はぐれ一誠の非日常   作:ミスター超合金

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オーフィス可愛い(最強)


life.30 黒歌

 ″SSS級はぐれ悪魔″の兵藤一誠によるパーティー襲撃から今日で三日目となる。悪魔陣営には幾つかの変化が訪れた。

 その最たる例として、若手悪魔達の評価の変動が挙げられる。パーティーに出席していたサイラオーグ・バアル氏とソーナ・シトリー氏の両名は、会場に乱入した兵藤一誠を短時間とは言え足止めし、最終的に撤退まで粘った点を讃えられ、政府上層部からの評価が急上昇した。

 

 特に命を削り必死の覚悟で″SSS級はぐれ悪魔″と戦った匙氏は、将来を支える人材として各方面から注目を浴びつつある。現在はシトリー家の屋敷にて治療を受けているが発表によると命に別状はない模様。

 

 一方、同じく出席していたリアス・グレモリー氏の評価は散々である。

 兵藤一誠が彼女の元眷属だったからであり、尚且つ襲撃当日には眷属である搭城小猫氏を連れ去られたからでもある。「兵藤一誠をはぐれにした事実、優秀な悪魔を連れ去られた警戒の無さ。与えた損失は無視出来ない」と政府はリアス氏を酷評した。

 

 加えて、「三大勢力会談襲撃にも兵藤一誠は参加した。このままでは他神話勢力にも影響を与える」と発表し、兵藤一誠を始めとする、テロリスト組織″禍の団″への警戒を強める方針を明らかにした。

 

 若手悪魔活躍の影に隠れがちだが、その他にも変化した部分はある。その例がタンニーン氏の戦死だ。

 絶滅寸前のドラゴンを援助していた同氏が不在となった事により、今まで彼の保護を受けていたドラゴン達はその立場を危うくしてしまったのだ。

 一応はタンニーン氏の主であったメフィスト氏が代理として世話をしているが多忙故にどうしても眼が届かない場合も多い。

 

 

「……ドラゴンの幼体は密猟者に狙われやすいので早急に対策を講じなければならない、か」

 

 パーティー襲撃作戦から暫く経過した、ある日の朝の食堂。一誠は冥界で発行されている新聞を読みながら、自身の計画がもたらした影響を確認していた。

 一面に大きく取り上げられているのはやはり若手悪魔パーティー襲撃事件であり、どのメディアもこぞって彼の顔写真を掲載していた。

 

「上層部め、グレモリーに上手く責任を押し付けたか。ま、それが狙いでもあるけどな」

 

 今回の件で一誠は改めて世間に広く認知される、云わば三大勢力にとっての敵役となった。彼が目立つことは上層部にとっては好ましく無い。

 一誠が報道されると彼を調べる者も現れてくる。興味本意か、きな臭さを感じてなのかは解らないが、そうなると真相を知られる可能性が大きくなってしまう。もしも知られれば相当面倒なことになるだろう。

 

 息のかかったメディアには、力に飲み込まれた、と報道させたのかもしれないが、全てのメディアを抑えた訳では無い。どんなに小さい芽でも摘んでおくに越したことは無いだろう。

 そんな思惑があって、上層部は世間の疑惑を逸らす為にもリアスに責任を押し付けたが、当然彼女の評価は下がった。表向きの原因自体には非が無くても、元眷属が重要な公式行事に襲撃を仕掛けたのだから、非難の声はリアスに集中した。

 

 つまり、上層部が事実を認めようが、リアスが矢面に立たされようが、どちらに転んでも結局は一誠の思惑通りになるのだ。

 

「君の知略には恐れ入る。こうも容易く連中を陥れるとはね。しかも黒歌の願いまで叶えながら」  

 

 対面に座るヴァーリが感嘆の声を漏らした。それに対して一誠は首を横に振った。

 

「ドライグのお陰だ。俺は適当に暴れただけさ」

 

 膝上で揺れるオーフィスの頬を撫でながら、ゆっくりとそのときのやり取りを脳裏に浮かべた。

 

 ──life.30 黒歌──

 

「悪魔側で式典とか、誰かのパーティーとかさ。重要なイベントは無いか?」

 

 質問された曹操とゲオルクはキョトンとしていたが、質問を理解するとそれに対する答えを口にしようとした。だがそれよりも少しだけ早く、更に来客がやって来た。

 トレーニング室に訪れたのはヴァーリともう一人、着物を着崩した美女だった。

 各派閥合同会議で何度か見た覚えがある、と思い出しながら一誠はヴァーリに訊ねる。

 

「そっちの女性は誰だ?」

「まだ紹介していなかったな。俺のチームメンバー、黒歌だ。今回は彼女の望みを手伝ってほしいと思って連れてきた」

「……黒歌、だったな。取り敢えず話してみてくれ。場合によるが、サーゼクス共の利益にならないのであれば手伝うのは構わない」

 

 黒歌と呼ばれた女性は、冷たい眼差しから微妙に視線を逸らしながら口を開いた。

 

「実は私には妹がいるのだけれど、妹は現在冥界で暮らしているのにゃ。だから、妹を奪還する手助けをしてほしいにゃ……!!」

 

 頭を下げる黒歌を見ながら一誠は考えた。

 何故、それを自分に言うのか。そんなことを態々言いに来る余裕があるなら助ければ良い。

 それこそ力不足ならヴァーリに頼めば良い。時間を割いてまで助けを求めに来た理由が分からなかった。

 

「……私と妹は早くに両親を亡くし、二人で生きてきた。そんなある日に貴族悪魔に声をかけられ、私は生活の安定を願って眷属に志願したにゃ。……でもあの悪魔は妹に無理矢理、術を覚えさせようとした! 未熟な妹が使ったら死に至ってしまう!! だから……」

「殺したのか。主を」

「うん。それで私は″SS級はぐれ悪魔″に指名手配された。追手との戦闘が激化する中で、妹は捕らえられた。今はある貴族悪魔の下で眷属になっている。──だから、救出したい」

 

 彼女は涙を浮かべていた。一誠はやはり冷たい眼のままであった。大体の事情は把握した。

 ただ、彼に手伝いを要求した点は未だ疑問のままであった。最後にそれだけを聞いておきたかった。

 チラリとヴァーリの方を見た。ヴァーリは何も言わなかった。

 

「質問だ。何故、俺に協力を求める」

「……妹はある貴族の眷属になったと言ったけど、その貴族が問題なのにゃ。貴族の名前は──リアス・グレモリー」

 

 その言葉に、彼は一気に漂う波動を変えた。静かだったオーラは激しく揺れ動き、殺気が溢れ出した。

 幹部クラスであるゲオルクは勿論の事、実力者だと自負する曹操やヴァーリすらも汗を流す。濃厚すぎる殺意が形となって絡み付く感覚に陥った。

 

 そして正面からオーラをぶつけられている黒歌は信じられない物を見た。一誠の背後に集まる赤い殺意。粒子となって飛び交うそれが風と共に集まり、トレーニング室を覆い尽くした。

 巨大な翼を広げ、塵のように自分達を見下ろす姿は正しく、遥かな古の時代に三大勢力と激戦を繰り広げた、赤龍帝。

 

「その妹さんは、小猫か」

 

 蜥蜴のように細長い瞳孔。龍の帝王が既に全身を砕かんとしている限界状態。黒歌は千切れる程の勢いで首を縦に振った。

 

「……そうか」

 

 瞑目し、どうしたものかと思案する。一誠の復讐対象はあくまでも自分の殺害計画に関わった者だけで、眷属に過ぎない小猫は対象外だ。それに元同僚の間柄でもあるし、可能なら助けてやりたいのが本音である。

 

 だが、そうなると計画を練り直す必要性がある。

 

 元々の計画では、四神話へのパフォーマンスとして、冥界で行われる悪魔のパーティーに乗り込んで大暴れするだけだった。

 そうすることにより自分の価値・有用性を釣り上げ、より多くの支援を引き出し、遠回しなオーフィス獲得を目論む神々を牽制、更には元主君であるリアスの評価の暴落にも繋がる。

 しかし、小猫の奪還ともなると話は別だ。

 

「……どうしたものか」

『難しく考える必要はないぞ、相棒』

 

 宝玉が瞬き、ドライグの声音が響いた。

 

『仮に悪魔の会合を相棒が襲撃したとしよう。相棒はこの俺を宿す、今代の赤龍帝だ。否が応でも注目は相棒に集まるだろうな。黒猫はその隙を突いて、拉致でも話し合いでも好きにすればいい』

「そうか、囮作戦か!」

『今の相棒の実力を見せてやれ。そして教えてやれ──赤い龍を敵に回す意味を』

「……分かった。派手に暴れてくるよ」

 

 会話を追え、改めて黒歌に向き直る一誠。そのタイミングを見計らって、曹操が言う。

 

「数日後、旧首都ルシファードにて若手悪魔達を集めたパーティーが開かれるらしい。政府首脳陣のみならず、北欧のオーディンも招待されていると聞く。行くのか?」

「俺は三大勢力に仇なすドラゴンだからな。無論、出撃するさ。そして俺が囮をしている間に、黒歌が小猫ちゃんを救う。簡単な話だ」

「……本当に、手伝ってくれるんだね。有り難う、赤龍帝」

 

 礼を言うのは未だ早い、と彼は釘を刺した。

 

「絶対に成功させるぞ」

「うんっ!」

 

 かくして一誠は若手悪魔のパーティーを強襲。黒歌はその裏で小猫の保護に動き、そして成功したのだった。

 


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