はぐれ一誠の非日常   作:ミスター超合金

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オーフィス可愛い(※伏線ミスにより再投稿致しました。申し訳ございませんでした)


life.104 罪と罠

 ──そうか、人間界に姿を見せたか。

 

 シーグヴァイラからの報告を受けたディハウザーはワークチェアに座ったまま瞑目し、先ずは彼女達を取り巻く状況の整理に取り掛かった。無論、駒王町に現れたという侵入者についてだ。

 先ず、応援が駆け付けるまでの足止めを狙った木場とバフィールの″騎士″コンビは到着までの間に敗北し、仲良くアガレス領の医療機関に放り込まれた。次いで交戦を開始した″女王″アリヴィアンも接戦の末に競り負け、入院には至らなかったものの暫くの通院を余儀なくされた。

 

 結果だけ見れば、交戦したメンバーの中で軽傷で済んだのは″王″シーグヴァイラと″戦車″ゼノヴィアの二人だけ。挙げ句に侵入者の逃走を許すという有り様だが、勝敗は平家の常である。寧ろそれ程の手練れを相手に死者が出なかったのは幸いだろう。

 とはいえ、侵入者の実力が判明したところで、その目的と逃走先が不明のままでは意味がない。

 

 ──″禍の団″を名乗ったらしいが、恐らく本当の所属先は第三勢力だろう。撹乱目的か、それとも単なる捨て駒か……。

 

 どちらにせよ早急に捕縛せねばなるまい、とディハウザーは通信術式を執務机の上に展開した。

 

『……今回の一件、面目次第もございません』

 

 やがて淡く浮かび上がったベリアル家の紋章が点滅し、それに呼応して少女の申し訳なさそうな声が聞こえた。シーグヴァイラだ。

 

「構わん、相手が一枚上手だったまでのこと。どうしても気に病むと言うのなら、侵入者捕縛に貢献して今日の汚名をそそげ」

『はっ!!』

「では早速だが任務を与えよう。その前に住民の避難は進んでいるか?」

『既に″兵士″ギャスパー・ウラディ及び配下の使い魔達に命じ、およそ三割の住民は地下シェルターに避難完了しています。また駒王町一帯を覆うように非常線も展開しております』

 

 侵入者との戦いはアガレス眷属の完敗だが、シーグヴァイラとて将来を嘱望されている逸材だ。

 逃走した男を無理に深追いすることなく、即座に住民達の避難と非常線展開を独断で手配・指示して被害拡大を抑えた手腕は成る程、新領主として若年ながら異例の抜擢をされるのも頷ける。

 

 そして、そんな才女だからこそ新二大魔王が抱える不都合な真実──兵藤一誠との結託、という旧″上層部″のそれをも越えるスキャンダルに辿り着いてしまっている点も、ディハウザーは既に把握していた。

 彼女達が人間界での拠点としている駒王学園、その生徒会室に秘密裏に仕掛けた盗聴器によって。

 

「了解した。此方も部隊を編成している途中だが、どうしても到着までは時間が必要だ。君には引き続き住民の避難と、それから侵入者の捜索を合わせて行ってもらいたい」

 

 ──今は侵入者の捕縛が最優先だ。シーグヴァイラの進退はその後で考えるか。

 

 そう頷いて、ディハウザーは続け様に指示を与える。

 

「断じて無理に追う必要はない。発見したり気付いたことがあれば私に連絡するだけで構わない」

『承知しました!! 任務完遂を魔王様に誓います!』

「その意気だ。君には期待しているよ」

『はっ!!』

 

 通信が完全に切れたことを確認してから、今度は別の人物に連絡を取る。「どうした?」と術式越しに聞こえた一誠の声は心なしか疲れているように思えた。

 

「お疲れのところ申し訳ない、一誠殿。大事が起こったので直ぐに伝えるべきと思いまして……都合が悪ければ時間を改めますが」

『いや、大丈夫だ』

 

 ちなみに一誠の声が疲弊していた理由は、彼の帰りが遅かったことに対してお冠な嫁の機嫌を取っていたからである。

 床に這いつくばって外見年齢一桁の幼女の足にキスするというプレイ染みた機嫌取りに励んでいたからか、その声音に反して嬉しそうな笑みすら浮かべていることをディハウザーは知らないし、また訊ねようとも思わない。

 世の中には知らなくていいこともあるのだから。

 

 ──life.104 罪と罠──

 

「……ということで現在は住民の避難を進め、また同時に駒王町全体に厳戒態勢を敷いています」

『そうか、分かった。しかし、この短時間にそこまで手配するとは相変わらずの手並みだな』

「いえ、これはシーグヴァイラ・アガレスの功績です。彼女の判断がなければ後手に回ったでしょう」

 

 ディハウザーの言葉に、そういえば、と一誠は先週読んだ冥界の週刊紙を思い出した。人事異動の一覧の片隅に掲載されていた、幸薄そうな金髪眼鏡少女の写真。記憶が正しければ彼女の名がシーグヴァイラだった筈だ。

 

『リアス・グレモリーに代わる領主として派遣された女悪魔か。少しは使えるのか?』

 

 紅髪の前任者と比較してからかう一誠だが、少なくとも侵入者の存在を把握し、迅速に行動を開始した点でシーグヴァイラの方が優秀である。そうでなければ魔王直々に抜擢した甲斐がない。

 

「彼女は若手ながら非常に優秀ですよ。優秀過ぎて私と一誠殿の繋がりに気付いてしまう程度にはね」

『……そうか、知ったのか』

 

 自分で派遣した配下(シーグヴァイラ)に自分達の内通を気付かれたとなればこれ程に本末転倒な話もないのだが、彼としては前任者と同程度の才覚の持ち主を送りたいのが本音だった。裏で暗躍するのに都合が良いからだ。

 しかし、あの町は″駒王同盟″締結と、何より兵藤一誠の出生の地として既に政治・歴史の二点において重要地点と化してしまっている。

 

 折角の門出をアピールする為にも、相応に優秀な悪魔を任命する必要がある──。

 そう配慮しての今回の抜擢は、どうやら裏目に出てしまったようだ。

 

『その女の末路はディハウザーに任せる。煮るなり焼くなり好きにしてくれ。ただし、殺すなら確実に殺せ』

「承知しました」

『それと侵入者は可及的速やかに始末しろ。必要とあれば俺が動いても構わない』

 

 始末してよろしいのですか、という鳩が豆鉄砲を食ったような声音は、ディハウザーが思わず溢してしまった驚愕だ。捕縛して情報を得るとばかり思っていただけに、彼が即時抹殺を決めたことは意外だった。

 

 しかし、一誠とて無意味無策で決断したのではない。

 

 ″第三勢力″における侵入者の立場や権限は不明瞭だが十中八九、ただの尖兵扱いだろう。持っている情報など知れており、捕まえたところでメリットが薄い。そればかりか冥界で発生したテロのように捕縛した瞬間に自爆しかねない。

 手元に爆弾を抱えるリスクを選ぶぐらいなら、確実性を重視して始末してしまった方が安全である。

 

『現状、俺達は侵入者の目的や人数も掴めていない。そいつは適当に見繕った陽動役で、本命が別に隠れている可能性もある』

 

 陽動を用いた数々の作戦を立案・実行してきた彼だからこそ、その指摘には説得力があった。

 

『だったら陽動なんざ早期に始末して……その後の本命に……対応……』

「どうされましたか?」

『少し待て。落ち着いてくれ、オーフィス……これは浮気じゃないんだ、大事な……んむっ!?』

 

 水が厭らしく滴る音が耳に入った瞬間、「お邪魔虫は退散しましょう」と通信を切った。世の中には知らなくていいことも知りたくないこともあるのだ。

 

「シーグヴァイラに告ぐ。侵入者の捕縛は考えなくていい。抹殺を最優先に行動しろ。また討伐部隊との合流後は補佐に徹し、我々とも連携しながら──」

 

 テキパキと配下に指示を出す魔王の目は、心なしか疲れている気がした。

 

 とはいえ、まさか一誠が嫁に授乳プレイを強いられている真っ最中だったとは、ディハウザーの目をもってしても見抜けなかった。




 ──八重垣……君の目的は恐らく……。

 ドラゴン夫婦のイチャコラにゲンナリしつつ、あの時に彼女達を助けられていれば、と魔王は遠い景色に想いを馳せる。

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