さて、今回はアニメ版では5話にあたる内容となります。
作者の都合で盗賊の数が原作より多くなっていますが、ご了承ください。
また、やばそうな叫びをあげる敵がいたり死亡キャラが生存したりこいつらだけでいいんじゃないかという展開が含まれていますが、解説はあとがきにてさせていただきます。
それでは本編第60話、どうぞご覧ください。
イタリカの南門は盗賊の襲撃により破壊され、門としての機能をほとんど失っていた。
それでも完全に破壊されていないのは、たまたま訪れた帝国の第三皇女。ピニャ・コ・ラーダの指揮によるものだろう。
ここに訪れる少し前にイタリカが襲われていると聞き、彼女はてっきり自衛隊が攻めているものだと思い三名の部下を連れて先行。しかし攻め立てていたのはかつて帝国の招集を受けて自衛隊に攻め入った連合諸王国軍の敗残兵であり、予想とは違う展開に彼女は戸惑い、自身の初陣が賊となったことに苦虫を噛み潰したような心境を抱かざるを得なかった。
しかしそれはそれとして彼女は薔薇騎士団の団長として持てる知識と戦略全てを用い、辛くも撃退に成功した。
だが使える兵は訓練もろくに受けていない民兵ばかりな上に勇敢な者から次々と命を落とし、落ちる一方の士気は最早最低と読んでもよかった。
そんな自身の思い描いた初陣とは程遠い現状にピニャがギリギリと歯を軋ませる中、彼女の元へ更なる不測の事態が舞い込んできた。
「姫様、あれです」
騎士団最年長の男、グレイ・コ・アルドに促され門番用の出入り口に設けられた覗き穴から外を伺うと、その先には彼女が見たことのない三つの物体があった。
共通しているのは四つの車輪を着け全体的に緑色であり、中には斑柄の鎧をまとった人間が見える。そのうちの二台は布の天井だが、残る一台は武器を乗せていた。
――なんだ、攻城用の木甲車か? だが、あれは鉄でできているな。
「ノーマ! 他に何か見えるか!?」
「敵の姿はありません!」
城壁の上にいる部下のノーマ・コ・イグルーから受けた返答にどうしたものかと思考を巡らせると、相手の方に変化が見られた。
「あの杖…リンドン派の正魔導師か?」
リンドン派とは特地における魔法学学派の一派であり、戦闘魔法を研究する学派である。しかし戦闘魔法と呼ばれる割には機動的な速応戦術に向かないため、近年の特地では一般兵科の攻撃補佐的な用途にしか使用されていない。
そんな魔導師に続いて、もう一人別の人物が姿を見せる。
「今度はエルフだと? 精霊魔法を使われては厄介だな…しかし、あの服装はなんだ? 男を誑かすつもりなのか?」
体のラインがはっきり浮き出ている服装の女エルフを見てそんなことを思い、敵ならば今のうちに城壁の兵たちに弩銃で始末させようか考えたところでさらにもう一人現れる。
しかしその姿を見た瞬間、ピニャの額に汗が噴き出した。
「あれは…ロゥリィ・マーキュリー、だと!?」
暗黒の神エムロイの使徒にして死神と呼ばれるほどの圧倒的戦闘力を持つ亜神。
そんな化け物が現れたと知ると、辺りから動揺する声が上がる。
「魔導師にエルフに使徒……なんだ、何なのだこの組み合わせは!?」
ロゥリィの後からもう一人出てきたようだが、先に出てきた彼女のインパクトが強すぎるためピニャはそちらを気にする余裕がない。
ただでさえあのロゥリィという少女を含め、おおよそ神と呼ばれる存在は何を考えているかわからない存在であり、もし気まぐれでも敵に与しているならば勝てる保証など万に一つもありはしない。
だが逆に、与しているのならばこのタイミングで現れるというのもおかしな話だった。
戦の神とも呼ばれるエムロイの使徒が最も激しい戦いの時に現れなかったのは、盗賊たちに関与していないという可能性もあるわけだ。むしろその気に参加されていれば、自分たちはとうの昔に敗北している。
もし敵でないのならばこちらに引き込むことも可能であり、成功すれば味方の士気向上にはこれ以上ないほど有効な手立てとなるだろう。
「ひ、姫様。どうするんですか?」
腹心のハミルトン・ウノ・ローから弱気な声が上がり、ピニャ自身もこの異常事態にどう対処すべきか余裕のない頭で必死に導きだす。
しかし解決策は浮かばないまま、ついに扉の向こうから落ち着いたノックが数回響いた。
――妾にはもう民の士気を上げさせる手段はない。彼女たちが何用でここに来たかは知らぬが、おそらくこの機会を逃せばもう敗北しかない! ならば!
「――強引に仲間に引き入れるまで!」
「姫様、なにを!?」
突然扉の閂を外しだした主にグレイが困惑の声を上げるが、ピニャはそれを無視して力いっぱいに扉を押し開ける。
ゴンッ!
「ロゥリィ聖下! よくぞ来てくれ…た……」
勢いに任せて迎え入れようとしたが、三人の視線が下に向いていることに気づき声の勢いが削がれる。
さらに視線を追ってみれば、斑柄の服を着た男が額を赤くして気絶している姿が。
状況から推察して、どうしてこうなったのかは誰の目から見ても明らかだった。
「……もしかして、妾が?」
三人から帰ってきたのは攻めるようなジト目と、無言の首肯だった。
◇
「隊長! 聞こえますか!? 隊長!」
「モロ入ったみたいですからねぇ……気絶してるんじゃないですか?」
桑原さんが無線に向かって声を張り上げるが、通信相手の伊丹さんからは一向に返事がない。
イタリカと思しき街が見えたところで最初は近くの森でもあればそこに車両を隠して街へ向かおうかと考えていたのだが、見事に開けた場所しかなかったためこちらの存在がまるわかりなのでは? ということで伊丹さんの指示で直接向かうことに。
しかし案の定、向こうさんは俺たちが敵なのではと警戒しまくっていた。
そこへレレイ、テュカ、ロゥリィがこちらに敵意がないことを伝えるといって交渉すべく車を降り、伊丹さんが女の子だけ行かせて残るなんて出来ないと言って同伴した。
特に攻撃されることなく小さな扉まで進むことができ、伊丹さんがノックをした直後にあちら側から扉が開き、中から赤い髪の女性が姿を見せた。
ただし、扉の前にいた伊丹さんを弾き飛ばしてだ。
そんな一部始終をみて桑原さんが通信を入れたが、一向に返事がないまま4人は城門の中へと入っていったのだった。
「御館様、我々が城内に進入して調べてきましょうか?」
「待ってくれ、下手に動いて相手を刺激してはマズイ。 ――隊長、返答してください!」
ガイナーの提案に桑原さんが釘を刺し、改めて通信を入れる。
すると今度は少しのノイズが走り、あちらから返答があった。
『――こちら伊丹、ちょっと気を失っていた』
「そうでしたか。危うく突入するところでしたよ」
『悪い、連絡があるまで待機してて』
それからしばらくして再び伊丹さんから通信が入り、――なんでも赤い髪の女性は帝国の第3皇女様だったらしく――盗賊を撃退するまで協力関係を結ぶこととなったそうだ。
戦いでボロボロとなった南門から入城し、自衛隊が戦いの準備を進める中、俺とサラはレレイたちからこの街の現状を簡単に説明してもらう。
「――まさかアルヌスで自衛隊がドンパチやった影響が、こんなところで出てくるとはな」
前に伊丹さんから自衛隊がこの世界に来たばかりのころ、敵の大部隊とアルヌスで戦いがあったと聞いたことがある。
その戦いにこの一帯を治めていた貴族や領主も参加したが、終わってみれば全員が行方不明に。
しかもこのイタリカを治めるフォルマル伯爵領の現当主ミュイはまだ幼い少女であり、周りの手を借りてどうこうするにしてもあまりに力がなさ過ぎた。
話によれば彼女の後見人争いをしていた長姉と次姉も前述したアルヌスの戦いで両家とも当主を失い、ミュイ嬢に構う余裕をなくして連れてきた兵たちをすべて引き上げ自分たちの土地をまとめるのに手いっぱいだそうだ。
結果、街の治安は急激に悪化し、そこへ追い打ちをかけるようにアルヌスの戦いで敗れ落ち延びた兵たちが盗賊となってこの街を襲っているのだとか。
まあ、11歳の女の子に街を治めろというのはどう考えても酷な話だ。ハマーン様みたいな有能な摂政がいるわけでもないし、かといって頼れる知り合いがいるわけでもない。
そういう意味では、兵が少ないとはいえ帝国の第3皇女殿下がこの場にいたのは不幸中の幸いだろう。
イタリカに入城してから数時間。
日は既に傾いて世界を赤く染め挙げる中、俺は双眼鏡で遠方を探っている伊丹さんと桑原さんに問いかける。
「それで、敵は本当にここに来ますかね?」
「斥侯が来ているのは確認できた。他にもわかっただけで本隊が700から800ほどいるらしい」
「その人数でこの街を包囲して攻撃することは不可能だから、どこか一点を集中して攻撃してくるはずだ。こういう時、攻撃箇所を選べる敵のほうが有利なんだ」
「川と切り立った崖に面している北側を除けば、確率は三分の一。しかも一度突破されたこの南門を守るのは俺たちのみ。あの姫様は俺たちを囮にここを手薄に見せて敵を誘い込み、奥の二次防衛線を決戦場にする気だよ」
振り返り、城壁下の陣形に目を向ける。
南門を囲うように柵が形成され、突破されても足止めできるように作られているが、素人目から見ても何とも心許ない。
「これ、敵が乗ってこなかったらどうするんでしょうね」
「その時は姫様の手腕に期待、ってところだな。少なくとも、今の俺たちは彼女の指揮下にある。ある程度は言うことを聞いておく方がいい。不測の事態や何か問題があった場合は、こっちの判断で動くつもりだけどね。手も打っておいたし」
そういえばアルヌスに連絡を入れていたけど、その時に何か頼んだのか?
しかし事前に手を打つというのであれば、こちらもないわけではないんだよな……提案だけしてみるか。
「伊丹さん、ひとついいですか」
思いついたことをざっくりと説明すると、伊丹さんだけでなくとなりの桑原さんからも驚いたような返事が返ってきた。
「それ、本当にうまくいきそうなのか?」
「少なくとも、片方は成功しているところを見たことがあります。あとは状況次第かと思いますが、あいつらの腕ならば問題ないかと」
俺の提案に伊丹さんは難しい顔で唸り目を伏せたが、すぐになにか決意したかのように顔を上げる。
「保険はかけておくに越したことはない。ただ基本方針は絶対に見つからないことと、命大事にでたのむ」
「わかりました」
許可を得られたので直ぐに俺は提案した策の手配を済ませ、盗賊がいたとされる南の方角に目を向ける。
遠くの方で煙が昇っているのが見え、伊丹さんたちの話からあそこが盗賊たちの居場所なのだろうと辺りをつける。
「戦いに、参加するんですか?」
「……状況次第、としか言えないな」
隣にやってきたサラの言葉にそう返しつつも、俺の中では7割方決定していた。
偶然とはいえ、これは炎龍と戦った時に抱えた問題と向き合う重要な機会でもあると俺は考えている。
この問題を放置しておくことはできないので、早急に答えを確立させる為にも前に出る必要がある。無論、伊丹さんから何か言われるかもしれないが、そこは押し切らせてもらおう。
「あらぁ? ミコトとサラは参加しないのぉ?」
どこかねっとりとした口調が耳に届き振り向くと、どこか楽しそうなロゥリィがステップを踏んでやってきた。
彼女もレレイほどではないが、かなり日本語が達者になってきた一人だ。
「俺はともかく、サラは絶対に前に出させないぞ。それよりどうした、ずいぶんご機嫌みたいだが」
「うふふ、久しぶりに思いっきり狂えそうだから、戦いが待ち遠しいのよぉ」
「……狂う?」
ロゥリィから出てきた言葉にサラが首を傾げ、俺も同じく頭を捻った。
ただ、彼女のハルバードが猛威を振るうのだろうということだけは、何となく察せた。
◇
日がとっぷりと暮れ、既に丑三つ時も過ぎた夜中にそれは起こった。
慣れない徹夜の眠気でうとうとしていた町民たちが、突然飛来してきた矢の雨によって絶命した。
【敵襲! 敵襲ぅ――――ッ!】
【ピニャ殿下に伝令! 敵は東門に現れたと伝えろ! 弓兵、応戦しろ!】
ノーマが声を張り上げて指示を出し、自身も弓を手にして応戦する。
一方、南門の守備を任された自衛隊の面々は険しい顔で東門に目を向けていた。
【なによぉ! こっちじゃないのぉ!?】
「
戦いを子供のように待ちわびていたロゥリィが不満そうに声を上げ、倉田が時計を見ながら敵の手腕に感心する。
「盗賊と言っても、元は正規兵だ。その辺の兵法は心得ているんだろうな」
「知性のある盗賊か……面倒な敵ですね」
しかも普通の盗賊と違い、装備や練度も高いという強みもある。
対して守備に回っている町民はロクに軍事教練を受けていなければ、戦いの才能があるわけでもない。
今はまだピニャの指示した布陣で拮抗しているが、それもそう長くはもたないだろう。
「東門からの応援要請は?」
「まだありません」
「そうか。 尊君、あっちの三人は……」
「大丈夫です。伊達に死線を潜ってない連中ですし、実力は俺が保障します」
ところ戻って戦いの最前線。
城壁に取り付いた盗賊が城内に侵入しようと梯子をかける。
それをさせまいと兵が矢を放つが、敵側の精霊使いによる矢除けの加護によりそれは無力化されることとなった。
ならばとひとりの農夫が手にした斧で直接梯子を叩き落す。
やった、と思ったのも束の間。直ぐに敵側からの矢で脳を撃ち抜かれ農夫は城壁から転落。
天秤のように兵の士気が盗賊有利に傾きはじめ、ついに城壁の上にまで到達され始めた。
【くそ! これ以上やらせるか!】
ノーマは剣を振るい城壁に上ってきた敵の首を切り飛ばすが、際限なく登ってくる敵に苦戦を強いられる。
そして敵が増えるにつれて味方はその数を減らしていき、ついに敵は城門を内側から開け放った。
【ヒャッハァー!】
【皆殺しだぁー!】
【WRRYYYYYY!】
【くそ! あいつら――【覚悟ぉ!】――っ!】
下から聞こえる盗賊たちの歓喜の声に気を取られ、ノーマは後ろを突かれた。
背後に自分を突き刺そうとする刃が見えたが、正面の敵を抑えているため体勢を変えて迎え撃つことは叶わない。
――ここまでか!
自分の死が脳裏を過ぎり、死神の一刺しが心臓めがけて迫る。
斬ッ!
突如、謎の風が吹き抜けるとともに背後の敵が何かに切り飛ばされ地面を滑る。
ノーマも、ノーマを抑えていた敵も何が起こったかわからず、戦場の真ん中でありながら思考が抜け落ちた。
【――っ! はぁ!】
【ぐあああ!】
いち早く自分が助かったことを理解したノーマは目の前の敵を蹴り飛ばし、肩口から一気に切り伏せる。
【ここはもう持たん! 下の二次防衛線前まで退け!】
何故助かったと考える前にもう城壁が持たないと察すると、生き残った兵たちに後退指示を出して自身も
最後にちらっと自分を背後から襲った敵の死体に目をやると、鋭い刃物か何かで縦に真っ二つにされていた。
「――御館様は自衛隊の増援がくるまで絶対に姿を晒さぬように立ち回りつつ、遠距離から賊を討てと申されたな」
「うむ。自衛隊が皇女殿下の指揮下にあり、御館様もそれに含まれているため家臣である我らが断りなしに介入したことが発覚すれば、面倒なことに発展するようだからな」
「先ほどまでイタリカの兵が邪魔で迂闊に攻撃できなかったが、城壁に上ってくる敵はもはや我らの的。広場の門は解放されてしまったようだが、そちらは下の兵たちに任せるしかあるまい」
闇夜に紛れながら人ならざる姿の三人は各々の得物を構え、城壁に上ってきた盗賊に向かってそれぞれかまいたちを放つ。
篝火があるとはいえそれでも暗さが勝る中、軌道の見えない斬撃が何も知らないまま顔を出した盗賊を切り裂く。
「正面から力をぶつけることこそ戦の花だが、そこに無関係な民草を巻き込むとなれば話は別」
「卑怯者の誹りを受けようと、賊となって街を襲う輩にはこれくらいがちょうど良い」
「夜が明けるまで
「ならば我らは、可能な限り民を影から守護するぞ」
「「応っ!」」
その言葉を合図にデナドロ三人集は三方向に散り、イタリカの兵たちを援護するのだった。
本編第60話、いかがでしたでしょうか?
まず敵に吸血鬼みたいな叫びをあげるやつがいましたが、モブなので問題ありません。
デナドロ三人集をぶっこんだのでノーマが生存しました。
正直こいつらだけで盗賊は殲滅できるのですが、縛りがあるので介入はこれが限度かと思っています。
もしかしたらこの話も予告なしに修正加筆が入るかもしれませんが、その際はご容赦ください。
さて次回は、「尊の紋章」「ロゥリィ無双」「地獄の黙示録」の三つをテーマに展開します。BGMとして「ワルキューレの騎行」をご用意ください。
それでは、今回はこのあたりで。
また次の投稿でお会いしましょう。