さて、今回から5話ほどカオスな戦を考えております。
それに伴いサブタイをどうしようかと考えたらこんなサブタイになってしまいましたが。
それはさておき、今回からフロニャルドの三国に尊たち異世界混同チーム『クロノス』がケンカを売っていきます。
また、尊たちが抱えたハンデはサンダガやアイスガと言った『全体魔法の禁止』だけですのでダークボムやメガトンボムと言った限定範囲技や魔法以外の全体攻撃は有効としています
。それを理解したうえで戦の展開をお楽しみください。
それでは本編第73話、どうぞご覧ください。
「先に行かせてもらうわよぉ!」
「エイラもいく!」
開戦が宣言されると同時に飢えた狼の如くロゥリィが先陣を切り、エイラがそれに続く。進行方向からしてガレット陣営に突っ込んだみたいだが、二人のターゲットから考えて迂闊に近づくと間違いなく巻き添えを食うな。
「ねえねえ、どこから行く?」
「どこでもいいぞ。ロゥリィたちみたいに敵陣のど真ん中に突っ込んで特定の敵を目指して大暴れするもよし、無差別に部隊を襲撃して戦場を引っ掻き回すもよし。チームを組んでさっき渡したリストに書かれた人物を襲撃するのもアリだ」
始まる前に渡した顔写真付きのリストには各陣営の主力が名を連ねており、ロゥリィはレオ閣下を、エイラはガウルに狙いを定めて突っ込んでいった。
「ミコトはどうするの?」
「俺はシンク…ビスコッティの勇者にケンカ売ってくる。前の戦じゃ決着つかなかったからな」
「私はビスコッティにいるという発明王と呼ばれている者に会ってみたい」
「ならレレイの護衛は俺が行こう。ちょうど、親衛隊長の少女と戦ってみたいと思っていたところだ」
「では、我らはこのジェノワーズという者たちと刃を交えて参ります」
「連携に長けた者同士、是非とも力比べをしたいですな」
「それに御館様とも顔見知りのようですので、是非ともここは我らに行かせてくだされ」
「おう。あいつらに力を見せつけて来い」
レレイとカエルがリコとエクレを狙いに定め、ガイナーたちがジェノワーズを標的にして戦場に進攻する。他にも魔王が空の敵が鬱陶しいからと単騎でパスティヤージュの飛空術騎士団を落としに行き、クロノは七海に挑むようだ。
残りの面々はギリギリまでサラから紋章術の扱いを教わるということなので、俺はベースジャバーを用意するとクロノを乗せて勇者たちを探しにフィールドへと繰り出した。
さて、久しぶりに輝力の制約がない戦いだ。派手に行かせてもらおうか!
◇
まず戦況が動き出したのは滝エリアの広場だった。ビスコッティの騎士団長とガレットの騎士団長が春の戦以来の直接対決と相成り、彼らに追従していた騎士たちも両名の邪魔をしない位置で戦いを開始する。そこへ漁夫の利を狙うように姿を見せるは第3陣営、大型獣ブランシールを操るパスティヤージュの飛空術騎士団だった。
「晶術砲弾、ってぇー!!」
隊長のリーシャ・アンローベの号令でパスティヤージュの騎士たちが手にした銃で地上の騎士たちを空襲。見た目はマスケット銃でありながら輝力の込められたパスティヤージュ独自の技術『晶術』の力によりホーミングレーザーを思わせるような軌道を描き、絨毯爆撃さながらの被害を地上軍に与えていく。
「ふむ。やはりパスティヤージュの飛空術士隊は厄介だな」
「確かに――ロラン。ここは戦列を維持するためにも共同戦線を張らないか?」
「その提案、ぜひ乗らせてもらおう」
互いの利害が一致すると、二人は阿吽の呼吸で前衛後衛に分かれる。そこへ騎士団長が揃って固まっているのを好機と見たのか、飛空術士隊がロランたちに向けて晶術砲弾の集中砲火を放つ。
「ロラン!」
「任せろバナード! 『障壁陣』!」
前に出たロランが盾を構えて紋章を発動。青白い光がドーム状に展開されると、空からの砲撃を完璧に抑え込む。しかも彼らの後ろに避難していた騎士たちにも全く被害が及んでいない。
「あーん! やっぱり硬い!」
『鉄壁のロランの代名詞! 防御の紋章術がパスティヤージュ飛空術士隊の攻撃を完璧に防ぎました!』
「今度はこちらからいかせてもらおう! 『天光破陣』!」
ロランの後ろで輝力を溜めていたバナードが槍の先を空に向け紋章砲を解放する。凄まじい速さで飛来した紋章砲は飛空術士隊の陣形中央で爆発し、その戦力をごっそりと削り取る。
「うそぉー!?」
『決まったぁ―――! バナード将軍の長距離紋章砲が炸裂! ロラン団長が防御特化なら、将軍は攻撃特化と言ったところでしょうか!』
攻撃の余波を受けてリーシャやだま化を逃れた騎士たちはそのまま方々へ墜落。これによりパスティヤージュは制空権というアドバンテージを失い、立て直しに時間がかかることになるだろう。
しかし、それで制空権がフリーになったかと言えばそうでもない。
「ほう、あれが紋章砲というものか」
新たに現れた声にロランたちの視線が空の一点に集中すると、そこには腕を組んで空に漂う一人の男がいた。
「ならば俺は、貴様らに魔法の力を見せてやろう」
「あれは、ミコト殿のところの!」
「まずい! 全隊、散開せよ!」
「遅い! 『ダークボム』!」
魔王の指先から魔力の塊が撃ち出され、固まっていた騎士たちの後ろで闇色の爆炎となって炸裂する。
ロランの防御に守られるために固まったのが仇となり、そこにいた騎士のほとんどが"けものだま"となって弾け飛ぶ。間一髪で逃れた両軍騎士団長だが、その炸裂範囲に冷や汗を流す。
「なんと強力な力だ…。もう少し反応が遅ければ、我々もただでは済まなかったな」
「これで力を制限しているというのだから、本気で来られたらひとたまりもないぞ」
「安心しろ、ルールには従うからこれ以上に強力な魔法は使わん。だが、俺の魔力は並外れているのでな。下級魔法でも貴様らを戦闘不能に追い込む自信があるぞ」
「なるほど、それは怖い――バナード」
「わかっている。共同戦線は続行だ」
二人は改めて武器を構えなおし、自分たちを見下ろす新たな敵に立ち向かった。
◇
騎士団長たちと魔王が戦闘に入った頃、最初から共闘態勢を結んだジェノワーズとエクレール、そしてリコッタの一行は自軍の兵たちに道を作るべくパスティヤージュの地上部隊攻略に乗り出していた。しかしここでも晶術を用いた精密射撃隊が立ちはだかり、彼女たちの進行を妨げていた。
「くっ、さすが技術大国パスティヤージュの晶術隊。易々と行かせてはくれないか」
「しかも弧を描くように広がっているので一点を撃破しても突破はまだ困難でありますよ」
「せやなぁ……。せめて真横に広がてくれとったら射角を利用できんねんけどな」
「お兄さんの陣営の誰かが乱入してくれたら戦況が楽になるかもしれない」
「ノワ、そんな都合の良い展開が起こるわけ――」
斬ッ!!
ベールが言いかけたところで突然精密射撃隊の真横から弧を描くかまいたちが三つ飛来し、陣形を文字通りズタズタに切り裂きながら大量の"けものだま"を生産する。
この状況を作った張本人たちは、逃げも隠れもせず堂々とやってきた。
「……前から思っていたんだが、お前たちのそのかまいたちは反則級だな」
「御館様も仰っておりました。おなじかまいたちでもクロノ殿やソイソー殿のものとは性能がかけ離れていると」
「剣速だけでかまいたちを発生させるのもなかなか理不尽。亜神なら出来るかもしれないけど、普通の人間には無理」
「しかしレレイ殿、イタミ殿の勧めてくださった映像では三方向から全くの同時に斬撃を放つ剣士がおりましたぞ」
「うむ。我らでもまだ二方向からほぼ同時に発生させるくらいしかできておりませぬが、彼も技量を積んでそれを可能にしたと言います」
「……ミコトが言っていたが、あれは作り話の技だそうだぞ」
「けどイタミたちからすれば、私やミコトたちの魔法も作り話の技らしい」
「ほう。レレイ殿の話を当てはめれば、我らが会得しようとしている技も別の世界で存在しているのかもしれんな」
「ならばやはり剣を極めれば作り話の技も実現できるかもしれんな」
「うむ、イタミ殿から借りた本にもあったな。諦めたらそこで試合終了だと」
「いかん、こいつらイタミに毒されてきている」
騒がしく現れたレレイ、カエル、デナドロ三人集にエクレールたちは暫し呆然とする。そこで不意に、ノワールが呟く。
「……都合のいい展開、起きた」
「……起きたなぁ」
「……起きたのであります」
戦開始から半刻。状況は徐々に動き出していた。
本編第73話、いかがでしたでしょうか?
伊丹の布教効果で三人集がさらにバグ化していきます。Jumper -IN CHRONO TRIGGER-で初めて導入した時はここまでバグらせるつもりはなかったのにどうしてこうなった……。
それはさておき、次回からサラたちも行動を開始します。
今のところパスティヤージュ勢がぼこぼこにされていますが、ベッキー参戦あたりからマシになるはず……。
ともあれ、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。