はぐれ一誠の非日常   作:ミスター超合金

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オーフィス可愛い(若手悪魔パーティー編開始)


life.23 若手悪魔達

 昨夜の晩餐から一夜明け、リアス達は早くから旧首都ルシファードへと向かっていた。

 目的は一つ、中央に聳え立つ巨大な城にて開かれる若手悪魔のパーティーだ。若手悪魔、旧七十二柱の当主やそれに連なる血族、そして上層部が一同に会するという貴族達にとって最も重要なイベントである。

 

 何せ集まる者全員が隠然たる権力を所有し、″魔王派″・″貴族派″という二大勢力のどちらかに別れているのだ。ここで出来うる限り胡麻を摺り、上層部や上位者の覚えを良くしておこうと考える悪魔が多いのも当然だ。

 

 必然、自他の発言や一挙手一投足に意識を集中させなければならない。弱味を握る為に、威厳を示す為に。

 そうした緊張が渦巻く会場に眷属と共に入場したリアスは、眷属達に小声で注意を促しながらも、自らも魔王サーゼクス・ルシファーの妹として必死に振る舞っていた。

 

 昨夜行われた晩餐。その席での実母の言葉は、彼女にとって少なからず混乱と衝撃をもたらした。

 

『誰だって貴女は魔王の妹として見る。三大勢力が協定を結んだ今は、貴女の名前と地位も他勢力まで知られる事でしょう。それでも……身勝手な我儘を言うのかしら?』

 

 リアス・グレモリーはこれから先の長い時間を少女リアスでは無く、魔王の妹のリアスとして見られる。

 その扱いは彼女が一番嫌う事であり、それをヴェネラナははっきりと逃れられない運命であると告げた。先の婚約解消未遂もあっての発言だった。

 

 事実、と言うべきだろう。彼女を見る貴族達の目は、どう考えても少女を見るそれでは無い。皆が利用価値と将来性を計算し、あわよくばと思っている。

 そんな視線に蝕まれていた時に、救いの声は掛けられた。

 

「よう、リアス。久し振りだな」

 

 会場の片隅に佇んでいた複数の人影、それを率いる男を見た瞬間にリアスも思わず微笑みが溢れた。

 

「懐かしいわね、サイラオーグ」

 

 ──life.23 若手悪魔達──

 

 武闘家を彷彿とさせる油断の無い立ち振舞い、正装を着込んでも解る屈強な肉体、そしてリアスと熱い握手を交わした男。この男こそ旧七十二柱の序列一位に君臨するバアル家の次期当主、そして若手悪魔最強と噂されるサイラオーグ・バアルだ。

 野性的な笑みを浮かべるサイラオーグはリアスの後ろに控える眷属達を頷きながら見回した。

 

「俺はサイラオーグ・バアル。バアル家の次期当主にして、リアスの従兄弟でもある。宜しく頼む」

 

 気迫に圧されながらも頭を下げるメンバーを他所に、リアスは彼との会話を再開させた。

 

「それにしても貴方程の悪魔が、こんな片隅で飲んでいるなんてね。堂々と中央で飲んだら良いのに」

「最初はそうしていたが他の奴等が来たから移っただけだ」

 

 その言葉を受けて、リアスは訊ねた。

 

「あら、他のメンバーは既に来ているの?」

 

「アガレスやアスタロト、シトリーも来ている。挙げ句にグラシャラボラスだ。早々にアガレスと言い合いを始めたからな」

 

 そう言った直後、会場の中央辺りから爆音と破片が飛び散った。リアスは咄嗟に防御術式を展開し、サイラオーグは破片を全て粉砕して己の眷属を守った。

 見れば他の貴族達も術式を展開しているが、顔は笑っている。余興程度にしか捉えていないのだろう。彼等にとっては焦る程の事では無く、それ故に止めに入る者は誰もいない。寧ろ喧嘩を煽る始末であった。

 

 サイラオーグは心底から溜め息を吐くと、中央にて睨み会う二つの集団へと歩を進めた。すると周囲に陣取る野次馬連中は彼のオーラに圧され、自然と道が完成する。

 野次馬が遠退いた事に尚も気付かない二人の間にサイラオーグは割って入った。

 

 顔に魔術的な刺繍を施した、見るからに邪悪そうな格好の男性。

 或いは知的なイメージを抱かせる、氷の様な冷たさを放つ女性。

 その両方が目の前に突如として現れた巨漢に思わず後退る。それでも、片方の一団の先頭に立っていたヤンキー風の男がサイラオーグを睨んだ。

 

「何だ、テメェ! これは俺とアガレスの喧嘩だ! 部外者は引っ込んでいやがれッ!!」

 

 やや震えながら言い返す男に、彼は拳を構えながら告げた。

 

「アガレス家の氷姫シーグヴァイラ、グラシャラボラス家の問題児ゼファードル。これ以上戦うならば、俺が相手をしよう。これは最後通告だ。次の言動次第で俺は容赦無く──お前達を潰す」

 

 全身から発せられる迫力。その鋭い眼光にシーグヴァイラと呼ばれた少女は素直に矛を下げるという道を選んだ。今、此処で仮に抵抗したとしても絶対に勝てない。そう思わせる程の存在感がサイラオーグという男にはあった。

 ならばこの場はなるだけ穏便に済ませる方が得策だという答えをシーグヴァイラは即座に導き出した。

 

 それとは対照的に青筋を立てたのがゼファードルだ。彼は自分に絶対の自信を持っていた。

 魔力も高い、実力もある。負ける筈は無いのだと、少なくとも自分と眷属達だけはそう思っていた。その自信を胸に彼は魔力をたぎらせながら飛び掛かった。

 

「バアル家の無能野郎が──」

 

 そして吐き出した言葉は中断せざるを得なかった。

 何故なら台詞を言い終える前に、サイラオーグの一撃によって会場の壁に叩き付けられたのだから。

 

 細かな破片が降り、そしてゼファードルは床に落ちた。後に残ったのは首をコキコキと鳴らしているサイラオーグと、呆気に取られたシーグヴァイラ達だけだ。

 吹っ飛ばされたゼファードルの眷属達が主に駆け寄っていく様子を視界に入れながら、彼は何事も無かったかのように眷属達の元に戻った。

 

「言った筈だ。これは最後通告だとな」

 

 若手悪魔最強と称される漢の実力、その一端を示しながら。

 


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