Jumper -世界のゲートを開く者-   作:明石明

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前作との変更点。

三人集、強化


第6話「突入!魔王城!!」

 進路をパレポリから魔岩窟に程近い海岸に変更した俺は、その道中にガイナーたち3人にあることを確認していた。

 

 

「さっきも言ったように、俺は魔王城の攻略に向かう。ただこれはあくまで俺の目的のために行くものだから、お前たちは気が進まなければ来なくても全然かまわない」

 

 

 なにしろ自分たちを束ねていた相手に殴りこみにいくのだ。いくら俺に鞍替えしたとしても、抵抗があってもおかしくはない。

 

 

「フッ、愚問ですな」

 

「我らは既に御館様に全てを捧げました」

 

「故に、御館様が敵と断じた者には躊躇いなく刃を向けましょうぞ」

 

「……本気で言ってるのか?」

 

「「「いかにも」」」

 

 

 ――どうやら俺は、こいつらの忠義っぷりを見誤っていたようだ。

 ならばもう語ることはないと決め、俺たちは陸に着くなり迷うことなく文字通り切り開かれた魔岩窟へ突入する。

 洞窟内には魔物はおらず、戦闘があったと思しき跡が残されていた。その光景を目じりに洞窟を抜けるが、その途中で既に日は落ちたらしい。

 月明かりを頼りに一つだけ踏み均された森の道を進み――――そこにたどり着く。

 開かれた鉄の門の先にはガルディア城に勝るとも劣らない石造りの城。その一番高い屋根には石で作られたドラゴンの彫刻。

 

 

「ここが……魔王城」

 

 

 ゲームで幾度となく攻め込み、攻略する度に消滅していった魔王軍の本拠地。

 携帯があったら写メの一つでも撮りたいところだが、無い物強請りをしても意味がないな。

 サテライトエッジを召喚し、すぐさま開かれたままの扉から侵入する。

 メインホールから2階へ続く階段を駆け上がり、いきなりゲームで使うセーブポイントのようなキラキラした床を発見する。確かここにこれが出るのは最初に両サイドに延びる通路を奥まで調べつくしたあとと、ソイソーとマヨネーを撃破した後だ。

 しかし俺たちはその両方をこなしていないのにも関わらず床にはキラキラしたものがある。つまりこれは、既にクロノたちが二人を倒して先に進んでいるという事実に他ならない。

 厄介な敵が既にいないことを喜ぶべきか、思ったより出遅れたことを悔やむべきか……いや、この際それはどうでもいい。

 いないならいないで、ただ突き進むのみ。

 キラキラした床に立つとなんともいえない浮遊感が体に浸透し、目の前が暗転する。

 気付けば両端に石像が並ぶ大廊下に立っており、進行方向には開かれた扉があった。

 既にクロノたちが通った後だからしばらく魔物は出ない、と考えるのは流石に危険か? ビネガー曰くこの魔王城には合計で100体の魔物がいるらしいが正直そんなにいたかなんて覚えてないし、なにより本当に100体だけかという疑惑もある。

 

 

「魔族の敵に死を!!」

 

「人間に絶望を!!」

 

 

 警戒を緩めず進むと、唐突に石像から複数の魔物がヘケランの洞窟にいた奴らと同じようなことを叫びながら現れた。

 魔王のしもべにスカッシャー、それにアウトロウとソーサラーか。

 

 

「やっぱそう簡単には行かせてくれないか――けど構ってる暇もない! お前たち、強行突破するぞ!」

 

「「「ハッ!!」」」

 

 

 ガイナーたちの返事を聞きながらまず道を塞ぐように現れた魔王のしもべたちに向けてサテライトエッジのブラスターをお見舞いし、一瞬で消滅した隙を突き一気に駆け抜ける。

 後ろからわらわらとソーサラーやスカッシャーも現れるが、追ってこられないように移動中にチャージしたブラスターで天井を打ち抜き崩落させる。単純な足止めではあるが、時間を稼ぐには十分すぎる。

 

 

「お見事でございます、御館様」

 

「本来なら全滅させてレベルを上げたいところだが、時間がないからな。急ぐぞ」

 

 

 賛辞の言葉もそこそこに奥へと突き進む。

 ビネガーの手動で稼動するギロチンベルトコンベアー。

 ビネガーの手動で稼動する落とし穴通路。

 ビネガーの手動で稼動する魔物出現リフト。

 実物を見るたびに笑いがこみ上げてきてしまったが、その全てが既に突破された後だった。

 全てが順調のように思われたが、やはり物事は早々うまくいかないらしく最後の一本道で20は越えるであろう魔物の群れと遭遇してしまった。

 ここもブラスターで突破しようかと思ったが、サテライトエッジを呼び出したところでさらに背後から10を超える魔物が俺たちを挟撃――いや、この動きは包囲する気か!

 

 

「クソ! 一箇所に固まっていれば一網打尽にできたと言うのに!」

 

 

 周囲360度はすべて敵。ブラスターで正面を抜けても倒せるのはせいぜい10体未満。しかもその後間違いなく連中が追撃に入るだろう。

 

 

「御館様! ここは我らにお任せを!」

 

「我らが殿を勤めます! 御館様は先へお進みください!」

 

 

 急速で策をめぐらしていた最中、ガイナーとオルティーがスカッシャーを切り捨てながら叫ぶ。

 現実的な考えではあるかもしれないが、現状の戦力比はざっと1:8。増援の可能性を考慮すれば不安が残る数値ではあるが、こいつらの実力ならば――――

 

 

「――――お前ら、死ぬなよ!」

 

 

 せめて少しでも数を減らしてやろうとブラスターを真正面ではなく前方で一番密集している敵へ構え、なぎ払う。

 開いた道を一気に進み、その後ろを三人集が続く。そのまま俺は狭い扉へ飛び込み、振り返ることなく先へと進んだ。

 

 

 

 

 

 

「フッ、聞いたか、おまえたち」

 

「うむ。御館様のご命令だ。間違っても反故には出来んな」

 

「然り。それにこの程度の連中、北の廃墟の猛者に比べれば――――」

 

「「「羽虫も同然!!」」」

 

 

 マシューとオルティーが連携して正面の魔王のしもべをエックス状に切り抜け、そのまま背後からやってくるアウトロウへと肉薄する。

 

 

「フリーランサーごときが我らに歯向かう気か!?」

 

「ただのフリーランサーと侮られては困るな!」

 

 

 一瞬だけ剣のぶつかる音が鳴り、次の瞬間にはアウトロウの体が上下に分かれた。

 

 

「言ったはずだ。お主らなぞ今の我等にとっては、羽虫も同然であると」

 

 

 扉の前で刀を振り抜いた状態のガイナーはそうつぶやくと再び刃を鞘に戻し、目にも止まらぬ速さで一気に振り抜く!

 

斬ッ!!

 

 居合抜きの要領で放たれた斬撃が一筋のかまいたちとなり、魔王軍の兵を次々と真っ二つに捌く。

 

 

「おお! ガイナーよ、ついに体得したか!」

 

「うむ、御館様より可能性を提示していただき先ほどモノにした。その名も、『一文字かまいたち』!」

 

 

 それは北の廃墟を攻略中の時のこと。

 刀を振るう彼らを見て、尊が思いついたように話をしたのがきっかけだった。

 

 

「お前たちさ、刀を振るってかまいたちを発生させることは出来るか?」

 

「かまいたちを、ですか?」

 

「ああ。確か魔王軍の外法剣士ソイソーがそういう技を使うんだが、お前たちもそれを使えるようになれば直線上の敵にダメージを与えられるようになるはずだ」

 

「それは素晴らしい技ですな。しかし、我らにできるでしょうか?」

 

「それはわからないが、訓練すればきっとできるんじゃないか? 少なくとも俺はもうひとり、刀でかまいたちを放つ剣士を知っているし」

 

 

 それを聞いた三人はその日から居合を利用したかまいたちの訓練を始め、日に日に抜刀速度が上がっていくのを実感していた。

 そしてガイナーは先ほどその訓練が実り、かまいたちを完全に自分のものとした。しかしこのかまいたち、尊が想像していたものと少々異なり線ではなく弧を描いて飛ぶため射程範囲が横にも広がり、クロノやソイソーが使うかまいたちより圧倒的に優れていた。

 尊が聞いたら「それなんてバグ?」と返ってくること請け合いな技が納刀から数秒後に三発目が放たれ、射程内の敵をズパズパとかっさばいていく。

 そのフリーランサーとしてはあり得ない戦闘力に、ついに魔王軍が恐怖を抱き始めた。

 

 

「つ、強すぎる!」

 

「こいつら、本当にフリーランサーなのか!?」

 

「アイエエエエ!? ニンジャ!? ニンジャナンデ!?」

 

「さあ、遠慮なくかかってくるがいい! 御館様の後を追う者は、容赦なく我らの太刀の錆にしてくれるぞ!」

 

 

 魔王軍にトラウマを植え付けるかの如く攻め手を苛烈させたガイナーたちは、その数十分の後に敵の軍勢を壊滅させるのだった。

 

 

 

 

 

 

「……まさか既に魔王と戦闘中って状況じゃないだろうな」

 

 

 あの三人と別れてからも一向に出会わないクロノたちのことを思いながら、ふとそんな可能性が頭をよぎった。ここまで来てまだ背中も見えないことから十分ありえることだが、まだビネガーというネタ要員……もとい、最後の将軍と戦っている可能性だって十分あるんだ。

 笑いどころが多くて忘れがちだが、バリアを張ったあいつは完全に無敵状態だ。予備知識がなかったりクレーンに気づかなければ敗北という可能性だってある。

 まあ洞察力の高いカエルや、メンバーによってはルッカやロボがいるんだ。もしかしたら今まさにクレーンを破壊しつくしてビネガーを落とし穴に――――

 

 

「…………――――――――ぉぉぉおおお!?」

 

「へ?」

 

 

ドギャァアン!!

 

 

 ――突如、俺の前に緑色の何かが降ってきた。

 でっぷりとした胴体。尖がった耳。白を基調とした魔法使いのような服装。

 目を回しているがそれは紛うことなく、魔王三大将軍の一人ビネガーだった。

 

 

「……えーっと、つまりクロノたちはもう魔王を残すだけ、ということか」

 

 

 あまりの展開に思考が一瞬フリーズしたので、ひとまず状況を整理する。

 このままビネガーを仕留めても良いかもしれないが、そうすると魔王を仲間にしたときにあいつの最強装備を回収できなくなる可能性がある。

 かといってこのまま放置しておけば、今度はラヴォスのゲートに巻き込まれて装備もろとも別の時代に飛ばされてしまうだろう。

 

 

「……まあ、原作でも生き残ってたんだ。たぶん大丈夫だろう」

 

 

 ギャグ属性の高いキャラは大抵最後まで生き延びるからな。

 そう判断して気絶しているビネガーを素通りして先に進む。

 巻き込まれる可能性といえばあの三人集も該当するのだが、あいつらだって普通のフリーランサーではない。引き際の見極めもあの廃墟の戦いで十分養われているはずだ。

 こちらは当初の予定通り、クロノたちと魔王を倒して発生したゲートに飛び込む。

 可能性……いや、仮説を引き当てたら元の世界へ。間違えたら別の時代、最悪の場合はさらに別の世界へ移動する可能性もある。

 けど少しでもチャンスがあるなら、いけるうちにチャレンジしないと後悔が残ってしまう。

 

 

「未練は残したくないからな――――さて、いくか」

 

 

 誰もいない大きな広間にたどり着いた俺は、気を引き締めてこの城ではじめに見たものと同じキラキラした床の上に立った。

 

 

 

 

 

 魔王城の最深部。ラヴォスが召喚されようとする祭壇の前に向かい合う4つの影があった。

 ツンツン頭の少年に機械仕掛けのロボット。カエルとその三人に対峙するマントの男。

 クロノにロボ、そしてカエルとこの城の主にして魔族を統べる魔王だ。

 

 

「いつかのカエルか……。どうだ、その後の人生は?」

 

「感謝しているぜ。こんな姿だからこそ――手に入れた物もある!」

 

 

 輝く聖剣、グランドリオンを抜き放ち魔王へ突きつける。

 同じくクロノやロボも武器を取り出し、魔王へと構える。

 

 

「フッ、カエル風情が。一度折れた伝説の剣と雑魚を二人連れてきたところで俺は止められん」

 

 

 余裕を崩さないままのことを口にして挑発するが、そこへさらに新しい声が乱入する。

 

 

「違うな。彼らは雑魚ではなく、お前にとって最大の障害だ」

 

 

 唐突にクロノたちの後ろから声が上がり、全員がそちらに注目する。

 現れたのはクロノにとってゼナンの橋以来となる謎の男――月崎 尊だった。

 

 

「ミコトさん!? どうしてここに!?」

 

「ゼナンの橋以来だな、少年。 どうしてもなにも、俺も魔王に用があるんでな」

 

 

 クロノにそう答えた尊はサテライトエッジを召喚し、いつものハルバードモードで魔王の前に立ちはだかった。

 

 

「その武器……なるほど。お前がビネガーの言っていた妙な奴か」

 

「へぇ、もう知っていたか。まあそれはいい――魔王、一つ確認したい。ラヴォスを召喚してどうするつもりだ?」

 

「フッ、それはお前の知るところではない。無論、そこのカエルどもも同様だがな」

 

「そうか。ではラヴォスを召喚して魔族の国を作ろうとしたり――――」

 

 

 もったいぶったように溜めて、尊はそれを口にする。

 

 

「――――アレにかつての復讐を果たそうとするのも俺の勝手な想像ということで片付けてもいいわけだ」

 

「――ッ!?」

 

 

 驚愕。

 クロノたちも驚くほどに、魔王の顔が驚きに歪んだ。

 

 

「復讐? お前、何か知っているのか?」

 

「魔族の国を作るとイウのは建前だったト言うことデスカ?」

 

「ミコトさん。あなたは、一体……」

 

 

 クロノの呟きを聞き流し、尊は魔王の反応をうかがっている。

 

 

「貴様、何を知っている」

 

「さあ? 知っていることしか知らないな。アレの力を狂信し、永遠の命を得ようと実の娘も使い潰そうとした愚かな女王とかな」

 

「……そうか」

 

 

 マントで体を覆いながら、魔王は僅かに深呼吸をする。

 

 

「……黒い風が、また泣き始めた」

 

 

ガギィン!!

 

 

 呟きが終わった瞬間、尊のハルバードと魔王の鎌が交錯していた。

 

 

「カエルの雑魚どもなどどうでもいい。話してもらうぞ……! 貴様の知る全てを!!」

 

「上等だ、ねじ伏せてやる!!」

 

 

 中世最大の決戦が、幕を開ける。




普通に修正加筆を行っているつもりでした。
しかし気がついたら、三人集がまた強くなってしまったんです!

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