Jumper -世界のゲートを開く者-   作:明石明

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第78話「大乱闘!スマッシュフロニャルド! その⑥」

『なんと三人目! パスティヤージュの勇者レベッカ、ここに参上ぉ!』

 

 

 レベッカ参戦と同時に会場は大きな歓声に包まれた。

 ビスコッティ、ガレット陣営からは新たな勇者誕生に対して。パスティヤージュ陣営からはそれと同様に自軍の勝利に希望が出てきたことに対して。

 このような事態を阻止するために動いていたシンクと七海だが、浮かべる表情は悔しさよりも幼馴染の参戦を喜んでいた。

 メカメカしい機構を備えた箒に跨り空から出撃するレベッカとクーベルが映し出された映像を眺め、尊は各陣営の勇者が(シンク)(レベッカ)(七海)で分かれているなと思いながらシンクに一撃お見舞いしつつ一度距離を取る。

 

 

「さて。おまえたち二人の目的だったレベッカちゃんの奪還作戦は御覧の通り頓挫した。これで戦は通常通りのポイント獲得による総当たり戦に移行。でもって俺たちは、この戦いにおいて無視できないボーナスターゲットだ――この首、獲りに来るか?」

 

 

 首筋を手刀でトントンと叩きながら挑発をかけるが、シンクは笑みを浮かべてトルネイダーを作り出す。

 

 

「確かに尊さんをここで倒せれば戦は有利になりますけど、僕らはベッキーのところに行きますよ」

 

「せっかくやる気になってくれたんですから、拗ねられないように相手してあげないと!」

 

 

 言うや否や、七海が紋章砲で水面を穿ち巨大な水柱を打ち上げる。クロノがかまいたちを放って視界を確保するも、既に二人は大きく距離を開けてレベッカの迎撃に向かっていた。さらに同時に相手取っていたキャラウェイも、三つ巴が崩れれば自分が不利になると悟り、すぐさまだま化した相棒を回収して自陣へと撤退した。

 それを追撃するでもなく、尊とクロノは戦闘態勢を解く。

 

 

「逃げられましたね」

 

「なに、俺たちにとって撃破の有無はそこまで重要じゃない。楽しむだけ楽しんでいこう。――さて。レベッカちゃんが勇者として参戦したから戦も中盤ってとこか。そろそろサラも動くかな?」

 

 

 他のメンバーに紋章術を教えている際に試したいことがあると言って出遅れたサラを思い浮かべつつ、尊はクロノを伴って次のターゲットを求めて再び行動を開始した。

 

 

 

 

「ゆけぇ! レベッカ! パスティヤージュの勇者の力、見せびらかすのじゃー!」

 

「うんっ、クー様!」

 

 

 クーベルの説得に応じ本格的にパスティヤージュの勇者として参戦したレベッカは、魔女の箒のように飛ぶことができるブルームモードへと変化したパスティヤージュの宝剣『神剣メルクリウス』を駆り、自身の力を確かめるように戦場の空に輝力の軌跡を描く。

 右へ左へ。急降下からの急上昇。そして大きく派手なロール。操作感覚がゲームに近いのが幸いし、何物にも阻まれず自由に飛ぶ。その見惚れるような軌道に兵士や観客から大歓声が上がる。

 

 

「はーっはっはっは! そして、飛ぶのは勇者だけではないぞ!」

 

 

 この光景を誰よりも強く見たかったクーベルも込みあがる笑いを抑えられず、続けて右手を掲げる。

 

 

「目覚めよ! 天槍クルマルス!」

 

 

 指にはめられたパスティヤージュのもう一つの宝剣『天槍クルマルス』が主の命に応え光を発し形状を変える。

 指輪からマスケット銃のような形となったクルマルスを掲げ、クーベルはさらに輝力武装を展開。

 輝力が形をとり操縦桿とペダルがついた魔法の絨毯ともいうべき姿となり、クーベルをレベッカと同じ空へと飛翔させる。

 

 

「パスティヤージュ公女クーベル、これより参戦じゃ! 勇者レベッカとともに劣勢を覆す! スカイヤー、発進!」

 

 

 勇者に続いて公女の参戦にパスティヤージュ陣営の士気が大いに向上する。

 味方が活気づいたのを肌で感じ取り、クーベルはレベッカに並走して次の一手を下す。

 

 

「レベッカ、操縦は大丈夫か?」

 

「うん、ゲームみたいで思ったよりわかりやすい。これなら、なんとかなるかも!」

 

「うむ! ならば次は攻撃じゃ! さっき教えたとおりにやってみるとよいぞ!」

 

「はい! 勇者レベッカ、行きます!」

 

 

 箒を操作し一気に加速するレベッカ。兵士たちが入り乱れるフィールドに差し掛かると右ももにセットされたケースからカードを数枚取り出す。

 

 

「バレットカード、セット!」

 

 

 レベッカの輝力を受け無地のカードに絵文字が浮かび上がる。

 目標ポイントとタイミングを見計らって放たれたカードに晶術が宿り、着弾と同時に一定範囲を爆風が包む。

 空爆を受けた兵士たちは予想だにしない襲撃に散り散りとなるが、レベッカはそこへ更なる追撃をかける。

 

 

「それっ!」

 

 

 新たに繰り出したカードは広範囲に広がると帯電をはじめ、雷のような光弾が地上の兵士たちへ無差別に襲い掛かる。

 セルクルで咄嗟にジグザクに避けようとする兵士もいたが、追尾する光はそんな稚拙な回避も逃さない。

 他の陣営に航空戦力はなく、空から単騎でビスコッティとガレットの騎士団長を相手にしていた魔王も一時戦線を離脱したため、制空権はパスティヤージュへと傾く。

 

 

「はわわ! 味方がピンチであります!」

 

「まずいな……リコ、お前は機動砲術師隊を率いてレベッカ殿とクーベル様へ牽制を。私はガレット兵を相手にしつつ、パスティヤージュの飛空術騎士団を迎撃する」

 

「了解であります!」

 

 

 カエルたちとの戦闘から離脱し、自陣へ一時撤退したリコッタとエクレールは補給をしつつ対応を決めて陣地を発つ準備を進める。

 また、彼女たちよりも早く同じ戦域から撤退していたジェノワーズも、自分たちを執拗に狙っていたデナドロ三人衆から命からがら逃げおおせガレット陣営でようやく一息を入れていた。

 

 

「くはぁぁぁ……。バケモンかいな、あの三人」

 

「逃げきれたのが、未だに信じられない……」

 

「セルクルにも無理させちゃったし、しばらく休憩ね……」

 

 

 息も絶え絶えに三人は先ほどの相手を思い返す。

 自分たちと同じ三人組で全員接近重視でありながら連携に隙がなく、機動力は自分たちが知りうる中で最も早いビスコッティの隠密隊以上。攻撃手段は紋章術を用いない剣技のみで、しかしその技は振り抜くだけで裂空一文字のような衝撃波を圧倒的な速さで繰り出す。

 彼女たちにとって幸いだったのは三人衆が全力の全力を出していなかったことと、実戦での新しい連携技がどこまで通用するのかの様子見をしていたところへレオとロゥリィが乱入してきたことだ。

 いまなお周囲へ被害を拡大させている二人が来なければ、それこそ今頃自陣に戻ってはこれなかっただろう。

 

 

「戦況って、いまどないなってんの?」

 

「んー…見た感じガレット(うち)が優勢だね。パスティヤージュは新しい勇者がすごい活躍してて、ビスコッティに迫る勢いで猛追してるみたい」

 

「ポイントを稼ぐのならクロノスの誰かを狙うのが理想だけど……あれ? そういえばサラ様は?」

 

 

 尊を筆頭に戦場のあちこちでその力を見せつけているチームクロノス。

 その中の一人で自分たちもよく接していた女性の姿が確認できていないことにベールが首をかしげる。

 

 ――直後、パスティヤージュの飛空術騎士団が舞う空を複数の紋章砲が突き抜けた。

 

 

 

 

『何事でありましょうか! パスティヤージュが制した空を無数の紋章砲が襲う! 飛空術騎士団のブランシールたちが動揺しております!』

 

『あーっと! その隙を逃さぬかのように再び砲撃が迫る! この紋章砲は一体どこの攻撃でしょう!?」

 

 

 実況に合わせてカメラも砲撃の出所を探るべくレンズを丘の上へと向ける。

 その先には五つの輝力スフィアを展開し銀の杖を掲げる一つの人影が。

 

 

「一応の完成、といったところでしょうか」

 

 

 自分が求めていた成果を得られたことに一安心し、クロノス最後の一人――サラは小さく笑みを浮かべるとスフィアに陣形を取らせて輝力をチャージさせる。

 淡雪のような輝力の光が強く輝き、サラの背後に巨大な紋章を浮かび上がらせた。

 

 

「とくとご覧ください。これが私の輝力武装――『マルチスフィア』です! 砲撃(バースト)!」

 

 

 輝力が解放されそれぞれのスフィアから高威力の紋章砲が扇状に放たれる。隙間があるものの広範囲かつ、長射程の砲撃が今度は地上の兵たちを襲う。

 ただでさえレベッカの晶術によって混乱の極みにあった地上部隊は、そのほとんどが直撃を受け大量のけものだまを量産することとなった。

 

 

『異世界混同チームクロノスのサラ様! 春の戦では使用されていなかった輝力武装で三国の兵たちを薙ぎ払っております!』

 

『凄まじい範囲の砲撃! パスティヤージュの空中戦力はクーベル様とレベッカ様に加え難を逃れた飛空術騎士団の兵が少々! 地上のビスコッティおよびガレットの陸戦部隊はほぼ壊滅状態です!』

 

「ぬぅぅ、予想外の強敵出現じゃ。レベッカ! 二人で抑え込むぞ! あわよくば撃破で得点を稼ぐのじゃ!」

 

「はい!」

 

 

 さすがに看過できない火力を見せつけられクーベルはスカイヤーより機動力のあるレベッカの箒に乗り移り、二人そろって上空からサラに目がけて強襲をかける。

 

 

散弾(バレット)!」

 

 

 上空から迫る敵に対しサラはスフィアを円状に配置し、それぞれから拡散弾を打ち出す。先ほどの砲撃に比べれば威力も射程も劣るものの、面制圧により迎撃としては高い効果を発揮する。

 しかしレベッカは弾幕ゲームのごとく散弾の隙間を縫うように飛翔し、クーベルのクルマルスが届く射程まで無理やり突っ込む。

 

 

「クー様!」

 

「ここじゃあ!」

 

 

 レベッカの合図とともにクルマルスにチャージしていた輝力が解放される。迎撃の散弾が逆に輝力砲に飲み込まれ打ち消されるが、サラは慌てず輝力をチャージし杖を振るう。

 

 

反射(リフレク)!」

 

 

 攻撃をやめたスフィアが瞬時に集結すると淡雪色のフィールドを展開し紋章砲を防ぐ。しかしそれだけでは終わらず、受け止められた紋章砲は威力が減退したもののそっくりそのままレベッカたちの方向へ反射した。

 

 

「のじゃあああ!?」

 

 

 自分の攻撃が返ってきたことにクーベルから悲鳴が上がる。そんな中でもレベッカはサラの反射という単語を直感的に感じ取りギリギリのところで急上昇で回避した。

 

 

「な、なるほど…マルチってそういうことなんだ」

 

 

 肝を冷やしたレベッカはサラに追従するスフィアの仕組みを理解した。

 スフィアそれぞれが砲台となり、時には集結して攻撃を防ぐ盾となる。しかも輝力武装なので彼女がどういう攻撃をしたいか。どういう防ぎ方をしたいかもイメージで補完しつつ、声に出して命令することでより高い効果を発揮するなど、まさに多様性(マルチ)に重点を置いた戦法だった。

 しかし操作に集中する必要があるのか、スフィアに指示を出しているときにサラ本人から紋章砲などが飛んでくる気配はない。

 弱点らしい弱点といえばそれくらいしか確認できていないが、それを差し引いてもまるで要塞を相手にしているような威圧感があった。

 

 

「いかん。勢いで挑んでみたが予想以上に攻撃の汎用性が高すぎて手の内が読めんし、あまり時間をかけると逆転の目が消える。 ――レベッカ。得点は惜しいがここは離脱じゃ。二手に分かれてビスコッティとガレットの陣地に殴りこんでポイントを稼ぐ!」

 

「わかりました。じゃあ私はシンクたちのいるビスコッティに行きます」

 

「うむ! ならウチはガレットじゃ! ついでにレオ姉に一泡吹かせてやるのじゃ! 飛空術騎士団、散開せよ! 集団戦ができなくなったのは痛手じゃが、ほかの陣営も兵が激減しておる! あの広範囲の紋章砲に警戒しつつ、敵主力隊を根こそぎ打ち倒すのじゃ!」

 

『了解!』

 

 

 君主の命を受けパスティヤージュ陣営が四方八方へと散開する。

 目前の敵がいなくなったのを確認し、サラは展開していたスフィアを消滅させて輝力武装の仕上がりを振り返る。

 

 ――イタミさんに見せていただいたアニメを真似た輝力武装でしたが、一対多の戦闘なら攻撃魔法が使えないこの状況でも十分に渡り合えそうですね。また参考にできそうな作品があれば教えてもらいましょうか。

 

 伊丹としてはサブカルチャーで趣味の仲間を増やせたらとアニメを布教したつもりだったが、図らずも異世界で黒い三連星や魔砲少女が爆誕するという結果を招いたのだった。

 無論、特地でのほほんと過ごしている本人がそれを聞かされたら苦笑いと冷や汗を流すことだろう。

 

 

「追撃する理由もありませんし、次は誰かと合流して動いてみましょうか」

 

 

 後ろに控えさせていたセルクルに騎乗し、サラは仲間を探しに別のフィールドへ移動する。

 かくして、クロノスの全戦力は懸賞首に見合う通りかそれ以上の力を示し、戦場のいたるところで戦果を挙げては兵士たちの記憶にその実力を刻み込んだのだった。

 




お久しぶりです。前回の投稿から6年と半年ぶりの投稿となってしまいました。
ちまちまと続きを書いてもっとストックがたまってからまとめて投稿をと考えておりましたが、鳥山明氏の訃報を受けてクロノトリガーを題材にさせていただいた者として生存報告を兼ねての投稿としました。
まだまだ書き溜めが少ないため続きの投稿は時間がかかりますが、作品は進めていますので楽しみにされている方には申し訳ありませんが、長い目で見ていただけたら幸いです。

最後に、鳥山明先生に最大級の敬意とご冥福をお祈りいたします。

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