はぐれ一誠の非日常   作:ミスター超合金

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オーフィス可愛い(正論)


life.20 冥界合宿

 日本単位にして七月後半は、学生にとって至福の時間である夏休みに突入する。それは″駒王協定″を結んだことにより注目されている駒王学園も例外では無く、つい先程一学期の終業式が閉幕したばかりである。

 夏休み期間の予定を自慢気に話す者が居れば、大量の宿題に嘆く者も居た。

 

 形はどうあれ、興奮が未だ冷めない駒王学園。旧校舎に拠点を構えるオカルト研究部もまた同じであり、丁度リアス・グレモリーが熱のある声でそれを発表していた。

 

「──という訳で、夏休みは皆で冥界に行くわ。長期旅行の準備をしておいてね」 

「私も、ですか?」

「そうよ。眷属が主に同伴するのは当然。あなたも一緒に冥界の実家に行くの。……そういえば、アーシアとゼノヴィアは初めてなのよね?」

 

 リアスの問いに、アーシアはぼんやりと外の景色を見ながら答えた。

 

「………嬉しいです」

 

 アーシアと同じく、ゼノヴィアも特にどうでも良さそうにしていた。

 彼女は悪魔になりたくてなった人間では無い。聖書の神の不在、教会からの追放。そしてリアスの巧みな口車に乗せられて、自暴自棄で悪魔に転生したのだ。

 気絶していたが為に幸運にもコカビエルの言葉を聞くことが無かった相方は、現在も戦士として活動しているようだ。

 

 彼女はそれも含めて現状が嫌だった。だから誰にも心を開かず、一人で鍛練に励み、無口で孤独な自分を貫いている。

 

「了解した」

 

 それ故にぶっきらぼうな返事しか出来ない。主であるリアスは暫くゼノヴィアを眺めていたが、やがて諦めたように朱乃達の方を向いた。少しだけゼノヴィアの胸が痛む。

 

「八月の二十日過ぎまで夏休みを冥界のグレモリー本邸で過ごすわ。修行や諸々のイベントは冥界で行うから」

 

 リアスはそう申し付けた。今回の里帰りは彼女なりに計算された企画だ。夏休みの里帰り旅行自体は以前から度々行っている物であり、木場や朱乃、小猫は既に馴れている。

 しかしながら今年は新メンバーが二人も眷属になり、その上ギャスパーは例の襲撃事件がトラウマになってしまい、引きこもりが悪化してしまったのだ。

 

 残るアーシアは未だ精神不安定で、ゼノヴィアは心を開かない。

 これではいざという時に動けなくなってしまう。それで先ずはアーシアやギャスパーの心を落ち着かせようというのが今回の旅行の目的である。

 

「おいおい、堕天使総督様を忘れるなよ?」

 

 唐突に響いた声。驚いて入口に振り返ると、アザゼルが立っていた。ついこの間まで悪魔と敵対していた堕天使達のトップ、そして駒王学園の化学教師にしてオカルト研究部の顧問に半ば無理矢理就任した男だ。

 

「何時の間に入ってきたの?」

「普通に玄関からだ。気配を感じなかったのなら、それは単純に実力不足なだけだ。──と、俺が言えた義理じゃ無いか」

 

 一瞬だけカテレアが脳裏に過るが頭を振り、懐から年季の入った手帳を取り出した。びっしりと書き込まれたそれを捲りながら、目当ての頁を見つけるべく目を細める。

 

「冥界でのスケジュールは……リアスの里帰り、グレモリー公爵、サーゼクスとの会合、若手悪魔達の集まり。そしてお前らの修行かよ。ったく、落ち着いて酒も飲めないぜ」

「ではアザゼル先生も同行するのね。列車の手配をしておいた方が良いかしら?」

「宜しく頼む。今回は悪魔のルートで行かなければならんのでな」

 

 ──life.20 冥界合宿──

 

 月日が少し過ぎて、旅立ちの日。最寄りの地下鉄の駅構内。

 夏休みとあって旅行客で賑わっているが、その更に地下深くに、一般には知られていない路線が存在していた。一般人達が知らないその駅にはグレモリー家専用の列車が停車しており、お抱えの車掌が路線や車両を管理している。

 

 リアスや古参メンバー、精神を病んだアーシアはそうでもないが、ゼノヴィア、そして引き込もっていた為に今まで参加しなかったギャスパーは緊張しているらしい。特に無理矢理連れてこられたギャスパーは涙目で今にも持参した段ボール箱に隠れようとする始末だ。

 

 と、出発前からこの調子であったが一度列車が発車すると落ち着いたのか、其々が趣味に興じていた。

 

 アーシアは黙って窓の外を眺め、木場と小猫は互いの実力を確かめようと組手を行い。

 ギャスパーは段ボール箱の中でゲーム機を弄くり、ゼノヴィアは瞑目しながら珈琲を飲んでいた。

 

「成程な、そんな事があったのか……」

 

 そしてリアスと朱乃は、アザゼルに一誠の件を話していた。

 

 アザゼルは、一誠が″SSS級はぐれ悪魔″となった事に疑問を抱いていたらしく、当事者であるリアスに訊ねたのである。

 リアスと朱乃も、彼女達から見た一部始終、そこから推測される事柄、全てを打ち明けた。完全な第三者の意見を聞く事で、自分達の今後を決めたかったのだ。

 アザゼルは話が終わると黙って瞑目していたが、自分なりの結論が出たのだろうか、目を見開いた。

 

「お前らの上層部は実に愚かだな。サーゼクスもだ。二天龍を両方放り出すとは、正気の沙汰と思えん。そんな仕打ちを受ければ裏切られても文句言えんだろう。これはサーゼクスを問い詰めるべきか……?」

「では、やはり一誠は陥れられたのかしら?」

「二人から聞いただけでは詳細は解らん。一度サーゼクスを問い詰めるしかないだろうな。しかし……」

 

 その時、車掌であるレイモンドの声が列車内に響いた。

 

『間もなく、次元の壁を通過致します』

 

 それが合図となり、黒一色の空間が一変して冥界特有の紫色の空が辺りに広がる。下には木々や川に恵まれる大自然、そして六角型の街があちこちに建て並んでいた。その中でも一番大きな街の中央にある豪邸を、リアス・グレモリーは指差した。

 

「あれが私の実家、グレモリー城よ」

 

 先にあるのは西洋の童話に出てきそうな巨大な城。外壁や屋根にグレモリーが司る紅蓮を用い、所々に貴族たる証である紫の薔薇の紋様が施されている。更に周囲にはリアス達を出迎える為なのか、音楽隊や馬車までも配置されていた。余りの豪華絢爛さにギャスパーは目眩を起こした。

 

「あれは家と言いませんよ……」

「ごく普通の家よ。それとアーシア、ゼノヴィアは後で個人の領地をあげるから」

 

 理解出来ていない二人に、アザゼルが解説を執り行う。

 

「お前達は次期当主の眷属悪魔だから、グレモリー眷属として領土に住むことが許されている。残りのメンバーも自分の領地を持ってる筈──」

 

 その後を続けようとしたが、それは叶わなかった。何故なら大きな衝撃が列車を襲い、巨大な転移魔法陣が列車ごとリアス達を包み込み、そして何処へと転移させてしまったからだ。

 


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