はぐれ一誠の非日常   作:ミスター超合金

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オーフィス可愛い(変態)


life.64 リアス・グレモリー④

 グレモリー家。現魔王サーゼクスを排出した公爵の家系にして、ソロモン七十二柱にも数えられる由緒正しい家柄()()()

 何故、過去形で締め括ったのか。それはグレモリー家の栄華はあくまでも昔の話であって、今現在はかなり追い詰められた状況にあるからだ。

 

「……なんで、こうなるのよ。悪いのは全部アイツじゃない!!」

 

 広いだけの自室で、頭を掻きむしりながら喚き散らす少女がいた。今や冥界中から、実の両親や義姉、甥からも揃って憎まれているリアスである。

 上層部から謹慎を言い渡された彼女は学園を退学させられ、人間界から強制帰還となった。無論、フェニックス家との婚約も破棄だ。

 

 豪華絢爛な調度品も大勢の使用人も消えた、付け加えるならば前よりも小さい屋敷に引っ越しとなったリアスは、狂ったように叫ぶ。

 

 どうして、と。

 

 没落の始まりは襲撃事件直後にまで遡る。放送局や出版社が一斉に報道した告発映像こそが全ての発端だった。匿名で送られたというその映像は、どうやら監視術式で隠し撮りされたものらしい。

 

『リアス……は対象に含まれていない』

『……良いのね?』

『……証明にならないか?』

 

 ノイズ混じりの音声で会話こそ良く聞こえないが、言葉を交わす二人の男女の姿はハッキリと映されていた。

 銀髪の男はヴァーリ・ルシファー。堕天使組織所属でありながらテロリストに寝返った裏切り者にして、現白龍皇である。これだけでも問題なのだが更に冥界を騒がせたのは彼と話す少女の方だった。

 

 あろう事か、少女はグレモリー家次期当主のリアスなのだから。

 

 ──現魔王の妹、テロリストと内通か!?

 ──密会する二人! 史上最悪の襲撃事件はグレモリー家次期当主の陰謀なのか!?

 

 三流ゴシップ誌のみならず大手メディアまでもが大々的に報道したことで政府上層部は大騒ぎとなった。ただでさえ魔王二人の不在で組織が揺らいでいるのに、よりによって魔王の実妹のスキャンダルがすっぱ抜かれたのだ。

 今から報道機関に手を回しても間に合わないし、回すような人手もない。あげくに映像が本物で、目撃者を名乗る連中まで現れるオマケ付きだ。しかも証言まで信憑性が高いのだから手に負えない。

 

『リアス・グレモリー。貴様の罪は非常に重く、魔王様の実妹だからと見逃せるようなものではない』

『待って下さい、私はッ!!』

『ええい、黙れッ! そもそも貴様が下僕を管理していれば、こんな事態にはならなかった! それに貴様は領地の運営すら出来てないだろう!!』

『貴様の管理不届きで冥界は赤龍帝を失ったばかりか、今回の被害を負った! どう責任を取るつもりだ!!』

 

 冥界上層部はリアスに全ての責任を押し付けた。

 結果として彼女自身の首は辛うじて繋がった。上層部からは何らかの刑罰を与えるべきとの意見もあったが、自分達が赤龍帝を裏切った張本人という点もあり、流石に全責任を問うのは酷だと判断したのだ。

 その代わりにグレモリー家──リアスの両親に、子の不始末は親が責任を取るべき、と今回の一件の損害賠償を命じたのである。

 

 莫大な賠償金はグレモリー家の財政を大幅に圧迫。更に今回の報道でグレモリー家の将来を不安視した領民が挙って他領に移住。

 そして懇意にしていた商人達や付き合いのあった他の貴族達からも見限られたので、収入源を失ったグレモリー家は一気に困窮する羽目になった。とても賠償金を支払えるような状態では無くなった。

 

 豪華な調度品の数々を売却し、使用人には暇を出し、広大な領土の殆どを手放し、城と見違える程だった屋敷から小さい屋敷に移った。

 そこまでして、賠償金が用意出来るかもしれない、という状況なのだから、その没落振りが伺えるというものだ。

 

『貴方がリアスを甘やかしたせいで我が儘に育ったのよ!! どうするのよ!』

『な、私に全てを押し付けるのか!! 教育を間違えたのにはヴェネラナだって責任があるだろう!?』

『その結果がコレよ!! 領民にも商人にも見限られてしまった!! もうグレモリー家は立ち直れない!! それもこれも貴方の教育のせいじゃない!!』

 

 グレモリー夫妻は顔を合わせる度に大喧嘩をするようになって、何時しか矛先はリアスに向けられるようになった。とは言え別に怒鳴り散らしたり暴力を振るう訳ではない。

 リアスが()()()()()()()()()振る舞う。最低限の挨拶こそしても会話はしない。徹底的に無視した。

 

『リアスお嬢様。私は暫く暇を貰います。サーゼクスの看病をしなければなりませんし、何より……貴女を許せそうにありません』

『……お父様を返してよ』

 

 グレイフィアはミリキャスを連れて屋敷を出ていった。病室に泊まり込んでサーゼクスの看病をするらしい。だがそれが建前であることは明らかだ。

 このままでは、あのリアスの甥であると無関係のミリキャスにも悪影響が生まれかねないし、何より二人ともサーゼクスが傷付く遠因を作った彼女を許せなかった。

 

『……部長。僕達に人間界での待機命令が降りました。ソーナ様の学園生活を補佐するように言われました』

『一応、籍だけはリアスの眷属のままですが、機会を見て他の有望な悪魔の下に移ってもらう、と』

『すまない、リアス部長。拾ってもらった身でありながら……』

『うう、ごめんなさい……』

 

 眷属達は人間界に残り、一時的にソーナの管理下に置かれるらしい。その後は分からないが彼らの能力は有望な為に、恐らくは他の悪魔とトレードとなってリアスの下を去るのだろう。

 

「……悪いのは、イッセーなのに。全部、アイツがやったのに」

 

 リアスは床に三角座りして呆然とテレビ放送を眺めていた。画面の先では兵藤一誠が犯行予告をしていた。どうやら一週間毎に貴族の領土を襲撃するようだ。

 願ってもないチャンスだと彼女は思った。一誠を討伐すれば評価は上がるし、信頼も取り戻せる。没落したグレモリー家だって再興出来るのだ。

 

 大丈夫だと頷くリアス。何もかもを失ったが、まだ自分には最大の武器である″身体″が残されているのだから。

 

「……早く、来なさいよ」

 

 相も変わらずケラケラ笑っている一誠を見て、リアスは悪魔のように微笑んだ。

 


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