Jumper -世界のゲートを開く者-   作:明石明

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どうもこんにちわ、今更ながらRAVEとFAIRY TAILのコラボOVAがあったことを知った作者です。

さて、今回はアニメ第9話の観光シーンに該当します。
タイトルから想像できるかと思いますが、できるだけイチャコラさせてみました。
しかしその代償というわけではありませんが、前回予告した箱根に辿り着いてすらいません。
次回にはそこまで進ませるつもりなので、ご容赦を。

それでは本編第66話、どうぞご覧ください。


第66話「デート」

 これほどまでに衝撃を受けたのはいつ以来だろうか。まさか、まさか伊丹さんに――

 

 

「元とはいえ嫁さんがいたとは……」

 

「なんて物好きな……! けどこれは、なんか納得できてしまう組み合わせね……」

 

 

 よれよれのジャージに半纏、何日か風呂にも入っていないのか少しぼさっとした髪と大きめの眼鏡とパッと見ただけでオタクな感じが漂ってくる。

 栗林さんの発言に「誰が物好きよ!」と反論しているが、確かに今のは軽率な発言だったな。経緯はどうあれ、二人が夫婦になったのはそれなりの理由があったのだろうし。

 驚くのも結構だが寒空の下、いつまでもいるわけにもいかないのでお邪魔させてもらうことにする。

 これだけの人数が入るのか少し不安だったが、座るスペースくらいはどうにかあった。しかし部屋のあちこちに置かれた同人誌や本棚の上にある人形が彼女――梨紗さんが伊丹さんと同類であるというのがよく理解できた。

 

 ……ただ、18禁BL本(こんなの)が無造作に置かれているのは非常に気まずい。

 

 ピニャ殿下たちは興味津々に読んでいるが、サラの眼には止まらないようにしなければ。

 スペースを作るフリをしながらその手の本を押し入れに封印し、うっかり開けられないように門番の如く座り込む。

 

 

「みんな、とりあえず飯にしよう。好きなものを選んでくれ」

 

 

 意識も先ほど購入してきた弁当類に向けさせ、適当に配る。

 みんなが食べたいものを手に取っていく中、俺も手近なおにぎりを手に取って包装を剥き頬張る。うむ、やはりどこの世界でもツナマヨは最高だな。

 久しぶりの味に頬が緩むのを感じながら二口目をかぶり付いたところで、富田さんが携帯電話を手に難しい顔をしているのに気づく。

 

 

「どうしたんですか?」

 

「ん? ああ、見てください」

 

 

 見せつけられた画面に目をやり、俺は思わず声を漏らす。

 表示されているのは速報のニュースサイトで、一面には『市ヶ谷会館で出火』と書かれていた。

 本来なら今日はそこに宿泊する予定だったので、これもどこかの連中がやらかした可能性が非常に高い。

 そう考えると、伊丹さんの危機回避能力は神がかっていると言えるだろう。地下鉄然り、今回のこと然り。

 

 

「なんと書いてある?」

 

 

 レレイが同じように携帯電話の画面を見るが、日本語を話せても読むことはまだできないみたいだ。

 

 

「泊まる予定だった場所で火事があったらしい。今日一日のことを考えれば、作為的な臭いがプンプンする」

 

「じゃあ、今日はここに泊まるの?」

 

「そうなるな。――伊丹さんも匿ってほしいって頼んでるし」

 

 

 少なくとも、今日はここで一泊するのは確定だろう。明日のことはその時に決めるだろうし、明後日には特地に戻るんだ。伊丹さんの性格から推測して、どこかで買い物に時間が割り振られそうだ。

 そのあとは寝床を割り振ることになったのだが、座るならともかくそこまで広くないアパートの一室では横になるとなれば大きな制限がかかる。

 シェルターが設置できればよかったんだが、こんな場所では展開できるはずもない。結局は俺とサラが廊下で自前の寝袋を使って寝ることになり、残りは狭いながらも居間で寝ることとなった。伊丹さんは申し訳なさそうにしていたが、この程度はなんてことない。

 時間も時間なのでみんなが次々と床に就く中、俺も寝ようとするがなかなか寝付けないでいた。

 居間の方から富田さんと梨紗さんの話声と、梨紗さんが同人誌を書いている音だけがやけに大きく聞こえる。

 

 

「……ミコトさん、起きてますか?」

 

 

 俺に寄り添って寝ているサラから小さく声が上がった。

 

 

「なんだ、眠れないのか?」

 

「ええ。少し父と会った時のことを思い出して……」

 

 

 その言葉を聞いて納得した。クロノ世界で緑の夢のイベントがあった時、どういうわけか俺たちはサラの父――アウルさんが生存している時代に向かうことができた。あの時も俺たちはこうして身を寄せ合いながら寝ていたが、サラはその時のことを思い出していたのだろう。

 今にして思えばあれはクロノ世界の星がルッカのために過去を変えられる瞬間を開いたように、サラとアウルさんを引き合わせるためにゲートを開いたいのではないだろうか。

 

 

「それにイタミさんとリサさんが元はご夫婦だったと聞いた時は驚きましたけど、どうして別れることになったのかも気になったんです。話を聞いている限りでは不仲となって別れたわけではなさそうなのに、何故そうなってしまったのか」

 

「それこそ人それぞれとしか言いようがないと思うが……どうしたんだ?」

 

「……こんなことを尋ねるのは酷いかもしれませんけど、ミコトさんはずっと一緒にいてくれますよね?」

 

 

 不安そうなサラの瞳が俺を捉える。アウルさんとの話と思い出したうえで今の梨紗さんたちの話を聞いて、もしかしたら自分もこうなるのではと勘繰ってしまったのだろう。

 寝たままの体制で腕を伸ばし、サラをぎゅっと抱きしめる。突然のことに少し驚いたようだが、安心させるように声をかける。

 

 

「大丈夫だ。俺はずっとサラと一緒にいる。引き裂かれるようなことになっても、絶対に迎えに行く。サラが俺のいない世界を受け入れられないって言ってくれたように、俺もサラがいない世界を受け入れられないからな」

 

「ミコトさん……」

 

「ありきたりな言葉かもしれないけど――愛してる、サラ」

 

「……私も愛してます、ミコトさん」

 

 

 サラの腕が俺の背中に回り、抱きしめられながらサラの温もりを感じる。

 最上の安心感と幸福感に包まれながら、俺たちは静かに眠りに落ちた。

 

 

 

 翌朝になって抱き合っている姿を発見され、他の人たちから温かい眼差しとともに囃し立てられることになったが。

 

 

 

 

 

 

「ぃよぉーし! 今日は楽しむぞ!」

 

「はぁ? 楽しむったって、こんな状況じゃそれどころじゃないんじゃないですか?」

 

 

 朝食を終えて伊丹さんが開口一番にそう宣言する。しかし栗林さんの言う通り、楽しむといってもどこかの敵に目をつけられているはずなのに、そんなことしてていいのだろうか。

 

 

「いいか! 俺のモットーは食う寝る遊ぶ、その間にチョットの人生だ!」

 

「なんですか、その三連コンボは……」

 

「第一、向こうさんが俺たちの位置を知ってるなら、どこだって危険だ。それならいっそ、人目のつく場所にいた方が安全だ」

 

 

 富田さんのツッコミをスルーしたが、言い分は理解した。

 こそこそと移動していたら万が一捕まった時非常にマズいが、捕まえるところを見られるのは相手からしても避けたいはずだ。

 そう考えると人目のつく場所で堂々と振る舞っていれば、昨日の参考人招致の件もあって嫌でも注目されるだろう。そしてその注目されることこそが、自分たちの身を守る術となるわけだ。

 

 

「理由は分かりました。具体的には、どうしますか?」

 

「はいはーい! お買い物行きたい! 渋谷とか原宿とか!」

 

 

 真っ先に名乗りを上げたのは少し前に脱稿したと喜んでいた梨紗さんだ。手にした義援金と書かれた封筒を掲げ嬉しそうに提案するが、その金は遊ぶための物じゃないはずでは……。

 それでもせっかくの東京だからいろいろ買い物をしたいという声がほとんどを占め、午前中は分かれて行動し昼に落ち合ってから温泉に移動ということに決定した。

 梨紗さんを筆頭にレレイ、テュカ、ロゥリィが買い物に向かい栗林さんがそれに同行。ピニャ殿下とボーゼスさんは図書館に行きたいということで富田さんが同行するらしいが、昨日の様子では二人が求める本は図書館にはないだろう。

 で、俺とサラは伊丹さんと一緒に行動かと思いきや二人での自由行動が認められてしまった。

 こういう場合、自衛官の誰かと行動した方がいいのではと思ったのだが俺は仮面がなければ特地から来た参考人とは思われないし、サラは交渉のために同行したピニャ殿下と同じく公に姿を見せていないので珍しい人で済まされる可能性が高いとのことだ。

 人目につくところを中心に動くことだけ意識して楽しんでくるといいと言われ、せっかくなのでお言葉に甘えることにした。たぶんこの好意の裏には今朝のことが絡んでいるのかもしれないが、存分に活用させてもらおう。

 行動方針が決まると時間は待ってくれないと梨紗さんが逸らせ、それぞれのグループに分かれ行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

「――まずは、服をどうにかするか」

 

 

 顔が割れていないとはいっても、二人の服装は少々目立つものだ。その気になれば民族衣装で通せるかもしれないのだが、せっかくだから日本の服をと思いついた尊はサラを連れてそこそこ大きなアパレル洋品店へと足を踏み入れた。

 様々な組み合わせの服があちこちに展示されているのが珍しいのか、サラは驚いた様子で店内を見渡す。

 

 

「こんなにたくさんあるんですね」

 

「まあ、フロニャルドやクロノ世界とは違うからな。 ところでサラ。先に言っておきたいんだが、生憎と俺は女性の服選びなんて生まれてこの方やったことがない。だから店の人に任せてしまうけど、構わないか?」

 

「ええ、大丈夫です」

 

 

 フロニャルドではジェノワーズの三人娘やガレットのメイドたちが。クロノ世界ではパレポリに寄ったとき店の人に任せて選んでもらっていた。本来なら尊は自分が選んでやりたいと思っていたのだが、女性の服に関するセンスが正しいのかわからないのでその道のプロに頼むことにした。

 ちょうどこの頃、別の場所では梨紗の手によりレレイたちが大変身を遂げていたのだが、サラの服も彼女に任せればよかったのではと尊が気付いたのは合流した後になってからだった。

 

 

「すいません、彼女に似合う服をいくつか揃えてもらいたいんですけど、お願いできますか?」

 

「あ、ハイ。お任せください」

 

 

 店の人にサラを任せ、尊はメンズコーナーに移動して自分用の服を適当に見繕う。

 資金に関しては十分あるので、普段なら悩むような額のジャケットも即決で購入していく。

 

 ――予想通りというか、あっさり終わってしまったな。

 

 男の服選びなんてこんなものかと独り言ちながら試着室を借りて購入したばかりの物に着替え、トイレに行くフリをして伊丹から預かったコート以外のすべてを亜空間倉庫に収納して店に戻る。

 店内を見渡してもサラの姿は見当たらず、試着室の前に女性店員数名が服を手に集まっているのを見てあそこにいるのかもしれないと思いながら適当に店内をぶらつく。

 するとアクセサリーワゴンが目が留まり、時間つぶしも兼ねてざっと眺める。

 シルバーアクセサリーを筆頭にヘアピンやブローチといったものが並べられ、なかなかの品揃えを誇っていた。

 

 

「……へぇ、宝石のペンダントなんてのもあるのか」

 

 

 価格が安いので本物ではない模倣宝石なのだろうと思いながら自分の誕生石に相当するものを手に取り、裏面に書かれた説明文を流し読みして尊はふと思いつくとワゴンを漁りだす。

 商品を手に取っては説明文に目を通し、いくつか候補を絞り出すと最終的に一つを選びレジで会計を済ませる。

 品物を受け取り後はサラを待つだけだと思っていたところへ声がかかった。

 

 

「ミコトさん」

 

「おっ、終わった…か……」

 

 

 顔を向けた瞬間、尊は思わず声を失った。

 結い上げられていた髪はすべて下ろされており、寒色で合わされたスカートとセーター、雪のようなストールが彼女の持つ上品さをこの上なく引き出していた。

 女性のファッションに疎い尊でもこれ以上ないほどに似合っていて、すんなりと言葉が漏れる。

 

 

「……すごく似合ってる」

 

「ふふ、ありがとうございます。と言っても、お店の人のおかげなんですけど」

 

「とんでもございません! お客様は良いものをお持ちです! 私たちとしても合わせ甲斐がありました!」

 

 

 いい仕事をしたと言う気持ちが店員たちの非常に良い笑顔から伝わってくる。

 この服をそのまま着ていくという形で会計処理を済ませ、最初に着ていたものを他の服と一緒に袋に詰めてもらい店を後にすると人目のつかない場所で手荷物を亜空間倉庫に収納。あとは気の向くままに街を練り歩く。

 道行く人がすれ違う度にその姿を追い、サラはジールにいた時とは違った注目のされ方にこそばゆいものを感じた。

 

 

「なんだか、みなさんこっちを見てますね」

 

「そりゃ、サラが綺麗だからな。俺だって街中で見かけたら、間違いなく目で追う」

 

 

 こんなに注目される美人が自分の彼女だなんて、本当に自分にはもったいないくらいだと改めて尊は思う。

 周りからの視線を受けながら街に目を向けると、サラの視界に一組のカップルが腕を組んで歩いている姿が入った。

 僅かに思案し、サラは思い切って尊に提案する。

 

 

「ミコトさん。あの、腕を組んでも、いいですか?」

 

 

 彼女からそんな頼みが出るとは思わなかったのか、尊は一瞬目を丸くすると小さく笑って「もちろん」と答え腕を差し出す。

 先ほどのカップルの見よう見まねで腕を絡め、寄り添うように街を歩く。

 

 ――よく考えれば、付き合ってから初めてのデートだよな。ゆっくりできる…とは言い難いが、せっかくの機会だ。じっくり堪能させてもらおう。

 

 次はもっと気を楽にして行きたいと思いながら、二人は図らずも出来た一時を存分に楽しむのだった。

 

 

「あんな美人とデート、だと……」

 

「羨ましい、妬ましい、恨めしい……」

 

「イケメンは死ね、イケメンは死ね、イケメンは死ね……」

 

 

 ――その様子を見ていた通行人(主に独り身)から呪詛のような言葉が上がっていたが、それも冷たい風が冬の空へと巻き上げ消えていった。

 




第66話、いかがでしたでしょうか?

次回こそ箱根入りさせる予定です。
一部キャラ崩壊が存在しますので、予めご了承ください。

それでは、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。




この作品が終わったら今度こそMLOWに力を入れようと思っているのに、そんなときに限ってオリジナルやグラブルの作品構想がががががが

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