はぐれ一誠の非日常   作:ミスター超合金

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オーフィス可愛い(愛情表現)


life.59 捕捉

 悪魔の軍勢が冥界の空を染めていた。彼らは同じ種族でありながら、違う目的と使命を持つが故に、今こうして互いに泥沼の殺し合いをしている。

 現政権派と旧魔王派、停戦派と過激派、正規軍とテロリスト。それだけの理由で空から血の雨を降らせていた。

 

 そんな武力衝突の中心で、合間見える三人の影があった。奇しくもかつての内戦とそっくり同じ構図である点に気付いた一人が笑いを溢した。

 

「……何がそんなに可笑しい。クルゼレイ」

「そうよ、クルゼレイ君!」

 

 対峙する魔王サーゼクス、セラフォルーが怪しむもクルゼレイは笑うのを止めなかった。

 まさか自分の最後の舞台があの戦いの続きとは、運命とは殊更に面白いものだ。

 

「ふん、偽物の魔王達は忘れたか。あの内戦を」

「ちゃんと覚えてるわよ! 私達はその功績で魔王に選ばれたんだから!」

「……担がれた、の間違いだろうが。あの時、我々に大人しく政権を渡していれば、こんな大騒ぎにならなかったのだ」

「それはできない。もしも政権を渡していれば、君達は三大勢力戦争を再び勃発させていただろう。そうなれば我々は共倒れだった」

「赤龍帝を捨て、結果として冥界に被害をもたらした男がどの口で言う」

 

 吐き捨てるとサーゼクスは口をつぐんだ。

 話を聞かされていなかったのか、はたまた特撮で培った演技か。セラフォルーは首を傾げたが、それも一瞬でクルゼレイに食ってかかる。

 

「ねえ、クルゼレイ君! 今からでも降伏してよ!! そうすれば命だけは助けてあげるからさ!」

 

 セラフォルー・レヴィアタン。旧名をシトリーという彼女は昔からお調子者で良く言えばムードメーカー、悪く言えば空気の読めない馬鹿だった。

 外交関係の最高責任者ではあるが、アニメのコスプレを正装と言い張る阿呆であり、冥界が貴族主義であることを象徴するような魔王だ。

 

 そんな性格の彼女は、クルゼレイを説得しようと試みた。脳内が花畑まみれの魔王は、この期に及んでも現冥界の敵であるテロリストと話し合おうと考えた。

 

「──避けろ、セラフォルー!!」

「え……?」

 

 故に、致命的に反応が遅れた。四方八方から迫り来る魔力の波動に気付かないまま蜂の巣にされたのだ。

 

 赤い血の霧雨が降り注ぐ城の上で、サーゼクスは傷だらけとなって墜ちていくセラフォルーに手を延ばす。

 だが右手は遂に彼女に届くような素振りを見せずに、魔王セラフォルーはそのまま真下へと落っこちた。

 

 数瞬の沈黙の後で、ゴシャリ、と一際大きく鈍い音が彼の耳に聞こえた。眼下に小さく見えるのは、全身が醜く潰れてしまっている赤黒い一つの点であった。

 もう虫けらになってしまったそれが、かつて魔王セラフォルー・レヴィアタンであったことは誰の目にも明らかである。まして、その命の灯火が消え去ろうとしていることなど。

 

「……この高さだ、辛うじて生きていても虫の息だろう。今から応急処置をすれば、命だけは助かるかもしれんな」

 

 この状況を作り出した張本人であるクルゼレイはうっすらと黒い笑みを浮かべる。対してサーゼクスは、近くに展開する部下にセラフォルーを治療施設へと搬送するように命じた。

 部下達が慌てて彼女の元へ向かう間も、また回収を終えて施設へ転移していく間も、サーゼクスは俯いてずっと黙ったままだった。

 

 やがてゆっくりと上げた顔は憤怒に歪んでいた。何故、と彼は次に訊ねた。

 

「何故、セラフォルーを狙った」

「……それは今、この場所が戦場だからに決まっている。お前はかつての内戦で、いちいち敵を区別して殺したのか? 違うだろう?」

「戦場だと!? 卑怯な襲撃を仕掛けて、無関係の者まで巻き込み! 挙げ句にセラフォルーまで!!」

「いいや、戦場だ。周囲を見てみろ」

 

 天をも喰らう炎柱に包まれて、首都上空でぶつかり合った悪魔達は相手の腕を切り落とし、脚を抉り、倒れた仲間を見捨て、ただ敵を殺す為に戦っている。

 方や少し遠くに見えるアリーナでは何の関係もない民衆が、悲鳴すらも残せずに肉片となって散りばめられている。

 

「ほら、これは戦争だよ。三大勢力(俺達)が愛して止まない戦争なのだ」

 

 抑揚の無い声で締め括るクルゼレイ。それでも理解も納得も出来やしないのだろう、彼は口でこそ何も返さなかったが、代わりに大質量の魔力を纏った。

 サーゼクスが魔王となった最大の理由、触れる物全てを消滅させる″滅び″だ。

 

 此処に至ってテロリストとの争いを繰り広げていた政府軍の連中は、我先にと退却を始める。一方のクルゼレイも尚も戦おうとする部下達を諌めて、逃走を言い渡した。

 ″蛇″によって強化されているとはいえ、サーゼクスとは未だ埋めきれない実力差が存在する。クルゼレイが蛇の力を全開にして戦ったところで腕の一本が関の山だろう。

 

「三つ巴の大戦時代からお前達には迷惑をかけた。だが、負け戦にまで付き合わせるつもりは無い。お前達は早く逃げよ」

 

 そう短く告げてから、彼は体内に宿した″蛇″の魔力を限界まで膨れ上がらせる。器たる身体が耐えられなくなり、全身に罅が入り始めるも知った事ではない。どうせ残り僅かの命なのだから。

 一人、また一人。部下達が去っていく。そんな彼等にサーゼクスが魔力を放つべく狙うも、間に割って入った影に止められる。

 

「俺の可愛い部下だ。手出しは無用」

「……それなら、先ずは君から排除する」

「好きにしろ」

 

 直後、短い発射音が響いて、同時にクルゼレイ・アスモデウスの頭を貫いた。

 

 ──life.59 捕捉──

 

「……赤龍帝。クルゼレイの生体反応、消えた。我の″蛇″が教えてくれた」

「へぇ。それで、他に変わった事は?」

「……我の蛇、膨れ上がったまま。この状態、凄く危ない」

 

 オーフィスからの報告に、一誠は笑って頷きながら呑気に歩を進める。炎と煙の立ち込める周りには死体がそこかしこに転がっているが彼は特に気にした様子も見せず、隣を歩くオーフィスの手をしっかりと握り締めて、ズンズンと先を目指して歩いていく。

 一誠が上機嫌のまま鼻唄まで歌っているので彼女も嬉しくなって、ムギュウと一誠の手を掴んだ。

 

「因みにだけど、オーフィス。どうして危ないんだ?」

「……魔力が行き場を無くして暴走する。そして、最後には爆発する」

「ふーん」

「……何故、訊いた?」

 

 小首を可愛らしく傾げるオーフィス。何でもないよ、と頭を撫でて一誠はふと空を見上げた。

 何時見ても忌々しい紫色の空、地面を見れば彼方までも拡がる赤色、首都の方向から聞こえてくるのは()()()()()()()()

 しかし今の一誠には全てがどうでも良く、痛い程に握ってくるゴスロリ服の幼女と一緒に自らの目的を果たすことしか考えていなかった。

 

 だからこそ標的の人物を見付けた際には、近頃は滅多に見せていなかった満面の笑みを浮かべたのである。

 

「久しいな、リアス・グレモリー」

 


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