はぐれ一誠の非日常   作:ミスター超合金

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オーフィス可愛い(ガチ)


life.25 強襲②

 ──life.25 強襲②──

 

「さて、どうするかな。俺としては此処で暴れれば、今回の目的はある程度達成されるんだがな」

「……我、傍観する」

「おう、悪いがそうして欲しい。これは俺の戦いだからさ」

 

 赤いオーラを放出しながら状況を確認する。視界に入る全員が構えたり、魔力を集めたりと戦闘の準備を行っている様子が見えた。また護衛達も即座に剣を抜き一誠とオーフィスに突き付けていた。

 それが何の意味も為さないことは分かりきっているが、少なくとも何もせずに指を加えて見ているよりかは心の安定を図れた。

 

 鋼鉄越しに相手が小刻みに震えているのが伝わってくる。此処に待機している者達は全員が例の三大勢力会談への襲撃映像を見ていた。身体能力、魔力質量、戦闘経験。自分達と比べる事すら馬鹿らしい強さを誇るグレイフィア・ルキフグス。

 その彼女を一方的に打ち負かした存在が目の前に立っていたら。

 

 恐怖を覚えても責められる云われは無いだろう。

 

「……君が何故、此処に来たのかな。″SSS級はぐれ悪魔″、兵藤一誠」

 

 護衛の動揺を察したサーゼクスは彼等を手で制し、迫力をぶつけながら訊ねる。辺りをピリピリと緊張が駆け巡るが、二人は特に気にした様子を見せない。

 

 それもその筈、一誠はこの場では彼が本気を出せないという事を既に知っているからだ。

 

 当時は悪魔に転生して日が浅く裏の事情をあまり知らなかったが、魔王サーゼクスは滅びの魔力を使う、という情報は裏では有名な話らしく、当然ながらヴァーリ達は既に把握していた。

 三大勢力会談襲撃に向けての会議にて一誠はそれを知り、今回の強襲劇への利用を頭の片隅に置いていた。

 

 過去に元主君たるリアス・グレモリーの魔力運用を見ているから解るが、確かに触れた物体を跡形も無く消滅させる性質を持っている。実際に″はぐれ悪魔″を消し去っているのだから。

 ならば、魔王であるサーゼクスの魔力はリアスの物よりも強力だと予想出来る。そうで無ければ魔王等務まるまい。

 

「ただのパフォーマンスだよ、魔王殿」

「パフォーマンス?」

「三大勢力に恨みを持っている奴は大勢いるんだ。これはそんな彼らに向けての挨拶さ。──三大勢力は俺が潰す、ってな」

 

 だからこうして余裕を持って接している。戦場ならいざ知らず、貴族達が集まっているパーティー会場で魔力を放てばどうなるのか。制御技術も磨いてあるのだろうがそれでも第三者に当たってしまう可能性も充分考えられる。だからサーゼクスは絶対に消滅の魔力を出せない。

 一誠は確信していた。尤も、肉弾戦という選択肢もあるので油断は出来ないが少なくとも即死だけは回避出来た。

 

 対して、策に気付いたサーゼクスは苦虫を噛み潰した。魔力さえ満足に使えれば一誠程度は楽に倒せる。それが完全に封じられてしまったのだから。彼は酷く苛ついていた。

 

 その時、一つの影が横切った。一誠の元同僚、木場祐斗だ。造り出した聖魔剣と共に乱入者へ突っ込んで行く。

 オーフィスへ後退を指示した一誠は冷めた眼で見ながら左腕を伸ばした。左手に装着された″赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)″に意識を集中させ、一気に解き放つ。翡翠の光が会場を包んだ。

 

「──″禁手化(バランス・ブレイク)″」

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!!!!!!』

 

 様子を見ていた貴族達が爆風に耐えきれず吹っ飛ばされる。

 何が起きたのか。

 確認するために眼を開ければそこに立っていたのは少年では無く、赤い龍の帝王だった。その龍がこちらに向かって突撃してくる敵を確認し、軽く腕を振るう。

 すると先端から小さな魔力弾が飛び出す。悪魔でも注視してやっと存在が解るサイズの小さな魔力。

 

 頼り無く飛来するそれを、木場は気にもしていなかった。何か小細工があるのかと瞬時に探ってみたものの本当に単純な魔力の粒。例え身体に命中したところで霧散するのがオチだ。

 そして数秒という時間が過ぎ去り、魔力弾が目前に迫った刹那。一誠の左手に据えられた宝玉が無情な現実を告げた。

 

『……Boost』

 

 ピンポン玉サイズにまで跳ね上がる。この段階で漸く木場は理解した。だが既に斬り掛かる体勢に移行した身体は全く言う事を聞かない。最初に華奢な身体に衝突し、骨が音を立て、それでも尚止まる事をせずに一直線に壁へと向かっていく。全身を衝撃が襲った。

 

「あが…………ッ!!」

 

 傷だらけになりながら墜ちていく木場。完全に倒れ伏した後に主達が駆け寄る。アーシアが手を翳し治療を開始する中で、リアス・グレモリーは一誠を睨んだ。しかしそれだけで、他に何も出来はしない。

 彼はじっとリアスを見ていた。自分に恐れを抱いた愚かな主君。視界に入る時間に比例して怒りが沸き上がってくる。バサリと鱗に塗れた翼を広げた。勢いで風が巻き起こる中で一誠はリアスを標的と定めた。

 

 そして魔力を発射すべく掌を翳すが──。

 

「なんだ、これは……?」

 

 一瞬の隙を突いて何重にも黒いラインが巻き付けられる。一定のリズムで妖しく鼓動を繰り返すライン。力が抜けていく感覚に襲われる。

 

 ラインの先を見ると駒王学園の制服を着用した青年が憤怒の表情で立っていた。あの青年は何度か見た事があった。まだ駒王学園第二学年の所属であった頃、朝会にて生徒会として説明を行っていた男だ。

 そう言えば会議の話題にも出てきていた。確か、匙元士郎という名前だった。

 

「捕縛する! ラインよ!!」

 

 匙の左手に備えられた龍型の神器が叫びに応じてラインの本数を増殖させる。宝玉が輝き、ドライグが忠告を発した。

 

『相棒、気を付けろ。今くっついているラインは恐らくヴリトラ系統の神器だ。急激に力を吸われているぞ』

「……面倒だな。対処法は?」

『素早く宿主を倒した後に、本部で解呪して貰うのが最善だと思う。──ヴリトラ系統の能力は何れも凶悪で、一度喰らえば回復に時間が必要という代物だ。慎重になった方が良い』

 

 的確な指示。一誠は短く頷き、眼だけを動かして匙を見た。恐怖に心を折られながらも進もうとする男の表情だった。あのライザーとのゲーム時に自分もこんな顔をしていたかと思うとほんの少し懐かしさを感じる。

 

 遠くでは、匙の主君であるソーナ・シトリーが必死になって何か喚いているのが見えた。彼では絶対に勝てないと既に悟っているから止めているのだ。

 それは正しい選択だ。匙と一誠では大きすぎる差があった。何回戦っても一誠の勝利は揺るがない。

 それでも彼の眼から見て、匙は強かった。一誠は深い息を吐く。

 

「……匙元士郎だったか。お前、強いな」

「何だ、馬鹿にしてるのかよ!! お前の方が俺の何倍も強いだろうが!! ラインよ、あいつを縛れッッ!」

 

 重なる二人の声。匙は激情してラインを更に展開した。一誠の右腕がラインに覆われ見えなくなるが、それに比例して匙の体力も減っていく。

 彼が所有する″黒い龍脈″は膨大な集中力を要求される技術型(テクニック)の塊のような神器。ラインが増えるに従ってそれは何十倍にも拡大され使用者の体力を蝕むのだ。

 ソーナの下で日夜訓練を行っているとはいえ、匙はまだ充分に神器を扱えていない。その為に今こうして疲弊し、血を吐くまでに消耗している。

 

 一誠から体力を吸収しているが追い付かない。そして遂に神器が姿を消した。床に両手を突き、それでも一誠を睨む事は忘れない。

 

「匙!!」

 

 ソーナが対峙する二人の間に割って入った。暴風に転がされズタボロにされながらもしっかりと床を踏み締め匙を庇った。

 

「ソーナ様……逃げて下さい。守られる筈の主が眷属を庇うなんて、本末転倒ですよ……」

「私は絶対に此処を離れません! 眷属を守るのは主君たる私の努めです!!」

 

 普段冷静なソーナが取り乱しながらも一眷属に過ぎない自分を庇う。主君と眷属の関係という点では誉められた行動では無い。

 

 しかし、悪魔として見た場合は──。

 

「私達も貴方を守ります!」

「元ちゃんは私達を何度も助けてくれたからね!!」

「シトリー眷属、全員集合! 匙君を助けるわよ!」

 

 足音、次いで慌ただしい動きで幾人かの少女達がソーナの横に集結した。全員、覚悟を決めた顔だった。眷属達の思いもよらない行動にソーナは珍しく驚いた仕草を見せる。

 

「貴女達………」

 

 動揺する彼女に、眷属の一人であり最も付き合いの長い椿姫が叫んだ。

 

「ソーナ様、御命令を! 二天龍にたった一人で立ち向かった勇者を守れと!! そう言って下さい!!」

 

 良い眷属を持った、とソーナは深く椿姫達に感謝した。

 

 彼女は冥界の闇をある程度、姉であり魔王でもあるセラフォルーから聞かされていた。眷属を馬車馬のように扱う非情な貴族が存在する事を知っていた。

 それを反面教師に、自身が将来持つであろう眷属達には誰よりも優しさを注ごうと決意した。何時か姉の後を継ぎ魔王となり冥界を変えると言う壮大な目標を定めていた。

 

 ソーナの描いた冥界。誰かが誰かを思いやる理想郷。その縮図が目の前にあった。

 絶望的な状況だと言うのに、何故だか優しい微笑みが込み上げてきた。勝てる気はしない。しかし無様に負けるとも思えない。気付けば彼女は頷いていた。

 

「──シトリー家次期当主、ソーナ・シトリーの命令です! 私達全員で匙を守りますよ!! 誰一人として欠ける事無く!!」

 

 ソーナ達の宣言。何と凛々しい事だろうか。だが余裕は崩れない。

 一誠は連続して放たれるドライグの音声を聞きながら黒い笑みを浮かべる。先だって完了を示す魔法陣が耳元に出現したからだ。

 

 作戦が第二段階に突入した合図。倍加され膨れ上がった身体能力を確かめながら、一誠はじっとソーナを見据えた。

 


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