ついにここまで来た。
この
星を喰らい、進化を我がものにして用が済めば星を殺して去っていく寄生虫のような生命体。
その第1ラウンドだ。
「さて、こいつは今から今まで倒してきた敵の中から弱い順に9段階に分けて強くなっていく。俺の記憶通りならガルディア城のドラゴン戦車から――」
カッ!!
ドドドドドドドドドドドドドドッッ!!
「ぐああああああ!?」
空が光ったと思った瞬間、天からの攻撃が全てを滅ぼさんと降り注ぎ、とてつもないダメージによって俺たちの口から絶叫が上がる。
どういうことだ、開幕と同時に行われるこの攻撃は外殻戦でないとしてこないはずだぞ!? 残りHPは――――なっ!? 6割も削れた!?
尋常じゃないと悟ると、焼けるような痛みに耐えながらラストエリクサーを取り出し、開詮と共にためらいなく頭上へ放り投げる。中身が飛び散り俺たちに降り注ぐと、体の奥から一気に活力が沸き上がる。
これでとりあえずは大丈夫だが、ボスラッシュをすっ飛ばして外殻戦だったとしてもこの装備、このレベル、このステータスで600近く喰らうとかあり得ないぞ! それこそ海底神殿の――――
「……まさか」
「おいミコト! この攻撃は海底神殿の時のものだぞ! 何が今まで倒してきた敵のものだ!」
魔王がこちらを罵ってくるが、これは素直に受け入れよう。
今までもそうだったのに何故考えなかった。ゲームと全く同じ展開だったこともあるが、それ以外の展開も何度もあったと言うのに!
「全員気をつけろ! こいつは俺の知ってる流れのラヴォスじゃない! 海底神殿に現れた
そう叫んでこのラヴォスの正体を知らせると、同時に全員を混乱させる『カオティックゾーン』が放たれる。
幸い、全員が全ステータス異常に耐性があるため混乱は避けられたが、相手にとって最弱の攻撃のはずなのにHPを100近く持っていかれた。
「さ、最強外殻!? どういうことですか!?」
「俺の知っている流れでは、ここでのラヴォスは海底神殿の時と比べかなり弱くなっていた……だが、このラヴォスは海底神殿の時の強さを維持したままの状態なんだ。二つを比べた時のHPは3倍も違い、攻撃力もケタ違いになっている!」
「対策ハあるのデスカ!?」
「行動パターンに違いがなければ小まめな回復とゴリ押しで行けるが、それ以外があった場合は俺が前に出る!」
精神コマンドをフル活用すれば出来なくはないだろう。いざとなったらサテライトゲートのエネルギーを攻撃に転換するし、ブーストアップも使って底上げもできる――後でどうなるか知らないがな。
「後衛は連携して『ダブルケアルガ』を集中運用だ! 残りは全員で集中攻撃! ありったけの技や魔法を叩き込め!」
指示を飛ばしながら俺も出し惜しみなどせず、『覚醒』を使用してハルバードで殻に攻撃を加える。
突き刺して叩き切る動作を二回行うと苦しむような叫びを上げると共に、無数の針が俺に向かって飛来する。こちらの威力も非常に強く、最初の攻撃と同様にHPをごっそりと持っていく。
どうやら弱点が頭部と言うだけで殻に攻撃を加えてもダメージは通るらしい。だが反撃でラヴォスニードルを撃ち込んでくる辺り、プチラヴォスと変わりはないようだ。
距離をとりながらサラの『ケアルガ』でダメージを癒してもらい、『勇気』を使い頭部へと狙いを定める。クロノのみだれぎりが終わると同時に矢を解放、『必中』の効果もあり頭部のど真ん中に命中した。
今の一撃の影響か、一瞬ラヴォスの動きが硬直するとすかさずクロノとカエル、ロボによる『トリプルアタック』が炸裂し、さらにガイナーたちが追撃を仕掛けエイラとルッカによる『炎3段蹴り』に加え魔王も単独で攻撃を仕掛ける。
「! 来ます! 皆さん、気をつけてください!」
サラが何かに気づいて警告すると、再び天から降り注ぐものによる攻撃が発生し全員のHPが無慈悲に削られていく。
「ぬぅっ!? なんという化け物だ! このような敵が太古より星を喰らっていようとは!」
「臆するなオルティーよ! 我らはまだ負けておらぬのだからな!」
『『ケアルガ!』』
ガイナーがオルティーを鼓舞し、再び頭部へと仕掛ける。その間にサラとマールによる『ダブルケアルガ』のおかげですぐさま回復することができたが、これは時間をかけすぎるとこっちが危険だ。
「サラとルッカは手分けしてプロテクトを全員に! カエルは一度後退してマールとケアルガの準備を!」
物理攻撃である天からの攻撃に備えるべく――どれほどの効力があるかは不明だが――プロテクトの指示を出して再び『覚醒』を使い、今度はザンバーで頭を薙ぎ払う。
「キュアアアァァァァアアアァァアア!」
再びラヴォスから叫び声が上がると、殻に異変が起こった。
いくつかの棘が形を変え、ラヴォスのボスラッシュのときに見た謎の敵に姿を変えた。
「なるほど、どうやら外殻を相手にしながらボスラッシュの相手もしろってことか。しかも二つ出てきたってことはドラゴン戦車かガードマシン、もしくは――」
当たって欲しくないと思いながらその名を口にしようとすると二つの敵から炎が放たれ、続けざまに黒い電撃が俺たちを襲う。当たって欲しくないものほど当たるとはよく言ったものだ、よりにもよってギガガイアとは……。
「クロノ! 魔王! 最大魔法発射! 邪魔な取巻きを一掃してくれ!」
「わかりました!」
「チッ! 仕方あるまい!」
反応はそれぞれだが、二人から『シャイニング』と『ダークマター』が放たれ取巻きの敵は一掃。ラヴォスにもダメージが通ったが、反撃のニードルが二人へと飛来する。
すかさず『ダブルケアルガ』で回復したが、殻による反撃が本当に厄介だ。殻を巻き添えにする度にこれならいっそのこと全体魔法は封印したほうが――――
「クルゥアアアアァアァァアア!!」
考え事をしている最中にラヴォスがさらに知らない行動を起こす。
頭部を大きく開けたかと思うと、その奥の穴から嫌な光が漏れ出す。
「ま、マズイ! みんな避けろ!」
クロノの切羽詰ったような叫びが響き、俺たちは反射的に頭部の射線上から逃れるように飛び退く。瞬間、頭部から恐ろしいほど強い魔力のビームが発射され、そのままいずこへと消えていった。
動作からしてあれはおそらく、クロノを一度殺したビームか。だからクロノがいち早く反応できたんだろう。
にしても頭部からのビーム……ゲロビとかビグザムじゃないんだぞ……。
それにしても、あれがあるなら正面から頭部を狙うのも難しくなるな……しかもいつの間にか棘が敵を量産してるし。
棘から生産された敵が一斉に飛び掛り、俺たちへ群がりながら周りを囲もうとする。
「全体魔法封印とか言ってる場合じゃないな……サラ! 魔王! ルッカ! 襲い掛かる敵に向かって同時にファイガをやってくれ! ダブルケアルガは俺とマールで受け持つ!」
「はい! いきますよ、ジャキ! ルッカ!」
サラの合図で三人同時にファイガが放たれ、包囲網を作ろうとしていた敵が津波に飲まれるように一瞬にして焼き尽くされる。
炎の津波……FF9のタイダルフレイムみたいだな。連携技として採用するか。
そして予想通りサラたちに向かってニードルが射出されるが、俺はそれをブラスターで可能な限り迎撃しながら『ケアルガ』を放つ準備をしておく。
落としきれなかった攻撃がサラたちに降り注いだのを見ると、間髪いれずにマールと『ケアルガ』を放ち『ダブルケアルガ』を完成させる。
「ミコトさん! 上空より高エネルギー反応アリ! 例の攻撃がまたキマス!」
「早すぎ――ぐぅぅぅぅ!!」
回復したばかりだと言うのに、天から降り注いだ攻撃のおかげでまた回復の必要がある。
プロテクトの効果をもってしてもダメージを500に抑えるのが精一杯とかふざけるのも大概にしろ!
「しかもこの間にも棘が敵になっていくとか反則臭ぇ! そのまま禿げちまえバカヤロー! 『覚醒』! 『サンダガ』<サンダガ>!!」
悪口を言いながらまた『覚醒』を使い、ヤケクソ気味に全体攻撃のサンダガをお見舞いしてやる。
雑魚が一掃され、反撃のニードルを耐え切るとすぐさまエリクサーを取り出して嚥下する。
その間にクロノ、カエル、エイラによる三次元アタックが炸裂しているのを見て、俺もすぐさま追撃に向かう。いくぜ! まだ俺たちのバトルフェイズは終了してないんだよ!
「『覚醒』! 『加速』!」
攻撃力が強化されたツインソードを構え、『加速』による高速化でこれでもかと乱舞、乱舞、乱舞!
「これでとっとと、くたばりやがれええぇぇぇ!!」
渾身の力を込めてソードを掲げ、全力でX状に斬り伏せる!
「クルゥアアアアァアァァアアァァァァアアアアアアァァ!!」
ひと際大きな叫びがあがったかと思うと、頭部が消滅して中へと続く道が開かれた。
つまり、ようやく三連戦の一つ目が終わったのだ。
「や、やった!?」
「マール、それはフラグだ。 まだ奴は生きている」
ひとまず大きく息を吐いてツッコミを入れておくと、すぐにロボから報告が入る。
「ラヴォスの体内からはさらに強力な生命エネルギーが感知されマス……!」
「息の根を止めてやるぞ、ラヴォス……!」
先陣切ってラヴォスの体内へと向かう魔王に続き、俺たちも内部へ突入する。
◇
降り立った場所はゲームで見たとき以上に気味が悪く、一部の壁に至っては脈動までしていた。
「薄っ気味悪いトコだぜ。魔王城より悪趣味だ……」
「あれはビネガーの趣味だ」
さらりとカエルにそう返す魔王だが、果たして本当にそうなんだろうか……。
それはそれとして、俺は先の戦闘を元に一つ説明をしなければならない。
「みんな、聞いてくれ。さっきの戦いで、ラヴォスは俺が知っているものとは違う行動を起こしてきた。それを踏まえると、残りの戦いでも俺が知っている行動以外のものをやってくるかもしれない」
「棘が形を変えて襲ってきたり、みたいにですか?」
「そうだ。だからこれから敵の行動パターンを伝えても、相手がそれ以上のことをしてくる可能性が高いということを頭に入れておいてくれ。 ――俺の知識も、アテにならなくなっているかもしれないからな」
本体がギガガイアのように、両腕を再生させるとかいう事態だって十分あり得る。そうなったらせっかく光破を封じたと思ってもまた警戒しなければならない。
何より、ボスラッシュでくるはずの外殻が最強外殻で現れたんだ。最悪の場合、本体やラヴォスコアも能力が強化されている可能性を考慮しないと。
ここのラヴォスでこれなんだ、もしフロニャルドで同じような展開が起きたらそれこそ洒落にならん。
「それで、ミコトさんが知ってる流れではこのあとどうなるんですか?」
「この先にいるのはラヴォスの本体だが、両腕から装備しているステータス異常の耐性を無効化にする技を使ってくる」
「耐性を無効化ですか……厄介ですね」
そうつぶやくサラの言葉に「だから」と続ける。
「真っ先に両腕を潰す。そうすれば強力な技の一つを潰せるし、本体は厄介な状態異常攻撃を仕掛けてくるから耐性が無効化されると面倒だからな」
状態異常に対するアドバンテージを失うことの重大さを十分に理解してもらっているためか、その戦法に誰からも反論は上がらない。
「もういくか?」
「いや、ちょっと待ってくれ」
エイラを制し、俺はある変更事項を伝える。
「次の戦いから、俺は最初から最前線に出張る」
「え、それじゃあ指揮の方はどうなるんですか?」
「もちろんそれもやっていく。さっきの戦いでわかったが、俺は中途半端な位置で攻撃するより前に出て仕掛けた方がダメージの効率がいいみたいだ」
攻撃に向いている精神コマンドがたくさんあるからこそ、一歩下がった位置で戦うより前に出て一店突破を図ったほうが敵を崩しやすい。特に最後にやった『覚醒』と『加速』による乱舞は今になって考えてみればえげつないほど高い力を発揮した。
こうしてみるとメリットだらけに思えるが、ある一点において非常に大きなデメリットがある。
「ただMPの消費が激しいから、エーテル系のアイテムを多用することになる。それだけは許してくれ」
そう、シルバーピアスのおかげで消費MPが半減しているにもかかわらず、『覚醒』一回で『シャイニング』や『ダークマター』以上にMPを使うことを考えれば燃費が非常に悪い。
ゴールドピアスを借りれば問題ないかもしれないが、後衛でありながら俺の次くらいにMPを使っているマールが装備している以上交換と言うわけにもいかない。
安定した回復やサポートを得るためにも、彼女にゴールドピアスは必須だろう。
そのことにも納得してもらい、俺たちはラヴォスの本体が待つ広間へと足を進めた。