はぐれ一誠の非日常   作:ミスター超合金

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オーフィス可愛い(重症)


life.38 王

 ディオドラ・アスタロトはゆっくりとリアスに歩み寄る。儚げな笑みを浮かべる様は虫も殺せない美少年だが、アザゼルの第六感は警報を鳴らした。

 戦場で幾度となく命を救った直感だ。彼は警戒しながらもディオドラに言う。

 

「ディオドラか。対戦相手に挨拶か?」

「ええ、そうです。アザゼル殿」

 

 突如として部室に現れたディオドラ。彼こそがリアスの次の対戦相手なのだ。

 

「……貴方が私の相手?」

「アスタロト家の次期当主、ディオドラと申します。今回のゲーム、互いに正々堂々ベストを尽くしましょう」

 

 尚も爽やかに告げる。ただ、リアスには盛大な皮肉にしか聞こえなかった。

 自分を嘲笑する為にやって来た男。彼女はそう認識した。

 

「……負けないわ。絶対に」

 

 彼女は弱々しく呟いた。それは上辺だけの決意だった。

 どうせ負ける。

 今回も負けるのだ。リアスの脳内には、敗北の二文字しか回っていない。俯くだけしか出来ずにいた。

 

 その様子を見ていたディオドラは意外そうな顔をした。実際に彼が来た理由は、世間では愚か者と噂されるリアスの様子を自分の目で確認する為である。暗愚に見せかけておいて実は……という可能性も捨てきれなかったからだ。

 しかし、敢えて挑発してみても食って掛かるどころか俯くのみだったので肩透かしを食らった気分だ。この有り様だと警戒せずとも次のゲームは楽勝だろう。

 

「……それでは僕は失礼させて頂きます。人間界を見物したいので」

「──ディオドラ」

 

 床に魔法陣を描くディオドラ。だが直前にアザゼルが呼び止める。表情は険しい。

 

「嘗めてくれるなよ?」

 

 その言葉には何も反応せず、彼は転移していった。完全に姿が消え去ったところで、怒りを帯びた視線が、リアスに移る。

 

「お前、馬鹿にされて悔しくないのか!? お前は笑われてんだぞ! 立ち上がれよ、親友にだって発破かけられたんだろ!!」

「でも、私は……」

 

 その時、彼は見た。リアスが視線をずらしたのを。身体から力が抜けていく。

 監督である自分が張り切っても意味は無い。戦うのは彼女だ。しかし本人に戦う意志が無い以上は、何れだけ特訓を重ねても無意味にして無価値である。

 

 詰め寄っていたアザゼルは一気に冷静さを取り戻した。怒りで震えていた手が自然に落ち着いていく。

 

 リアスの後ろに控える眷属達。

 朱乃は未だ″反転″の一件を引き摺り、木場は完治こそしたもののブランクがある。唯一戦えるのはゼノヴィアのみ。

 

 いや、一人いただけでもマシか。

 そこまで考えて彼は苦笑する。

 

「良く聞け、リアス。俺はこれからガブリエルと今後についての会議をしなければならない。終了予定は二時間後。──それまでに考えておけ。″王″として、眷属のことを。お前の両肩に眷属の将来が乗っているんだ」

 

 バタンと扉を閉めてアザゼルは出ていった。

 

 ──life.38 王──

 

「それであんなに怒っていたのですか?」

「頭にきてな。無能だと周囲に言われているが、それを立証しているのは他ならぬ自分自身さ。皮肉だろう?」

 

 会議室にて彼はガブリエルと話し込む。彼女は紅茶を啜ると溜め息をついた。

 

「それでも見捨てることはしないで下さいね?」

「俺だってそうしたいよ。でもな、リアスはディオドラに何も言い返さないんだ。教育者としては敗北や悔しさをバネにして成長して欲しいもんだぜ。ところで、ガブリエルはどうだ。何か不満でもあるか?」

 

 急に話を振られた彼女は少し考えて言った。

 

「特に不満はありません。皆、とても良い子ですから。ただ匙くんがちょっと……過剰に訓練をする癖がありますね。見ていて心配です」

「匙元士郎か。VIP席でゲームを観戦していたオーディンや帝釈天も太鼓判を押すぐらいだ。俺から見ても下級にしては異様な強さだった。──そうか、心配か」

 

 ふと妙な事に気が付いた。匙の名前が出た途端にガブリエルの表情が変わったのだ。天使としての慈愛に溢れた、或いは生徒を見守る教師の顔と言ってしまえばそれまでだが、アザゼルには違うように感じられた。

 最近似たような表情を何処かで見たような気もする。

 必死に考える事、数分。やっと思い出した。そうだ、真羅椿姫。彼女がゲーム中に一瞬だけ見せた表情と同じなのだ。

 

 まさか、ガブリエルは。

 

「お前、匙に惚れちまったのか?」

「いいえ、あくまで一人の生徒として──」

「……問い詰めようと思ったけど、やめるわ」

 

 彼女の頬が朱に染まったのを見て、彼は確信した。シェムハザ、バラキエルに続き今度はガブリエルである。あのときは大騒ぎしたが、三回目となれば流石に馴れた。

 彼女は慌てて否定しまくるがもう遅く、アザゼルは既に悪戯を思い付いた小学生のような顔をしていた。

 

 散々に弄くられる未来を回避するべく、ガブリエルは露骨に話題を変える。

 

「そろそろ議題に戻りましょう。先ずはディオドラの件についてです」

「あー、あの小僧か。対シーグヴァイラの映像見たけど違和感だらけだ。終盤でいきなり魔力が数倍に膨れ上がるなんざ、ディオドラの力量からして有り得ない」

「何らかのドーピングを使っている可能性が高いですね。一体、誰が何の目的で渡したのでしょうか」

「そいつは不明だが、このまま泳がせれば或いは尻尾を掴ませるかもしれない。ディオドラについてはこの程度で良いだろう。──さて、ここからが本題だ」

 

 そう言いながら、アザゼルは魔法陣から一枚の書類を取り出した。

 

「それは?」

「シェムハザが独自に掴んだ、冥界上層部が秘密裏に進めている計画だ。その名を″赤龍帝捕獲計画″──」

 






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