タンニーンとの訓練を終えた一同はアザゼル達に別れを告げて、グレモリー本邸へと舞い戻った。音楽隊や騎馬隊の歓迎、民衆の声援を受けながら本邸に辿り着くと一人の少年が駆け寄ってくる。
「お帰りなさい、リアスお姉様! それに眷属の皆さんも!!」
「ミリキャス! ただいま、大きくなったわね」
リアスも少年を愛おしそうに抱き締めた。苦悩続きの時間を送る彼女にとって、愛する家族との再会は何物にも代えがたい安心をもたらした。未だグレモリーの家族関係をあまり把握していないゼノヴィア達に、リアスは紹介を兼ねて説明を行う。
「この子はミリキャス・グレモリー。魔王サーゼクス様の実子なの。つまり私の甥よ」
その言葉にゼノヴィアはミリキャスを観察した。成程、確かに細かい所はサーゼクスと似ている。尤も、彼女にとってはどうでも良いことだ。
なので挨拶をしてくるミリキャスにも適当に返しつつ、タンニーンとの訓練を思い返していた。
デュランダルが弾かれたという事実は重たい。今までにそんな事態に陥ったことは皆無だった。
例外はコカビエルのみだ。
教会戦士として活躍していた頃は、エクスカリバーとデュランダルという剣の違いは在れど、それを振り回すだけで敵は死んだ。相手は大抵が″はぐれ悪魔″でこちらは聖剣なのだから当然。しかしながら連戦連勝が自分を油断させ、結果として誤ったプライドを築かせたのだろう。
それ故にコカビエルやタンニーンの様な強大過ぎる敵、圧倒的な差が在りすぎる者を前にすると何も出来ない。
このまま突き進めば限界を超えられない。
どうすればもっと強くなれる?
考え込むゼノヴィア。そのとき、ミリキャスの後ろに待機していたグレイフィアが挙手した。同時にメイドが何人か集合する。
「お嬢様。皆様をお部屋へご案内したいと思うのですが」
「お願いね? 私もお父様とお母様に挨拶をしないといけないし」
「旦那様と奥方様は外出しておられます。夕刻にはお戻りになるとのことです。晩餐の席にて、皆様と顔合わせをしたいと申されておりました」
「分かったわ。なら、皆には其々の部屋で休んでもらおうかしら。荷物は届いてるわよね?」
リアスの言葉にグレイフィアは深く頷く。
「はい。お部屋は今すぐお使いになられても問題ございません。お荷物はベッドの上に纏めましたので」
グレイフィアが先を促し、メンバーは屋敷の中へと歩を進めた。
──life.22 塔城小猫①──
グレモリー家の現当主であるジオティクス、その妻であるヴェネラナとの晩餐から数時間が経過した。ベランダで一人、自然豊かな景色を眺める小猫は消えてしまった先輩の存在を思い出していた。
兵藤一誠。未だ彼が此方側に巻き込まれる以前から、一誠の噂は絶えなかった
女子更衣室を覗いたり、セクハラ発言を繰り返す最低なクズ野郎。それでいてハーレムを連呼する馬鹿。当時はそう思っていたし、同じ眷属になってから更に強く感じるようになった。女性の前で躊躇無く下ネタを叫ぶのだから当たり前ではあるが。
しかし兵藤一誠が他人の為に努力を重ね、いざとなれば頼もしい男であることも小猫は知った。
そんな彼が″SSS級はぐれ悪魔″に認定されたという情報は、彼女にとって信じがたいことだった。
『アーシア先輩も救って、リアス部長も救おうとして……! そんなイッセー先輩が″はぐれ悪魔″になる筈が無いです! 何かの間違いです!!』
自分の言い分は聞き届けられなかった。魔王サーゼクスが言うには、『兵藤一誠は力に呑み込まれた』らしい。そんな馬鹿なと思う。確かに彼は馬鹿だったが、力に呑み込まれる馬鹿では無かった。
姉と同じ道を歩むようなこと、在る筈が無い。
小猫は信じていた。ならば疑うべきは誰なのか。
その情報を伝えたサーゼクスしかいなかった。
兵藤一誠が行方不明になってしまったのは、あの婚約パーティーの直後だ。彼が健闘空しく敗北してしまった後のことを自分は全く知らない。
ならば裏で何か行われていたと考えるべきだろう。
例えば、サーゼクスがフェニックス家に婚約解消を頼み込んだとすれば、一誠を恐れたライザーが彼に適当な罪を着せて殺そうと目論んだのなら、両家がそれに合意したとすれば、そして一誠がそれに気付いて咄嗟に逃げ出したのなら。
「スケープゴートとして″SSS級はぐれ悪魔″に認定されてしまったとすれば……」
仮説ながら辻褄は通っている様に見えるが、確かめる手段が無い。誰かに相談するという選択肢も存在しない。
先ずリアスと姫島朱乃は却下だ。
リアスはサーゼクスの実妹であり、事情を既に把握しているだろう。リアスの懐刀とも揶揄される彼女は真相を知っている可能性が高いし、相談すれば自分が嗅ぎ回っていることをリアス達に知られてしまう。木場も彼方側に回ってしまうかもしれない。
ギャスパーやゼノヴィアに至っては論外だ。そもそも事情を知らないのだから。
「アーシア先輩はまだショックから立ち直れていないし……やっぱり私一人で探ってみるしか無い」
グレモリー眷属″
彼女は密かに決意した。