はぐれ一誠の非日常   作:ミスター超合金

12 / 116
オーフィス可愛い(オリキャラ登場)


life.12 魔法使い派

 その光景に、一誠としては珍しく溜め息を吐いた。一誠の代名詞とも言えるトレーニング室に多くの者達が修業に来たのだ。しかも旧魔王や英雄、その他小数の派閥等メンバーも様々だ。何れも一誠に刺激を受けた者達である。

 

 修業する場所が無いということで、彼は不機嫌だった。与えられた部屋にもトレーニング機材を置いているので簡単な運動程度であればこなせるが、如何せんスペースが圧倒的に無い。満足に動き回れない様では本格的な特訓は到底出来ないだろう。

 そんな訳で、一誠はトレーニング室の前で部屋が空くのを待っていた。傍らにはオーフィスがチョコンと座っている。暇潰しと癒しを兼ねて彼女の頭を撫でているが、それも限界だ。何せ二時間も待っていれば疲れるより先に飽きてくる。

 

「暇だ、早く空いてくれ」

「……無理。寧ろ、人が増えている」

 

 一誠の何気無い呟きに律儀に返すオーフィス。一誠はまたもや溜め息をついた。二人の特訓はレベルが高過ぎて他の者では即効で灰になってしまう。だから二人きりで特訓を行っているのだが、この様子だと何時になるのやら解らない。

 

 仕方無しに踵を返した直後、背後から不意に声を掛けられた。赤い眼球が描かれた黒のローブに身を包んだ、銀髪の少女だ。

 彼は記憶をまさぐり、その少女が組織の会議に出席していた事を思い出した。

 

 自分に何のようだ。

 一誠は警戒しながら会話を続けた。

 

「あんたは誰だ?」

「申し遅れました。私はソフィア・ヴァリエールと申します。魔法使い派の暫定リーダーを務めています」

「魔法使い派か、今度の三大勢力会談を襲撃する予定だよな。それがどうして俺に接触を?」

 

 疑問に対して、彼女は頭を下げながら答える。

 

「今回こうして貴方の元に伺ったのは、私達についてのお話を聞いてもらいたいからです」

 

 ──life.12 魔法使い派──

 

 はぐれ魔法使いの集団、魔法使い派。

 一般的なはぐれ魔法使いのカテゴリーは大まかに分けると二つ存在しており、一つは魔法使い協会から異端と見なされ追放された者達。死者蘇生等の黒魔術を研究して危険視されたのだ。最もポピュラーな理由だが近年は別の理由ではぐれ魔法使いになってしまった者達も多い。

 自己紹介を行ったソフィアが率いる魔法使い派は不運な事に()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()だけが属する派閥だった。

 

 ソフィアの言葉に、一誠は首を傾げたがそれも仕方無い。彼自身はソフィアと接点が全く無い。強いて言えば同じ組織に所属している程度だがそれが話をされる理由とは思えなかった。

 無意識に構える一誠にソフィアは慌てて言葉を入れた。

 

「ま、待ってください! 私が貴方にお話をしようと決意したのは、兵藤一誠さんが″はぐれ悪魔″だからです! 少なくとも一誠さんなら私達の話を聞いてくれるだろうと思いまして!!」

「……取り敢えず、早く話せよ。オーフィスが不機嫌になっている」

 

 一誠はオーフィスを撫でながらぶっきらぼうに告げた。

 

「では……魔法使い派の構成員は全員がはぐれ、つまり何らかの理由で追放された魔法使いなんですよ。一般的には禁術研究が理由なんですが……中には理不尽な理由ではぐれになってしまった者も居るんです。魔法使い派(私達)は全員が後者です」

「……」

「私達の以前の所属、教えましょうか。……もう既に気付いているでしょうけど」

 

 一誠は咄嗟に、言うな、と叫びかけた。態々言われなくても今の話と彼女の魔力で大体は察する事が出来る。しかし無情にも、ソフィアの方が一歩だけ早かった。続きが投げられた。

 

「──私達は皆、はぐれ悪魔。後から魔法を覚えた歪な存在なんです」

「……ッ!!」

 

 彼は絶句した。彼にとって絶対に言って欲しく無かったからだ。自分はもう結論を出している。ソフィアの言う通り気付いているのだ。

 なのに何故、自ら傷口を抉るような真似をするのか。そんなことをすれば彼女の心は軋んでしまうだろう。

 現にそれを言った直後のソフィアは涙目で息が粗い。何れ程の覚悟が必要だったのか。

 一誠にはとても想像がつかない代物だった。

 

「……私はヨーロッパの名家に生まれました。中世から続く由緒正しい貴族の家柄でした。両親は蝶よ花よ、と私を可愛がってくれました。そのまま成長して、結婚して。普通の人間として生涯を終える筈でした。──それが望みでした」

 

 ソフィアは俯き、そして心の中に溜め込んでいた感情を爆発させる。

 

「ですが、十六歳の誕生日に悪魔が現れたんです!! アイツは両親も執事達も、全員を殺しました!! 私はその悪魔に捕まって! ソイツは奴隷商人で! 私は貴族悪魔に──」

 

 せめて、そこから先の台詞だけは言わせたく無かった。一誠はソフィアの頬に優しく手を当てた。怯えるように震えていた彼女はそれで落ち着きを取り戻したらしかった。

 と、ソフィアはローブを脱いで見せた。ノースリーブから見える雪色の肩には、赤い紋章が刻まれていた。見たことの無い刻印であったが恐らくは奴隷の証か、もしくは貴族の家紋だろうと一誠は考えた。

 

 そして、魔法使い派の全員に烙印があることも理解してしまった。

 

 一誠は冥界の裏に潜む闇を見せられた。他種族を捕らえて売り払う奴隷商人が居た。それを平然と購入し、無理矢理眷属にしてしまう貴族が居た。だがそれは氷山の一角。

 多額の賄賂を受け取った上層部が事実を揉み消していると知れば、元々の恨みもあって直ちに冥界に宣戦布告したかもしれない。それを知らなかっただけ、一誠とソフィアはマシだった。

 

 彼は手が止まっている事に気付いた。下を見てみるとオーフィスが頬を膨らませていた。それがあんまりに可愛いのでひょいと抱き上げてから一誠は告げた。

 

「……それを話したのは何故だ。言っておくが、復讐への協力依頼ならお断りだぞ?」

「それは解っています。復讐は自分の手で行うものですから。……ただ、頼みたいだけです。もしも貴方が上層部を殺す時が来れば、その時は私達を思い出して下さい。私達は今度の襲撃で無能な魔王と戦いますから」

 

 そうしてソフィアは去っていった。二人きりになった後も彼は先程の話を思い返していた。彼女が話した内容は彼にとって聞き逃す事が出来ない物だった。特に、去り際の表情は瞼に深く焼き付いていた。

 

 あれは死を受け入れた顔である。

 

「アイツの顔には死相が見えたな」

「……死ぬ?」

「そうだ。免れない死の宣告だ。覆せるとすれば強者(ドラゴン)だけさ。……さてと、トレーニング室はまだ空いてないし、食堂にでも行くか?」

「……行く」

 

 オーフィスは一誠の肩に飛び乗った。落ちないように注意を払いながら一誠は食堂へと歩いていった。

 ただ、ソフィアと話しすぎたのでラーメンを食べる時も、オーフィスはご機嫌斜めであった。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。