はぐれ一誠の非日常   作:ミスター超合金

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オーフィス可愛い(興奮)


life.35 エルシャ

 黒歌達と別れた兵藤一誠は、″赤龍帝の籠手″の中に潜り込んでいた。激化する戦いに備えての特訓の一つだ。

 確かに彼は強くなったが、実戦ではドライグに肩代わりしてもらっている場面も多い。

 例えば、一誠は悪魔の翼を使っての飛行が苦手だ。元人間故に飛ぶ概念が存在しないのだから仕様がないと言えばそうなのだが、飛べないので戦えません、では話にならない。それにドライグへの負担もある。

 戦闘時には神器を通じドライグのサポートを受けて漸く飛べているが、自力で飛行する特訓をしても損は無いだろう。悪魔の翼を拡げる一誠にドライグが助言する。

 

『力を入れ過ぎるな、相棒。少し楽になれ』

「……と言われてもな。何故か落ち着かないんだよ」

『悪魔との相性が悪いのか……?』

 

 二人揃ってガジガジと頭を掻く。長年相手を見ている内にどうやら癖が移った様だ。

 一誠は溜め息を吐きながらその場に寝転がった。特訓開始から長い時間が経過したが、未だ何も掴めていないのは不味い。外で待っているオーフィスにどんな顔をして会えば良いのだろうか。

 再び溜め息をつく彼の隣に、一人の若い女性が現れた。温和な笑みを浮かべる彼女の登場にドライグは珍しく驚く素振りを見せた。

 

『ほう、エルシャか。奥に引っ込んでいると思っていたが』

『確かにそうだったけど、新人君が潜ったのを感知してね。それで特訓の手伝いに来たのよ』

 

 事態を把握出来ていない一誠に彼は告げる。

 

『彼女はエルシャ。歴代赤龍帝の中でも一、二を争う実力者だ。今の相棒では勝てない程のな』

『はーい、新人。私がエルシャです。誰かを守ろうとする君の為に一肌脱ぎまーす!』

 

 俺は別に、と否定しかけたが面倒なので止めた。エルシャという女性、ノリは軽いが感じられる覇気は別物だ。ドライグが一目置く理由も解る。彼女に教えを乞えば自分は更に上のステージに到達出来るのかもしれない。

 一誠は差し出された手を取った。それは、決して生半可では無い苦難の始まりだった。

 

 ──life.35 エルシャ──

 

 兵藤一誠は尚も最強の女性赤龍帝、エルシャとの特訓を続けていた。ドライグから一目置かれるだけあって彼女は凄まじく強い。オーフィスとの修行で多少強くなったが、エルシャは更に高みに居たのだ。

 試しに互いに神器抜きで戦ってみたところ、しなやかな身体を活かした体術に翻弄され、惨敗を喫した。

 一誠だけが神器を使用して漸く互角なのだ。全盛期は何れだけの力を誇っていたのだろうか。彼は心底自分の弱さが恥ずかしくなった。

 

『うん、初日より動きが良くなったねー! 無駄な動きはある程度無くなったかな。でも神器を完全に扱えて無いよ!』

『そうだな。相棒は神器の使い方が荒い。しかし、それは裏を返せば更に強くなれる証拠。エルシャの下で神器を用いての戦闘を学ぶと良い』

「簡単に言ってくれるな。やらなければ死ぬ、と考えれば努力は惜しまないが」

 

 エルシャに教わった戦術は、一誠からしてみれば驚きの連続だった。

 そもそも″赤龍帝の籠手″の所有者は、どうしても自身の能力を倍にする″倍加″を使っての戦法に頼りがちだ。言うなれば初代から延々と続いてきたある種の暗黙の了解でもあったし、エルシャも当初はそうして戦っていた。

 だが倍加させた力を他に受け渡す″譲渡″に目覚めてから、彼女の選択肢は一気に開けた。

 

『例えば剣に譲渡して刃の長さを瞬間的に倍にしたり。或いは敵の頭に触れて、脳の水分を一気に数十倍にして破裂させたりさ。″譲渡″も合わせて運用すれば力押しだけじゃなくて、もっと柔軟に戦えるようになるよ』

「成程、その発想は無かった。なら敵の魔力を倍にしてわざと暴発させたりも有効だな。参考にさせてもらう」

 

 一定時間毎に倍にしていく。シンプルな能力で、だからこそ戦闘に向いている。特訓を繰り返せば何れはサーゼクスを越えられるだろう。そうならなければ意味が無い。

 深い息を吐き、特訓を再び始めようとした直前、一誠とエルシャの間にオーフィスが降りてきた。その顔は何処と無く不機嫌だ。

 

「……赤龍帝、遅い」

『そんなにいたのね。気分転換に、一度戻ってみたらどうかな?』

『訓練も良いが、実戦も積むべきだしな。戻ろうか、相棒』

 

 直後、一誠は自室に立っていた。″神器″の中に長く居た為に気付かなかったが、彼は何日も飯を食べていない。意識がハッキリすると同時に空腹が襲った。

 知らぬ間に一誠はオーフィスを肩車しており、細い足がぷらぷら揺れる。

 と、徐々に足に力が込められていく。

 

「質問だ。どうして力を込めているんだ?」

「……遅かったから、お仕置き」

「待て、誰に吹き込まれた」

 

 体温と甘い香りを頬に感じつつ一誠は訊ねた。彼女は良い笑顔でそれに応じ、力を更に強めていく。

 

「……フリード」

「やっぱり仲間にするのやめようかな」

 

 口ではそう言いつつ、この状況を生み出してくれた彼等に、一誠は少しだけ感謝した。もう手遅れだった。

 


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