Jumper -世界のゲートを開く者-   作:明石明

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推奨BGM:ラストバトル


第52話「VS ラヴォス③」

 ラヴォスコア。

 原作において画面真ん中の人型が本体だと思って攻撃し、実は右にいる丸いのが本体だと騙されたプレイヤーは数知れないだろう。

 俺はそんな初見殺しの設定であるラヴォスコアが、どれが本物かわからないほどたくさんいたらと妄想し勝手に絶望したことがある。

 

 ……その妄想が今、目の前で現実のものとなっている。

 

 人型のセンタービットを除いても、それ以外のビットはざっと見ただけでも70から80はくだらない。原作同様、丸いほうが本物のラヴォスコアだったとした場合、探すだけでも面倒なことになる。

 魔法で一掃できればいいのだが、厄介なことにラヴォスビットは魔法を吸収して物理攻撃しか通さないし、ラヴォスコアはビットを再生させる『命活』を使うとき以外は常にガードを張っているためそれを剥がすまで有効打は期待できない。

 全体攻撃の物理技があればいいんだが、広範囲に仕掛けられるのは一直線の『はやぶさぎり』か時間をおいてしか使えないサテライトエッジのブラスターのみだ。

 しかもこれまでの流れから推察して、コアどころかビットも能力が向上している可能性が十分にある。原作では一回の連携で倒せたラヴォスビットも、それでは倒しきれない可能性があるということだ。

 また倒せたとしても、本命のコアが『命活』を使えばまた倒したビットの相手をする必要がある。

 そして一番厄介なのが、人型のセンタービットだ。あれの繰り出す物理最強の『巨岩』や魔法最強の『夢無』、そして単体魔法『天泣』は下手をすると即死しかねない。昔、素のダメージで1000を超えたことがあるだけに、これらの攻撃は特に警戒する必要がある。

 それらを踏まえたうえでまずは邪魔なセンタービットを排除し、他のビットを倒しながら本物のコアをあぶり出すとしよう。

 

 

「クロノは俺にラストエリクサーを二つ回した後、エイラと『はやぶさぎり』で丸いのを可能な限り削ってくれ! 本体は防御を張ってその中のどれかにいるはずだ!」

 

「え!? あの人型じゃないんですか!?」

 

「マールの言いたいこともわかるが、残念ながらあれは本体じゃない。本物もこの段階では分からないが、確実にダメージを与えられる機会は必ず来る。その時を逃しはしないし、それまでこの丸いやつを可能な限り減らす。絞り込んだらあとはどうにかして目印をつけるだけだ。ただし本体と人型以外は魔法が効かず、数を減らしても本体がビットを復活させるからそれまでにという条件付きだがな」

 

「面倒な条件だ。だが、やるしかないな!」

 

 

 カエルがそばにいたビットを叩き斬り、ロボがそれを追撃する。

 

 

「サラは『マジックバリア』を、マールは『ヘイスト』でルッカは『プロテクト』を全員に! クロノとエイラ以外は人型を集中攻撃! あれが一番邪魔だ!」

 

 

 倒したところでいずれ復活するのがわかっているが、全滅のリスクを孕む存在の排除は必要不可欠だ。クロノからラストエリクサーを受け取りながらまずは『勇気』を使い、ブラスターの銃口をセンタービットとその他大勢の群れへと合わせる。

 こちらの動作を見て攻撃されると悟ったのかビットがセンタービットを守るように群がるが、『直撃』+火力3倍が付与されたこの攻撃にそんなものは無駄無駄無駄ァ!!

 

 

「消し飛べ!」

 

 

 一撃で5体ほどのビットを消滅させ、さらにセンタービットにも攻撃が通る。火力を上げているとはいえ、ブラスター一撃でこれだけ削れるならまだ希望はありそうだな。見れば、クロノとエイラの『はやぶさぎり』もかなりの戦果をあげているようだ。

 このままセンタービットを集中砲火で排除といきたいところだが、重要なダメージソースをやらせたくないのか他のビットが守るように周りに集まっている。

 そしてそれを幸いと言うようにセンタービットが宙に浮くと、赤い星が出現と同時に分裂しながら俺たちへと降り注ぐ。これは……全員のHPを半分にする『魔星』か。死にはしないが、この状態で『巨岩』や『夢無』といった強力な攻撃を喰らうとかなりマズイ。

 動きを封じたいところだが、周りのビットがかなり邪魔な動きをしているな……それなら!

 

 

「後衛は『ダブルケアルガ』! クロノとエイラは人型に向かって『はやぶさぎり』を連続使用! 取り巻きもろとも切り裂け!」

 

「わかりました!」

 

「行くぞ、エイラ!」

 

「おう!」

 

 

 サラがマールと『ダブルケアルガ』を、クロノたちが『はやぶさぎり』でセンタービットへ斬りかかっていくのを目じりにしながら、俺は『勇気』を使い『サンダガ』を放つ。

 いくら『直撃』が付与されているとはいえ、魔法を吸収するビットにこの攻撃は意味をなさない。だが、本命のコアに関しては話が別だ。防御のおかげでダメージが通りにくいだけで、コアに魔法は普通に効く。それを押さえていれば本物がどれかはわからなくとも、『直撃』の効果でダメージだけは確実に与えることができる。

 しかし、既に20以上のビットを倒しているが本命のコアらしきものは未だに発見されていない。そろそろ『命活』を使用するために防御を解くはずなんだが……防御を解くモーションはあるのだろうか。解いたかさえ分かれば魔法も普通に通るから、俺以外のメンバーも最強魔法による広範囲攻撃でセンタービットごとダメージを与えることができるので積極的に撃っていきたいところだ。

 攻撃を受けながらも注意深くビットを観察するが、怪しい挙動をする個体は見受けられない。まだ解除前なのかと考察したその時、ロボから焦ったような声が上がる。

 

 

「周囲に高エネルギー反応! 増援のようデス!」

 

 

 その報せと共に周囲の空間に孔が開き、中から倒したはずのビットがわらわらと姿を現した。

 モーションはなかったが、しっかり『命活』は行っていたか……だがこれはありがたい。『命活』発動直後はしばらく防御力がダウンしているから、魔法によるダメージも十分通る。つまり、心おきなく最強魔法が撃てるということだ!

 

 

「本命のコアが防御を解いている今のうちに魔法を使え! 無論、一番強いやつだ!」

 

 

 告げた瞬間に魔法を撃てるメンバーから最強クラスの魔法が一斉に放たれる。俺も遅れまいと『覚醒』で強化された『サンダガ』をビットの群れへと解放する。

 凄まじい魔力の奔流が嵐のように巻き起こり、ビットを葬らんと荒れ狂う。センタービットはこの攻撃に耐えきれなかったのか、低いうなり声を上げながら姿を消した。しかし他のビットたちが健在なのを見ると、流石にまだコアを仕留めるには至っていないようだ。だがセンタービットがいない今、強力な攻撃に対して警戒せずに本体探しに集中できる。

 ラストエリクサーを使用し全員のHPとMPを回復させ、クロノたちにビットの殲滅を指示しようと口を開く。

 

 

「各員、残ったビットを手当たり次第――「ミコトさん! 後ろ!」――ん?」

 

 

 指示を出す中でサラの悲鳴のような声が上がった瞬間、

 

 

ドゴォ!!

 

 

「ガッ――あ゛ぁ……ッ!?」

 

 突如現れた凄まじい衝撃が、俺を背中から襲った。

 体からボキボキと、人として出してはいけないような音が凄まじい勢いで上がり、肺の空気が押し出されるのと同時に口の中が鉄の味でいっぱいになる。

 衝撃に振り抜かれて体が宙を舞い、飛びそうな意識で俺はようやく何が起こったのかを理解した。

 再び姿を見せたセンタービットが、腕を振り抜いた体勢で陣形のど真ん中にいたのだ。

 

 ――空間、転移……だった、か…………。

 

 消滅したのは倒したからではなくこのためだったと理解すると、ビットの群れへ落ちるとともに俺の意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 

「ミコトさん!!」

 

「姉上! チィ、邪魔だ!」

 

 

 サラが声を張り上げ、ビットの群れの中へと落ちた尊の元へと駆け出す。

 群がるビットを切り捨てながら魔王が遅れぬようその後に続くと、クロノたちもそれに追従する。

 

 

「クロ!」

 

「エイラ、やってくれ!」

 

 

 エイラの声で何をやろうとしているか把握したクロノは連携技である『はやぶさぎり』の体勢に入り、行く手に群がるビットを一掃して尊への道を切り開く。

 一気に広がった道の先では口から多量の血を噴き出した尊が大の字のままピクリともせず、死んだように倒れていた。

 

 

「ミコトさん! しっかりしてください!」

 

「御館様!」

 

 

 サラやガイナーが声をかけながら抱き上げると尊の体がほんのりと光っていて、内側からパキパキと音が上がっていた。

 普通ではないその状態をロボがスキャンすると、何度目かわからない驚きの声が上がる。

 

 

「シ、信じられまセン! 砕けた骨と臓器が凄まじい速度で再生していマス!」

 

「え、どういうこと!?」

 

「考えるのはあとよ! それよりクロノ! ここにくる前にミコトさんが言ってたこと、覚えてる!?」

 

「――手筈通り、ミコトさんの代わりに俺が指揮を執る! サラさんはそのままミコトさんの看護を続けて、ガイナーさんたちはその護衛! 魔王とカエルとエイラは人型を抑えてくれ! 俺も人型を攻撃しつつルッカと本物を探す! マールとロボも後衛で全体回復を使いながら一緒に本体を探してくれ!」

 

 

 一度深呼吸をして気持ちを落ち着け、尊がやろうとしていたことを踏まえつつ今どうすべきかを考えクロノは指示を出す。

 レイズやアテナの水による意識の回復も考えたが、この再生がUG細胞改によるものだとわからないクロノは下手に使用して問題が起こったらマズいと思いせめてこの現象が収まるまで迂闊に手出ししないようにと決めた。

 戦力的にも精神的にも心強い尊がやられたのは大きな痛手だが、必ず復活すると信じてクロノは手にした『虹』をしっかりと握り直すとゆっくりとこちらへ歩み寄るセンタービットへと斬りかかった。

 ルッカもまた尊の言っていた内容を分析して本物のビットを発見するべく、自分の亜空間倉庫に収容していた愛用の火炎放射機の中身をとある液体に入れ替えていた。

 

 

「――まずは目印をつける!」

 

 

 いつもは炎が出る発明品だが、今回発射されたのは緑色のペイント液だった。

 大量の液体がビットへと降り注ぎ、べったりと色を変えていく。

 

 

「クロノ! マール! ロボ! 『回転ぎり』で色つきの敵を狙って! 最後に残ったのが本体よ!」 

 

「わかった! うおおおおおおおおお!!」

 

 

 ビットの群れに自ら飛び込み、全力の『回転ぎり』で緑に染まった敵を切り刻む。ルッカも手にした銃で片っ端からビットを狙い撃ち、本体を探す。

 

 

「ロボ! 私たちもやるよ!」

 

「ワカリマシタ!」

 

 

 マールもボウガンで狙い撃ち、ロボもマシンガンパンチで次々と敵を消滅させる。

 

 

「エイラ! 魔王! 挟み込むぞ! 姿を消す暇もないほど攻め立てる!」

 

「まかせろ! ァァアアアアァァアアアア!!」

 

「……『ダークボム』!」

 

 

 エイラが雄叫びをあげて殴りかかり、魔王も――カエルに指図されて不服そうではあるが――力強く魔法を唱える。

 一方、尊の看護を任されたサラは強い願いを込めて『ケアルガ』を唱える。傷は癒え、心臓もしっかりと鼓動を刻むが、本人が目覚める気配はまだない。

 

 

「サラ様! ここは我らが引き受けます!」

 

「一匹たりとも近づけさせませぬ故、御館様をお願いします!」

 

「ありがとうございます! みなさん、お気をつけて!」

 

「お任せあれ! 行くぞ二人とも! 近づくモノは全て叩き斬る!」

 

 

 ガイナーたちが接近するビットを蹴散らし始めると、サラは眠ったままの尊を強く抱きしめる。

 

 

「……お願いです、ミコトさん。目を開けてください……」

 

 

 その光景を見ていた魔王はどこか悔しそうに顔を背け、緑に染まったビットを切り捨てる。

 

 

「――さっさと目を覚ませ。姉上にあのような表情をさせるな…………義兄上(あにうえ)よ」

 

 

 誰にも聞かれない声でそう呟き、魔王は再び魔法を唱えるのだった。


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