はぐれ一誠の非日常   作:ミスター超合金

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オーフィス可愛い(イデア)


life.28 強襲③

 良い眼をしている。

 

 彼女達に対しての感想はそれだった。敵への恐怖をバネに普段以上の実力を引き出す。油断はしない。持てる全てをぶつける。それでも懸命に今向かい合っている彼女達はすがり付くだろう。

 

 球状に練られた魔力、鋭い鋼鉄の薙刀、或いは徒手空拳。

 彼女達の手が僅かに震えているのが見えた。しかし顔は不自然なまでに笑みを浮かべている。

 

 より警戒を強めながら、一誠は訊ねる。

 

「……何故、笑っていられる」

「さぁ、何故でしょうか。私にも解りません」

 

 ″王″であるソーナは後を続けなかった。にも関わらず彼は質問に対する答えを聞いた。

 

 ──眷属を信じているから。

 

 何処からか、リアスの声が染みた。どうやら未だ拭う事ができていないらしい。込み上げる物を感じながら首を横に振る。

 

「やはり、お前の方がずっと強いよ。匙」

「ええ、匙は強いです。彼は命懸けで二天龍を倒そうとした」

 

 だから、とソーナは口調を強める。

 

「私は兵藤一誠を討ち取ります」

 

 対峙する二人を見ていたセラフォルーは、咄嗟に翼を拡げた。実妹たるソーナを守りたいが故の行動だったが、空中から降りてきたオーフィスが立ちはだかる。一誠の邪魔をさせたくなかったからだった。

 セラフォルー如きではオーフィスを降せない。つまり介入手段を完全に絶たれたのだ。歯軋りをしながら悔しさまぎれに怒鳴る。

 

「どうしてオーフィスがテロリストに協力するの!? 理由は何!?」

 

 セラフォルーと対峙しながらも彼女は一誠に視線を向けていた。何処か神秘的な雰囲気だが、恐ろしさもあった。

 全てを凍り付かせる、引き込まれるような独特のオーラ。怒りもせず、笑いもせずに淡々と答える。

 

「赤龍帝の隣にいて、確かめたい。それだけ」

「確かめる……!? 一体、何を!」

「──始まる」

 

 間延びした声でオーフィスが呟いた。

 

 ──life.28 強襲③──

 

 倍加された身体能力を駆使して、一誠は高速でソーナに詰め寄る。指揮官さえ一撃で倒せば、後は戦わずとも墜ちると判断したからだ。

 瞬時に魔力弾を撃つも、彼女の前に何重にも展開された防御術式に阻まれる。しかし完全には防ぎきれなかったようでヒビが生まれた。

 罅が広がる速度が異常に速く、シトリー家の紋章が刻まれた術式は次々に砕け散る。そして、最後の一枚が消え去った。

 

 瞬間、彼の視界を覆ったのは水蒸気だった。魔法陣が存在していた場所から大量の蒸気が噴き出し、一誠だけでなく会場全体を埋め尽くす。

 

 ソーナの姿を見失い、しかし即座に次の策を練る一誠。

 

「……霧、か」

 

 可能性としては、視界を塞いでいる間に大掛かりな術式の準備を行うか、眷属達が事前に取り決めた配置に着いて数で圧倒するかの二択だ。

 少なくとも後者はソーナに限っては考えにくい。事前調査によると彼女は計略を得意とするらしい。シトリー家の特色である水を操り、魔力操作技術にも長けている。今更数に頼るという下策は取らない筈だ。

 

 では、大掛かりな術式はどうだろうか。そもそもどのような魔法なのか。貴族が集まるこの会場で魔力弾やそれに準ずる魔法は撃てない。

 他に考えられるとすれば転移魔法であるが、それだと水蒸気を展開した意味が無い。

 

 どうしたものか、と長考する一誠。その時、ゆらりと蒸気が揺れ、人影が現れた。失望の眼で魔力弾を放つとそこにあった影は消えた。パシャリと水が跳ねる音がした事から先程の影は水人形のようだ。

 辺りを見回すと、既に人影に完全包囲されていた。本体である彼女や眷属の姿は無い。

 

「消耗が狙いか?」

 

 何か言い知れぬ違和感を覚えながら、人形の殲滅に力を注ぐ。発射音と破裂音が交互に響き瞬く間に数を減らしていくが、時間が経過する程に気持ち悪さが大きくなった。頭の中で鈴が警報を鳴らす。

 見たところ彼等は何の能力も術式も仕掛けられていない単純な操り人形。戦力には程遠い粗悪な存在だ。不気味で静かな戦いだった。

 

 今も敵からのアクションは無い。人形が倒されている事は本人が一番知っている筈なのに行動を起こさない。

 

『敵も随分と水人形を造ったな』

 

 宝玉からドライグの呆れる声が聞こえた。

 

「全くだ。お陰で滑りやすくなって──」

 

 瞬間、違和感が確信に変わった。飛ぼうとするも遅く、床から出現した無数の槍に襲われる。絶え間なく繰り出される水の槍を避け、更に横合いからの一閃も首を捻って逸らした。

 見れば眷属達が得物を構え集結していた。そして水の跳ねる音と共に、ソーナが一誠の前に姿を見せる。

 

「……水蒸気や人形はフェイク。本命はぶちまけられた水で作成した槍、そして眷属の襲撃か?」

「えぇ。普通は人影に注意が向けられますし、周囲が霧に包まれればより警戒を強めます。人形を倒す事で床に蒔かれる水こそが狙いだとは気付きません」

「槍に驚いた隙に眷属達が俺の首を取る、か。良い作戦だが、俺の前にのこのこ顔を出すとは油断が過ぎたな」

 

 首をポキポキと鳴らす一誠。しかし、尚もソーナは余裕を崩さなかった。背後から現れる巨大な影。

 

「確かに私達の実力では兵藤一誠を討ち取れない。──それなら、倒せる者にバトンタッチすれば良いのです」

 

 直後、膨大な闘気と息の詰まる敵意が一誠を襲った。そのオーラの持ち主には心当たりがあった。

 彼はある意味で注目していた漢だ。何時か拳を交えるだろうとも考えていたがこんなに早く戦うとは。

 

 いや、このパーティーに殴り込む時点で待ち望んでいたのかもしれない。

 ドラゴンは戦いを呼ぶ。

 以前に聞かされた言葉を噛み締めながら、男を見据えた。

 

「俺はサイラオーグ・バアル。お前を倒す男だ」

「……俺は説明しなくても良いだろう?」

 

 若手悪魔最強の男が、目の前に立っていた。

 


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