はぐれ一誠の非日常   作:ミスター超合金

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オーフィス可愛い(降臨)


life.48 覇龍

『オーフィス、今すぐにこの場から離れろ!』

 

 それはドライグの悲痛な叫びから始まった。全員に聞こえるように発声したようだ。最初こそ首を傾げるオーフィスだったが、隣に立つ一誠をチラと見た瞬間、意味を理解した。

 何が起きているのかと怪訝な表情を浮かべるリアス達にもドライグは告げる。

 

『リアス・グレモリー』

「赤龍帝……!?」

『言いたい事は山程あるが、今は逃げろ。貴様と相棒には、きちんと決着をつけてもらいたいからな』

 

 逃げろ、とドライグは言った。一体、何から逃げろと言うのだろう。リアスは問いただそうとしたがそれよりも前に前兆は現れた。

 無表情のまま立ち尽くしていた一誠が、突如笑い始めたのだから。

 

「──うひゃひゃひゃひゃ!!」

 まるで壊れたスピーカーのように笑い続ける一誠。眼は焦点が合わず、口は三日月を描き、ただ嘲笑う。

 闇、死、その他ありとあらゆる負の感情に覆われながら一誠はずっと笑った。

 

「……赤龍帝?」

 

 あまりの変貌振りにリアスのみならず、オーフィスでさえ驚愕した。冷静さは微塵も感じられない。本当に同一人物かと疑いたくなる。それ程までに彼は呑み込まれていた。

 

『すまない、オーフィス。俺でさえ相棒は止められない。もう誰の言葉にも耳を貸さず、ただ暴れるだけの存在と成り果てるだろう。その先に待つのは、死だ』

 

 呟くドライグに威厳は無く、我が子を案じる親のようである。

 

『だが、お前ならば或いは……ドラゴンを鎮めるのは何時だって──』

 

 その先は、莫大な魔力に阻まれた。同時に一誠の口から禍々しい呪文が発せられる。それは老若男女、およそ千を遥かに上回る合唱。

 その呪詛に交じり、一組の男女は謳う。

 

『我、目覚めるは──』

〈関係なかったんだ〉〈選ばれた人間だった〉

 

『覇の理を神より奪いし二天龍なり──』

〈静かに暮らせたはずだ〉〈どこの世界でも爪弾き者になるわ〉

 

『無限を嗤い、夢幻を憂う──』

〈なら、俺が守る〉〈もう、死んでるのよ〉

 

『我、赤き龍の覇王となりて──』

〈また、守れなかった──〉〈そう、貴方は守れなかった──〉

 

《あの時も、そして今も……ッ!!》

 

 言葉を紡ぐ度に鎧が変質していく。両手両足はより分厚く強靭になり、翼は身体の数倍に膨れ上がる。

 全てを寄せ付けんとする鋭角なフォルムはまさに、古の赤い龍だ。

 彼は裂けた口を抉じ開けて、絶叫する。

 

『汝を紅蓮の煉獄に沈めよう──』

『Jugglernaut Drive!!!!!!!!!!』

 

 暴力的な咆哮は眼に見える物を灰塵にしていった。床、天井、壁。支えを完全に失った神殿は轟音を鳴らしながら崩れていく。オーフィスは右手を少し動かして結界術式を展開した。無論、リアス達も一緒に包み込んでいる。

 不思議そうな目で見る彼女に視線を合わさず、淡々と言った。

 

「……ドライグの頼み」

 

 オーフィス達を覆った結界は宙に浮き、そのまま神殿の外へと避難した。外に出た瞬間、神殿は眩い血の光と共に消え去った。

 

 閃光が収まった後に残ったのは瓦礫の影や形すら見えない、荒れ果てた無の世界だった。その瓦礫の上で彼等は対峙する。首謀者であるファンキャットは龍の気迫に当てられ、冷や汗を流す。

 

『ぐぎゅあああああああああああああああッ!!』

 

 皮肉にも彼の叫びは、黒い獣に似ていた。

 

「これがあの″覇龍(ジャガーノート・ドライブ)″か。しかし、データ上は──」

 

 パシュンッ。そんな、何かを斬る音がした。遠巻きに様子を見守っていたリアスは一誠の動きを捉える事が出来なかった。それどころか目の前で見ていたファンキャットすらもやはり解らなかった。

 と、彼は地面が赤く染まっている事に気付く。それに妙な物が転がっている。

 

 あれは、人の右腕だ。そう認識した途端に鮮血が噴き出した。

 

「──私の腕がぁぁぁぁぁぁあ!?」

 

 止めどなく血が溢れる中で、ファンキャットは左腕を翳す。魔法陣から魔力弾の雨が降り注ぐ。それらは真っ直ぐ一誠に向かった。

 

「私は冥界上層部だ! 名門アバドンの血筋だぞ!! 貴様のような卑しいドラゴンごときに私が負ける筈無いんだッ!!」

 

 四桁に迫るだろう数なのに一誠は避ける素振りを見せない。一つ、また一つと命中していく。だが彼にダメージを与えた様子は一切感じられなかった。

 最初こそ喜んでいたファンキャットの顔が徐々に恐怖に染まっていく。最早立つ事すらも叶わない。

 

 ガシャリと何かがスライドしていく音。鎧の胸元と腹部が展開され、そこから発射口が現れる。赤い鳴動が圧縮されていく。

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!!!!!!!』

 

 何が起きるのかを予測してしまったファンキャットは慌てて転移魔法陣を描こうとするが、既に遅すぎた。

 

『Longinus Smasher!!!!!!!』

 

 龍の宣告が辺りに響いた。放射された閃光は断末魔すらも巻き込んで、ファンキャット・アバドンをこの世から消し去ったのであった。

 

 ──life.48 覇龍──

 

 敵を滅ぼし、戦いが終わっても尚、天に吼える一誠。そこに第三者の声がした。

 

「″覇龍″と化したのか、兵藤一誠」

「ヴァーリ!?」

 

 思わぬ人物の登場にリアスは驚く。ヴァーリは三大勢力会談時に堕天使を裏切り、″禍の団″に走った男だ。そして何よりも赤龍帝と対をなす白龍皇である。

 身構えるリアス達を意に介さず、彼はオーフィスに歩み寄る。

 

「まさか彼が″覇龍″を使ってしまうとは……それにしても妙だな。波動が純粋な″覇龍″とは少し違う。まるで何かが混ざっているようだ。しかし、理由はどうであれ、このまま彼を失うのは惜しい。俺が止めようか?」

 

 ヴァーリの言葉に、オーフィスは強く首を横に振った。

 

「……我が、止める」

 

 そう呟き、彼女は一人飛び去った。

 

 

『俺は、守れなかった……』

 

 真っ黒い空間の中で一誠は泣きじゃくる。また、守れなかったのだ。自分が不甲斐ないせいで二人は死んだ。

 

 唐突に、声が聞こえる。

 

『貴方は守れなかったの』

『あ、ああ……』

 

 黒い髪、その美しい声。忘れる訳が無い。彼女は一誠の初めての恋人なのだから。

 

『貴方、言ったわよね。今度こそ守って見せると。その結果がこれ? 面白いジョークね』

『レイナーレ、お前は死んだ……俺の目の前で消し飛ばされた筈だ……』

 

 そう叫ぶと、レイナーレはそっと一誠の頬を撫でた。あの時から何も変わらない笑顔で語りかける。

 

『……イッセー君の中で私は死んだ扱いなんだ? だったら、なぜ私の影を追いかけているのかしら?』

 

 彼は否定したかった。だが出来ない。自分でも薄々気付いているからだ。見つめてくる彼女から目を逸らした。

 

『や、やめろ。俺は──』

『そんな事を言うけど、証拠だってあるじゃない。オーフィスに近付いた本当の理由。それは──無意識に私の姿を重ねたからでしょう?』

 


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