オーバーロード ~もう一人の支配者~   作:大正浪漫

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お気に入り500突破!&多数のオリキャラのご投稿本当にありがとうございますm><m

今回でようやく主要メンバーは登場できたと思います。これで少しは楽になるといいな……。


闘技場ー2

 「――――アウラ、シャルテイア。2人とも、至高の御二方の前で遊びが過ぎるわ」

 「全クダ」

 「そうだね。その辺りにしておきたまえ」

 

 懐かしい感覚から両者を見守っていたモモンガとクレナイであったが、それに割り込むように複数の声が聞こえてきた。内心、突然の声に驚きつつもその声が聞こえてきた方向へ顔を向けるとそこには――――1人の美しい女性を先頭に、その後に続くように2つの存在が佇んでいた。

 

 慈悲深き純白の悪魔、アルベド。

 凍河の支配者、コキュートス。

 炎獄の造物主、デミウルゴス。

 

 シャルティアと同等の力を持つ、残りの階層守護者たちである。それが分かると同時に、3人に意識を集中させる。

 先頭に立つは、階層守護者のまとめ役である守護者統括、アルベド。

 山羊を思わせる太い角に、腰の辺りまである艶やかな黒髪、そして金色に輝く虹彩の瞳を持つ絶世の美女悪魔。身にまっとている純白のドレスの腰辺りからは黒い天使の翼が広がっており、肩から胸元には黄金に輝く蜘蛛の巣のようなネックレスを身に着けていた。

 ちなみにその役職から、ここナザリック地下大墳墓全NPCの頂点に位置している。

 

 その少し後方で手にしたハルバートの刀身を地面につけ、ピキピキとゆっくりと地面を凍り付かせている第5階層守護者、コキュートス。

 まるで蟷螂(かまきり)(あり)が歪んで融合したような姿を持つ蟲王〈ヴァ-ミンロード〉。ダイヤモンドダストのように煌めく、鎧を思わせるライトブルーの外骨格に2,5メートルはある巨体。その身長の倍はあろうたくましい尾や全身からは、氷柱のようなスパイクが無数に飛び出していた。

 また武器の使い手という区分では、NPC第1位の攻撃能力を持つ武人でもある。

 

 同じく付き従うように後方で浅黒い炎を撒き散らしながら佇んでいる1人の男。第7階層守護者、デミウルゴス。

 東洋系の顔立ちに、日に焼けたような色の肌、漆黒の髪はオールバックに固め、丸メガネをしている。身長はクレナイと同じ1,8メートルほどで、着ているものは三つ揃えのネクタイまでしっかりと絞めていた。やり手のビジネスマン、弁護士などの職に就いていそうな切れ者という雰囲気があるが、その後ろからは銀のプレートで包んだ先端には6本の棘がある尻尾が伸びており、決して隠しきれない邪悪さがある。

 防衛時におけるNPCの指揮官もこなす最上位悪魔〈アーチデヴィル〉。それこそがこの男の正体であった。

 

 「けれど! この小娘がクレナイ様の前でわたしに恥を――――」

 「真実だし――――」

 「あわ、あわわわ……」

 

 しかし、そんな残りの守護者3人の忠告もアウラとシャルティアには効果を成していなかった。その証拠に今だ2人はすさまじい眼光を放ちながら睨み合っており、近くにいるマーレはもう一杯一杯の様子だ。

 

 「ふむ。だが、このままでよいと本当に思っているのかい?」

 

 熱くなっている2人に冷静な口調のまま歩み寄っていくデミウルゴス。そして、2人の耳元で言葉の続きを小さく口にする。

 

 (このままキミたち2人の言い争いが終わらない場合、この場に我々守護者をお呼びになった至高の御二方のご意向に背くことになってしまう。……最悪、失望されてしまうかもしれない。アウラ、シャルティア、キミたちはそれに耐えられるのかい?)

 「「――――っ!? し、失礼致しました!」」

 

 その内容は2人に絶大な効果を発揮する。瞬時に争いをやめ、つい先程もあったようにモモンガとクレナイに向け深々と頭を垂れる程に。

 

 「よい。アルベドよ、伝達ご苦労であった。コキュートス、デミウルゴスも良く来た」

 「同じく。3人とも息災そうでなによりだ」

 「あぁ……恐縮であります、モモンガ様。クレナイ様もご健勝そうでなによりでございます」

 「オ呼ビトアラバ即座ニ、御二方。ソノ言葉一ツデ報ワレマス」

 「お待たせして申し訳ありません。それにアウラとシャルティアの児戯に対し寛大なご配慮、感謝申し上げます」

 

 モモンガに続き、クレナイは鷹揚(おうよう)に謝罪と3人の挨拶を受け入れる。

 この様子なら想定していた最悪の事態はなさそうだ。一部、聞き取れなかった会話があったが残りの守護者たちが自分たちに向けてくる敬意から、最悪の予想が外れていてくれたことを確信し内心では深く安堵していた。

 

 「……では皆、至高の御二方に忠誠の儀を」

 

 そんな安堵に包まれている中、状況が変化する。アルベドの一声により守護者各員が一斉に頷き、素早く隊列を整えだす。アルベドを前に立て、少し下がった辺りで守護者各員が一列になって並び、跪くと胸元に片手を当て、深く頭を下げる。見事なまでの臣下の礼であり、その表情は先程とは打って変わって硬く畏まっており、真剣さがビシビシと伝わってくる。

 

 「第1、第2、第3階層守護者、シャルティア・ブラッドフォールン。御身の前に」

 「第5階層守護者、コキュートス。御身ノ前ニ」

 「第6階層守護者、アウラ・ベラ・フィオーラ。御身の前に」

 「お、同じく、第6階層守護者、マーレ・ベロ・フィオーレ。お、御身の前に」

 「第7階層守護者、デミウルゴス。御身の前に」

 「守護者統括、アルベド。御身の前に」

 

 シャルティアから始まり、次々と同じように臣下の礼と名乗りを上げていく守護者各員。その最後、守護者統括であるアルベドはそこで終わらずに通る声で最後の報告を行う。

 

 「第4階層守護者、ガルガンチュア及び第8階層守護者、ヴィクティムを除き、各階層守護者、御身の前に平伏し奉る。……ご命令を至高なる御身よ。我らの忠義すべてを御身に捧げます」

 

 下がった6つの頭を前に、クレナイはごくりと息を呑む。漂う緊張感――――いや、ピリピリとした空気を感じているのはクレナイだけではないようだ。

 ギルドマスターとして、このナザリックを統べる者として率先して守護者各員に指示を出さなければならないモモンガも同じようであった。よほどの混乱からかスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンによって強化された特殊技術(スキル)、絶望のオーラを発動させる程に。その効果は本来、同格の100レベル周囲には効果をなさないはずが、強化されたことにより周囲に押し付けるような重圧を放っていた。

 

 「――――しかしながらモモンガ様およびクレナイ様よりご下命いただければ、私たち階層守護者各員、いかなる難行といえども全身全霊を以って遂行いたします。創造主たる至高の42人の御方々に――――アインズ・ウール・ゴウンに恥じない働きを誓います」

 「「「「「誓います!」」」」」

 

 ――――だが、その気持ち痛いほど分かった。

 モモンガとのやりとりが続き、アルベドの声にあわせて力強く唱和する階層守護者全員の姿にクレナイは歓喜する。声が出てしまわぬよう必死に堪えながら。

 

 過去の遺物なんかじゃない……

 皆がここにいる……

 皆の想いの結晶は……

 今もなお(****)ここにある(*****)

 

 最悪の可能性も考えていたクレナイが馬鹿らしくなるほどに、強固な忠誠心。光り輝いていたあの頃がまるで戻ってきたような感覚。

 苦労して皆が作った思いの結晶、アインズ・ウール・ゴウンのNPCの素晴らしさを知ってクレナイは感動に打ち震える。

 それこそ自身の内側から、脈動する力が溢れ出してくるかのように。

 

 『ちょっ、クレナイさん! 出てます! 出てますって! 私も人のこといえませんが、さすがに今それはシャレにならないです! 予兆が、クレナイさん奥の手の予兆が出始めてますって!』

 『――――え? あっ!?』

 

 実際に溢れ出していた。モモンガからの《メッセージ/伝言》による指摘でクレナイはその事実にようやく気付く。あまりの感動により、自身でも気づかないうちに奥の手を発動しかけていたようだ。内側から湧き上るように力が込み上げてくる。それと比例するように周囲に力の波動が次第に増え始めていた。

 

 『ま、まずっ! すいませんモモンガさん! 自分、制御に全力を尽くしますのでしばらくの間この場をお願いします!』

 『わ、分かりました!』

 

 短いやりとりを終え、クレナイはすぐさま自身へと意識を集中させる。自身の真の姿、種族本来の力を開放する奥の手の発動を止めるために。理由はいくつかあった。

 一つは、ここに来る前の自身の能力確認で試していないため。

 そしてもう一つは、ユグドラシルの知識からだ。特にこれが重大である。ユグドラシル時代、クレナイは変則型の前衛であり、そのスタイルを最大限に活かすための職業(クラス)特殊技術(スキル)取りを心掛けていた。

 結果――――完成したのが、かなりピーキーな扱いを必要とするクレナイというキャラである。が、特殊な育成論には当然のごとく弊害が発生する。

 狂鬼乱舞――――HP50%以上で真の姿の場合、常時敵味方関係なく攻撃を仕掛ける暴走状態という危険極まりない常時発動型特殊技術(パッシブスキル)。これこそが今も必死に発動を止めようとする最大の理由。今まで試してきた特殊技術(スキル)や設定などユグドラシルのままであった。つまり、狂鬼乱舞の効果もそのままである確率が極めて高いのである。

 この事実が今現在、HP満タン状態のクレナイを動かすには十分過ぎた。ギルドマスターや守護者各員が集結しているこの場で自ら敵対するような行動は、なんとしても未然に防がねば大変なことになりかえない。

 

 導き出された答えから全神経を注ぎ必死に奥の手の発動を抑え込み続けるクレナイ。そんな中、状況は進行していく。

 モモンガによるこの異常事態についての確認作業。

 先の《メッセージ/伝言》で聞いていた周囲の地表調査に出ていた執事(バトラー)であるセバスの帰還および結果の報告。

 それに基づいたこれからの行動方針ならびに対応策についてなど。

 

 途切れ途切れであるが、本来の姿に戻ろうとするかなりの強制力の中で頭に入ってきた今現在ナザリック地下大墳墓がある場所が沼地ではなく、見事な夜空が広がっている草原へと転移していたことなどに内心、戸惑いを隠せないクレナイ。

 

 「至高の方々の最高責任者であり、私どもの最高の主人であります。加えて、私の愛しいお方です」

 

 そんなクレナイがようやく奥の手を完全に抑え込むことに無事成功し、一息つけた頃には各階層守護者たちがモモンガについての人物像を語っていた。

 ……すごい。さすがモモンガさん。守護者たちやセバス、NPCからの評価がやばい。

 迷いなく答える守護者たちの答えに、思わず感心してしまうクレナイであったが次の瞬間、予想外の事態に見舞われる――――。

 

 「――――そして、その愛しのモモンガ様を長年に渡り支え続けてくださっている慈愛の君、クレナイ様。あなた様も同じく私どもの最高の主人であらせます」

 

 ……え? いったいなにを?

 終わりかと思っていたアルベドが続けて口にしたその言葉に困惑するクレナイ。しかし、この予想外の事態はさらに進んでいく。

 

 「……なるほど。セバスはどうだ?」

 「慈悲深き方にして、私の創造主たっち・みー様と栄誉あるワールドチャンピオンの座を競い合った方。そして強き己が信念を持つ方です」

 「――――デミウルゴス」

 「類真似なる戦闘センスと、それを支える柔軟な思考を有されるお方。まさに天下無双、という言葉が相応しきお方です」

 「――――マーレ」

 「と、とても頼もしい方だと思います」

 「――――アウラ」

 「慈悲深く、寛大な御心を持たれるお方です」

 「――――コキュートス」

 「我ラ守護者各員ヨリモ強者デアリナガラ、決シテ歩ミ続ケルコトヲ忘レナイ。マサニ同ジ武人トシテ目標トスル御方デス」

 「最後に、シャルティア」

 「力の化身。まさに、すべての鬼の頂点に立たれるお方。それだけでなく慈愛に満ち溢れた、わたしの愛しきお方でもあります」

 

 負けないくらい高い評価。あまりにも予想外すぎた。

 

 『モモンガさん、無理! 無理です! 奥の手を抑えた直後にこれはヤバいです! きゅ、休憩を! い、一旦お開きにしましょう! ねっ!?』

 『そ、そうですね! さすがに私も、もう限界です!』

 

 一瞬で意思疎通が完了する。

 

 「各員の考えは十分に理解した。これならば私やクレナイさんも安心して、仲間たちが担当していた執務の一部まで任せることができる。今後とも忠義に励め」

 「その忠義、嬉しく思う。とりあえず対応策などの自分の意見はまた後日にさせてもらおう。では、これからもよろしく頼む」

 

 再び大きく頭を下げ、拝謁の姿勢をとる守護者たちの元からモモンガとクレナイ両名はそれぞれ別にリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンによる転移でその場から姿を消す。

 瞬時に視界が変化し、闘技場から第9階層にある自室の目の前へと変わる。モモンガ含め、周囲に誰もいないことを確認するとクレナイは扉に両手を着けた。

 

 「色々ありすぎ……」

 

 異変から今に至るまでのわずかな間に色々ありすぎて、精神的にかなりきた。

 

 「……それに、何あの高評価。ヤバすぎて笑えないんだけど……」

 

 絶対に別人だよね。

 そう思いつつもクレナイはすぐに頭を振った。守護者たちの表情や雰囲気は真剣そのもの――――正真正銘の本気(マジ)であった。

 

 「……これから、大丈夫かな?……。不安ばかり浮かんでくるんだけど……」

 

 これからについて考えれば考えるほど、身体が重くなっていく。そんな憂鬱な気分を少しでも変えようとクレナイは力なく自室の扉に手をかけ、中へと消えていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 あぁ……クレナイ様ぁ。

 

 自分達、守護者一同を大地につけんと押し寄せる重圧と力の波動が同時に掻き消える。崇拝すべき至高の御二方が去ってなお、張り詰めている空気の中シャルティア・ブラッドフォールンは胸を抑えるように跪きながら歓喜に震えていた。

 

 先ほどの感覚……間違いない! あの時と同じ(******)モノ! ナザリックに仇なす者達による大侵攻時、その圧倒的な数の暴力に蹂躙される自分を、クレナイ様は至高の方々の戦略を捨ててまで単身来てくださった! 先ほどのお力は……まさにあの時に感じたモノ! あぁ……また、この身で感じることができるなんて……。

 

 「――――それにしても、支配者としての器をお見せになられたモモンガ様に匹敵するほどの力をクレナイ様も放たれていたわね」

 「ですね。普段のクレナイ様からは想像できないほどのお力でした。あれこそが支配者として本気の片鱗をお見せくださったクレナイ様の偉大な力の一部なのでしょう」

 「マサカ片鱗デ、アレホドトハ。流石トシカ、言イ様ガナイ」

 「ほ、本当にビックリしたね、お姉ちゃん」

 「だね。あたしも息が止まるかと思った」

 

 しばしの時間が経過し、誰かの安堵の息と共に張り詰めていた空気が弛緩する。シャルティアを除いて、それぞれに立ち上がった守護者たちが口々にモモンガの印象を言い合った後、続いてクレナイについて話題が移っていく。

 圧倒的な力の波動。

 普段のクレナイからは予想できないほどの威圧感。そのあまりの違いに守護者たちは皆、驚嘆の声を上げていた。

 

 「……おそらくあれこそがクレナイ様、本来のお力。映像でしか存じませんでしたが、たっち・みー様とのワールドチャンピオンを賭けた一戦でなられていた真のお姿の一端でありましょう」

 

 おぉ……とセバスが口にした考察に守護者たちは皆、感嘆の声を漏らす。それに呼応するかのようにシャルティアがやや誇らしげに口を開く。

 

 「……その通りでありんす。セバスの言う通り、あれこそクレナイ様の本気。かの、大侵攻の際にもなられた真のお姿の力の一端で間違いないでありんした。あぁ……さすがはクレナイ様、何度感じても素晴らしい力の波動ですぅ」

 

 シャルティアの発言に対して、各守護者たちから羨望と嫉妬が混ざり合ったピリピリとした気配が立ち込める。ナザリック地下大墳墓の歴史史上、類にない大侵攻を受けた際にシャルティアだけは至高の存在の1人であるクレナイと共に戦っている。それだけではなく、唯一その真の姿と力を直に拝見もしているのだ。

 まさに同じ守護者として羨むべき内容であった。

 

 「あ、あれが支配者として本気になられたモモンガ様にクレナイ様なんだよね。凄いよね!」

 

 だが、そんな空気にびくりと肩を震わしたマーレの若干大きめに発した声に即座に空気が変わる。

 

 「全くその通り! 私たちの気持ちに応えて、絶対者たる振る舞いを取っていただけるとは……流石は我々の造物主たる方々。至高なる42人の方々の頂点にして、愛しのモモンガ様。そしてナザリックのために幾重にも力を惜しまないクレナイ様。そんな最後までこの地に残ってくださった、慈悲深き君々」

 

 アルベドの言葉に合わせ、各々が陶然とした表情を浮かべていた。その中でマーレのみは安堵の色も強く混じっていたが。

 そんな愉悦(ゆえつ)で緩んだ空気の中、デミウルゴスはふと、先ほどから感じていた疑問を口にしていた。

 

 「ところで……跪いたままですね。どうかしましたか、シャルティア?」

 「ドウシタ、シャルティア」

 

 言葉に合わせ、全員の視線がシャルティアに集まる。そう、今に至るまでシャルティアはずっと跪いている状態のままであったのだ。

 コキュートスからも声をかけられ、ようやくシャルティアは初めて顔を上げる。

 その目はとろんと濁り、夢心地であるように締まりがなかった。

 

 「……何カアッタノカ?」

 「あ、あの凄い気配と、懐かしくもあるお力を受けて、ゾクゾクしてしまって……少ぅし下着がまずいことになってありんすの」

 

 静まり返る。

 何を言うべきか、全員が互いを窺いながらも思い出す。守護者の中でもシャルティアは数多くの歪んだ性癖を持つことに。死体愛好癖(ネクロフィリア)に加え、お慕いしているクレナイよりの圧倒的な力の波動と……もはや、処置無しと守護者各員は額に手を当て諦める。

 が、それで終わらない守護者が1人いた。アルベドである。嫉妬と呆れ、両方含んだ言葉がその口から出る。

 

 「この節操なし」

 

 投じられた軽蔑の声。シャルティアは敵意に唇を吊り上げ、妖艶な笑みを浮かべながら真っ向から受けて立つ。

 

 「はぁ? 至高の方々のお1人であり、超美形なモモンガ様からご褒美をいただけただけでなく、同じく至高のお1人であるクレナイ様からも――――懐かしくもある素晴らしい力の波動、ご褒美をいただけたのよ? それで濡りんせん方が頭おかしいわ。それにわたしはクレナイ様一筋。いつまで経ってもモモンガ様と進展がない不感症のあなたとは違うのよ。ねぇ、大口ゴリラ」

 「……んだと、ヤツメウナギ」

 

 両者が睨み合う。それこそ背筋が凍り付きそうなほどの鋭い眼光で。

 

 「わたしの姿は至高の方がお1人、ペロロンチーノ様に作っていただいた姿でありんすぇ。それに対して不満は一切ないのでありんすが、ぬし?」

 「それはこちらも同じこと。至高の方がお1人、タブラ・スマラグディナ様に作っていただいた姿。条件は変わらないと思うけど?」

 

 2人の視線は逸れないまま、シャルティアがゆっくりと立ち上がる。両者の距離はみるみる内に詰まり、ぶつかり合うほどまでに至った。

 

 「守護者統括といわす立場にあぐらを欠き、女としての魅力を磨いてないのではないでありんすか? こちらは日夜、磨いてるでありんす。その努力が天に通じてか、なんと今回の異常事態を事前に察知したクレナイ様が自らわたしを守りに来てくださったのよ。……しかも、抱き寄せられながらという最高のご褒美付きでね! この差こそ、わたしとぬしとの圧倒的な違いでありんすぇ」

 「ぐふっ! な、なんて……羨ましいシチュレーション! けれど、こちらとて決して負けてないわ。玉座の間にてモモンガ様自ら、私の胸を触ってくださったのよ。これの意味することはただ1つ。今回の異常事態さえなければ、私とモモンガ様はあのままゴールインしていたという事実のね!」

 「かはっ! な、なんと……憧れるシチュレーション! しかし、先にウエディングブーケを主に放り投げ、完全なる勝利をするのはわたしでありんすよ。ねえ? 守護者統括様ぁ」

 「どの口が言うのかしら? 妄想癖まである残念階層守護者。寝言は寝てから言いなさい」

 

 すいません、どうかもう勘弁してください!

 この場にモモンガやクレナイがいたら、間違えなく白旗を上げるであろうディープ過ぎる会話内容。しかし両者にとっては死活問題であり、その証拠にお互い無表情で睨み合ったまま微動だにしていなかった。

 わずかな静寂――――それを切り裂くようにバサリと音を立て、威圧するかのように広がるアルベドの翼。対してシャルティアからは黒い靄が立ち込める。

 

 「あー、アウラ。女性のことは女性に任せるよ。もし何かあったら止めに入るから、その時は教えてくれるかい?」

 「では、私も先に失礼します。モモンガ様とクレナイ様、御二方がどこにいかれたかは不明ですが、私かプレアデスの誰かしらはお傍に仕えるべきでしょうし」

 「ちょ! デミウルゴス! あたしに押し付ける気!? それにセバスも! このタイミングでいく普通!?」

 

 デミウルゴスは手をピラピラと振り、セバスは一礼し、睨み合う2人から離れていく。その後を追うようにコキュートス、マーレと続いていった。巻き込まれたくとないばかりに。

 

 その後アウラが苦労したのはいうまでもなく、セバスは仕えるべき方々の所に向かい、コキュートスは至高の方々のご子息に忠義を尽くす光景を夢想し、デミウルゴスにマーレはおとこのこの服装についてなにやら語りあっていたのだった。

 ちなみに喧嘩の行方はというと――――

 

 「では場合によっては互いに至高の方々へのアプローチの際、協力体制を取るということで」

 「ええ、異論ありんせん」

 

 互いに一歩も引かない想い人への討論の末、アウラが口にした「はぁ~……こんな言い争いより、お互いに協力しあった方がずっと効率いいんじゃないの?」という何気ない一言に「「それだわ!」」と一斉に同意したことにより、終息へと向かっていった。

 

 固く握手を交わすアルベドとシャルティア。そんなどこか残念な守護者2人を眺めながらアウラは「……疲れた」と人知れずため息をつくのであった。




モモンガ様のように精神作用無効のスキルがない場合、あの忠誠の儀での感動を抑えるのは無理だと思いました。
がんばれアウラ。ナザリックの平和はキミにかかっている(笑)

2015年11月11日までのオリキャラ募集は終了いたしました。ご協力いただいた方々、本当にありがとうございましたm><m

ようやくカルネ村の影がわずかに見えてきました……。
また次回もご覧いただけたらとても嬉しいです。

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