はぐれ一誠の非日常   作:ミスター超合金

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オーフィス可愛い(無双)


life.57 リアス・グレモリー③

 リアス・グレモリーは無能だ、と民衆は言う。

 眷属を集める才能はあっても眷属を従える才能に欠けている、と上層部は嗤う。

 

 即ち、王たる器ではあらず、ということだ。

 

 実際に過去の事例を挙げてみるならば。死にかけていたところを偶然にも拾った赤龍帝は″SSS級はぐれ悪魔″であるし、処刑寸前であるところを保護した猫又はテロリストに拉致され、悪魔を癒す元シスターはかつて救った悪魔と共に北欧神話に亡命してしまった。

 時間を停止させるハーフ吸血鬼やデュランダル使いの元教会戦士も、心に壁を作ったままである。

 

「随分と悪意のある説明ではあるが、客観的に纏めると結局はこうなるのさ。兵藤一誠に同情するよ」

 

 淡々と、どうでも良いように銀髪の青年は述べた。生来の戦闘狂を自覚する彼は、周囲の光景など全く視界に入っていないかのように、普段の雰囲気のままで平然と欠伸をする。

 例えば、焼け爛れた男が助けを乞うても無視するし、片足の無い女が腕に抱いた子供の応急措置を頼んでも手を払い除けている。

 

「貴方ねぇ……! 他人の命をなんだと思ってるの!?」

「おっと、お気に召さなかったかな? 情愛に深いグレモリー家のお嬢様?」

 

 ヴァーリ・ルシファーの瞳には己の興味ある者しか映らない。

 それは例えばランキング上位に名を連ねる強者達だったり、一誠から探すように頼まれた人物だったり、或いは……彼を憤怒の形相で睨むリアス達だ。

 

 ──life.57 リアス・グレモリー③──

 

 突如として現れたヴァーリに、一斉に武器や魔力を構えるリアス達。しかし手は酷く震えていて額には大量の汗を流していた。

 何せ相手との実力差が有りすぎるのだ。自分達が束になっても傷一つ付けられなかったコカビエルを、彼はまるで虫を潰すかのように一方的に叩き潰している。しかもその際の言動から見るに本気を出してすらいない。

 アザゼル考案の修業をこなしたとはいえ、リアス達の実力は並の上級悪魔に毛が生えた程度に過ぎない。間違いなく数秒かからずに皆殺しにされるだろう。

 

 自分達の末路を思い浮かべて顔を蒼白にする彼女達と対称的に、ヴァーリはただにこやかなスマイルを浮かべるだけだった。

 血と肉と焔に囲まれても彼が余裕でいられるのも、確かな実力を持つ強者であるが故だ。

 

「俺が頼まれた任務は人探しだ。リアス・グレモリーと眷属は対象に含まれていない」

 

 両手を挙げて降参のポーズを取るヴァーリ。暗に見逃すことを告げる言葉に、滅びの魔力を手に纏わせたままで警戒を続けるリアス。無能と陰口を叩かれる身だが、流石にテロリストの言葉を丸呑みにはしなかった。

 背後に控える木場、朱乃、ゼノヴィアを手で制して自分は一歩前に出る。

 

「……信じて、良いのね?」

「やるならとっくに殺してるさ。君達が今も生きて喋っている事実がその証明にならないか?」

「……解ったわ」

 

 此処に至って漸く納得してリアス達は矛を収めた。だが視線だけはヴァーリから離さずに、彼の一挙手一投足に神経を集中させた。

 そんな彼女達の無駄な努力に、ヴァーリは笑みを浮かべる。憐れむような生暖かい眼差しだった。

 

 リアス・グレモリー。赤龍帝の元主君であり、情愛に厚い事で有名な名門グレモリー家の次期当主。

 かつては″紅髪の滅殺姫″と讃えられた才女は、今や赤龍帝に反逆された愚かな無能であると、上層部や民衆から嫌われている。もう魔王を務める兄ですら周囲の不満は抑えきれない。

 

 果たして彼女は気付いているだろうか。仮にこの場を乗り切ったとして、最早自分の末路が確定してしまった事に。

 冥界政府と民衆が今回の戦争の責任を誰に求めるのか、()()()であるリアスは考えているのだろうか。

 

 今、自分が()()()()()()()()()を理解出来ているだろうか。 

 

「さようなら、リアス・グレモリー。俺は任務に戻ろう」

 

 終始余裕の態度を崩さないまま、ヴァーリは電脳的な白翼をバサリと拡げた。目的を果たしたからだったし、此方に向かってくる強い魔力を感知したからでもあった。恐らくは話に聞いたバアルの次期当主だ。どうやらリアスと合流するつもりらしい。

 若手悪魔で最強という噂の彼としても是非手合わせしてみたいが、如何せんタイミングが悪い。ならば鉢合わせする前に姿を消すのみ。

 

「……俺のことより、″赤龍帝″を気にしたらどうだ?」

 

 ただ去り際に一言だけ呟いた。それはかつてリアスに投げた台詞と全く同じだった。

 リアスは悔しげに唇を噛むも言い返せずに、冥界の空に消えていくヴァーリを呆然と眺める事しかできなかった。彼女がサイラオーグと合流したのはその直後だ。

 


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