life.1 オーフィス①
今代の赤龍帝、兵藤一誠は″
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彼は元を辿れば魔王サーゼクス・ルシファーの実妹、グレモリー家次期当主であるリアス・グレモリーの眷属だった。
極めれば神をも倒せるという神器。十三しか存在しない
一誠にとっては正しく恩人であり、その恩に報いる為には命も差し出そうと密かに決意する程だった。
温厚な大和撫子、姫島朱乃。
皆の妹分的存在である塔城小猫。
金髪イケメンの木場祐斗。
教会を追放されてしまった優しきシスター、アーシア・アルジェント。
そして恩人であり想い人でもあるリアス・グレモリー。
リアスが立ち上げたオカルト研究部の部室で彼等は笑い合っていた。一誠がスケベな発言をして、小猫が殴り、他のメンバーは微笑ましく眺めている。
平和な一時であり何よりも大切な時間であったが、それも長くは続かなかった。
リアスの婚約者であるライザー・フェニックスが突如部室に現れたのだ。
目的は婚約者であるリアスと共に結婚式場を下見する事であり、その為にリアスを誘いに来た。
しかしリアスは「自由な恋愛がしたい」と婚約を拒否。
その場に居合わせたグレイフィアに、下僕同士を戦わせる遊び、レーティングゲームの勝敗による決着を提案され両名共に承諾した。
リアスとライザーによる婚約破談を賭けたゲームが行われたが結果はリアスの敗北。
魔王サーゼクスは一誠とライザーの一騎討ちによる婚約破談を目論んだが一誠の敗北により失敗してしまい婚約は成立してしまった。
晴れてリアスと一緒になったライザーだが、彼は一誠を恐れた。
一騎討ちはギリギリで勝利出来たが、それは一誠がまだ神器に目覚めてから日が浅かったからだ。一誠が力をつけた場合のことは考えたくもなかった。そこでライザーは一計を案じた。
一誠をはぐれ悪魔に仕立てようとしたのだ。
名門貴族であるフェニックス家は、一部の上層部と面識がある。そのコネを利用して、ライザーは上層部に一誠の殺害を訴えた。そして上層部もまた敗北した一誠に価値無しと判断した。
加えて彼はサーゼクスの手元にある。魔王派と対立する上層部にしてみれば何時自分達に牙を剥くのか、恐怖の対象でしかなかった。あっさりと老人達もライザーに賛同した。
兵藤一誠を殺害し、『赤龍帝の籠手』を抜き取る。害悪でしかない計画が産み出された。
上層部は魔王サーゼクスに一誠の殺害を提案した。許可をするのならばリアスに再度チャンスを与えるようフェニックス家に申し出る、と脅しをかけたのだ。
上層部は力のある貴族達で構成されており、その影響力は魔王と互角とも言われる。そんな者達の訴えを無下にする事など出来なかった。
もしもそこで一誠を取れば貴族達が反発するのは必定。そのどれもが純血至上主義を掲げるが故に、敵対してしまえば厄介な事になってしまう。
そして婚約破棄の可能性という飴を見せられたサーゼクスは、悩んだ末に力無き赤龍帝よりも貴族達に重きを置いた。リアスの為という大義名分の下に、兵藤一誠を見捨ててしまったのだ。
サーゼクスが頷くやいなや、上層部の老人達は一誠に腕利きの上級悪魔達を向かわせた。表向きは捕縛であるが、実際は殺害である。一誠は傷付きながらも何とか逃げおおせたが、結果、SSS級はぐれ悪魔というレッテルを貼られてしまった。
そして血塗れで倒れていたところに彼女が現れたのだ。
──life.1 オーフィス①──
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前線基地と銘打っているだけあって基地として機能するのに必要不可欠な指令室・倉庫・兵舎等が揃っており、見つかりにくい場所にあるという事もあって中々に重宝されている。
その一室である会議室に、″
その中でもずば抜けて他よりも抜きん出ている二人。
白龍皇と英雄の青年達は、その人物をただ注意深く見つめていた。
組織の長として玉座に座るオーフィス。その隣には茶髪の青年が立っている。
見覚えがある顔だが、それもその筈。冥界のみならず各陣営で噂になっているはぐれの赤龍帝。数少ないSSS級はぐれ悪魔という最高ランクのお尋ね者なのだから。
それが何用あって此処に来たのか。やはりオーフィスが勧誘したのだろうか。それを見極めるまでは不用意に動けない。
強者が先の先まで読んでいる中で、愚かな旧魔王の一人が叫んだ。
「おい、オーフィス。何故、そいつがいるんだ?」
それに対してのオーフィスの返答は、いつも通り抑揚の無い淡々とした声であった。視線こそ一誠に向けているが、それでいて全体を悠然と眺めていた。
「……我、赤龍帝を勧誘した。赤龍帝は了承した。だから連れてきた」
質問をした男のみならず全員が驚きに染まる中、一誠は遠い目をしていた。その視線の先には何も無いのか。
否、楽しかった仲間達との思い出が浮かんでいる。もうあの頃には戻れない。
「復讐をしてやる。俺を捨てた奴等全員に、腐りきった冥界の悪魔共に────」
戻るつもりなどない。
「──絶対に復讐してやる」
その呟きは微かにだがしっかりと強者達に聞こえた。無限は何も言わず、白龍皇と英雄は愉快そうに笑みを深めた。
果たして彼はどのような道を歩むのか。それはまだ誰にも解らないのである。