とうとうオーバーロードの書籍を入手できたに加えてプロローグで169もの方々がお気に入り登録してくださってテンションが上がっています大正浪漫です。
本当にありがとうございます、今回も少しでもお楽しみいただけましたら幸いです
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「クレナイ様? クレナイ様! いったい、いかがなされたのでありんすか!? ハッ――――! ま、まさか……どこかお加減が優れないのでは!? しばし、ほんのしばしばかりお時間を! 今すぐに従者たちを呼び集め必ずやクレナイ様のお加減を直してみせますので何卒、何卒あと少しばかりのご猶予を!」
先ほどと同じような台詞を繰り返すシャルティア。しかし、変わらずに返答がない自身の最も敬愛する主の様子がおかしいことに気付いた瞬間、その台詞は途中から一気に切羽詰まったものへと変わっていた。
それこそ今すぐに自身の従者であるヴァンパイア・ブライドのメイドたちやその他配下をこの部屋に結集させようとするほどに。
そこまでして、ようやくクレナイはあまりの動揺からどこかに飛んでいた思考が少しずつ戻ってくるのを感じられた。
正直、まだまだ錯乱状態であるが。
「……い、いや大丈夫で……大丈夫だ。も、問題ないから従者たちを呼び寄せるようなことはしなくていい」
大丈夫ですと言おうとして言葉を言い換える。相手は自分の臣下であるNPCのはずだ、下手に礼儀を尽くすのはマズイ気がする。
驚愕や混乱で占める頭を必死に回転させつつ、クレナイはできるだけ平静を装いながら、こちらを心配そうに見上げるシャルティアに対しその従者たちの呼び出しをやめるように指示を出す。とにかく今は少しでも情報を得たい、しかし不確定なことが多すぎる今この状況では下手に人数を増やすことはできる限り避けたかったからでもあった。
「かしこまりましたでありんす。ですが本当に、本当に大丈夫なのでございますんでありんすぇ? もし、もしも至高の御身に、愛しの我が君になにかあったりでもしたらわたしは……」
「す、すまない……心配をかけてしまって。ただ……GMコールが効かないようで戸惑ってしまっていた」
「安心しましたのでありんすぇ。ですが……お許しを。クレナイ様の問いであらせます、GMコールというものに関して誠に遺憾ながら無知なるわたしではお答えすることができません。どうかご期待にお応えできなったわたしに、何卒この失態を払拭する機会を。そしてその機会をいただけるのでありんすでしたら、必ずやそのご期待に添える働きをしてみせますことをお約束いたします」
……会話が成立している。間違いなく。その事実に気がついた瞬間、クレナイは再び大きな驚愕に襲われていた。
あるはずがない。
決してありえるはずがないのだ。NPCと意思疎通……会話を交わすことなど。
たしかにNPCに言葉を発せさせること自体はできる。しかし、それはあくまで雄叫びデータや歓声データなどの音声データを組み込み言葉を発するよう自動化処理するだけであり、今しがたのようにこちらの言葉を聞き、その度に適切な返答を返すなんてことは絶対に不可能である。
「そ、そうか……それは心強い――――ぁ!」
それでもなんとか必死に平静を取り繕うクレナイにさらなる驚愕が襲い掛かる。
――――口が動いているのだ。
そのようなことDMMORPGの仕様上ありえない。外装の表情は固定が基本、でなければ
だが今、自分の口は間違えなく動いていた。さらに付け加えるならば、先ほどから言葉を発していたシャルティアの口も間違いなく動いていたし、その表情や仕草なども絶えず変化していたのであった。
……ここは自分の知らないなにかだ。今までの人生で培った常識がまったく役に立たない謎の事態にクレナイは強い焦燥感を感じ始めていた。
しかしそんな状況を、この事態を覆す1人の声が頭の中に響くように聞こえてきた――――。
『――――ナイさん、クレナイさん! 聞こえますか? 私です、モモンガです! お願いです、聞こえているのでしたらどうか返事をしてください!』
『――――えっ? モモンガさん? モモンガさんなんですか!? 本当に? はい、聞こえます、聞こえてますよモモンガさん! クレナイ間違いなく聞こえてます!』
『よかった……本当によかった。一分の期待にかけて《メッセージ/伝言》を飛ばしてみて本当によかった』
その声の主はモモンガ。つい先ほどまで、この異変が起きる直前まで共にいた長年の友、今この時において最も信頼できるギルドマスターからであった。
《メッセージ/伝言》ユグドラシルに存在する魔法の1つであり、別エリアなどで行動する仲間と会話がすることが可能となる。特定の状況下で重宝されていた連絡魔法である。
本当に安堵した様子のモモンガの声を聞いたクレナイは自身も同じように深く安堵していた。少なくとも今、この未知の状況に直面してるのは自分1人だけでないことを確信できたことにより。それよってクレナイは幾分か冷静を取り戻すことができた。
『はい、モモンガさんのおっしゃる通り本当によかったです、安心しました。それで……モモンガさん、こちら今NPCであるはずのシャルティアと会話が成立するという異常事態の真っただ中なのですがそちらはいかがしょうか? なにか変ったこと起こってませんか?』
『はい、こちらも同じですクレナイさん。私は今、第10階層の玉座の間にいるのですが……そこで守護者統括であるアルベド、
『えっ……? モモンガさん大丈夫でしたか? こちらのシャルティアは自分に忠誠を誓ってくれているようでしたが、そちら側も大事ありませんでしたか?』
ひとまず安心して自身の現状について報告するクレナイ。しかし、モモンガからの返答を聞いた時に一抹の不安が頭をよぎった。
自分の方はシャルティア1人だけであり最悪なケースが起きてもまだどうにか対処できるであろう。まあ……今までの様子をみる限りではその心配はほぼしなくてよいと感じ始めているが。しかし、モモンガさんは状況が違う。
ユグドラシルに200しか存在しないオンリーワンの壊れ性能を持つ究極のアイテム、
……もし、その場にいる者たちがシャルティアと違う状態だとしたら。いくらモモンガさんでもマズイのではないか?
そんなモモンガの身を案じるクレナイの思いが、その後すぐに安否を確認させるという行動を起こさせていた。
『ええ、問題ありません。クレナイさんが懸念しているようなこともなく、こちらも皆私に忠誠を誓っている感じですね』
『そうですか……安心しました』
『ありがとうございます。それで今、この現状を少しでも解明させるためにセバスにプレアデスの1人を同行させ、ナザリックの周囲1キロの地理の確認をさせにいってます。無論、知的生物がいた場合は友好的に交渉してここまで連れてくるようにとも指示してます』
『すごい……もうそんなことまで』
自身の方も問題がなかったことを告げるモモンガ。さらにはこの未知の状況を打破するためにすでに配下のNPCであるセバスにこの周辺の探索に行かせているという。これを聞いた時、クレナイはモモンガに対してさすがという尊敬の念とすごいという驚愕の念が同時に浮かび上がっていた。
この未知の状態での的確な判断。そして今、自分たちがいるこの世界が本当にゲームであるユグドラシルならば本拠地を守るために創造されたNPCが外に出られるはずがない。それがもし外に出れたとしたら――――
薄々と感じ始めてはいるが、それはこの未知の状況に1つの答えを出すものになるだろう。その場合、外に向かわせたセバスの情報は大変重要なモノになると。そんな先の先のことまで見通したようなモモンガの指示にクレナイは自然と称賛の言葉を漏らしたのだった。
『いえ、そんな……。それでクレナイさん、これからのことなのですが。私は第6階層にあるアンフィテアトルムで魔法などの実験をしてみるつもりです。さすがに今、私がいる場所で試してみるわけにはいきませんから』
『なるほど、たしかにモモンガさんが魔法などを試すのでしたら、闘技場であり広さが十分にあるあの場所の方が最適ですもんね』
『はい、それから私やクレナイさんが遭遇していない他の各階層守護者たちの様子を確認するために今から1時間後にアンフィテアトルムに召集をかけようと思うのですが、そこでクレナイさんも念のため完全武装で合流願えますでしょうか?』
『了解しました。クレナイ、今から1時間後に完全武装して第6階層アンフィテアトルムにてモモンガさんに合流します。あと、自分からシャルティアに召集の件伝えときますね』
『お願いします。では、クレナイさん1時間後にお会いしましょう』
『はい、モモンガさん。自分も確認できることは確認してから合流します。それでは1時間後に』
それからの内容は今後についてであった。たしかに今この状況において自身の力の把握は最重要である。ユグドラシルと同じなのか、はたまた違うのか、その結果によってはさらに色々と考えなくてはいけなくなるであろう。
そして完全武装したうえでのモモンガとの合流。これについても納得であった。たしかに現時点ではクレナイとモモンガ、2人を敵視するようなNPCとは出会っていない。しかし油断はできない。これから会うことになる他の階層守護者たちも目の前にいるシャルティア同様に凄まじい力を持っている。
もし……そんな存在たちが自分たちに友好的でなかったとしたら? 最悪の場合、戦闘もありえるかもしれない。そういった万が一の可能性も考慮し、クレナイはモモンガに完全武装での合流を了承すると共に、シャルティアには自分から召集の件を連絡しとくことを伝え《メッセージ/伝言》を終えたのであった。
「――――クレナイ様?」
「あ、ああ、すまないシャルティア。突然、黙ってしまって。我が友……モモンガさんから緊急の《メッセージ/伝言》が入ったゆえに応答が遅れてしまった」
「なんと! クレナイ様と同じ至高の御方であらせますモモンガ様から《メッセージ/伝言》がでありんすか!? そ、それでモモンガ様はいったい何と?」
「今から1時間後、第6階層アンフィアトルムに自分および全階層守護者たちは来るようにと。火急に確認したいことがあるらしい」
モモンガとの《メッセージ/伝言》を終えひとまず安心するクレナイ。そんなクレナイをやや心配そうに伺う存在があった、シャルティアである。
……そういえば、シャルティアと会話中だった。
自身がシャルティアと会話中にも関わらず《メッセージ/伝言》に集中してしまっていたことに気が付いたクレナイは謝罪すると共にその発信者がモモンガであったことを伝える。するとその名に驚愕と敬意を表すシャルティア。その様子を見てモモンガに対しても自分と同じ様に忠誠心があることを確認し安心するクレナイ。そして、そんなシャルティアに《メッセージ/伝言》の内容である召集の件を伝えるのであった。
「かしこまりました第1~第3階層守護者、シャルティア・ブラッドフォールン。1時間後に第6階層アンフィアトルムへの召集の勅命、たしかに受け賜わりましたでありんすぇ。……と、ときにクレナイ様? せ、
「ん? 構わない。自分が答えられることならばな」
「そ、そ、それでは失礼して……。あ、あ、あ、あ、あの! こ、こ、この体勢はいったいど、どういう意味があるのでしょうか!?」
「え? それはどういう――――ぁ!」
召集の件を了承し終えると急に様子がおかしく?なったシャルティア。そのことに疑問が浮かんだクレナイであったが、すぐにその原因に気が付いてしまった。
体勢である。自身の両手は今の今までシャルティアの肩にあり、まるで抱きよせているかのようであったのだ。
「す、すまない! 不快な思いをさせてしまって――――」
「いえ! 断じて不快な思いなどありえません! むしろご褒美です!」
やってしまった……。と自身の恥ずかしすぎる失態に気付き、謝りつつ慌てて肩から手を放すクレナイ。しかし、そんなクレナイの謝罪を即座に否定するシャルティア。その顔は真っ赤に紅潮し、瞳には情欲が溢れ出ていた。
「そ、そうか。これはだなその――――そう! 異常事態のためだ。先程モモンガさんにも確認したが、今現在ここナザリック地下大墳墓は未知の状況に見舞われている可能性が非常に高い。その異変を前もって感じた自分は突然の来訪で誠にすまないと思ったが、それであのような行動をとらせてもらったのだ。いくらナザリック最初の門番にして、絶対の信頼を寄せれる第1~第3階層守護者のシャルティアであったとしても自分から見れば可憐な乙女。そんな乙女をなにが起こるかまったく予想できない未知に対して……上に立つ者として、男として守りにくるのは当然であろう」
「クレナイ様……。感謝を、感謝いたします。至高の御身であらせながら、一下僕にすぎないわたしなどの身の心配をしていただいたことを。闇の深淵より深く、深く感謝いたします」
気まずい、このうえなく気まずい。
どこか様子がおかしいシャルティアをどうにか誤魔化そうと、咄嗟に出た真実と嘘が混じり合った台詞。たしかに異常事態やモモンガのことは真実であるが、事前に異変を感じてここに来たなど真っ赤な嘘である。ただ単にユグドラシルの最後はシャルティアの元で終えたいという私情全開からこの場にいただけというまったくの偶然からだ。
加えて出た格好つけたような台詞。そんなクレナイ自身、なにを言ってるんだ自分と思う言葉も含めてこれでもかというほどの感謝の意を示すシャルティアに良心がチクチクと痛む気まずさを感じるのだった。
「い、いや気にすることはない。と、ところでシャルティア。お前の《ゲート/転移門》は自分も通ることが可能か?」
「はい、可能でございますでありんす。《ゲート/転移門》は注いだ魔力によって転移できる対象を増やせますが、なぜそのようなことを?」
「なに、ちょっとした確認だ。たまにはリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンの転移機能でなく《ゲート/転移門》でモモンガさんの前に現れてみようと思ってな。もちろんシャルティアが《ゲート/転移門》が使える場所まで一緒に向かおうと思っているが」
「――――っ!? そ、そ、それは誠でありましょうかクレナイ様!」
「あ、ああ。そのつもりであったが、なにかマズかったか? それならばやめ――――」
「いえ! まったく問題ありません! それどころか必ずや至高の御方が通るにふさわしい《ゲート/転移門》を開いてご覧にいれます!」
この良心が痛む状況を変えようと多少無理やり気味に話題を変えるクレナイ。そんな話題に予想外に喰いついたシャルティアの反応に驚きつつもクレナイは安堵していた。これでモモンガに伝えていた確認できることの一部が確認できることに。
《ゲート/転移門》にリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン。2つともユグドラシルでは非常に重宝した魔法にアイテムである。
阻害魔法などの事前対策を考慮に入れなければ、失敗率ゼロで無限の距離を瞬時に移動できる最上位の転移魔法《ゲート/転移門》。
かたや、ここナザリック地下大墳墓内の名前のついてる部屋であれば回数無制限に自在に転移できるに加え、さらに外から一気に内部に転移できるギルド限定の指輪型アイテム、リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン。
どちらも一長一短あるが、分かりやすく挙げるならば《ゲート/転移門》はその移動できる距離が最大のメリットであるが、阻害魔法や阻害効果がある場所などではまったく役に立たないのがデメリットだ。対してリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンは特定の場所などの条件を満たさなければならないのがデメリットであるが、代わりにその条件さえ満たしてしまえば《ゲート/転移門》が使用できない箇所でも転移ができるのが最大のメリットであろう。
クレナイはそんな重要な2つの移動手段のうちの《ゲート/転移門》での移動を選択していた。理由はいくつかある。
一つは、恐らくであるがモモンガは先にアンフィアトルムに行っているといった関係上、ほぼ間違えなくここナザリックでは安心して転移できるリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンでの移動を選択すると考えたから。
そしてもう一つは実験である。複数人、転移可能なのか? 特定箇所間以外の転移を阻害しているここナザリックでどの程度使えるのか?などを実際に調べる必要性があると考えたからである。
今現在の状況において、重要度が高い案件の1つ移動手段。その移動手段がユグドラシル時とまったく同じなのか、それともなんらかの違いやリスクが生じたりしたりしてはいないか。これらは早急に把握しておく必要があると思いクレナイは今回の選択を選んだのであった。
「そ、そうか。それでは頼むことにしよう。あ、あとそうだシャルティア、自分は試したいことがあるので先に住居の外で待たせてもらおう」
「はい! お任せくださいクレナイ様! あとそれでしたら外までお見送りいたしますでありんす」
「いや、大丈夫だ。時間も限られていることだしシャルティアにも準備などの時間は必要であろう。自分は召集の時間までに間に合えば問題ないのでな」
「はっ! かしこまりましたでありんすクレナイ様。寛大なお心遣い感謝いたします」
「ああ、それではまたあとで会おうシャルティア」
とはいえ、自身がこれまでしてた行動に対しまだ羞恥心を消せないクレナイ。そのような関係もあり、伝えるべきことを伝え終わるとほぼ同時にクレナイは逃げるようにシャルティアの私室を後にしたのだった。
部屋から離れしばらくして――――「くぅ~っ! 誰か! 一刻も早くこの衣服に最上位の保護系魔法をかけれる者をここに! 永久保存、永久保存をでありんす!」と女性の声が聞こえた気がしたが、自身の空耳だろうと考えたクレナイは改めて足を動かしたのであった。
予想以上に文字を喰って、闘技場まで行けませんでしたw
それはさておき……モモンガ様マジで優秀w シャルティア、ありんす言葉と素の使い分けを考えるのが中々大変(でも楽しい)
そして、書籍の感想……漆黒聖典、マジで叩き潰す(作者の殺る気、限界突破!)
と冗談?はさておき今回もお読みいただきまして誠にありがとうございました。次回もまたお読みいただけたら嬉しいですm--m