オーバーロード ~もう一人の支配者~   作:大正浪漫

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アニメでシャルティア完全武装形態、マジでグッジョブでしたw


闘技場ー1

 「……ん? これは」

 

 ナザリック地下大墳墓、第2階層・シャルティアの住居、外。

 すれ違うたびに驚愕と最上級の敬意を示すシャルティア配下のヴァンパイア・ブライドたちをどうにかやり過ごし、住居の外に出たクレナイ。しかし、出たと同時に感じた違和感に自然と言葉を漏らしていた。

 

 「同 士 討 ち(フレンドリィ・ファイア)が解除されている?」

 

 本当に微かすぎるが、自身にダメージが一定間隔で入ってくる。その事実に本日、何度目かの戸惑いが浮かぶ。

 ここナザリック地下大墳墓は多くの範囲で、負のダメージを1点程度だが与え続けるエリアエフェクトや、回復魔法――――正のエネルギーに関する魔法の効果を阻害するエフェクトなどがかかっている。

 たしかに属 性(アライメント)が中立であるクレナイに負のダメージが入ることはおかしなことではない。

 

 しかし、ありえないのだ。

 本来、同じギルドに属するクレナイにダメージが入ることなど。ユグドラシルでは同じギルドに所属するものやチームを組んだものへダメージを与えることはできないという同 士 討 ち(フレンドリィ・ファイア)無効のシステムが存在した。

 それが今、自身にダメージが入ってきている。その事実はやはりここはユグドラシルとは違うという、また1つの証拠となっていた。

 

 「……けど、特殊技術(スキル)もちゃんと発動しているみたいだな」

 

 だが、そんなダメージを即座に回復する感覚もあった。

 修羅の覚悟――――HP50%以下では発動しないがそれ以上の場合、HP自動回復Ⅴよりも高い効果を発揮する百鬼王〈ディアブルロード〉の常時発動型特殊技術(パッシブスキル)。その効果が実感できたことによりクレナイは種族や職業などによって様々な効果がある特殊技術(スキル)の存在をハッキリと認識できたのだった。

 

 「よし。この調子で色々と確認していこう」

 

 ユグドラシル同様に特殊技術(スキル)の存在がある。それを確認できたクレナイはひとまず安心したのちに次の行動を開始する。

 ある感覚を思い出しながら、なにもない中空に手を伸ばしてみる。すると、手が湖面に沈むように何かの中に入り込んだ。

 アイテムボックス。端から見ればクレナイの腕が途中から空間に消えたように見えるであろうこの現象の正体である。そこにはユグドラシルで手に入れた数多の武器に防具、装飾品や巻 物(スクロール)、ポーションなどの消費アイテム、魔法の道具など……。ありとあらゆるアイテムが保管されていた。

 それを確認したクレナイはまた1つ安堵すると共に笑みをこぼす。

 これなら最悪の事態に陥ったとしても、ほぼ対処できる。

 そんな心強いアイテムボックスの中から2つ(**)の切り札を取り出した。

 

 十文字槍に大太刀。これこそがクレナイの切り札にして、完全武装の一角を担う神器級(ゴッズ)といわれる武器たちである。

 中に宿したデータ容量によって、いくつもに区分されるユグドラシルの武装。最下級から始まり、下級、中級、上級、最上級、遺産級(レガシー)聖遺物級(レリック)伝説級(レジェンド)と続き、その最高レベルこそが――――神器級(ゴッズ)というわけだ。さすがに世界級(ワールド)アイテムには及ばないが、その能力や価値など驚くべき逸品だ。

 そんな神器級(ゴッズ)で自身の全装備を整える。それこそがクレナイ完全武装の正体であった。

 

 頭の鉢金(はちがね)、体の甲冑、腕の籠手、脚の脛当(すねあて)と、どこか和を思わせる真紅の防具一式。神器級(ゴッズ)防具でありながら、シリーズアイテムでもあるために一式すべて揃えることによってより強力な力が得られる――――緋天朱雀(ひてんすざく)

 

 取り出した切り札の1つ。緋色の柄に、見事な意匠の十文字状の刃が特徴的な槍。東洋に伝わる仙界の切り込み隊長が持つという無双の槍の名を与えられた十文字槍――――火尖槍(かせんそう)迦具土(カグツチ)

 

 かたや、もう1つの切り札。藍色の柄に、五 尺 六 寸(170センチ)は超えるであろう鋭利な刀身を漆黒の鞘に納めている大太刀。持ち主に仇なす者すべてを容赦なく屠りさるという妖刀の名を与えられた――――大妖刀・百鬼村正(ひゃっきむらまさ)

 

 自慢の切り札である迦具土と村正の2つを背中に交差するように背負うクレナイ。自身の能力が上昇するのを感じつつ、次なる行動を開始する。

 

 「次だ。鎌 鼬(かまいたち)

 

 クレナイの掌から鋭い風切音と共に、幾重もの風刃が放たれる。

 回数限定特殊技術(スキル)――――鎌 鼬(かまいたち)。1日に使用できる回数は決まってはいるが、その攻撃速度に加えて、斬撃および風属性を合わせ持っている牽制や追撃にも適している利便性が高い特殊技術(スキル)である。

 

 そんな鎌 鼬(かまいたち)が放たれた先にある大岩を見事に切り刻む。まるでそれが合図であったかのようにクレナイは一気に行動を爆発させる。

 

 あらゆるものを粉砕せしめる掌打。

 すべてをなぎ倒す稲妻のような蹴撃。

 物理法則を無視した圧倒的な跳躍。

 各武器の嵐のような斬撃。

 それらにさらなる力を与える特殊技術(スキル)の数々。

 

 なにもない中空に、流れるように次々と自身の力を試していくクレナイ。それからしばらくの間、このまるで演武のようにも見える実験は続けられたのであった。

 

 「……なるほど。能力や特殊技術(スキル)の発動回数などユグドラシルと変化ないみたいだな。それから弱点も変わらずに存在していると」

 

 しばらくして、実験を終えたクレナイは感じたことを口にする。その中には意識を集中することで認識できた自身の弱点についても存在した。

 斬撃武器脆弱Ⅲ、酩酊(めいてい)倍加、冷気エリアでの能力値ペナルティⅡ、冷気ダメージ倍加、クリティカルヒットダメージ倍加などである。

 

 「とりあえず、コキュートスが敵対してないことを祈るばかりだな――――」

 

 モモンガと違い、自身とはかなり戦闘の相性が悪い存在の姿が頭をよぎる。第5階層守護者、コキュートス。これから会うことになるシャルティアと同等の力を持つ存在。

 そんな相手に対し、最悪の事態が起こらないこと祈る言葉の途中で――――パチパチパチと手を叩く音がその場に響いた。

 

 「素晴らしいお手前でございんしたクレナイ様。舞う不死鳥を思わせる美しい演武にこのシャルティア、お声をかけるのを忘れるほどに魅了されていました!」

 「いたのかシャルティア。すまない、待たしてしまったようで。……それに無理に世辞など言わなくて構わないぞ?」

 「なにをおっしゃられますクレナイ様。すべて、わたしの本心からの言葉でございます!」

 「そ、そうか。それは素直にありがたいな。……ところで、演武が終わった直後の自分の言葉聞こえてしまっていたか?」

 

 音の鳴る方に顔を向けると、そこにはシャルティアの姿があった。クレナイが実験に集中していた間にいつのまにか準備を整え来ていたらしい。

 自身の確認がてらの動作を見られていたことを知り、ちょっとした羞恥心から思わず否定的な言葉が出る。しかし、そんなクレナイの言葉を即座に否定するシャルティア。そのまなざしの熱さと強さから、その言葉がどれだけ本気なのかがひしひしと伝わってきたのだった。

 そんなまっすぐすぎる答えにクレナイは素直に感謝を述べていた。だがそれと同時に先ほど自身がふと漏らした言葉を聞かれてなかったかと不安がこみ上げてきた。コキュートスのことである。なぜ配下であるはずの階層守護者が敵対していると考えるのか? そのことについて深く詮索された場合、とんでもない爆弾になりかねない可能性も秘めている発言であったからだ。

 

 「いえ、申し訳ありません。あまりに素晴らしい演武に夢中になってしまい、お言葉までには気が回りませんでありんした。何卒このご無礼お許しください」

 「いや、構わない。大した内容ではなかったからな。それに今回の件はシャルティアに何の落ち度もないから気にすることはない」

 「はっ! ありがとうございます」

 「……それでシャルティアよ。ここにいるということは、もうアンフィテアトルムに向かう準備が整ったと解釈して構わないか?」

 「はい、クレナイ様。シャルティア・ブラッドフォールン、いつでもその御身を警護させていただきながらアンフィテアトルムに向かえる準備できておりんす」

 「そうか、それは心強い。では向かうとしようか。我らがナザリック最高支配者にして、我が友モモンガさんのもとへ」

 「はっ! かしこまりました」

 

 よかった、本当によかった。

 自身が懸念していた言葉を聞かれてなくて。その答えに内心、ホッとするクレナイ。

 それからの行動は迅速であった。冷静さを意識しつつ、シャルティアに準備の有無の確認をとると、共にモモンガの待つ場所へと足を向けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「おや、わたしが1番でありんすか?」

 

 ナザリック地下大墳墓、第6階層。時間の経過と共に変化する空に、深い森が広がっているその中に長径188メートル、短径156メートルの楕円形で、高さは48メートルと巨大な建築物が存在した。

 円 形 劇 場(アンフィテアトルム)の名を持つ円形闘技場(コロッセウム)である。ローマ帝政期に造られたような外観に、幾層にもなる客席が中央の空間を取り囲み、様々な箇所に《コンテニュアル・ライト/永続光》の魔法が掛りその白い光を周囲に放っていた。

 そんなアンフィテアトルムの大地の一部から影が膨らみ、吹き上がる。影はそのまま扉のような形となり、その陰からゆっくりと姿を現す者がいた。

 シャルティア・ブラッドフォールン。最上位の転移魔法《ゲート/転移門》を使い登場した階層守護者の姿がそこにはあった。

 

 「……転移が阻害されてるナザリックで、わざわざ《ゲート/転移門》なんか使うなっていうの。闘技場内まで普通にきたんだろうから、そのまま歩いてくればいいでしょうが、シャルティア。それになんか大きいし」

 「ふふ、愚かでありんすねアウラ」

 「なんですって!」

 「――――っ!? お、お、お、お、お姉ちゃん」

 「なによマーレ! 今、忙しいんだけど!」

 「あ、あ、あれ……」

 「あれ、じゃ分からないわよ。いったい、なに、を――――っ!?」

 

 現れたシャルティアに対し、呆れたような声が聞こえてくる。

 アウラ・ベラ・フィオーラ。ここ第6階層の守護者であり、幻獣や魔獣等を使役するビーストテイマー兼レンジャーの闇妖精〈ダークエルフ〉。ちなみに先ほどの呆れた声を発した本人でもある。(グリーン)(ブルー)という左右違う瞳に、金の絹のような髪を肩口で切りそろえ、長く尖った耳、薄黒い肌をした見た目10歳くらいの少女だ。

 上下共に皮鎧の上から赤黒い竜王鱗を貼り付けたぴっちりとした軽装鎧をまとい、その上には白地に金糸が入り胸にギルドサインがあるベストを羽織っている。それに合わせた白色の長ズボンに、腰などには鞭など様々な装備があった。

 

 その同じ階層守護者であるシャルティアに冷たい言葉と敵意をかけるアウラ。しかし、それを余裕の態度で返すシャルティア。そんな目に見えない2人の激しい火花にブルブルと震えだすもう1人の存在があった。

 マーレ・ベロ・フィオーラ。アウラと同じ第6階層守護者であり、地形の改変など様々な魔法を自在に操るハイ・ドルイドなどを収める魔法使いの闇妖精〈ダークエルフ〉。髪の色や長さ、瞳の色、顔の造形などその容姿はアウラにそっくりであるが、太陽のようなアウラに対しその子の輝きは月のようとまったく異なっていた。

 青というよりも藍色の竜王鱗で出来た胴鎧に、深い緑色をした、まるで森の葉のような短めのマントを羽織っている。アウラと同じような白色が主の服装ではあるが、ズボンではなく僅かに素肌が覗くやや短めのスカートを穿いていた。またその手には、ねじくれた黒い木の杖が握ぎられていた。ちなみにアウラとは双子であり、マーレが下であった。

 

 そんなマーレはアウラとシャルティア2人の火花にブルブルと震えだすが、その後方――――シャルティアが通ってきた《ゲート/転移門》からまだ誰かが現れるのを見た。その瞬間、マーレの震えが増大した。マーレは噛み噛みながらも必死に姉であるアウラに知らせようとする。はじめは邪見にしていたアウラも、必死にある方向を指すマーレの指示通りに顔を向けると同時に言葉を失っていた。

 

 「やあ、アウラにマーレ。息災そうでなによりだ」

 

 そこには――――自分たちが敬うべきナザリック地下大墳墓のもう1人の主。至高の御方であるクレナイの姿があった。

 

 「ク、クレナイ様!? い、いえ違うんです! 今のはシャルティアにであって、決してクレナイ様に対してではないんです。本当に……申し訳ありませんでした!」

 「いや、そんな気にすることではないアウラ。それに自分がシャルティアに頼んでこのわずかな距離に《ゲート/転移門》を開いてもらったのだ。たまにはリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン以外の方法で我が友、モモンガさんの前に現れるのも悪くないと思ってな」

 「は、はい、ありがとうございます。それにしてもモモンガ様へのサプライズのためですか。さすがはクレナイ様! 普段は微妙なシャルティアの見事な活用方法です!」

 「えっ、いや、それは――――」

 

 クレナイの存在に気付いたアウラは勢いよく必死に謝罪していた。謝罪をすぐに受け入れ事情を説明するクレナイ。心底ホッとした様子のアウラであったが次に出た賛辞に加えて出た言葉に思わずクレナイは返答に困った。これでもかとシャルティアに喧嘩を売る内容であったために。

 

 「この、チビすけ。自身の注意力不足を棚に上げて、クレナイ様になんと失礼なことを言うでありんすか」

 「はあ? あんたこそ、なに言ってんの? クレナイ様はモモンガ様同様、お優しいから言葉に表さないだけってこと理解できないわけ?」

 「……なんですって、このチビ」

 「……なによ、屍肉」

 

 た、助けてください!

 2人の本気の睨み合いに周囲の気温が一気に下がったように錯覚し、心の中で助けを求めるクレナイ。その2人の睨み合いは一度は平静を取り戻していたマーレも、再びブルブルと大きく震え始めるほどであった。

 

 「……アウラ、シャルティア。じゃれ合うのはそのあたりにしておけ」

 「「も、申し訳ございません!」」

 

 びくりと、2人の体が跳ね上がり、同時に頭を垂れる。

 その先には――――約1時間と少しぶりに会う、ギルドマスターたるモモンガの姿があった。自身と同じように最後に別れたままの姿であったが、その手には決定的に違う物が存在した。

 

 ギルド武器、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン。ギルドが輝いていた頃の結晶であり最高位の武器でもある。金色に美しく輝くスタッフは同時に禍々しい黒の揺らめきも放っている。さらにスタッフの7匹の蛇が加える宝石はそれぞれが神器級(ゴッズ)アーティファクト兼シリーズアイテムでもあるために、すべて揃えていることによってより強大な力が引き出されている。しかもスタッフ本体に込められた力も神器級(ゴッズ)を超越し、かの世界級(ワールド)アイテムに匹敵するレベルと、とんでもない代物であった。ただし、何度この武器を作り上げるための莫大な労力にギルドみんなの心がへし折られそうになったことか……。

 

 そんなユグドラシル時代でも決して使われることのなかったギルド武器を装備しているモモンガ。まさにナザリックの絶対的な主にふさわしい姿から発せられた低い声の警告は言い争っていたアウラとシャルティアに効果覿面のようであった。

 

 「よい。良く来てくれた、シャルティア。それにクレナイさん」

 「気にしないでほしいモモンガさん。自分たちのまとめ役であるモモンガさんの召集に即座に馳せ参じることなど当然のこと」

 「その通りでありますモモンガ様。守護者として当然の責務でありんす」

 「そうか、感謝しよう」

 

 鷹揚(おうよう)に頷き謝罪を受け入れるモモンガ。その後の何気ないやりとりに見える裏でこっそりと《メッセージ/伝言》をクレナイに繋げていた。

 

 『大丈夫でしたかクレナイさん?』

 『モモンガさん……。助かりました、本当にありがとうございます』

 『いえ、さすがにあれは私も怖っ!て思いましたから。ともかくまた無事にお会いできて本当によかったです』

 『ええ、本当に安心しました! それでモモンガさん、まだこれからなにがあるか予想できないので《メッセージ/伝言》はこのまま繋いだ状態でいてもらってもよろしいですか?』

 『了解しましたクレナイさん。お互い協力してこの局面を乗り越えましょう!』

 『はい、モモンガさん!』

 

 裏では互いの安否を喜ぶのと同時にこれからについて交わされていたのであった。

 

 「もったいなきお言葉。ああ、モモンガ様。どのような宝石よりも美しい、まさに美の結晶。そのような至高の御身に拝見できまして、誠に恐悦至極で存じんす」

 

 すらりとした手で自身のスカートを軽く摘み上げながら会釈するシャルティア。その仕草はどこかの姫君を思わせる優雅さに溢れていた。

 

 「なにその仕草。似合わなすぎるんだけど……」

 「おや、チビすけ、いたでありんすか? 視界に入ってこなかったから分かりんせんでありんした」

 

 しかし、再び火種が再燃する。アウラの重く低い声に反応し、嘲笑を浮かべながら反応するシャルティア。

 さっき喋ってたよね、思わず心の中でツッコむクレナイを余所に事態はさらに進んでいく。

 

 「ぬしも大変でありんすねマーレ。こながさつすぎる姉を持って。本当に同情を禁じ得ないんでありんすよ」

 

 ぴきりと顔を引きつらせるアウラを無視し、マーレに声をかけるシャルティア。その内容にマーレの顔色が一気に悪くなる。自分を出汁に姉に思いっきり喧嘩を売っているためだ。

 だが、アウラは冷たく微笑む。そして――――

 

 「うるさい、偽乳」

 

 ――――とびきりの爆弾が投下された。

 

 「……な、なんでしってるのよー!」

 

 あ、キャラ崩壊。

 見事に《メッセージ/伝言》の中でハモる、モモンガとクレナイ。

 一方、素が出たシャルティアに、先ほどからの使っている間違いだらけの(くるわ)言葉はどこにもなかった。

 

 「どう見たって、一目瞭然でしょー。変な盛り方しちゃって。何枚重ねてるの?」

 「うわー! うわー! ク、ク、クレナイ様の前でなんてこと言うのよー!?」

 

 発せられた言葉を必死にかき消そうと、ばたばたと手を振りまわすシャルティア。そこには年相応の表情をした少女がいた。対してアウラは邪悪な笑みを浮かべながらさらなる追撃をかける。

 

 「そんだけ盛ると……走るたびに、胸がどっかに行くでしょ!?」

 「くひぃ!」

 

 びしっと指を突きつけられ、シャルティアから奇妙な声が上がる。

 

 「図星ね! くくく! どっかに行っちゃうんだー! だからいつも基本、移動はリスクが少なくて済む《ゲート/転移門》なんだー。そ・れ・に! 至高の御方であるクレナイ様がそんなバレバレな偽乳、気付いてないワケないじゃない」

 「だ、黙りなさい! このちび! か、仮にそうだとしても、わたしとクレナイ様の絆は決して変わったりしないわ! それに、あんたの方が胸無いじゃない。わたしは少し……いえ、結構あるもの!」

 

 シャルティアの必死の反撃。しかしその瞬間、さらに邪悪な笑みを浮かべるアウラ。それに押されるように一歩後退するシャルティア。さりげなく胸をかばっているのがなんとも切ない。

 

 「ええー、そうかなー。至高の御方に自分の一部を偽ってみせるなんてことして? 本当にそうかなー。……それにあたしはまだ76歳。いまだに来てない時間があるの。それに比べてアンデットって大変よね~。一切、成長しないんだから」

 

 ぐっと(うめ)きながら、シャルティアはさらに後退する。言い返せない。それが強く表情に現れていた。それを確認し、アウラは亀裂のような笑みをさらに吊り上げた。

 

 「今あるもので満足したら――――ぷっ!」

 「おんどりゃー! 吐いた唾は飲めんぞー! 覚悟しいやー!」

 

 ぷっちーんという音を立てシャルティアがキレた。そのグローブに包まれた手に黒い靄のようなものが揺らめき出す。対してアウラも鞭を手に持ち迎え撃たんとする。そしてそんな2人を前におろおろとする被害者マーレ。

 そのあまりにぶっ飛んだ会話内容と、かつて見たことのあるような光景にクレナイは思わず声が出なかった。

 シャルティアを設定した弟のペロロンチーノに、アウラとマーレを設定した姉のぶくぶく茶釜。その2人も時折、このような仲が良い?喧嘩をしていたのだ。こんな風に。

 

 『……この光景、ペロロンチーノさんや茶釜さんにも見せてあげたかったですね』

 『……ええ、本当に』

 

 まるで、かつての仲間たちの姿がそこにいるような懐かしい感覚。いきいきと動くNPCたちを見て、感慨深く思いを口にするクレナイにモモンガも全面的に同意するのであった。




今回はここまでとなります。なんかクレナイが絡んだらアウラのシャルティアへの攻撃力が上がった気がします(き、きっと気のせいw)

今回は長々とお付き合いいただきありがとうございました! また次回も見ていただけましたら嬉しいです。

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