Jumper -世界のゲートを開く者-   作:明石明

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第46話「黒の夢 進撃編」

「黄色のデブには天と冥の属性が効かない! サラと魔王のファイガとルッカのフレアで焼き尽くせ! 生き残りは前衛で殲滅して俺とマールは空を飛ぶ敵を中心に狙い撃つぞ!」

 

 

 ジールが引いて先へ進むと同時に多くの魔物が一斉に襲い掛かり、尊が敵の情報を提示しつつ指示を飛ばす。

 普通の視点で見ればとてつもない量に見えるが、それ以上の敵を相手にしてきた尊たちにとってこれはとても手に負えない量でもなかった。

 何より尊が知る状況と比べて4倍の戦力で攻略にかかってる以上、苦戦するのがありえないほどだった。

 

 ――それに最深部のジールやラヴォスを倒せればいいんだから、全部を相手にする必要はまったくないんだけどな……あれ? なんか状況が昔やったゲームに似てるけど、タイトルなんだっけ?

 

 一人そんなことを思いながら精神コマンドの『熱血』を使用した尊がサテライトエッジをブラスターに変形させ、間髪いれずに引き金を引く。青白い閃光が迸り、プチマーリンやデイブを一掃する。

 

 

「ミコト! でかい目玉とちっさい目玉の新手がきたぞ!」

 

「何? ――任せろ! 『勇気』! 『アイスガ』!』

 

 

 カエルの情報を聞いてここにいないはずの敵を認識するなり『加速』と『熱血』、そして『必中』と『直撃』が付与される『勇気』を使い『アイスガ』をさまようものとたゆとうものに向けて放つ。さまようものは一掃されたが、たゆとうものは何事もなかったかのように健在だった。

 

 

「元々属性攻撃が効かない相手に属性攻撃を仕掛けては『直撃』といえど意味を成さないか……。 ――でかい目玉はオールロックを使ってくるからで先に倒せ! 知っているかもしれないが、たとえ使われても本体を潰すか時間が経てばロックは解ける! あと残った小さい目玉にはどの属性攻撃も効かないが、経験値だけはやたらとくれるから出来るだけ倒せ!」

 

 

 同じ技を使ってくるイワンから同じものを受けたときの対策とたゆとうものの特徴を伝え、再び『勇気』を使い今度はツインソードを構えて前に出る。

 回避が高いたゆとうものといえど必ず当たる『必中』の前ではその真価を発揮することも適わず、2体が同時に切り捨てられる。

 

 

「クロ!」

 

「ああ!」

 

 

 クロノとエイラが通路を塞ごうとしているルインゴーレム数体をはやぶさぎりでなぎ払い、血路を開く。

 そのすぐ先に次のエリアへの扉が設置されており、ロボがそれを開くのを見て尊が声を張り上げる。

 

 

「全員扉の向こうへ駆け抜けろ! 殿は俺と遊撃で受け持つ! あとその先では壁も攻撃してくるから注意しろ!」

 

 

 追ってくる敵を圧倒しているガイナーたちに合流し、残敵を『アイスガ』で押し返す。後衛のサラとマールも側面から襲い掛かる敵を同じように対処しながら扉をくぐる。

 ガイナーたちが先へ行ったのを確認し最後とばかりに『熱血』を使った『アイスガ』を放ち、尊も扉を抜ける。

 その先では魔王の『ダークマター』により破壊された壁が並んでおり、床にはウォールの残骸が散らばっていた。

 

 

「フン、温いな」

 

「確かに苦戦はしてないけど、竜の里のときとはまた違った厄介さがあるな」

 

「ここの敵は魔法に対する耐性が強いからな。使う魔法の属性には注意を払う必要がある」

 

 

 魔王とクロノの会話を聞き、尊もそれに同意しながらこの先に現れるであろう敵の情報を話す。

 竜の里を防衛したときはゴールドサウルスとディノファング兄弟を除けば魔法が面白いように通用したが、ここではそれ以上に属性に対して強い耐性がある魔物がひしめいているのだ。それが群れをなして襲ってくれば厄介極まりないのは明らかだった。

 

 

「他に厄介な敵って、どんなのがいるんですか?」

 

「そうだな……さっき出てきた目玉のコンビもそうだが、反撃技にMPバスターを使用するノヘや即死魔法のデスを使用するカズーなんかも厄介だ」

 

「そ、即死魔法!?」

 

 

 非常に物騒な単語が飛び出たことで緊張が走るが、尊は口調を変えずにあっさりと告げる。

 

 

「確かに反撃としては厄介だが、体力的にはそこまで高くない。それこそ、ここにいた壁の敵ウォールより低い」

 

「なんだ。ならば問題ないではないか」

 

「ただノヘに関しては水属性を吸収して冥属性を無効化にするから、倒すならクロノのシャイニングで一掃するのが一番確実だ。だからクロノ、ビジュアル的に気持ち悪い敵を見つけたら迷わず叩き込め。それがノヘとカズーだ」

 

「わかりました」

 

「あと出てくる敵はメタルミューという未来の廃墟にいたミュータントみたいな敵とツインカムという双頭の蛇、ファットビーストというヘケランの色違いとダイゴローという青いゴンザレスだ」

 

「ご、ゴンザレスって……まさか私の!?」

 

 

 心当たりのあるルッカが声をあげ、尊が首肯する。

 ゴンザレスと相対したことのある全員がその姿を思い浮かべ、その一人であるマールがある可能性に気付く。

 

 

「ゴンザレスってことは……やっぱり歌うんですか?」

 

「ああ。国民的ガキ大将のリサイタルばりにひどい歌を歌って全員を混乱させ、ダルトンゴーレムみたいな鉄球を投げつけてくる」

 

 

 国民的ガキ大将というのがなんなのかわからないが、自分の作ったロボットがそんな歌を歌う姿を想像してルッカが頭を抱えた。

 そんな彼女を余所に、別の考察をしている人物がいた。

 

 

「なに歌う? ボボンガか?」

 

「「「流石にそれは違うと思う」」」

 

 

 自分の村に伝わる歌を歌うロボットを想像したのか、若干目を輝かせたエイラの発言に対しボボンガを知る全員が「ないない」と手を振る。

 

 

 

 

 

 

 黒の夢攻略を再開した俺たちはさまようものとたゆとうものがひしめく通路をそのまま突っ切り、メタルミューとプチアーリマンのエリアに到達した。

 さまようものとたゆとうものをスルーしたのはどうあがいてもオールロックを防ぎきらないので倒すのが面倒になるからというのと、その2種類しか敵が出ないからというものだ。

 想像してみて欲しい。そこまで強くないとはいえ目玉しかない敵が周りを囲んでいる光景など、子供が見たら泣いてわめくこと間違いなしだろう。

 要するに、その光景があまりにも不気味だったため戦う気がなくなってしまったのだ。

 レベルを一気に上げる機会を自ら捨てたのは少し痛いかもしれないが、出現ポイントはここだけじゃないんだ。そこで狙っても問題ないはずだ。

 そう結論付けて現在のエリアにいる敵と戦っているわけなのだが――――

 

 

「ダメ。こいつら何もくれない」

 

「やっぱりこの手の連中に色仕掛けは無理があったか?」

 

 

 敵を片付けつつプチアーリマンからエイラの色仕掛けでゴールドピアスをいただけないか試していたのだが、奴らこのナイスバディーに何の反応も示さず攻撃してきやがる。

 この様子ならおそらくラストエリクサーをくれるツインカムも同様だろう。せっかくシルバーピアスからランクアップできるかと思ったが……通用しないなら仕方ないか。

 

 

「生け捕りにして体をまさぐったら何処からか出てこないか?」

 

「アマリ意味を成さないカト」

 

「だよなー……」

 

 

 ドレインを仕掛けようとしていたメタルミューをぶちのめしながらそうつぶやくが、ロボの返答が余りにも的を射ていて思わずため息が出た。

 見た目全裸の敵をまさぐったところでアイテムが出ないのは明らかだ。ならばもうすっぱりとあきらめたほうがいいか。

 残念だと思いつつサテライトエッジをボウモードに切り替え、射抜く。本来ならお宝をくれるはずの標的は光の矢の直撃を受け、消滅した。

 道を塞いでいたメタルミューもサラとルッカ、魔王のファイガを受けて文字通り蒸発し別のエリアへの道が開く。

 先に前衛が道を確保し、続いて後衛、そして中衛と遊撃が先へ進む。中にあった転送装置に乗り込み、さらに別のエリアに移動。海底神殿のものと同じ大型のエレベーターへと出る。

 

 

「ここで現れる敵はデイブとツインカム、ダイゴローの3種類だが他にも現れる可能性がある。後衛を中心にして円陣を組むぞ」

 

 

 後衛を中心に遊撃、中衛、前衛の順に円陣を組みエレベーターを起動させる。それを見計らっていたように上空からデイブとルインゴーレムが出現し、ツインカムとプチアーリマンがなぜかエレベーターの下から現れる。

 出現するはずのダイゴローがいないのが気になるが、出てこないのならそれでいい。

 俺とマール、ルッカでプチアーリマンを中心に狙い撃ち、サラと魔王がファイガでその他の敵を焼き尽くす。そして残った敵を前衛と遊撃が一掃ともはやパターンと化してきた殲滅方法で敵を圧倒していく。

 

 

「! 上空から大型の金属反応がありマス!」 

 

「きたか、ダイゴロー!」

 

 

 金属反応と聞いて真っ先にその敵を思い浮かべると、他の敵を押しつぶしてそれは降り立った。

 全体的に青いボディー、耳をつけたような頭部、特徴的な胴体、そして左手にマイク。確かに俺が知るゴンザレス後継機……もとい、ダイゴローがそこにいた。正し予想外なことといえば――――

 

 

「――――で、デカすぎぃ!!」

 

 

 そう、予想外だったのはその大きさにあった。

 ルッカの話ではゴンザレスが約2メートルほどで、ロボより少し大きい程度。だがこのダイゴローは間違いなく5メートルはあり、見た目だけで十分に威圧感があった。

 

 

「おいミコト! こんなデカ(ブツ)がこの先何体もいるというのか!?」

 

「流石にこのサイズは予想外だけど、そこまで耐久力はないはずだ!」

 

 

 一度頭を冷静にし、腹を開けて鉄球を取り出そうとしたところへ『熱血』を付与したブラスターをお見舞いする。

 脆い内部機構に直撃したためかダイゴローは体制を崩して床の穴へ転落、わずかに間をおいて爆発した。

 

 

「み、ミコトさん……。あれは、あと何回出てくるんですか?」

 

「……最低でも、2回は確実だな」

 

 

 その答えに少し引き気味になるサラだが、自分でもあの大きさの敵をそれだけ相手にしないといけないと思うと、それだけでちょっと憂鬱になってくる……。

 ともかく、あのダイゴローが最後だったのかそれ以降の増援はなく、エレベーターは無事に目的の階へと到達した。

 陣形を戻して先へ進めばまた大量の敵と遭遇し、やはり魔法での一掃からの物理攻撃による残敵掃討という流れへと移行することとなった。

 

 

「それにしても御館様、この要塞は何処まで続いているのでしょうか」

 

 

 ガイナーの質問に記憶を掘り返してみるが、さっきのように途中でエレベーターに乗るから明確な場所までははっきりしなかった。

 

 

「そこまでは俺もわからないが、もう少しで半分の手前ぐらいに到達するはずだ」

 

「何か目印があるのですか?」

 

「そこにつくとアイテムを売ってくれるヌゥと入り口に戻してくれるヌゥがいる。俺はそこを一つの区切りとしてみているな」

 

 

 今思ってもあのヌゥたちはなんでここで商売をしていたのだろうか。昔は海底神殿で逃げそびれたヌゥが脱出を諦めて居座っていたと思ったが、今にして思うと脱出を提案している時点でそれはないな。

 ……まあ、原作公認の謎の生物が考えることは俺にはわからんな。

 そんなことを思いながら共食いを始めたツインカムに向かってサンダガをお見舞いし、飛んできたデイブの顔面にハルバードの刃を叩き込む。

 

 

「ん? なんだこれ」

 

 

 デイブを倒したかと思うと、カランと足元に何かが落ちる。

 透明な瓶に入った液体は無色ではあるが、ほんのりと光を放っていた。

 

 

「おお! エリクサーではありませんか! あの黄色い敵は良いものを落とすのですな」

 

 

 マシューの言葉に思わずへぇ、と声を上げる。

 そういえばここに来るまでエリクサーは一度も見たことがなかったが、こんなものだったとは。

 というか、デイブはさっきから狩りまくってるけどこんなのを落としていたか?

 少し周りを見渡すと、敵を倒した後に出てくるアイテムをしっかりと回収しているクロノたちが目に入った。

 そういうことなら、俺も倒した後は少し念入りに探してみるとするか。

 しかし物欲センサーが働いたのか、その後はアイテムをドロップ出来ないままヌゥがいるエリアへとたどり着く。

 

 

「よし、一息入れよう。クロノ、マール、ルッカ。今のうちにエーテルとポーションの補充を頼む。どうせここで最後なんだ、金の出し惜しみはしない方向で頼む」

 

「わかりました」

 

 

 三人が商品を扱うヌゥに駆け寄るのを見送りながら俺はステータスを開き、自身の状況を確認する。

 フロニャルドから戻ったころに比べたら、レベルもステータスもそのほとんどが倍以上になっている。

 そして使用できる技の欄に新しい精神コマンドが解放されているのに気づき、その効果に目をやるとこれがとてつもない切り札になり得ることが容易に想像できた。

 主な効果としてはダメージ4倍攻撃を2回連続で実行するというものだが、攻撃魔法はMPを2回消費することになり、2回目を放つ時点でMPが足りなければ不発となるとのこと。

 また、熱血と気合の併用は出来ないがブーストアップとの併用で攻撃力をさらに強化させることが可能とある。

 使いようによっては間違いなく化け物じみた火力を発揮する一手となるが、その代償として使用するのに必要なMPが桁違いに高い。シルバーピアスの恩恵をもってしても一回で25も使うのだ。仮にサンダガを使用したとして消費MPの合計は30以上と現在の俺の総MPの約3分の1だ。普通に頭おかしい。

 

 

「雑魚相手にはまず使おうとは思わないが、どこかでテストはしておいた方がいいな」

 

 

 流石の俺もここまでぶっ飛んだ性能の精神コマンドは確認もしないで使おうとは思わないので、この先にいるミュータントかファットビーストにでもくれてやろう。

 さあ、黒の夢もあと半分。このままイレギュラーなく進んでもらいたいところだ。

 


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