俺達は泣きを見た。……あのまま戦争を続行すれば、堕天使が勝利したと言うのに!!」

 

 やり場の無い怒りを放出させたような必至の形相。そこから語られた真相は純粋なアーシアの心を抉るには足りた。アーシアは涙を流しながら、その場に踞った。

 

「神は、死んでいる……? では、私達に与えられる愛は……?」

「聖書の神が残したシステムを使えば祝福も悪魔祓いもある程度は作動する。尤も、加護を受けられる者は格段に減少してしまったがな。その聖魔剣を創り出せたのも神と魔王の不在により、バランスが崩れているからだ」

 

 ──全ては、天使共が与えた偽りの愛だ。

 

 残酷すぎる現実に彼女の精神は耐えられなかった。全ての制御がシャットダウンされ、スローモーションのように崩れ落ちた。

 

「戦争だ! お前達の首を土産に、先ずはサーゼクスに宣戦布告してやる!! そしてミカエルにも──」

 

 全ての翼を解放し、自信満々に叫ぶコカビエル。だがそれはガラスが壊れるような音に遮られた。

 ソーナが町を守らんと学園に展開していた結界術式は呆気なく壊され、そして降り注ぐ結界の破片を纏う第三者の声が凛と響く。

 

「──くだらない」

 

 声の主は白い龍の皇帝、ヴァーリ・ルシファーだった。

 

 ──life.7 月下迅龍──

 

 月を背に浮かぶ彼には一種の美しさがあった。途端にコカビエルは嫌らしい笑みを消し去った。

 

 どうして白龍皇(ヴァーリ)が此処に来たのか?

 アザゼルの差し金なのか?

 

 警戒しながらコカビエルは訊ねる。

 

「……アザゼルの指図か。しかし、邪魔立ては──」

「何処を見ている。俺は後ろだ」

 

 背後からの声。そして一撃。完全に無防備なところを突かれたコカビエルは僅か一秒そこらで地にねじ込まれた。慌てて翼を展開するが、もうかつての余裕は無い。

 

「おのれ、小癪な真似を……ッ!!」

「あんたが俺のスピードを捉えられなかっただけの話さ。………さてと、俺の所有している神器、″白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)″の能力は、あんたも知っているだろう?」

「確か、触れた者の力を半減……ッ!?」

 

 言い切るよりも早く、死刑宣告に等しい白い龍の声が響く。

 

『Divide!!!!!』

 

 機械的な音声。次いでコカビエルは高所から猛スピードで落下していく感覚を味わった。思うように身体が動かない。

 それこそが″白龍皇の光翼″の真骨頂。触れた者の力を十秒毎に半減し持ち主の糧にするという凄まじい能力。相手に触れなければならない為、一騎討ちでこそ真価を発揮する神器とも言える。

 

 つまり今現在この戦場において、ヴァーリ・ルシファーは無敵という事だ。

 

『DivideDivideDivideDivideDivide!!!!!!!!!!!』

 

 繰り返される音声。弱者に成り下がるコカビエルに反比例して、ヴァーリは魔王クラスにも力を上げていた。

 最早コカビエルの力は中級堕天使以下。敗北は必至。ヴァーリは苦笑しつつ、侮蔑の眼差しを向けた。

 

「あんたを無理矢理にでも連れて帰るようアザゼルに言われたんだ。──さっさと終わらせて、彼ともう一度戦いたい」

「畜生!! この俺が!! アザゼルゥゥゥゥゥ!!! お、俺はぁぁぁぁぁ!!」

 

 ヴァーリがコカビエルの顔面を力の限り殴った。抵抗も何も出来ずに彼は気絶し、それによりグラウンドに描かれていた魔法陣も消滅したのだった。

 

 

 ボロボロになったコカビエルの首根っこを掴みながら、ヴァーリは嘆息した。

 顔面が腫れ上がり見るも無惨な姿になってしまった彼を今から本部まで連れ帰らなければならない。そう思うと気が滅入る。

 

「フリードも回収しなければ。コカビエル同様に聞き出さなければならない事があると言っていたしな」

 

 いそいそとフリードを探すヴァーリに、リアスが怒鳴った。

 

「待ちなさい! 貴方は何者なの!!」

 

 納得できないという目を向けられたヴァーリは苛つく。本部に帰って面倒な書類を山ほど書かされてやっと自由時間が手に入るというのに、小娘にそれを奪われてたまるか。

 ヴァーリはリアスに目もくれなかった。ただ、帰り際に一言告げた。

 

「俺の事より、赤龍帝を気にしたらどうだ?」

「……ッ!!」

 

 リアスは目を見開いて言い返そうとした。しかし、ヴァーリは既に夜空に軌跡を描いた後だった。

 こうして堕天使幹部が引き起こした一夜の抗争は、白い龍の乱入によって終わりを迎えたのであった。

 


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