はぐれ一誠の非日常   作:ミスター超合金

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オーフィス可愛い(HSDDで好きなキャラ? 天才的な龍神様は殿堂入りとして、やはりフリードですね。あいつのお陰で筆が進んで戻ってをループするんですよ)


life.107 むかし愛が死んだ町

「しかし、この懐かしい教会で、しかもあのフリード・セルゼンと剣を交わす日が来ようとはね」

「俺のこと知ってんのかい。俺も有名になったもんでござんすねぇ」

「かつての神童を知らない訳がないよ」

 

 今にも朽ち果てようとしている廃教会の礼拝堂で、″悪魔祓い″のコートを纏う二人が対峙する。本来、神への礼拝の為に作られた神聖な場所で殺し合いをしようとは、これ程の侮辱も他にないだろう。それこそ教会関係者の人間や天使達がこの光景を見たなら卒倒するかもしれない。

 だが、フリードと八重垣──とうの昔に教会より堕ちた異端者達にとってはどうでもいいことだ。

 

 言わずもがな、前者は強盗殺人の常習犯であり、犠牲者の数を数えれば他人の両手両足の指を借りても足りやしない。一誠配下の今では自重しているものの、殺人現場が日常風景だった男が今更そんなことを気にする筈もなかった。

 親の顔を見てみたいね、とは本人の弁であるが孤児のフリードにとっての親とは即ち、教会の戦士要請機関である。

 かつての神童がどうして殺人鬼にまで落ちぶれてしまったのか、本人は頑なに語らない。

 

 そんな文字通りの異端者なのだから悪い意味で有名なのは当然なのだが、実はかくいう八重垣にも同じことが当て嵌まる。

 何せこの男も裏側に属する事情通の間では有名なのだから。

 

「俺も先輩のこと知ってるぜ? 悪魔と恋仲になったっていう異端の教会戦士だろ?」

 

 フリードの言葉に、八重垣は口許を歪めた。その彩りの欠けた眼差しには果てしない憎悪が宿っている。

 

「後輩達にどう映っているのかは知らないけど、契約なんかじゃない、僕らは本当に愛し合っていたんだ。けれど連中は僕らを認めなかった」

「だったら先輩が恋人さんの眷属になるなり、愛してるなら相応の方法があったんじゃねぇの?」

「その予定だったさ。僕の死を偽装し、痕跡を消した上で僕はクレーリアの生涯の″騎士″になる……そういう約束を交わしていたんだ。けど、あの日──」

 

 今でも、瞳を閉じると脳裏にくっきりと思い浮かぶたった一つの後悔。

 

 クレーリアは、彼の目の前で嬲り殺しにされた。

 

 悪魔の討伐部隊の手によって。

 

 

 事の発端は十年前、ある″はぐれ悪魔″の討伐任務に当たっていた八重垣が、クレーリア・ベリアルの治める駒王町に侵入してしまった日にまで遡る。

 

 当時の三大勢力は一時的な停戦協定こそ結んでいたものの各地で小競り合いが頻発し、和平には程遠い状態だった。そんな状況で″悪魔祓い″が悪魔の領地に不法侵入してしまったとなれば、事情を知った上役はこれ幸いと難癖をつけて動き始めるだろう。

 それを悟った彼は″はぐれ悪魔″を秘密裏に討伐し、直ぐにでも帰還しようと考えていた。

 問題があったとするなら、討伐対象の″はぐれ悪魔″が予想以上の実力を備えていた点である。

 

「事前調査の段階では単なるB級下位の扱いだった。特筆すべき能力もない。だから手の空いていた僕が単独で出向いたんだけど……恥ずかしい話、コテンパンにされちゃってね」

「おいおい、先輩も昔は天才少年だなんだって持て囃されてたらしいじゃん。そんな先輩を返り討ちにするって普通にヤバくない?」

「″神器″を隠していたんだよ。そいつは元人間だった。元、だけどね」

 

 不利な条件もしくは強制的に悪魔に転生させられる人間は後を絶たず、どうやらその″はぐれ悪魔″もそういった被害者の一人だったらしい。尤も、八重垣と対峙した際には人の形も心も失っていたが。

 それは兎も角、″はぐれ悪魔″は再び駒王町の暗闇に姿を消し、後には瀕死の重傷を負った八重垣だけが残された。

 

 ──こんなところで死にたくない。

 

 ──せめて、奴だけは殺さなければ民間人に被害が出てしまう。

 

 ──生きたい。

 

 そうして息も絶え絶えに生を掴もうと足掻く八重垣の手を掴んだのが、魔力反応を察知して駆け付けたクレーリア・ベリアルだった。

 

「敵対関係にある悪魔が目の前に現れたんだ。死にかけの僕を始末するんだ、と僕は覚悟した。だから僕はクレーリアに願ったよ。せめて″はぐれ悪魔″を殺させてくれ、とね」

 

 彼にとって幸運だったのは、クレーリアが聡明な悪魔であった点だ。

 直前の魔力反応と戦闘の痕跡、そして八重垣が発した″はぐれ悪魔″というワードから彼女は事態を察し、事情を知っているだろう彼の回復を急いだ。″はぐれ悪魔″討伐を優先したのだ。

 全ては、領民の安全を守る為に。

 そして眷属と使い魔に捜索活動を行わせると同時に目覚めた八重垣から事情を聞き出し、彼女は一つの結論に至る。

 

 敵対関係にある″悪魔祓い″との協力──。

 

 呉越同舟。自分達と相手の戦力差を分析し、迅速且つ確実な討伐を思案した結果だ。無論、眷属や八重垣本人からも反対されたが、領民の安全優先を盾に黙らせた。

 

 ちなみに余談ではあるが、この判断は彼女の唯一にして最大の過ちだった。

 自分達の身に余ると判断したなら上役に応援を要請するなりディハウザーを頼れば事足り、敵対関係にある教会関係者との協力を強引に押し通す必要はなかったのだ。

 とはいえ、若さ故の視野の狭さや判断ミスは付き物であるし、領主就任直後だけに自分の力だけで解決しようと意気込むのも仕方ないことではある。

 

 それはそれとして、紆余曲折の末に手を結んだ彼らは無事に″はぐれ悪魔″討伐を果たし、戦場の吊り橋効果もあって距離を縮めた八重垣とクレーリアは愛を育み──、

 

「あー、もういいっすわ。先輩の話は」

 

 周囲に猛反対された挙げ句にこれ幸いと冥界の旧″上層部″に追手を差し向けられ殺害されてしまうのだが、知ったことじゃねぇよ、とフリードは話を断ち切った。

 

「ちったぁ面白くなんのかと思って聞いてたが、ペラペラと地の文の無駄遣いするだけでちっとも面白くねぇ。この小説、一話単位の文字数が4000ぐらいしかないんだから急がなきゃ」

「いや、普通そこで打ち切る!? せめて最後まで聞かない!? あとメタがしつこい!」

永遠の彼氏ゼロ(シーグヴァイラ)は黙ってろって。要するに二人揃って異種族婚の難しさを理解してなかったってだけの話だろ。それを棚に上げてピーチク喚いてるだけだ。だからバカップルなんだよ」

 

 人間の国際結婚を例に挙げても、互いの価値観や文化の違いに困惑する場合がある。同種族間でさえそうなのだから、種族が丸ごと違えば結婚へのハードルが更に引き上げられることは想像に難しくない筈だ。

 ましてや八重垣の属する教会とクレーリアの出身である悪魔は長年の敵対関係にある。眷属から反対されるのも当然で、その困難を乗り越えるのであれば、身分含む全てを捨てて誰も知らない地で細々と暮らしていくしか方法はない。しかも両陣営からの追手から逃れながら、だ。

 

 話を聞いただけのフリードでさえ思い付くような手段を取らずに、教会を辞めて眷属にすれば解決、と考えた時点で二人の覚悟は……中途半端だ。

 

「御託はいいからとっとと来いよ、先輩。どうせ反論できなくなったら後は暴力しかねぇんだからさ。その方が分かりやすいだろ?」

「……その話を呑もう。どうやら遠慮なく君を殺せそうだからね」

 

 ──life.107 むかし愛が死んだ町──

 

 幾度かの鍔迫り合いの末に剣もろとも弾き飛ばされたのは、迎え撃ったフリードの方だ。大型トラックに跳ねられたかのように弧を描きながら壁に吸い込まれていき、激突の直前でクルリと身を翻し、衝撃を殺しながら大きく距離を取る。

 十年の年月を経ても衰えていない剣技に感心しつつ、後方で待機していたシーグヴァイラに向けて合図を送った。直後、両手に生み出したバレーボールサイズの魔力球を放つシーグヴァイラ。

 

 魔力球が猛スピードで八重垣に襲い掛かるも、手にした剣の一閃により中心から真っ二つに切り裂かれ──さながら魔力球をすり抜けるようにしながら、今度は八重垣が斬りかかった。

 

 悪魔と戦う教会戦士に与えられる、悪魔を確実に抹殺する為の光の剣。目映い輝きで形作られた刀身が、一瞬にしてシーグヴァイラの視界を覆う。

 

「──させねぇよ、ボケが」

 

 首を狙った一撃は、同じ光の刀身によって受け止められた。

 

「なんだい、僕らのことを散々貶した割には自分もバカップルじゃないか!」

「寝てる間にオツムも眼球も腐っちまったか! こんなのと付き合うとか失礼だろうが、俺にッ!!」

「フリード、あなた死にたいの?」

「お前も脳ミソ腐ってんのか!? いいか、″赤龍帝″の側近がこんなところでよぉ……」

 

 だが、剣は同じでも使い手の力量には大きな差が横たわっている。最近はろくに鍛練もしておらず天性の戦闘センスだけで戦うフリードだが、それでも一誠から与えられた任務をこなすなど実戦までは怠けていない。

 対して八重垣は死亡してから十年もの月日が流れており、蘇生されるまで彼の魂は現世を漂い続けるだけだった。肉体を取り戻しても感覚まではそうはいかない。

 抱えたままの十年分のブランクがゆっくりと、しかし確実に美しい剣技を汚していく。

 

 そして遂に生じた、一瞬の隙。

 

「──死ぬ訳ねぇだろぉ!!」

 

 今度はフリードの方が刃を押し返し、勢いそのままに八重垣の腹に蹴りを入れる。似つかわしくない鈍い音が礼拝堂に響くと同時に床を転がされる八重垣。

 しかし、追撃には移らない。

 彼が転げ回った理由が、先の自分と同じく衝撃を殺す為であり、何らダメージを受けていないと気付いているからだ。不用意に追撃に移った瞬間、瞬時に起き上がってカウンターを仕掛ける算段だろう。

 

 事実、彼の読みは正しい。

 

 暫くの沈黙の後、見抜かれたか、と八重垣は余裕そうに立ち上がる。剣を握っていない空き手にはいつの間に取り出したのか光の弾丸を打ち出す黒い銃が握られており、フリードの隙を虎視眈々と狙っていたことは明らかである。

 

「流石は元神童だな。僕の手を悉く看破するとは」

「野郎に褒められたって嬉しくねーや。てな感じでシーグヴァイラたん誉めて誉めて~」

「キモッ」

「ア・リ・ガ・ト・ウ・ゴ・ザ・イ・ます! よーし、バカップルパワーでヤル気満々だぜ!」

「……それ、僕への煽りのつもりかい?」

 

 八重垣は青筋を立て、それを見たフリードは更に変顔混じりで反省を促すポーズを繰り出す。こうして彼らの戦いは激化の一路を辿るのだった。




①オーフィス
②フリード・セルゼン
③リゼヴィム・リヴァン・ルシファー
④由良翼紗、ゼノヴィア、イザベラ

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