はぐれ一誠の非日常   作:ミスター超合金

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オーフィス可愛い(戦争編開幕)


Genocide.
life.51 旧魔王派


 レーティング・ゲームへの一誠乱入事件から一週間と少し。冥界政府は未だ混乱の渦に包まれている、と旧魔王派のトップであるカテレアは淡々と述べた。

 上層部と魔王サーゼクスの根回しも意味を成さず、兵藤一誠の両親を人質にした、という不都合な情報は隠蔽しきれずに──民衆は兎も角として、他神話勢力への対応に苦労しているとのことだ。

 

 つまり、今こそが冥界を襲撃するに最高の機会だ。

 そう彼女は何時にも増して真剣な眼差しで、同じく旧魔王派を率いるクルゼレイに訴えた。

 確かにカテレアの意見にも一理ある。現在、冥界上層部は事態の沈静化に精一杯で、とても他に手を出せるような状態ではない。加えて連中も続けざまに襲われるとは予想していないだろう。

 

 だが、直ぐに賛成すると思われたクルゼレイは意外にも返答を渋った。あまりにも政府を甘く見ているのではないかと考えたからだ。

 旧魔王派の兵力はようやっと千に届く程度。対して相手は無傷の政府軍に、″皇帝(エンペラー)″ベリアルを筆頭に魔王クラスが並ぶのだ。まともに戦っても勝ち目は無い。

 故にこの隙に乗じて力を蓄えるべき。それが()()()の理由。

 

「考え直さないか、カテレア。もう俺達は……」

 

 今まで眼を背けてきた二つ目の理由を口にしようとするも途中で止めた。目の前に座る最愛の女性は、既に覚悟を決めていると悟ったのだ。

 だからこそ、とより口調を強めて言うカテレア。二人きりの会議室にただ言葉のみが響く。

 

「″蛇″を飲んだ私達には時間が無い。貴方も知っているでしょう?」

「……」

 

 オーフィスが産み出す魔力の結晶。姿に準えて″蛇″と名付けられたそれは、用いた者の力を飛躍的に上昇させるという能力を有しており、カテレアとクルゼレイもその恩恵で魔王クラスの実力を手にした身だ。何しろ、オーフィスを唆したのも元を辿れば″蛇″が目当てだったのだから。

 だが、一つ考えて欲しい。魔力や身体能力が爆発的なパワーアップを遂げたとして、果たして()たる身体は無事で済むだろうか。

 

 答えはN()O()だ。

 

「急激な変化に肉体が耐えられず、やがては塵となってしまう。悲惨な末路を何人も見てきたわね。遺言も、断末魔すらも残せない」

「俺も、カテレアも。先は長くないだろう。ならばこそ、戦力を整えてから最後の攻撃に──」

「その認識は甘いぜ、クルゼレイ」

 

 続きは第三者の冷たい声が遮った。見れば部屋の扉に背を預けている人影がある。

 

 駒王学園の制服を身に纏った、氷のように鋭い視線を向ける少年。今代における赤い龍(ドライグ)の宿主。そして赤龍帝派を率いる男。

 

 兵藤一誠。何処と無く震えた声で名を呼んだ。

 

「何をしに来た?」

 

 彼がこの場に訪れた理由がクルゼレイには分からなかった。何故なら両親を失って以降、一誠は自室に籠っていたのだ。

 仲の良い曹操やヴァーリ、一番の部下を自称するフリードの言葉にも耳を貸さず、連れ添っていたオーフィスに寄り添い、半ば脱け殻と化していた筈だ。

 

 だから余計に意外で、尚且つ不気味だった。彼の眼は深い憎悪に支配されるでもなく、悪魔への復讐を目論むギラギラした様子も見当たらない。

 まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ような、そんな濁りきった瞳をしていた。

 

「私が頼んだのです」

 

 動揺から抜けきれない男に、カテレアは先程の質問の答えを投げた。

 

「確かに私達では戦力不足。なら、他から集めれば良いだけの話じゃない。魔王に抗えるだけの戦力をね」

 

 そうして自分に都合良しと選んだのが兵藤一誠なのだろう。実力と知略を兼ね備え悪魔への復讐を目指している点を考慮すれば、確かに協力者にはうってつけの逸材だった。

 避けられない旧魔王派の運命を垣間見て、やがてアスモデウスの末裔も力無く頷く。

 

 細かい話し合いを終えて、意気揚々と去っていく赤龍帝と最愛の女性の背に、彼は問いかけた。

 

「だから甘く見ていると言うんだ、お前は──隣に立つ男の本性を、何も解ってないだろう?」

 

 ──life.51 旧魔王派──

 

 会議室から出た直後、一誠は廊下の壁にもたれているオーフィスに気付いた。ゴスロリ服の彼女は一誠が出てくるなり駆け寄る。

 彼は微笑んで、オーフィスの頭を撫でた。透き通るような黒髪が舞い、或いは名残惜しそうに、武骨な指に絡まった。

 

「一緒に行こう、オーフィス」

「……うん。我、ずっと赤龍帝と一緒」

 

 そのまま手を繋ぎ、二人は歩を進めた。暫く歩いてから、「オーフィス」一誠は愛しそうに呼んだ。続いて、俺の隣にいてくれと呟いた。

 

 ──ずっと、ずっと。一緒にいよう。

 


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