はぐれ一誠の非日常   作:ミスター超合金

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オーフィス可愛い(完結まで残り……)


life.101 限りなく災害に近い再会

 念願の一つを果たしたまではいいものの、一誠は衣服の惨状を省みて顔をしかめた。準備する間もなく半ば強制的に″はぐれ悪魔″に堕ちた為に、彼の私物はスーツケース一つあればすっぽり収まってしまう程に少なく、衣装も逃走時に着ていた駒王学園の制服含む数着だけだ。

 無論、ヴァーリに頼んで下着類は定期的に調達してきたし、「制服では目立つから」と曹操から加入当初に衣服を渡されたこともある。それはそれとして、駒王学園の制服には特別な愛着を感じていた。

 

「こんなとき、ソフィアがいれば魔法で一瞬なんだけどなぁ」

 

 本部に帰還こそしたものの、血濡れのままで自室に戻るのは流石に躊躇う。されど魔法使いソフィアとも袂を分かち、残ったメンバーに魔法で服を洗濯するなどという芸当ができない以上、一誠には手の打ちようがなかった。

 

「やむを得ん」

 

 暫しの思案の末に、彼は人間界のコインランドリーを思い出した。駒王町の片隅に寂れた無人ランドリーがポツンと立っているらしいことを噂で聞いたことがある。主に怪談の舞台としてだが。

 旧式の洗濯機で返り血が綺麗に取れるのかは甚だ疑わしいが、このまま放置するよりかはマシだろう。

 

「おい、フリード。少し留守番しててくれ」

 

 シャワーを浴びて私服に着替え、脱いだ服を適当なビニール袋に詰め込んでから、一誠はフリードを呼び止めて言った。

 

「もしかして次の襲撃ですかい?」

「夜の人間界を散歩だ。制服を洗濯しに行く。金なら残ってるしな」

「あー、それね」

 

 濃紺色のズボンと白の半袖Yシャツ、ズボンと同色のブレザーに、パーソナルカラーの赤いTシャツ。

 悪い意味で冥界の認知度が極めて高い袋の中身を一瞥して、フリードは興味無さそうにヒラヒラと手を振り、彼の背中を見送る。

 Yシャツの返り血なんざ絶対に落ちないだろ、と言いかけたのは秘密だ。誰にだって愛着というものがあるし、フリードとて悪魔祓いの制服を未だに着込んでいるのだから。

 

「……しっかし、駒王学園か。紅髪のお姫様や愉快なお仲間達は今頃どーしてんのかねぇ」

 

 ふと見慣れた制服と同じものを着ていた連中のことを思い出し、フリードは顎に手をやった。

 以前に読んだ冥界のゴシップ記事が正しければ、リアスの立場は極めて不味いものになっている。

 

 リアス・グレモリー。兵藤一誠の元主君であり、彼の復讐対象の一人である。

 そして今の冥界で彼女の名前を知らない者はいない。勿論、悪い意味合いだが。

 

 かつて才女として将来を渇望されていたリアスの転落劇。その発端は、一誠が逃走の末に″SSS級はぐれ悪魔″として活動を開始したことにあった。襲撃を掲げて襲撃が繰り返される度に、元″王″として責任を追及された。

 リアス自身は、彼が″はぐれ悪魔″に堕ちた直接的な原因ではない。さりとて原因の張本人である上層部がリアスに責任を押し付け、メディアを通じて大々的にそう喧伝したが為に、世間の非難の矛先は彼女に向けられた。

 四六時中、猫杓子野次馬からの誹謗中傷の波に晒され続けるのだ。精神的な苦痛は筆舌にし難いものだっただろう。勿論、そう仕組んだのは一誠だ。

 

 そうして追い詰められたリアスにトドメを差したのが、一誠が実行した超長距離砲撃事件及びそれに伴う内通疑惑である。

 

 それは彼女の進退だけでなく、グレモリー家そのものの崩壊を招く最悪の一手だった。

 

 

 一誠の不在時、オーフィスの護衛はフリードとレイヴェルが交代で引き受ける手筈となっている。そして今回はレイヴェルが世話役を担っている為、彼は自由時間を満喫していた。

 

「っと、あったあった。これだ、これ」

 

 自室の床に無造作に転がっていた冥界の週刊誌を手に取り、ペラペラと捲る。三流に近い出版社ではあるが、貴重な情報源だから、と暇潰しも兼ねてフリードはこの雑誌を愛読している。

 手に取った先週号の表紙には大きく″赤龍帝″の見出しが踊っており、またこれまでの彼の襲撃事件や経緯を纏めた特集が十数ページにも渡って掲載されていた。

 

「えーと、今回の襲撃を受けて、グレモリー家には多額の損害賠償の支払いが命じられ……うえぇ、マジで恐ろしい金額だなぁ」

 

 アリーナの補修費用、被害者や遺族への見舞金、行われていた″レーティング・ゲーム″の試合中止に対する違約金、その他諸々──。

 様々な要因が積み重なった結果、小国の国家予算に匹敵する額の損害賠償を請求されたグレモリー家の財政は一気に火の車となり、広大な領土を切り売りし、使用人達に暇を出し、豪勢な調度品の数々や城と見間違うような規模の屋敷を手放したらしい。そこまでしてようやっと賠償の目処が立つのだから、その被害額が窺えるというものだ。

 

 かくして困窮に陥ったグレモリー家は現在進行形で没落への道を辿っている訳だが、当然ながらリアス自身にも厳しい処罰が与えられたようだ。具体的には、

 

 ──冥界への強制帰還。

 

 ──姫島朱乃、木場祐斗、ギャスパー・ウラディ、ゼノヴィア。

 以上、四名の眷属の他悪魔への移籍。

 

 ──それに伴う″レーティング・ゲーム″への参加資格の無期限剥奪。

 

 特に後者は実績を重んじる悪魔社会では致命的だ。実績を積んで汚名返上を狙おうとしても、そもそも実力をアピールする機会が与えられないのだから。かといって処刑される訳でもなく、生かさず殺さずの飼い殺し状態に近い。

 

「上層部も旦那もやることがえげつねぇ……マジで旦那は敵に回したくねぇな。まあ、出会って五秒で殺し合いした仲だけど」

 

 フリードは思わず身震いした。もしボタンを一つでも掛け間違っていれば、今頃は想像したくもない方法で殺されていたかもしれない。形はどうあれ、駒王町で予め面識を作っておけたのは幸運だ。

 

 ──そういや、あの町の現領主って誰なんだ?

 

 リアスが強制帰還となり、もう一人の領主であるソーナが連合戦争以降に眷属もろとも消息を経っている今、駒王町を治める者は不在である。だが、三大勢力による駒王同盟を締結した地をむざむざ空白にする筈もない。

 どうせ後任が送られているだろう、とページを捲っていく中で、駒王町に派遣されたという悪魔の名前と顔写真を見付けた。

 

 眼鏡をかけた理知的な少女の名は、シーグヴァイラ・アガレスという。

 

 そして、リアスの元眷属達の移籍先でもある。

 

「……マジかよ」

 

 上司の散歩先を思い出して、フリードの額を冷たい汗が流れた。

 

 

「洗濯完了まで一時間か。いいや、わざわざ本部に戻るのも面倒だ」

 

 部下が滝汗を流していることなど露知らず、コインランドリーの店内で一誠は寛いでいた。

 ランドリーは確かに外装こそボロっちいが料金設定は割安で、エアコンも稼働していれば店の前に自販機も設置されている。そして置いてある椅子と雑誌を目にして、たまにはのんびりしようと彼は即決した。

 

 しかし、世界を騒がせる″赤龍帝″の行くところに平穏などある筈がない。

 

「これで見回りは最後だよ、ゼノヴィアさん」

「最近は″はぐれ悪魔″も増加傾向だからな。油断せずに気を引き締めて……おや、珍しいな。先客が──」

「あっ」

「あっ」

 

 ものの見事に、一誠は元同僚と再会したのだった。

 

 ──life.101 限りなく災害に近い再会──

 


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