はぐれ一誠の非日常   作:ミスター超合金

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オーフィス可愛い(フェチ)


life.34 暗躍

 魔王城の一角に設けられた応接室。VIPを迎えるだけあって豪華な調度品が並べられている。

 堕天使総督であるアザゼルは、気品のあるソファに腰を落ち着けていた。テーブルを挟んで前に座るサーゼクスは申し訳なさそうな顔付きだった。

 

 訊ねたい事がある、と告げて応接室に招かれてから一時間が経過しているが、目の前に座る彼は口を開こうとしない。出された紅茶を啜りながら再三繰り返した質問を改めて訊ねた。

 

「それで、何時になれば兵藤一誠について教えてくれるんだ?」

「……」

 

 サーゼクスはあくまでも黙秘を決め込む様子だった。以前から妙だとは思っていたが、これでハッキリした。

 魔王と上層部は、兵藤一誠についての情報を隠している。

 それもある程度親交があった自分にさえ言えない秘密。恐らくはサーゼクス自身も一枚噛んでいるのだろう。そうで無ければ、老人の眼を掻い潜ってでも何らかの情報をもたらす筈なのだ。

 紅茶は既に冷めきっていた。鏡のように映し出された自分の顔は酷く疲れている。それは間違いなく、何も話してくれない親友(とも)に疲れているのだ。

 

 悩んでいるのなら助けたいし、力になりたい。アザゼルにとってサーゼクスという男はそう思える存在だ。ずっと昔の三大勢力戦争で初めて出会ってからの仲。彼の方が随分と年下だが特に気にする事もせず、対等に接してきた。

 だが今になっては何かが急速に冷えていく。無論、仮に窮地に陥ったなら即座に助けるが、それは単に立場故の義務だからだ、とアザゼルは思う。

 

「サーゼクス。俺はお前を親友だと思っている。一緒に酒飲んで、馬鹿やってな。これからも親友だと思いたいんだ」

「それは……」

「──だから、話してくれ」

 

 思わず身を乗り出した。勢いよくテーブルを叩き、紅茶の入れられたカップが揺れる。暫く睨み合うもやはり彼は口を閉ざしたままだった。良く見ると唇自体はモゴモゴと動いている。

 自分も言ってしまいたいんだ、とサーゼクスの眼は告げていた。しかし、同時に恐いのだろう。秘密を喋る事によって訪れるであろう損失が堪らなく恐ろしいのだ。付き合いが長いアザゼルは、哀れな彼の姿をこれ以上見ていられなかった。

 

 失望からソファを立とうとして、そこで扉が開けられた。入ってきたのは若い男だ。一目でそれと分かる高級そうな紺のスーツを着こなしており、外見はやり手のサラリーマンに見える。

 彼はゆっくりとアザゼルに歩み寄り、軽い会釈と共に名刺を差し出した。

 

「私はファンキャット・アバドンと申します。以降、お見知りおきを。堕天使総督アザゼル殿」

「……悪魔上層部か」

 

 確証は無いが、上層部が関与しているという予想は当たりかもしれない。

 あまりにもタイミングが良すぎだ。まるで邪魔者を追い払うかのように、しかも応接室に来る等偶然にしては出来すぎている。

 名刺を懐に仕舞い、アザゼルは早々に部屋を後にした。あのまま余計に勘繰らせるよりはマシだ。確実に警戒されてしまうだろう。

 

 手応えを感じながらグレモリーの屋敷に戻る。数日後に行われるソーナとのレーティング・ゲームに向けて、リアス達にはアドバイスに沿った特訓を指示してある。

 例の件も気になるが、先ずは監督として目先のイベント──若手悪魔同士のゲームを勝たせてやる方が重要だ。魔法陣からレポートを取り出しつつ、アザゼルは教え子達の様子を見に行った。

 

 ──life.34 暗躍──

 

 その夜、ファンキャット・アバドンの屋敷には上層部の面々が集まっていた。(いず)れも悪魔創世の時代から生きる有力貴族の当主達であり、強大な権力を有している為に魔王ですら手が出せない。秘密裏に地下に造られた会議室では今も、老人達による話し合いが行われている。

 中央の映像術式に映し出されているのは、自分達が生み出してしまった″SSS級はぐれ悪魔″、兵藤一誠だ。一人が厳格な声を発した。

 

「兵藤一誠についてだが、彼をどう処理すれば良いと思う。皆の意見を聞きたい」

「傍らにあのオーフィスがおるのだ。厄介な者と結託しおって! 大人しく殺されておれば良いものを!」

「左様。転生悪魔のくせに生意気だ! ああいう輩こそ見せしめに処刑するべきなのだよ!」

 

 呼応して次々に自分勝手な意見を述べていく。彼等は焦っていた。メディア、民衆、そして他神話が真実に辿り着いてしまう可能性を。

 もし仮に知られてしまえば、一誠は冥界政府に見捨てられた哀れな被害者となってしまう。そして自分達は赤龍帝を切り捨てた悪役だ。下手をすれば政府に反感を持つ者達に一誠が担がれるかもしれない。彼が生きている限り怯えなければならないのだ。

 

 殺さなければと焦る老人達とは対照的に、議会の末席を務めるファンキャットは冷静だった。

 

「落ち着いて下さい、皆様。私に考えがあります」

「おお、ファンキャット! 何か良い知恵でもあるのか!?」

「その通りでございます。私は綿密な計画を作り上げました。上手く行けば赤龍帝だけでなくオーフィスを支配下におけるかもしれません。そして、この作戦は彼の弱点を突いているのです」

 

 不敵に笑う彼には確かな勝算があった。成功すれば自分の地位は急上昇する。英雄も夢では無い。

 

「──兵藤一誠の両親を拉致するのです」

 

 出世を目論むファンキャットは静かに計画を語っていった。それがどれ程に愚かな行為なのか、微塵も気付かないまま。

 


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