暫く泣き続けた一誠は、感情を吐き出した事により普段の冷静さを取り戻していた。そして酷く赤面した。オーフィスが幾ら強いと言えど、今の外観は紛れもない幼女。青年たる自分が泣きつくのは恥ずかしくて仕方無い。
そして、同時に彼女への想いがより深まった。全てを失った彼が今現在頼れるのはオーフィスのみ。拾われた恩義故に彼女と共に過ごしていたが、実際は依存に近い。
彼がオーフィスの隣に居る理由は、蛇の件以上に、彼女に棄てられたくないという想いが大きかった。
感情というものが存在しないオーフィスは、廃棄という言葉を、意味は知っていても実際に行わない。それはオーフィスをある程度理解していれば簡単に解る。一誠もそれは何となく解っていたが、それでも棄てられる事を恐れていた。
レイナーレ、リアス。二つの前例があるのだから一誠の内面は酷く臆病になっていたのだ。
そして翌日、一誠はオーフィスと一緒に食堂に居た。
一誠に割り当てられた部屋、或いは彼女に与えられた王の間。トレーニング室。大抵この三つの内、何れか一つの部屋で二人は一日を過ごしている。たまに彼が食堂に行こうものなら、オーフィスは一誠の膝上に座り、彼の食事を分けてもらっている。
彼女の内心は定かでは無いが、少なくとも一誠の依存心はあの夢を見た時からずっと強くなっていた。
「オーフィス、今日は神器に潜り込んでドライグと会話するんだ。歴代所有者を解放しなければならないからさ」
「……なら、我も行く。無限たる我にとって、神器に潜り込む事は造作も無い」
「そうか。なら、頼むよ」
食堂で展開される会話に周囲、特にオーフィスを利用せんと企む旧魔王派は眉をひそめたが何も言えない。相手は無限の名を冠する
オーフィスは言わずもがな、彼女の下で急成長を遂げている一誠も今や並の上級悪魔を越える実力を持つに至った。そんな者達を相手に自分が勝てると傲る程、旧魔王は馬鹿では無い。
結果的に彼等は黙って見ているしか出来なかった。トップの一人を消し飛ばされた今となっては尚更である。
しかしそれは弱者の話であり強者は違った。赤龍帝と対になる″
諸事情により
そしてより激しい戦闘を求めて、ヴァーリは
そんな彼にとって、
古の時代、大喧嘩を繰り広げたせいで聖書の神に封印されてしまった赤い龍と白い龍の二体は、神器になってからも争い続けている。互いに宿主を代理として競うのだ。長年に渡る殺し合いは現代まで持ち越され、そしてヴァーリと一誠に宿った。
ある意味似た者同士であり、そして反対でもある事を知ったヴァーリは、それでこそ
ヴァーリは悪魔と人間のハーフであり、先代ルシファーの曾孫に該当する。″
しかしそれが災いして両親に棄てられ、死にかかっていたところをアザゼルに拾われたという過去を持つ。
戦闘を求めるのは自身の存在価値を示す為であり、一誠に興味を持つのは復讐せんとする姿を自分に重ねたからである。
──life.4 二天龍①──
そんな彼はここ数日、ずっと一誠を観察していた。一誠の強さを見極めるというのが目的だ。
オーフィスとの特訓を行っている一誠の成長率はハッキリ言って異常である。
「やあ、兵藤一誠。少し話せるか?」
「あんた、会議室に居たな。名前は……?」
「ヴァーリ・ルシファーだ。宜しく頼むよ、今代の赤龍帝」
食堂で昼飯を食べている二人に臆する事無く、彼は声をかけた。警戒の色を見せる一誠にヴァーリは驚き、そしてほくそ笑む。彼が前よりも更に強くなっていたからだ。戦闘狂であるヴァーリにとって、敵は強いほど良い。
「そんなに警戒するな……と言っても無駄か。ならば早速だが本題に入ろうか」
「さっさとしてくれ。俺はオーフィスと飯を食っているんだ」
一拍、間を空けたヴァーリは強い口調で告げた。
「──俺と戦え、兵藤一誠」
空気が震え、周りの野次馬は我先に逃げ出す。赤と白の戦いに巻き込まれてしまえば、五体満足で生きれる保障等存在しない。最悪の場合、戦いの余波で消滅してしまうかもしれない。
全員が退避する中で、一誠はじっとヴァーリを見据えていた。
「……本気か?」
「あぁ、そうだよ。俺はお前と戦いたい」
非日常には慣れたつもりだが、まだまだ甘かったらしい。まさか、この場で挑戦状を叩き込まれるとは想像すらしなかった。
しかし、これは好機。
己がどこまで強くなったかを確かめる良い機会だ。それに、オーフィスの前で逃げる事など出来ない。
「──良いぜ。思う存分、戦おうか」
一誠の返事は至極短いものであったが、ヴァーリという戦闘狂を満足させるには充分だった。