はぐれ一誠の非日常   作:ミスター超合金

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オーフィス可愛い(彼女がこれほどとは!! 読めなかった、このリハクの目をもってしても!!)


life.103 亡者のイージス

「報告は以上だ……です、シーグヴァイラ様」

「ふむ、下がってよろしい」

 

 兵藤一誠の出現を受けて、シーグヴァイラ率いる新生徒会では直ちに緊急対策会議が行われた。その第一の議題は当然ながら人間界に姿を見せた″赤龍帝″についてである。

 

 直に会話を交わしたゼノヴィア達からの報告を下地に、シーグヴァイラは顎の下で手を組ながら黙々と脳を稼働させ、幾つかの要点をピックアップする作業と、その真偽を掴み取る作業を繰り返す。テロリストの言葉をそのまま鵜呑みにする訳にはいかないからだ。

 とはいえ、それはある種の徒労に終わった。

 

「正直者というか、それとも馬鹿なのか……まさか一から百まで本当のことを話してるなんて思わないじゃない」

「実際に会ったことがありません故、私には判断しかねますな。しかし、奴が冥界だけでなく三大勢力を脅かす切れ者である点をお忘れなきよう」

「分かってるわ。油断するつもりはない。忠告ありがとうね、アリヴィアン」

 

 眼鏡を外し、軽く目頭を抑えるシーグヴァイラ。その顔には少なくない疲労の色が見えていた。推察を重ねた果てに、一誠に騙す意図はなく本当に洗濯中の暇潰し目的だったと悟れば、骨折り損に愚痴の一つも言いたくなる。

 緊急事態だから、と今夜の仕事をキャンセルせざるを得なくなった顧客にどう説明したものだろう。そうでなくとも上役に今回の一件を報告するという面倒事が増えたというのに。

 

 彼女は思わず深い溜め息を吐いたが、今回の邂逅は決して無意味ではなく、寧ろ貴重な情報のオンパレードであることもまた事実だ。

 

 即ち、一誠はあたかも″禍の団″を手中に収めたような発言をしておきながら実際には自身の派閥のみで活動しており、グレンデルや″幽世の聖杯″所有者の属する派閥とは敵対関係にある──。

 

「これが判明しただけでも冥界にとって大きな前進よ。今回は大手柄ね、ゼノヴィア」

「恐縮です。しかし、気になるのは……」

「彼の抗争相手、ね」

 

 単なる内部抗争か、それとも別組織との諍いか。

 降って湧いてきた別の厄介事の気配に軽い頭痛を覚えながらも、的確な指摘と判断を見せる新たな″戦車″の姿に、シーグヴァイラは満足そうに頷いた。

 

 元教会戦士にして現役の聖剣使い、何よりもリアス・グレモリーの元眷属という異色にして黒歴史に等しい経歴を持つゼノヴィアの移籍打診について当初、シーグヴァイラ及び眷属達は難色を示した。冥界中からバッシングを受けている主君に仕えていたのだから、眷属も同類ではないかと考えても当然である。それは彼女だけでなく他の三名も同様だった。

 実際、″神の子を見張る者″壊滅──バラキエル戦死の報を聞いてから姫島朱乃は部屋に引きこもるようになってしまったし、ギャスパー・ヴラディは引きこもりこそ叩き直したものの、まだまだ他者とのコミュニケーション能力に難がある。

 半分がこの有り様なのだから残る半分も、と警戒しても不思議ではない。

 

 それが蓋を開ければ、ゼノヴィアは今や新生シーグヴァイラ・アガレス眷属の要になるまでに著しい成長を遂げている。

 

「もしかすれば、先日の宣言で奴は各派閥からの反感を買ったのではないでしょうか? 元々、″禍の団″は有象無象が集まった組織です。それを切っ掛けに内部分裂に至ってもおかしくはありません」

「……ふむ、一理あるわね」

「そこから内部抗争が勃発したのか、生じた隙を敵対組織に突かれたのかは分かりませんが、可能性としてはあり得るかと」

 

 無論、成長の裏にはシーグヴァイラの涙ぐましいまでの教育が欠かせなかった。何せ移籍直後の彼女は戦場でデュランダルを振り回すだけが取り柄の脳筋(おバカ)でしかなかったのだから。

 パワーだけの馬鹿など危なっかしいだけであるし、そもそも人間界に派遣された悪魔の仕事とは何も″はぐれ悪魔″討伐などの戦闘に限ったことではない。例えば街の住人達を相手に契約を交わし、代償をせしめてくるのも自身の評価に繋がる重要な仕事だ。

 

 ところが、ゼノヴィアはその基本的なルールすらも知らなかった。単純に侵入者を撃退するのが仕事だと勘違いしていたのだ。

 

 尤も、この点に関しては一概に彼女ばかりを責められない。眷属の教育は″王″の務めであり、ゼノヴィアの無知は元″王″であるリアスの怠慢に原因と責任がある。

 かくして、脳筋少女の矯正を決意したシーグヴァイラは古代ギリシャのスパルタも裸足で逃げ出すような再教育を彼女に施し、本人の努力もあってゼノヴィアは見事に一同の新たな戦力に上り詰めたのであった。

 

 尚、もう一人の常識人枠である木場と同僚のバフィール・フールカスの″騎士″コンビは、今夜も仲良く二人で街の警備に出かけていく程度にはラブコメな雰囲気にあるらしい。

 ″女王″アリヴィアンとの雑談の中で眷属に先を越されたことを知ったシーグヴァイラは、リア充爆発しろ、と持っていたペンを握り潰したとか潰していないとか。

 

 ──life.103 亡者のイージス──

 

 駒王学園への転入という彼氏作りの絶好の機会を脳筋の再教育漬けでオシャカにされ、それが終わった頃にはすっかり高嶺の花のイメージができあがり、異性が近付くどころか話し掛けられることすらもなくなった金髪眼鏡少女の悲しい話はさておき。

 

「ま、兵藤一誠が勝手に自滅してくれるなら放っておくに越したことはないけど……この一件、上役にどう報告するべきかしらね」

「どう、とは?」

「本当に上役を──新たな魔王様達を信用して良いのか、という話よ」

 

 青春殺しの張本人からの質問に対して、シーグヴァイラは内心で抱いていた疑惑を口にした。

 疑惑の発端は、先日発表された前″上層部″の射殺事件及び一族郎党の処刑である。

 内通容疑で逮捕された彼らは逃走を図ったとしてやむを得ず全員が射殺され、後者は後々の禍根を経つ為に幼子に至るまで死刑判決を受け、形だけの裁判の終了から僅か一時間後には一人残らず刑が執行された。

 

 一族郎党の処刑にはまだ納得できる。

 僻地への追放処分のみに留まった初代魔王の血族が後々に″旧魔王派″としてテロリスト組織に合流した前例を考慮すれば、苛烈ではあるものの妥当な判断と言える。

 

 では、″赤龍帝″との内通容疑で逮捕されていた前者までも皆殺しにした理由は?

 

「まさか一つの檻に纏めて放り込んでいた訳ではないでしょう。寧ろ、そういった事態を防ぐ為に連中を別々の牢獄に収監していた筈よ。ならば、示し合わせたかのように全員が同じタイミングで逃走を図ることの方が難しいわ」

「つまり、早急に口封じを行わなければならない理由が新政権に……ディハウザー様達には存在した、と?」

 

 恐る恐るといった様子でゼノヴィアが訊ねると、「嘘とは知られたくない真実の反対よ」とシーグヴァイラは頷いた。

 

 それは逆説的に、

 

「魔王様達こそが兵藤一誠の真なる内通者──私はそう考えているわ」

 

 自分達のトップが既にテロリストと手を結んでいるかもしれない、という指摘に絶句するゼノヴィア。

 

 だが、改めて考えてみれば辻褄は合う。

 

 真っ先に思い当たるのは、旧″上層部″に内通の冤罪を押し付けられるだけの権力者は自ずと限られてくる点である。

 曲がりなりにも魑魅魍魎が巣食う政府内部の権力争いを生き残ってきた連中だ。相応に保身能力にも長けているだろうし、捕縛されたとてその権勢や地位をフル活用すればそれなりに抗うことは可能だった筈なのだ。

 そうでなくとも、そもそも″上層部″が本当に一誠と内通していたとすれば、何らかの司法取引を持ちかければ喜んで飛び付いてペラペラと情報を喋っただろう。奴らは己の立場には敏感な生き物なのだから。

 

 そして二つ目は、各派閥と袂を分かったであろう一誠達の資金源が謎に包まれている点だ。

 今までは実働担当と裏方担当で派閥毎に役割を分担することで活動資金をあつめていたのかもしれないが、内部分裂した今となってはそれらを全て一誠達のチームだけで行う必要が生じる。これまで実働を専門に担ってきた彼らにそのようなノウハウがあるとは思えない。

 

 オーフィスは兎も角、一誠は神仏の領域に至っただけの一個の生物に過ぎない。食事が不可欠であり、日用品や消耗品などの日々の細かな支出も発生するだろう。

 彼がこれまで通りに活動していくには、新たな資金源の確保が絶対条件だ。

 

「けれど、その疑問もディハウザー様やロイガン様、もしくは新政権全体で秘密裏に援助していると考えれば納得できる。お二方が討伐を宣言したのも、内通を悟らせない為のフェイクでしょうね」

「そんな……」

「だから悩んでいるのよ。仮に馬鹿正直に報告しようものなら、私達は明日には殺されてるかもね。クレーリア・ベリアルの例もあるし」

「誰ですか、その方は?」

「リアス・グレモリーの前に街を管理していた悪魔よ。噂では″上層部″のスキャンダルを知ってしまった為に眷属もろとも暗殺されてしまったとか」

 

 ──ああ、だからディハウザー様は連中を始末したのね。復讐も兼ねて。

 

 知りたくなかった新魔王の裏側を悟ってしまい、改めて深い溜め息を吐き出すシーグヴァイラ。これでは本当にクレーリアの後を追うことになってしまいそうだ。

 

 今後の進退について頭を悩ませていると、通信術式の対応にしばらく席を外していたアリヴィアンが血相を変えて部屋に飛び込んできた。

 

「シーグヴァイラ様、一大事です! 巡回中のバフィールより緊急連絡!」

 

 停止していた悪意が、

 

「──街への侵入者です!!」

 

 再び動き始める。




「ふむ、魔力から察するに君は元人間だね? それに修正されているけど、その特有の剣の構えは……成る程、元教会戦士といったところか。そして隣の彼女さんは生粋の上級悪魔、だよね?」
「それに気付くということは、貴方も教会に縁があったのか」
「君にとっては先輩になるかな。離脱したのは十年も前の話だからね」
「十年、ですって? 妙ね、それにしては外見があまりにも若い」
「それは当然のことだよ、上級悪魔の彼女さん。何故なら僕は十年前に殺されたからね」
「……まさかッ!?」
「ふふ、恐らく君の答えは正解だと思うよ。おっと、自己紹介が遅れたね。僕は八重垣正臣、元教会戦士で復活した今は″禍の団″の構成員をやらせてもらっている。お手柔らかに頼むよ」
「目的は何だ! どうしてこの街に現れた!!」
「……君ら二人にわざわざ教えてやる義理があるかい?」

 再び動き始めた悪意は、もう止まらない。

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