はぐれ一誠の非日常   作:ミスター超合金

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オーフィス可愛い(純粋)


life.29 強襲④

 立ちはだかるサイラオーグ。彼は何度か軽く身体を縦に弾ませ、次に一誠の背後から蹴りを放った。

 勢いよく踏み込んだ事で得た跳躍、その力の方向を強引にねじ曲げて撃つ。余程体術に秀でていないと出来ない芸当。幼少から鍛え上げてきた彼だからこそ可能となった力技だ。

 

「……背後かッ!」

 

 意表を突いた攻撃。動揺こそしたが、的確に受け止める。ぶつかり合う衝撃が響いた。猛攻は終わらない。二度、三度。連続して繰り出される蹴りと打撃。

 避けられても尚、今まで以上の力で殴り付ける。強固な龍の鱗を全身に再現した″赤龍帝の鎧″を素手で攻撃すればどうなるのか。当然肉は削がれ、骨は折れる。

 

 痛々しい光景に様子を見計らっていた眷属達は思わず眼を逸らすも、ソーナだけは現実から逃げなかった。

 会談の記録映像を何度も見直した。パーティー襲撃の可能性を危惧して作戦を立てた。全員でハードな特訓をこなし、時にはセラフォルーの眷属達にも手伝って貰った。

 

 だが、遠い。若手悪魔最強がまるで相手にならない。いや、そんなことは最初から分かりきっていた筈だ。グレイフィアでさえ圧倒されていたのに自分達で勝てる筈が無いのに。それでも戦わなければならなかった。

 

 護衛の兵士は使い物にならず、グレイフィア達は魔王や賓客であるオーディンを護らなければならない。上層部や貴族達は恐怖で動こうともしない。結局は自分達が独自に動くしか無かった。

 

「……届かない、ずっと遠い!」

 

 焦燥は混乱を呼び起こし、混乱は敗北を招く。そして敗北は死へと誘う。だが諦める事だけはしたくなかった。

 

「俺は冥界の敵であるお前を倒す!!」

「……やってみろ」

 

 互いの拳が、意地が、ぶつからなかった。

 倍加を重ねた一撃はサイラオーグのそれを正面から叩き潰した。ミシミシと骨が歪み、それでも止められずに回転しながら床にと叩き付けられた。咄嗟に左へ転がる彼を、赫の魔力弾が襲撃した。

 紙一重。

 頬に線が入るがギリギリで回避する。水蒸気に砂煙が混じった中を一直線に突き進んでいく。

 

「シトリー、援護をッ!」

「解りました! ──水よ!!」

 

 ソーナの号令に応じて床に蒔かれた水が形を造った。球状の弾を何重にも造り上げ、その上をサイラオーグが飛翔する。そして渾身の力で叫んだ。

 

「俺はこの力で冥界の危機に立ち向かうと決めたッッ! 来い、レグルスッ!!」

 

 その瞬間、周囲全てに烈風が発生した。冷たい連鎖が巻き起こり、金色の双眼が瞬く。

 駆けるのは六メートルを超える巨大な金獅子。力強い躍動を続けながら主君である彼に並ぶや否や、瞬時にサイラオーグの身体を獅子と同じ色の気迫が覆っていく。獅子は巨大な咆哮を放ち、光となって主に重なった。

 誰よりも高らかに力強く、彼は叫んだ。

 

「我が獅子よッ! ネメアの王よッ! 獅子王と呼ばれた汝よ! 我が猛りに応じて!! 衣と化せェェェェッッ!! ──禁手化(バランス・ブレイク)!!」

 

 会場が震え、閃光が空間を支配する。光が終わった後に現れたのは全身鎧(アーマー)を着込んだ黄金の獅子王だった。

 胸部に獅子の顔が装着され、肩には獅子を思わせる紋章が刻まれている。兜には金毛が光を散らしており、さながらたてがみの様だ。

 事態を見ていた一誠が感心する中で、宝玉が助言を告げた。

 

『相棒、あれは″神滅具(ロンギヌス)″だ。初代ヘラクレスが討伐したネメアの獅子だと予測している』

「どうして神滅具(ロンギヌス)が独立して動いてるんだ?」

『解らん。だが気を付けろよ、相棒! ──あの小僧、力が今までの比では無いぞ!』

 

 次に飛び込んできたのは拳だった。咄嗟に身体を捻って回避するが追撃するかのように蹴りを入れられる。

 

「確かに、これは……!!」

『BoostBoostBoostBoostBoost!!!!!!』

 

 瞬き一つの間に倍加を繰り返し、押し返す。

 重傷を負っているその身体の何処にそんな力を隠していたのか、対するサイラオーグは不敵な笑みを浮かべるだけだ。

 不意打ち気味に放たれる下からのアッパーを受け止めた直後に、視界を影が襲う。鈍い音と共に一誠は落下し、更に水の魔力弾が彼に集中した。

 

 煙が晴れ、サイラオーグも床に墜ちた。獅子が分離して主を支える。

 やはり序盤が不味かった。禁手は未完成だと出し惜しみしていればこの有り様だ。終盤こそある程度は戦えたがやはり無理が祟った。獅子の身体に身を預けながら、駆け寄ってきたソーナに笑いかける。

 

「なんて無茶を! 最初から獅子を纏えば……!!」

 

 その問い掛けに答えたのは、サイラオーグの″兵士″である獅子。額の宝玉を輝かせながらソーナを見据えた。

 

『私の本来の所有者は既に殺害されている。所有者が死ねば消滅する運命である私もその場から無くなる筈だった。しかし、どういう訳か私は獅子の身体を手に入れ、消滅を免れた。サイラオーグ様に出会ったのはその時だ』

「″神滅具″が……!?」

『協力して所有者を殺した奴等を全滅させた後に志願して眷属となった。だがそのような経歴故に力が安定しておらず、″禁手″も未完成な為にとても実戦に出れる状態では無かったのだ』

「成程、確かにそのような不安定な状況ならば、使えるのは一度だけの切り札。躊躇しても仕方ありませんね」

 

 そう言って頷きながら、一誠が墜落した方向を見た。

 

 赤い龍の波動はまだ終わっていない。

 

「まさか墜とされるとはな」

 

 ──life.29 強襲④──

 

 全くダメージが通っていないのだろう、肩をグルグルと回している様子からも未だ余裕が残っている事が解る。傷の一つすら無い、開きすぎた差。

 サイラオーグ、ソーナの両名は単純に戦慄するしか無かった。

 

「様子見の為に手加減こそしていたが、力を見誤っていたということか。これは反省だな」

「やはり本気を出していなかったのですね……」

 

 欠伸する一誠にソーナは鋭い視線を送る。主戦力であるサイラオーグは重傷を負い、獅子は力が不安定。自分達では実力不足。

 ならば、とソーナは敢えて前に進み出ると話を切り出した。

 

「……教えてくれませんか。貴方がリアスを裏切った理由。私達は単に暴走したとのみ聞かされているのです」

「時間稼ぎか?」

 

 彼女の目的は見透かされていた。しかし、続けなければならない。

 

「その通りです。ですが、知りたいのは本当です」

 

 暫くの沈黙が訪れた。何かを考えているような仕草。そしてフェイス部分のみ鎧を解除した。

 ソーナは初めて一誠の顔を直接見た。自分達が知っている兵藤一誠とは程遠い、何処までも冷たい眼差しをしていた。

 

「……簡単に話そうか。ライザーとの戦いの後に、俺は襲撃を受けた。そいつらは冥界上層部、そしてサーゼクスから殺害命令を受けたと自慢気に語ったんだ」

「……ッッ!?」

 

 衝撃だ。明かされていた情報とは全くの正反対である真実に彼女達は驚愕した。予想すらしていなかった。まさか上層部までも関わっているとは誰が考えるだろうか。

 敗北したから、殺す。そんな理不尽があるのか。

 もしや姉も関与しているのか。気持ちを落ち着けながら、しかし様々な憶測が頭を過る。

 

「それが本当なら、私達は……」

「だから俺は復讐を目指す。対象はサーゼクスや上層部の政府首脳陣、ライザー及びフェニックス家。そして……」

 

 一誠は、顔を歪めながら天井に視線を向けた。

 

「信じるかはお前次第だ。──帰ろう、オーフィス」

 

 何時の間にか、彼の肩にオーフィスが座っていた。華奢な足を揺らしながら彼女は魔法陣を地に描き、尾を噛む蛇の紋章を浮かび上がらせる。二人が消え去った後には何も残らなかった。

 

 しかし、ソーナやサイラオーグ達、次世代の悪魔には、確かに疑念が芽吹いたのである。

 


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