トレーニング室に防御結界を展開して、そこで一誠とヴァーリは対峙していた。
無限たるオーフィスが張った結界は、相当な事でも無い限り壊れることなど有り得ない。故に二人は全力で戦えるのだ。
機械的な翼を展開しながら、ヴァーリは一誠に告げた。
「俺が自己紹介した時に気付いただろうが、俺はルシファーの血を宿す者だ。旧魔王の孫である父と人間の母との間に生まれた混血児だからこそ、
「俺とは正反対だな。俺は両親共に普通の人間だよ」
「その意味では確かに反対だな」
一誠が籠手を装着する。そして宝玉が、二天龍が叫んだ。
「「──始めようか」」
『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!!!!』
『Vanishing Dragon Balance Breaker!!!!!!!』
音声の直後、二人を龍のオーラが包み込む。そして、一誠とヴァーリは鮮やかな光を放つ
天を名乗るだけの力を持つ
他の団員達は蹲ったり気を失っている者もいるが、原因である一誠達は弱者の事情など知ったことかと言わんばかりにますますオーラを解放していった。バチバチと辺りに互いの闘志がぶつかり合って生まれたプラズマが走る。
「……心地好い龍の波動だ。二天を宿すだけあって戦闘を好むようだな」
「そう言うヴァーリこそ、莫大な白いオーラを出しやがって。喜んでいるのが解るぞ」
一瞬の沈黙。そして仕掛ける。コンクリート床が軋み、ヴァーリが一誠の領域に踏み込んだ。
次いで両者の絶叫が木霊する。二人の顔に相手の打撃痕が刻まれ、そして殴り合った。血を噴きながら、血を流しながら。それでも彼等は嬉々として向かっていった。
「やるな、兵藤一誠!! 至ったばかりでそこまでやれるのか!!!」
「お前こそ! 想像以上に強いな!!」
一誠とヴァーリが拳をぶつけ合い、前に増して重圧を放出する。翡翠に染まりし宝玉と蒼に染まりし光翼が、自らの意地と主の歓喜を代弁するかのように倍加と半減の絶叫を重ねる。
既に最上級悪魔同士の戦いにも並んでいるが、龍達にとっては開幕の合図に過ぎない。その身を焦がすレッドゾーンは未だ先だ。ヴァーリも一誠も、今だけは過去を忘れて戦闘の快楽に溺れた。
何処までも泥臭い、不器用な戦い。しかしそれこそが過去数百にもなる歴代所有者達、何よりも
力の塊と称された龍だけに解る、他の種族にはどうあっても理解されたくない代物だ。
ヴァーリが神器の能力である″半減″を発動するが、一誠も即座に″倍加″を使う。相手の力を半分にし、己の糧とする純白。自身の力を倍にする紅蓮。終わりなど見える筈が無い。
笑いながら二人は尚も殴り続ける。
互いの顔を、腹を。
腕で、脚で。
瞬き一つという、ほんの僅かな時間に二人の鎧に痕が描かれていく。
二人は限界だった。意地と根性だけで此処まで意識を保ってきたが、もうとうに限界は越えている。
これ以上戦えば死ぬ。しかし止まらない止められない。
ブレーキが壊れた車のように、一誠とヴァーリは坂道を転がり続ける。最早ブレーキという概念が存在しない。
否、してたまるか。
一誠が殴ればヴァーリも殴る。ヴァーリが蹴りを入れれば返しに一誠も蹴る。理由は無く、単純にやられたからやるだけだ。
さて、オーフィスはそんな狂気の押収をやや焦りながら眺めていた。
彼女が全力で張った結界が歪む程の威力。オーフィス以外ならとうに消滅しているだろう。それだけ馬鹿げた戦いなのだ。現に建物が耐えきれず、メキメキと音を立て始めている。このままでは潰れてしまう。
「……これ以上は、流石に不味い」
是非も無い。中断させるのは惜しいが止めざるを得まい、とオーフィスは考えた。
続けられては基地が崩壊するし、何より彼等の内どちらかが死んでしまう。この戦いで負ければ敗者は死を望む。殺すには忍びない。しかしやめれば相手の想いを踏みにじる事になる。
ならば、ここで割って入ろう。
そう彼女が決意し、しかし動こうとする直前、一誠とヴァーリの間に槍が突き刺さった。槍から聖なる波動を感じ、咄嗟に後ろに退く。
「二人とも戦いを止めろ」
現れたのは制服の上から漢服を纏った青年だ。槍を掴み取ると肩に当てる。何の前触れもなく突如現れた青年をヴァーリが睨んだ。
「何の用件だ。──曹操」
曹操と呼ばれた青年は殺気を受けながらも余裕の笑みを浮かべる。
「二天龍の争いをこれ以上続けさせる訳にいかない。基地が崩壊する」
言われて、彼らはトレーニング室が崩れ落ちそうな事実に始めて気付いた。戦いに夢中になって、周りの事を忘れていたのである。そんな二人を尻目に曹操は苦笑した。
「今日はもう終われ。特に赤龍帝、姫君が怒っているが構わないのか?」
「あ………」
無言で怒気を振り撒くオーフィスに、一誠は慌てて鎧を解除した。続行は無理と判断したヴァーリも渋々ながら禁手化である″白龍皇の鎧″を解いた。
「なぁ、ヴァーリ。俺らって似た者同士なのかもな」
部屋を出る直前に一誠が呟く。暫くキョトンとしていたヴァーリだが、不意に笑いだした。
「……そうかもな。君の言う通り、似ているかもしれない。特に意地の為に戦う辺り」
「負けたくなかったんだよ。だから無我夢中だった」
龍だけに解る代物。他種族にはどうあっても理解出来ない、されたくない代物。
それは何か?
後にこの質問を受けた時、オーフィスは語った。
絶対の力を持つドラゴンだけが許される″
──life.5 二天龍②──