Jumper -世界のゲートを開く者-   作:明石明

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どうもこんばんわ、数年分のデータを溜めていた2TBHDDが突然お亡くなりになりモチベがブラックホールに吸い込まれるように消え去ってしまっていた作者です。

さて、今回はアニメ第7話に該当する場面となります。
原作と比べて微妙に展開が違ったりしますが、概ね同じ流れのはずなので問題はないと思います。

それでは本編第63話、どうぞご覧ください。


第63話「いざ、日本へ」

 結果から言えば、伊丹さん救出作戦(?)はあっけないほど簡単に終わった。

 まず城門の兵士たちは俺たちが来ると顔パスで中に入れてくれ、城壁の騎士はテュカの精霊魔法によって眠りの世界へ旅立った。

 その隙に外で待機していた富田さんたちを誘導し、フォルマル伯爵の屋敷に潜入。途中でこちらを待ち受けていた屋敷のメイドであるネコ耳ウサ耳のお姉さん方に案内され、他のメイドさんたちに手厚い看護をされている伊丹さんのもとへたどり着いた。

 とりあえず傷が酷い伊丹さんを見かね、サラがさっそく魔法による治療を行うことに。

 

 

「――お、すげえ。怪我した場所が全然痛くねえ」

 

「傷は完治していると思いますけど、何か違和感があれば言ってください」

 

 

 ケアルガで消えた傷や痣に触りながら感心する伊丹さんにサラが確認を取ると、傍に来た富田さんが感心するように言う。

 

 

「それにしても、魔法って本当に便利ですね」

 

「便利は便利ですけど、今は魔力を回復させるアイテムが少ないので乱用できないのが欠点ですけどね。あと、魔法で回復するのは傷だけで疲労は回復しないんですよ」

 

「なるほど、だから体の怠さは抜けてないのか」

 

 

 俺の説明に納得したように伊丹さんが呟く。疲労が回復しないというのは実体験からの助言だが、まあ一晩寝たらある程度はマシになるだろう。筋肉痛の場合、どうなるか知らないが。

 さて、と一息ついて辺りを見回すと、倉田さんはネコ耳メイドさんに熱いアピールをかましており、メイドさんは満更でもなさそうに笑みを返している。

 ほかにも栗林さんがウサ耳のメイドさんに盗賊との戦いを絶賛され、謙遜しながらも嬉しそうに答えている。また視線を動かしてみれば髪の毛が蛇の女の子をレレイが興味深そうに観察しており、ヒト種のメイドさんがテュカのシャツに興味を持って話しかけ、メイド長と思しき妙齢の女性はどうやらエムロイの信徒らしく興奮気味にロゥリィに話しかけている。もっとも、ロゥリィ本人は物欲しそうにどんどん数を減らしているお菓子にちらちらと視線を送っているが。

 

 

「急いで帰る必要はないみたいですね」

 

「夜が明けたら曹長を呼んで帰りますか、隊長」

 

「そうだな。ま、今日は文化交流ってことで一晩過ごしますか」

 

 

 伊丹さんの一言でその後は軽いどんちゃん騒ぎとなり、俺やサラも出された料理に舌鼓を打ったりメイドさんを交えて話を広げたりするのだった。

 ――この後、また面倒なことになるとは露知らず。

 

 

 

 

 

 

【――で、その傷は?】

 

 

 苛立ちのこもった声でピニャが問う。

 彼女の前には微妙な表情を浮かべる自衛隊と尊たち、それと治したばかりなのに新しい傷を顔にこさえた伊丹と青い顔で震える縦ロールが特徴的なボーゼスがいた。

 ピニャの計画では問題を起こしたボーゼスに躰を使って伊丹を籠絡させ、それで今回の協定破りをなかったことにしようというものだった。

 命令を下された当初、ボーゼスもピニャと帝国のためにと決意を固め、男の情欲をあおるような透け透けの服を纏って伊丹がいる部屋へ赴く。しかし和気藹々とメイドたちと交流している自衛隊とその他の光景が視界に飛び込み、誰一人として自分に目を向けようとしなかった。

 誇り高い帝国侯爵家の次女としてのプライドと、こんな格好をしてきたにもかかわらず相手にされないという激情に駆られ、ボーゼスは頭に血を上らせたまま怒りの矛先を全て伊丹にぶちまけてしまい今に至る。

 

 

【……わたくしが、やりました】

 

【はぅああぁぁ~~~~~~ッ!?】

 

 

 蚊が鳴くような声で発せられたボーゼスの告白にピニャの口から絶望に満ちた悲鳴が上がる。

 籠絡して協定破りをなかったことにするよう命じたはずなのに、あろうことかさらに攻撃を加えて協定破りを重ねたとあれば無理もない。

 

 

【この始末、どうしてくれよう……】

 

 

 必死に考えて出した答えがあの命令だったのだ。それすらも無になった今、ピニャに新しい策などありはしなかった。

 そんな彼女を見かねたのか、富田が気遣うように提案する。

 

 

「あ、あのー。隊長はこちらで引き取るので、そちらのことはそちらで決めていただければ」

 

【勝手にやっていい、と言っている】

 

【それは困る!】

 

 

 レレイの翻訳内容に彼女は即答する。協定破りの件はここでなかったことにしたいのだ。そのまま持ち出されてしまえば帝国に付け入る隙を与えたままになってしまう。ピニャは皇女として、それだけは何としてでも阻止しなければならない。

 

 

【そ、そうだ! もうじき夜が明ける! 一緒に朝食を取ろう! そうすれば考えも……!】

 

「朝食を一緒に取ろう、と言っている」

 

「あー、申し訳ありません。実は隊長、国会から参考人招致がかかっていまして、今日中に戻らないとマズいんですよ」

 

「コッカイ?」

 

「簡単に言えば、国を動かす政府機関だな」

 

 

 聞き慣れない言葉の問いに尊が補足を加える。

 今回の通訳をレレイが担当しているのは、彼女が自分の通訳としての実力がどの程度まで使えるのか試したいと申し出たのがきっかけだった。

 今のように日本側の知らない単語については、よくわかる尊が補足を加えて翻訳の精度を上げるようにしている。

 説明を受け、倉田が言った内容をピニャでもわかるように翻訳する。

 

 

【伊丹は元老院に報告を求められている。そのため、本日中に戻らなければならない】

 

【げ、元老院だと!?】

 

 

 レレイとしては国を動かす機関と聞いて帝国に該当するものを当てはめて伝えたつもりだが、ピニャの中では全く別の意味で捉えられた。

 

 ――たかが一部隊の隊長が国の指針を取り決める機関から招集がかけられるなど、余程の地位にいる者でなければあり得ない。ならばこの男…冴えない風体をしていながらエリートキャリアだというのか!?

 

 彼女の頭には日本の皇帝(空想)に跪き、協定破りが行われたことを事細かに報告する伊丹の姿がよぎった。

 自衛隊の力を直ぐ近くで見ていたこともあり、連鎖的にその報告だけで自衛隊が本格的に帝国に攻め入る可能性があると彼女は至った。

 最も尊を含め、自衛隊の面々はそれだけで部隊が本格的に攻め入る理由にはなり得ないと断言するだろう。

 しかし日本という国をよく知らず、自分の世界の常識を当てはめるしかできなかった彼女はそれだけは何としてでも阻止せねばと伊丹に告げる。

 

 

【――な、ならば! 我らもアルヌスに同道させてもらう!】

 

「アルヌスへ一緒に行くと言っている」

 

「……はっ?」

 

【此度の件、そなたたちの指揮官に、正式に謝罪させていただきたい! よろしいな、イタミ殿!】

 

「えぇーっ!?」

 

 

 予想斜め上の展開に伊丹が本気なのかと言わんばかりに困惑の声を上げる。

 結局、謝罪のために問題の原因となったボーゼスと上官であるピニャがアルヌス駐屯地に同行することとなり、竜の鱗を売りに行くだけだったはずのイタリカ訪問はこうして終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 およそ3日ぶりにアルヌスへ帰還し、通訳のため伊丹についていったレレイと別れ難民キャンプに戻るなり、尊たちは出発の前にはなかった新しい建物と掲げられた看板を見上げていた。

 

 

「アルヌス協同生活組合?」

 

 

 キャンプの入り口付近に出来たそれは自分たちの住まいであるプレハブと同じ物で出来ており、窓から中を伺うとカトーを筆頭にクロノ、マール、ルッカが難民らと何か作業をしていた。

 すると向こうもこちらの存在に気づいたのか、机に向かっていたマールが立ち上がると直ぐに出迎えに来た。

 

 

「みんな、おかえり!」

 

「ただいま」

 

「――ねぇ、マール。これなぁに?」

 

 

 テュカが答えたのをきっかけにそれぞれがただいまと応え、ロゥリィが看板を指さしながら問う。

 

 

「カトー先生の提案でね。このキャンプで自活していくために、個人じゃなくみんなで助け合っていくために設立したの」

 

「今のところレレイ、テュカ、ロゥリィ、カトー先生が組合の幹部としてカウントされてるわ。加えて私たち異世界組からはミコトさんとサラさん、私、ロボが幹部補佐として名前が挙がっているわ」

 

 

 後ろから話を聞いていたルッカが補足を加え、幹部に指名された面々は寝耳に水だとばかりに驚く。

 その反応も当然だと加えつつ、ルッカは説明をする。

 

 

「理由は複数あるけど、まずほとんどがキャンプにいるみんなからの推薦よ。カトー先生を含めてレレイたち三人は日本語の理解力が上から数えた方が早いし、今のところ一番自衛隊とかかわりが深いのも一因ね。異世界組に関しても同様、特にミコトさんは満場一致で決定したわ。組合設立前から自衛隊との連絡係もやってたし」

 

「なるほど――ん? だったら俺が幹部にねじ込まれていてもおかしくないか?」

 

「それなんですけど……立ち話もなんですし、続きは中で話しましょう」

 

 

 クロノに促され、尊たちは組合事務所の中へ足を踏み入れる。

 内装を見て尊が受けた印象は、元の世界で就職活動の際に訪れた小さな会社事務所と同じようなものだった、

 備品も自衛隊から支給されたものなのか、スチール製のデスクと棚に折り畳みの長テーブルとパイプ椅子が並んでいる。しかもよく見ると、一つしかないスチールデスクには月崎と書かれたネームプレートが立てられていた。

 つまり、そのデスクは尊専用の物だということだ。

 

 

「事務所が大きくなったら、また机をそろえてくれるそうです」

 

「……そうか。 ――じゃあ、さっきの続きを頼む」

 

 

 幹部補佐のはずなのにいきなり専用の机が与えられたことで、これから先どんなことを任せられるのか容易に想像出来ると思いつつ、尊は自分の椅子に腰を落ち着け肝心な内容の説明を求めた。

 

 

「まずミコトさん……というより異世界組が全員幹部補佐なのは、最終的に私たちがいなくなってもいい事態を見越しての割り当てです」

 

「どういうこと?」

 

「俺たちはいつか元の世界に戻るつもりだからさ、俺たちがいないと組合が回らないなんて状態になったらマズいだろ?」

 

 

 クロノからテュカへの説明を聞き、尊やサラも納得した。

 自分たちはこの世界に骨を埋めるつもりはないのだから、抜け出せないように枠へ押し込まれては後々面倒なことになるのは明らかである。それでも幹部補佐という位置にいるのは、まだ人材がそろっていないが故だろう。

 この説明に異論を唱える者がいないのを確認し、ルッカは続ける。

 

 

「次に組合の活動内容についてですけど、これは至ってシンプルですよ。基本方針は、ここに住むみんなが生きていくのに困らない生活を送れるようにすること。翼竜の鱗が主な収入源ですけど、これで得られたお金は盗難防止も兼ねて自衛隊に預かってもらいます。収支管理についてはカトー先生かデクスターさん、プロスさんかカムランさんの4人が担当しますけど、イタミさんの部隊にいるトヅさんって人が詳しいみたいなので協力を仰ぐことになってます」

 

「戸津さん……ああ、あの眼鏡の人か」

 

 

 尊のつぶやきで他の面々も思い出したのか、同じように「ああ」と声を上げる。

 

 ――しかしカトー先生を除いた収支管理の人たちの名前、どこかできいたような……。

 

 

「ところでイタリカから戻るときにトラブルがあったみたいですけど、結局どうなったんですか?」

 

 

 引っかかりを感じていた尊を他所に話は進んだらしく、今度はマールの方から質問が上がった。

 思考を打ち切り、尊はピニャの薔薇騎士団と接触したところから要約し3行で説明する。

 

 ・異世界の敵ということで武器を突き付けられるも協定を守るため説得のために出ていた伊丹を置いて逃亡。

 ・イタリカで協定破りの責任を取りに来たはずの女騎士(ボーゼス)が無視されたことで頭に血が上り治療してもらったばかりの伊丹を追撃。

 ・続けて起きた協定破りについての謝罪をするため皇女自ら同行し現在レレイを通訳に狭間陸将と会談中。

 

 かなり端折った説明だったが、上の二つだけで伊丹にどれだけの不幸が降り注いだのかクロノたちはよくわかった。

 

 

「俺たちから報告できるのは、こんなものかな。そっちは他にあるか?」

 

「こっちは特にありませんね。ミコトさんは、明日からまたあちこちの手伝いですか?」

 

「いや、俺は別でまた予定がある」

 

「予定?」

 

 

 マールが聞き返したのとほぼ同時に、事務所の扉がガラッと開かれた。

 

 

「尊くーん、テュカー、いるかー?」

 

 

 現れたのは完全装備から解かれて軽装になった伊丹だった。ちなみに顔の傷は既に治療済みである。

 

 

「伊丹さん。なんですか?」

 

「明日の参考人招致について説明をね。 それにしても組合の話は聞いたけど、こうしてみたら尊君が一番偉く見えるな」

 

「ただの机補正ですよ」

 

 

 自分が思っていたことを言われ苦笑いを浮かべる尊を他所に、サラが尋ねる。

 

 

「イタミさん、イタリカでも言っていましたけど、参考人招致ってなんですか?」

 

「んー、簡単に言えば特地の代表として門の向こうに行って、そこで二人とレレイに質疑応答をしてもらうんだ。二泊の予定だから、そんなに長く離れないけどね」

 

「門の向こうってことは……」

 

「世界は違うけど、俺の故郷だな」

 

「じゃあ、ミコトさんからすればある意味里帰りですね」

 

 

 里帰り。

 ルッカの言葉に尊は気持ちが昂るのを感じ、遠足を翌日に控えた子供のように明日が待ち遠しくなった。

 

 

「ちょおっとぉー、わたしは除け者なわけぇ?」

 

 

 先ほど呼ばれた名前の中に自分がいなかったことが不服なのか、拗ねた口調でロゥリィが伊丹に訴える。

 伊丹としては現地人として一番知識のあるレレイと一目で普通の人とは違うとわかるテュカ、そして炎龍と直接戦った尊がいれば事足りると考えていた。

 確かにロゥリィは高い身体能力を持った亜神という人ならざる者だが、伊丹としては連れていくには少し理由が弱いかとも思っていた。

 

 ――けど、連れて行かなかったら後で面倒なことになりそうだな。

 

 腕を組んで考え込み、伊丹はすぐに判断を下す。

 

 

「わかった。亜神って種族の一人として同席させてもらえるよう許可を取ってみるよ」

 

「あら、いいのぉ?」

 

「行きたいんだろ? 門の向こうに」

 

 

 その一言でロゥリィの顔が花の咲いたような笑顔になり、それを切っ掛けにほかの面々が一斉に主張を始める。

 

 

【ワシも! ワシも門の向こうに行きたいぞい!】

 

「わたしもわたしも!」

 

「俺も行きたいです!」

 

「未知の技術をぜひ!」

 

「ちょ、ちょっとぉ!?」

 

 

 しばらく行きたい行きたいと騒いだクロノたちだったが、またいつかの機会にということでこの場は一先ず収束した。

 やってきた時と比べてかなり疲弊した伊丹に同情しつつ、尊はいくつかの確認をする。

 

 

「伊丹さん、向こうには俺のことなんて伝えてるんですか?」

 

「旅の戦士ってことになってる。コダ村で炎龍が出るって聞いて避難の隊列に加わって、最終的に俺たちについてきたって設定。クロノ君たちと一緒に別の世界から来たとは話してないけど、名前はミコトで通してるよ」

 

「となると、偽名は使えないってことですね」

 

 

 名前と容姿から変な勘繰りをされるのではと考え尊はせめて偽名を使おうか考えていたのだが、既に話が通ってしまったのなら偽名という手段は使えない。

 ならば、と尊は亜空間倉庫から仮面を取り出す。

 

 

「これつけて参考人招致に出席しちゃダメですかね?」

 

「仮面? ――こ、こいつはっ!?」

 

 

 見たことのあるデザインに驚愕した伊丹だが、ひとまず気持ちを落ち着け冷静に問題がないか考察する。

 

 

「……まあ、宗教的な理由でつけてるってことにしたらいいんじゃないかな?」

 

「わかりました。 それと、もう一つお願いがあるんですが」

 

 

 

 

 

 

 参考人招致当日。

 引率の伊丹、富田、栗林のほかに、門の前には五つの人影があった。ロゥリィ、テュカ、レレイ、尊、そしてサラだ。

 全員が初夏を思わせる気温の中、厚手の服を用意して門が開くのを待っていた。

 

 

【なんでこんな厚着をしないとだめなの?】

 

【向こうでは気温が違うらしい】

 

【伊丹さんによれば今の日本は冬だ。軽装で行ったら風邪ひくぞ】

 

 

 タートルネックのセーターにぼやくテュカにレレイと尊が説明をする。

 特地では薄手の服装でも構わないのだが、今から向かう日本は真冬の12月。半袖で向かおうものなら体を抱きすくめて歯をガチガチと鳴らす羽目になるだろう。

 一方、最初に聞いていた人数から二人も増えたことに疑問を抱いた富田が、隣にいる伊丹に耳打ちする。

 

 

「ロゥリィとサラさんが来るなんて聞いてませんよ」

 

「二人とも許可なら取ったよ。ロゥリィは特地特有の種族の一人として。サラちゃんは別枠で必要になった」

 

「別枠?」

 

 

 富田が首を傾げていると一台の車が一行の前に現れ、中から柳田が姿を見せる。

 

 

「悪い悪い、手続きに手間取っちまった」

 

「お嬢さん方は?」

 

 

 伊丹の問いに皮肉めいた笑みを浮かべ、柳田は後部座席のドアを開ける。そこから出てきた二人に、富田と栗林は驚愕した。

 

 

「ぴ、ピニャ殿下とボーゼスさん!?」

 

「た、隊長! どういうことなんですか!?」

 

「殿下は講和のために帝国との仲介役をやってもらうんだ。その通訳として、サラちゃんを参考人招致とは別枠で連れていくことにした」

 

 

 こともなげに答える伊丹だが、この二人がついてくると聞いたのは昨日のことだ。元々は尊がサラを連れていけないか伊丹に相談し、柳田に相談を持ち掛けようとしたところでピニャたちがお忍びで同行することを聞かされた。これは渡りに船だと伊丹は利用し、通訳としてサラを合法的に連れていけるようにしたのだ。

 尊がサラを日本に連れて行こうと思ったのは、純粋に自分が生きていた世界を見せてやりたいと思ったからだ。無論、尊もダメ元で頼んだことだったのだが、幸運が重なって同伴が許されることとなった。

 これで今回の日本行きのメンバーが全員揃い、柳田が守衛に指示を出すと門を覆っていたドームの入り口がゆっくりと開き始めた。

 キィキィと甲高い音を上げながら入り口が全開となり、古代ローマを彷彿させるような意匠の門が姿を見せる。

 

 

「この先が、ミコトさんがいた世界……」

 

「ああ。世界は違うが、この向こうにある。 ――俺の故郷、日本が」

 

 




第63話、いかがでしたでしょうか?

組合の収支管理に設定した名前はただのネタなので特に深い意味はありません。
次回は国会での質疑応答をねじ込んで伊丹の嫁宅まで向かわせるつもりです。
掻きたかったシーンのひとつなので、早めに次話を投稿できるよう頑張ります。

それでは、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。

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