Jumper -世界のゲートを開く者-   作:明石明

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どうもこんにちわ、グラブルのデレマスイベントと相変わらず休みの取れない仕事に押しつぶされて執筆時間が取れなかった作者です。

さて、今回は箱根旅館での出来事をほぼ1話で終わらせてみました。
ロゥリィファンの皆様、申し訳ありません。聖下の無双シーンは執筆を試みたものの作者が挫折したため要約されました。
本当なら前半にサラとのデートシーンも追加しようか悩んだのですが、ダラダラ長引きそうでしたので機会があれば閑話として投稿します。

それでは前置きはこのあたりにして、本編第67話、どうぞご覧ください。


第67話「混沌と波乱の箱根」

 服を調達した尊たちは雑貨屋や露店で特地にいる仲間へのお土産を買ったりゲームセンターで遊んだりとそれなりに充実した時間を過ごし、新宿駅で伊丹たちと合流すると当初の予定通り箱根へとやってきた。

 バスを降りて山道を歩くこと数分。山海楼閣と掲げられた旅館に到着すると、一行は男女に分かれて各々旅の疲れを癒していた。

 

 

「いやー、眺めのいい露天風呂は最高ですね」

 

「ええ。これだけでも、日本に帰ってきた甲斐があります」

 

 

 芯まで染み渡るような温泉の熱が体に溜まった旅の疲れを癒す。

 風呂に入る日本人の(さが)か、三人の口からおっさん臭い吐息が漏れる。そんな中、伊丹がふと思いついたように口を開く。

 

 

「俺たちだけだなぁ……」

 

 

 思い返してみれば、門を抜けてから男のみという状況はそうそうなかった。昼間の自由行動では伊丹は単独行動を。富田はピニャとボーゼスを図書館に案内し、尊はサラとデートとなった。人数の構成上それは仕方ないことなのだろうが、女子の誰かと行動を共にすることが多かった。しかし、僅かな間をおいて尊と富田は先ほどの発言に別の意味を感じ取った。そう、具体的にはベンチに座ったツナギ姿の伊丹が前のホックを外しつつ――

 

 

 

 ――やらないか。

 

 

 

「僕は女の人が好きなんでっ!」

 

「俺にはサラがっ!」

 

「へ? ……ちょま、勘違いすんじゃねぇ!」

 

 

 くそみそ的展開が脳裏をよぎった二人が伊丹から逃れようと一斉に風呂から上がる。伊丹は誤解を解こうと追いかけるが、それが仇になり若干の時間を要することとなった。

 一方、そんなアホらしいことが男湯で起こっているとは露知らず、女湯では梨紗の持ちかけた話題で盛り上がりを見せていた。

 

 

「ねぇねぇ、サラちゃん。月崎君とはどうやって知り合ったの?」

 

「あ、それあたしも知りたい。教えてよ」

 

 

 栗林を筆頭にテュカたちも興味津々といった様子で視線を送り、サラは懐かしそうに当時のことを語る。

 

 

「そうですね……。ミコトさんと初めて会ったのは、ほんの2ヶ月ほど前なんです。あの時、私は悩みを抱えていて、気分転換に散歩をしていたんです。その途中で傷だらけのミコトさんと出会って…それが馴れ初めですね」

 

「たった2ヶ月前なの? それであんな仲にまで発展するなんて……最近の若い子って進んでるわ」

 

「それでぇ、サラはどうしてミコトが好きになったのぉ?」

 

「実は私、ここに来るまで二度も命を助けてもらっているんです。それも、どちらも助けに来たミコトさんが命を落としかねない危険な状況で。初めはその恩を返すために、私自身を差し出すと伝えました。でもミコトさんはそれを良しとしないで、私に自分が望む幸せを求めてもらいたいと言ってきたんです。それから何度も私が求める未来を思い描いているうちにいつもミコトさんが中心にいることに気づいて、そこであの人が好きなのだと自覚しました」

 

 

 初めはラヴォスが崩壊させた古代ジールで。もう一度はフロニャルドに現れた魔物との戦いで。フロニャルドの時は戦が終わった後に尊が抱えていた秘密を打ち明けられ、そこで恩義を感じて自分を差し出すと言い出した。だが、今にして思えばあの時の自分は魔物がプチラヴォスに変貌したり、尊に明かされた秘密の衝撃が強くて考える余裕がなかったが故の発言だったのかもしれない。

 

 

「それで、どっちが告白したの? 月崎君? それとも今の流れ的にサラちゃん?」

 

「ふふ。それは私とミコトさんの秘密です」

 

 

 既に栗林は察しているだろうと思いつつも、サラはもったいぶるように答えるのだった。

 

 

 

 

 

 

「あー、このまま年末まで残りてーな……7のツーペア」

 

「そうもいかんでしょう……9のツーペア」

 

「年末までというあたり伊丹さんらしいですね……うーん、パス」

 

 

 豪華な食事を終えて再び男女で別れた俺たち男組は、売店で買ったトランプを手に大富豪に興じていた。ルールは8切り、階段縛り、革命、ジョーカー、スぺ3(スペードの3であればジョーカーを切れる)あり。ジョーカー、2、8上がりなしで一位にはビールが、二位にはジュース、最下位には水が用意されている。

 女性陣も混ぜようかという話もあったが、向こうが女子だけで話をすると言ったため男は完全に締め出される形となった。

 

 

「尊君はサラちゃんと離れて寂しくないの? ジャックのペア」

 

「大丈夫ですよ。寂しくないと言えば嘘になりますけど、別にずっと離れるわけじゃないですからね。 富田さん、どうします?」

 

「パスします」

 

「よし! ならここで10のスリーカードだ!」

 

「ぬぅ、パスします……」

 

「これは行くしかない、クイーンのスリーカード」

 

「んげ!?」「うお!?」

 

 

 伊丹さんが勝負に出たのを契機に俺も取っておいたカードを惜しみなく放出する。キングは既に出尽くしたし、エースも2枚出ているうえに一枚しかないジョーカーも切られた後だ。そして2に関しても――

 

 

「さらに2のペア。これ以上強いカードがないから自動的に切り。次に8のツーペアで切って、最後に4のスリーカードで上がりです」

 

「ああ、クソ。流れるように勝ちを持ってかれた」

 

「では、月崎さんは賞品を先にどうぞ」

 

「ゴチになります」

 

 

 一位上がりに送られる予定だったビールに手を伸ばし遠慮なくプルタブを引く。缶ビール特有のプシュっと小気味良い音が鳴り軽く泡が噴き出る。

 さて、晩飯には出なかったから本当に久しぶりのビールだ。いっただきまー――――

 

 

 

ドンドンドン!!

 

 

 

 口をつけようとした瞬間に部屋の襖が乱暴に叩かれ、俺たちは弾けるように立ち上がる。

 まさかどこかの工作員が連中が乗り込んできたのかと警戒していると、思いっきり襖が開け放たれる。その先にいたのは――

 

 

「男どもぉ! ちょっとこっちこいやぁ!」

 

「こいやぁ!」

 

「あんたらかよっ!」

 

 

 一升瓶片手に酒臭い息を吐きながら、大音量で怒鳴り散らす栗林さんとロゥリィの出現に思わずツッコミが出る。しかし二人ともそんなことはお構いなしなのか、俺たちの襟首を引っ掴むと女性とは思えないパワーでずるずると部屋から引きずり出す。

 そのまま強引に引きずられて女部屋に放り込まれると、そこは男にとって天国か地獄か、非常に判断に困る光景が広がっていた。

 

 

【はれ、イタミどのではらいかぁー】

 

「うぇーぃ、のんでるぅー?」

 

 

 俺たちを連行してきた二人と同じく誰もが酒に酔っていて、グラスを傾けているピニャ殿下にボーゼスさん、酒が回ったのか寝落ちしているテュカの三人はあられもない姿を晒していた。

 日本酒やウィスキーといった、明らかに部屋の冷蔵庫にはない酒やチーズに柿ピー、ビーフジャーキーなんてものまで開け散らかされている。これは…晩飯の後に売店から買い込んできたな。

 

 

「あー、みことしゃーん」

 

 

 間延びした声が俺を呼び顔を動かすと、先ほどの三人ほどではないが浴衣が着崩れし顔を上気させたサラがグラス片手にとろんとした目をしていた。しかも呂律が回ってないから完全に出来上がってしまっている。

 

 

「だ、大丈夫か。サラ」

 

「らいじょーぶれすよぉ。ふわふわするおみじゅがきもちいいれすからぁ」

 

「サラ、それ水じゃない。酒だ」

 

 

 ふわふわするという時点でそう断定し、彼女の手にある酒を回収する。どんな酒なのかちょびっと飲んでみると、少量にも拘らず強烈な刺激が口に広がり喉を焼くような感覚が来たかと思えば、まるで水を飲んだようにスッキリとした感覚に変わる。

 今まで飲んだことのない味にどの酒なの調べようと、床に一本だけ転がっていた空き瓶のラベルを確認する。ラベルには力強い達筆で『流刃若火』と書かれていた。

 

 

「? なんだ、この銘柄の酒をどこかで聞いたような……」

 

 

 

 ――それと、これは我々からの差し入れです。ダルキアン卿がお好きなアヤセのお酒もあります。

 

 ――おお! 『流刃若火』でござるな!

 

 

 

「……え!? あれなのか!?」

 

 

 フロニャルドでエクレールがダルキアン卿に渡していた酒と同じ名前だが……偶然だよな? 飲んだことないから同じ物だと判断できないが。

 しかもよく見ればアルコール度数がまさかの30度オーバー。瓶の大きさから2リットル近くあったはずのその酒が空になっているということは、ここにいる面子でこれを飲み干したということになる。しかもそれだけじゃ飽き足らず現在進行形で他の酒を飲んでいるとか、普通に考えてやばい。

 

 

「サラ、深酒は体に悪いからここまでだ。今日はもう寝よう」

 

「えぇー、まららいじょうぶれすよぉー」

 

「呂律が回っていない状態で言われても説得力ないし、酔っ払いはみんなそう言うんだ。いいからこっちに――」

 

「よっしゃあぁぁぁ!」

 

 

ごすぅ!!

 

 突然後ろから嬉しそうな叫びが上がったと思えば何かを殴ったような音が聞こえ、確認してみると迷彩柄のブラジャーで覆われた胸を惜しげもなくさらけ出した栗林さんが酒瓶片手に拳を振り上げていた。そしてその前で顎を腫らした伊丹さんが倒れており、その様子から栗林さんが何かの拍子で振り上げた拳が直撃したのだろうと察せられた。

 よく見ると何があったのか、富田さんは真っ白に燃え尽きたボクサーのように部屋の隅でうずくまっている。いや、サラに構っている間に本当に何があった。

 

 

「あ! そーだつぅきざきくぅん!」

 

「は、はい!?」

 

「異世界渡り歩いてるんならいい男紹介してくらはい! いまたいちょーが特戦群の人紹介してくれるっていったんらけど、ついでにお願いしまふ!」

 

「んな無茶な!? というかソレさっさと隠してください! 目のやり場に困ります!」

 

「らめれふ! みことしゃんはわらひのれふ!」

 

 

 今度はサラが栗林さんに俺を取られまいとしだれかかり、フーッ!っと猫のように威嚇する。ダメだこのカオス、早く何とかしないと。

 クロノ世界の時からお世話になっている万能薬を使えば酔いを醒まさせることも可能だろうが、こんなくだらないことでいつ補充できるかもわからない万能薬を使うなど、無駄遣いもいいところ――。

 

 

「みことしゃん!」

 

「今度はなん――むぐっ!?」

 

「んむ……ちゅ…………あむ……じゅる」

 

 

 振り向いた瞬間、サラの唇が俺の口を塞ぎ言葉を封じる。しかもそれだけで終わらず、なんと舌まで差し込んで口内を蹂躙し始めた。

 酔っぱらっているとはいえ、普段の彼女からは想像もつかない大胆な行動ともたらされる感覚に脳みそが蕩けそうになり、俺はされるがまま押し倒される。

 

 

「……ぷはっ。えへへ……だいしゅきれす、みことしゃん」

 

 

 離された唇が糸を引く。貪りつくして満足したのか、幸せそうな表情で俺に覆いかぶさりながらサラは静かに寝息を立て始めた。

 一方の俺はようやく何をされたのか明確に理解でき、同時に体中の血液が沸騰したかのような錯覚に陥る。

 

 

「こ……これは、ヤバい…………」

 

 

 世間体的にマズい状況にならないよう必死に理性を保たせるが、あと一回来られたら理性が崩壊していた自信がある。というか、伊丹さんたちがいなければ襲っていると断言できる。

 おまけに体に溜まった熱は逃げ場を求めて俺の精神を削り、確実に理性というベルリンの壁を崩しにかかっている。

 

 

「か、かくなる上は――ふん!」

 

 

ゴスゥッ!

 

 全ての理性を総動員させて近くの机の角に向かって躊躇いなく頭を叩き付ける!

 激痛とともに意識が遠退いていくのを感じ、俺は失ってはいけない何か大切なものを守り切ったのを感じながら思考を闇に沈めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 ――ガガガ! ダンダン! カカカカカ! ピキ! パリン!

 

 妙な音が耳に届き、尊は意識を覚醒させる。

 いつの間に眠っていたのか思い出そうとするが、新たにガラスが割れるような音が聞こえ窓の外に目を向けたことでそんな思考も一気に消し飛んだ。

 窓の外では闇夜に溶けるような装備で武装した集団がサプレッサーのついた銃で撃ち合い、その合間をハルバードを手にしたロゥリィが笑いながら駆け抜け発砲している男に切りかかっていた。

 頭から真っ二つにされて絶命した男に目もくれず、ロゥリィはすぐ隣の男に向けてハルバードを薙ぎ頑丈そうな石庭ごと叩き潰す。

 いくつかの銃口がロゥリィに向けて発砲されるが、彼女はその直前に駆け出し射線から抜け出す。流れ弾がまた数発ガラスを抜け、部屋の壁に弾痕を作る。

 

 

「伏せてろ!」

 

「動いちゃダメ!」

 

 

 床に這っている伊丹が声を張り上げ、体を起こそうとしたレレイを栗林が抑える。ピニャとボーゼスを富田が守り、窓から死角になる冷蔵庫の陰に梨紗は伏せ、テュカは本日購入したコンパウンドボウでロゥリィを援護していた。

 

 ――なんだ、何が起きてる!?

 

 

「ちぃ!」

 

 

 尊は混乱しつつも自分の上に覆いかぶさっていたサラを守るように抱き寄せ、サテライトエッジをシールド形態で召喚し自分たちを覆う。何発かの流れ弾がシールドにあたるが、こちら側に被害が及ぶことはない。

 視界がシールドによって完全に閉ざされたが、向こうからは聞こえるだけで英語、ロシア語、中国語、そして少女の笑い声が飛び交い、銃弾とハルバードが交差していた。

 どれだけの時間が過ぎただろうか、いつの間にか銃声も男たちの声も止み、辺りに不気味な静寂が漂う。尊は警戒しつつシールドを収納し、栗林にサラを任せて起き上がった伊丹とともに外を伺う。

 二人の目に飛び込んで来たのは、多くの死体と血の海に佇み、月光に照らされ恍惚とした笑みを浮かべる死神(ロゥリィ)の姿だった。




本編第67話、いかがでしたでしょうか?

大富豪のルールは作者の地元で最もポピュラーなものを使いました。
あと酒の力でサラも暴走させてみました。酔っぱらっているから仕方ないよね。(ゲス顔
さて、早ければ次回には特地に戻り、一度閑話を挟んで新章という流れになるかと思います。
新章から様々な伏線の回収やオリジナル展開を投入していきますので、問うぞお楽しみに。

それでは、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。

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