Jumper -世界のゲートを開く者-   作:明石明

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今回と次回は前作と比べて大きな変化があります。
オリジナル設定&オリジナル展開が中心となりますので、ご注意ください。


第42話「星の思い出に願いを」

 緑の夢は森の樹脂を固めて作ったものだが、それだけで瀕死の状態から回復させられるリレイズの効果を得られるとは考えがたい。

 となれば、可能性としてあがってくるのが森が大気中に漂う魔力を吸収して樹脂に圧縮、さらにそれを固めたことによりその力を得たと考えるのが妥当だろう。

 この仮説が正しければ、緑の夢は400年分の魔力を蓄えたエネルギー結晶体と言うことになる。

 それを触媒として魔法を使えば間違いなくい魔法の威力は上がり、ダルトンが言っていたように使用者の精神力の負荷を軽減させる力を備えるようになるはずだ。

 しかし本当にそうなるかどうかはやはり製作者に聞かなければわからないので、まずは実物を用意する必要がある。

 壊れた杖を受け取って最果てに戻ってくると、運がいいことにロボとルッカ、そしてマールが広場で待機していた。

 

 

「あ、おかえり! どうだった?」

 

「一応、杖そのものはあったけど、ちょっと面倒なことになった」

 

 

 クロノが事の顛末を説明し、俺が必要なものについて補足を加える。

 

 

「つまり、杖の素材としてその森の樹脂で固めたものが必要になると言うわけですね」

 

「ああ。ただこれは相当な歳月をかけて作らないと効果が得られない。そこで、以前からサンドリノ南の砂漠を森にしようと話している女性がいただろ? ロボにはその人に協力しつつ、俺たちが迎えに来るまで森の樹脂を固め続けてくれ。長くつらい仕事だが、どうか頼む」

 

「おまかせクダサイ。森の再生は初めから考えていたことですし、その素材が私にしか作れないのであれば望むところデス」

 

「ありがとう。じゃあ早速行こう」

 

 

 シルバードの組(クロノ、マール、ルッカ)とゲートの組(俺、サラ、ロボ)に分かれて中世へ向かう。俺たちゲート組がトルース裏山に出ると、すぐにガイナーたちが現れた。

 

 

「お久しゅうございます、御館様」

 

「悪いな、少しバタバタして戻ってくるのが遅れた」

 

「かまいませぬ。して、今回はどのような御用で?」

 

 

 オルティーの問いに、今回の内容を移動しながらかいつまんで説明する。

 開拓する場所がデナドロ山近くの砂漠と聞くと、三人は驚きながらも楽しそうな声をあげる。

 

 

「あの砂漠を森として甦らせるのですか。それはすばらしいことですな」

 

「確かに。あれを放置しておけば、いずれサンドリノの村も砂漠に飲まれてしまいますからな。それを防ぐのであれば、森の復活は必須」

 

 

 確かにマシューの言う通り森の復活は必要だ。けど森が復活しても、サンドリノは結局なくなっちまうんだよな……。あれは森が復活する前に砂漠に飲まれたんだろうか?

 今回してもらうことで、砂漠に飲まれる前に緑化に成功すればいいが……。

 自分が思い描く理想系を構想しながら、俺は一つの命を彼らに言い渡す。

 

 

「そこでだ、お前たちにはこのロボと一緒に森の再生をしてもらいたい」

 

「我々が、でございますか?」

 

「ああ。たぶん俺はもうここに戻ってこれることも数えるほどで、下手をすればもうそれもないかもしれない。だから俺がいない間、ロボの手伝いを頼みたい。お前たちの実力なら間違いなく力になるだろうし、人と魔族が共存するきっかけの一端も担えるはずだ。俺たちと一緒に戦ってきたようにな」

 

 

 事実、これ以上中世に戻ってくる理由が見当たらない。俺が言えばこいつらは間違いなく何処までも着いてきてくれるだろうが、来てもらうにしても今はそのときではない。 

 ならばその時までロボと共に砂漠を開拓してもらい、ビネガーたちがやろうとしている共存計画の下地を整えてもらおうというわけだ。

 これは間違いなく、俺たちと接してきたこいつらにしか出来ないことだと断言できる。

 

 

「承知しました。我らにとっても森の再生は必要なこと」

 

「人と魔族の共存も、これからの時代に必要だというのも重々承知しております」

 

「必ずや、御館様のご期待にお答えさせていただきます」

 

「感謝する。――さて、クロノたちも来たし急ぐか」

 

 

 この三人は本当に自分にはもったいないくらいだと思いながら、俺は降下してくるシルバードを眺めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 フィオナと何気に初の邂逅を果たし、ロボとガイナーたちを預けた俺たちはちょうど竜の里から戻ってきたエイラたちと遭遇し、そのまま現代に移動し目的地へと向かっていた。

 確か原作でロボが自分の400年は、俺たちにとって一瞬でしかないといっていたな。プレイしていた当時も「まあな」とか言いながら砂漠から一瞬で森になった場所を見ていたが――――

 

 

「これはちょっと変りすぎだろ……」

 

「すごいですね……」

 

 

 砂漠は確かに森となった。だが森の中には原作にはなかった自然を利用したサンドリノの町が存在し、その中心にはそこそこ大きな神殿が大樹を背に建てられていた。あれがおそらくフィオナ神殿だろう。

 あまりの変貌ぶりに俺たちは言葉を失っていたが、誰からともなく歩き出したのをきっかけに神殿へと足を向ける。

 みれば町民の中にジャリーやガーゴイルといった魔物たちも存在しており、人間たちと楽しそうに談笑を交わしていた。

 

 

「共存、うまくいってるぞ」

 

「ガイナーさんたちががんばってくれたんだね」

 

「ビネガーさんたちもですよ、マール」

 

「未だにあれが共存政策に貢献できたとは思い難いわ……」

 

 

 女性陣の会話を聞きながら解放された神殿の扉をくぐり、一番奥へと足を進める。

 そこには長い年月によって苔や汚れが付着した金属の塊――変わり果てたロボが鎮座しており、その背後にはどこかで見たことのある姿をした三つの銅像が。

 

 

「これは森の復活に貢献したとされるフィオナ様の協力者、ロボ様の御神体とその活動を150年の長きに渡り支えてきたデナドロ三柱神の像です」

 

「で、デナドロ三柱神……?」

 

 

 眺めていたところを神殿のシスターがニコニコと説明をしてくるが、その内容は俺たちの斜め上を行っていた。

 神扱いとか、空白の時間であいつらどういう生活を送ってたんだよ……。

 思わず推理しようと頭が働きかけたが、それを押し留めてまずはロボに意識を切り替える。

 

 

「ルッカ、頼む」

 

「ええ」

 

 

 ちょうどルッカがロボのスイッチを入れようとしているところのようで、周りのシスターたちが御神体に触れないでと叫んでいるがそれをサラとマールが留めている。

 その間に何処からともなく電子音が聞こえ、全員の視線が一箇所に集中する。

 そこには錆付いた体をぎぎぎと動かし、あたりを見回すロボがいた。

 

 

「こ、ココハ……」

 

「大丈夫か? ロボ」

 

「……オ、オオ……。みんな…みんな懐かしいデス……」

 

「無理しないで。400年分の劣化が響いてあちこちガタがきてるから、オーバーホールする必要があるわ」

 

「400年……そうカ……。みなさんには一瞬のことだったのデショウガ、ワタシには気の遠くなるような時間デシタ……」

 

「よくやってくれたな。積もる話しは後にして、ルッカの言う通り先に修理しよう」

 

「そうデスネ……。今夜は400年ぶりの再会を祝いマショウ……」

 

 

 

 

 

 

 当初ロボをルッカの家まで運ぼうと考えていた一行であったが、予想以上に彼に溜まったダメージがひどかったため緊急用の道具一式を持ち出し、森の開けた場所で修理しつつ野営を開くことにした。

 焚き火を囲んで修理を受けながら、ロボはこの400年の間に感じたことを話していた。

 

 

「今回400年もの旅をして気付いたことがあります。ワタシたちはゲートの出現はラヴォスの力のゆがみだと思ってイマシタが、違うような気がしてきたのデス」

 

「どういうこと?」

 

「カクシンは持てませんが、誰かが何かを私たちに見せたかったんじゃないデショウか。ゲートを通していろんな時代の何かを。もしくはその誰か自身が見たかったのかもしれマセン。自分の生きてきた姿を思い返すように……」

 

 

 マールの問いに自分の推測を述べるロボ。それを聞いたエイラが思い出したように立ち上がり、口を開く。

 

 

「エイラ、それわかる。人、死ぬとき今までの思い出、全部見る言い伝え!」

 

「人は死ぬとき、生きていたときに深く心に刻んだ記憶が次々と浮かぶという。それは楽しい思い出もあるが大抵は悲しい思い出さ」

 

「走馬灯って奴だな。俺の世界でも本気で死ぬのを覚悟したとき、その瞬間になって忘れていたものが記憶の底から呼び覚まされるとも言われている」

 

「似たようなものは、何処の世界にもあるんですね」

 

 

 カエルの言葉に続いて尊が自分の知識からそれに準ずるものを引っ張り出し、クロノが感慨深そうにつぶやく。

 

 

「きっと『あの時に戻りたい』、『あの時ああしていれば』……という強い思いに記憶が惹かれるのでショウ」

 

「願わくばもう一度、という思いに呼び覚まされてということですね」

 

 

 尊に体を預けているサラがどこか寂しげな面持ちでつなげると、側の木に寄りかかっていた魔王が何かを思い返すように目を瞑る。

 

 

「私も死ぬ時はそうなるのかな?」

 

「きっとそうよ」

 

「ルッカはあるの? 戻りたい一瞬が」

 

「ううん……」

 

 

 一瞬尊に目をやるルッカだが、彼は口を噤んだまま何か話そうとする気配はなかった。

 

 ――知ってるけど、ここで話すつもりはないってことなのかしら。

 

 尊の心情を読み取り、自分なりの答えをマールに返す。

 

 

「なるべく考えないようにしているの。だって疲れちゃうもの」

 

「……そっか」

 

「しかしだ……この想い出の持ち主はよっぽどラヴォスに縁があるんだな。どの時代にもラヴォスが絡んでいる」

 

「……それで誰なんだ、ミコト。その持ち主とやらは」

 

 

 魔王にその話を振られ、尊はそれに答えていいものか全員の顔を見渡す。

 その様子を察したのか、クロノが代表して答える。

 

 

「話して何か不都合が生じたりするとかなら、無理に言わなくてもいいですよ」

 

「いや、不都合はないと思うが……俺が話してもいいのか?」

 

「私は出来れば知りたい……かな」

 

 

 マールの返事に改めて考えるが、尊は小さく頷いて答えを出す。

 

 

「いや、どうせわかるんだったらその時にわかればいい。それに俺がネタバレしたら、その人の思い出が薄くなりそうだからな」

 

「そうデスカ。もしかしたら、それがわかる日が私たちの旅の終わりの時かもしれませんね。……そろそろねマショウカ?」

 

「そうだな。時間はまだあるし、そのときに話し合えばいいか」

 

 

 ロボの提案にクロノが同調し、彼らは自分のタイミングで眠りについていった。

 

 

 

 

 

 パチパチと焚き火の音が響く中、尊は誰かが起きる気配に釣られて唐突に目が覚めた。

 となりで眠るサラを起こさないように体を起こすと、森の奥へと進むルッカの姿を見つける。

 

 

「……そうか、あのイベントか」

 

 

 記憶を探るまでもなく思い当たった尊は、このあと起こることを考え興味本位でその姿を追う。

 少し離れた場所から様子を伺うとルッカがひとつのゲートを発見し、導かれるようにその中へと入っていった。

 尊の記憶通りならあのゲートは彼女の過去に繋がっており、彼女の母親を助けることができる瞬間にたどり着くようになっている。

 

 

「あとはルッカ次第か……がんばれよ。――さて、俺はもう一眠りでもするかな」

 

 

 あくびを一つして戻ろうとすると、前方から足音が聞こえてきた。

 

 

「ここにいたんですか、ミコトさん」

 

 

 やってきたサラが尊を見るなり安心したように表情を崩す。

 どうやら彼がいなくなったので探しに来たのだろう。

 

 

「すまない。目が覚めたから、ちょっと散歩に行ってた」

 

 

 ルッカのことは伏せて説明し、少し肌寒く感じる体を撫でる。

 

 

「戻るか。このままいても風邪をひきそうだし」

 

「はい……あら?」

 

 

 何かに気づいたサラの視線を追うと、尊は自分が知るはずのないゲートが出現しているのに気づき目を見開いた。

 

 

「なんだ……これは」

 

「……この感じは…………」

 

 

 どこか郷愁を呼び覚ますような空気を感じ、抗えない感覚に陥ったサラがゲートへと足を進ませる。

 一人で行かせるわけにもいかないと尊もついていきその前までやってくる。

 まるでそのタイミングを待っていたかのようにゲートが開くと、二人は互いの手を握り合って静かにゲートへ足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 謎のゲートに入って間もなく、俺たちはゲートの外へと身を躍らせる。

 現状を確認しようと顔を上げると、そこは見覚えのある部屋だった。

 

 

「……ジールでの、俺の部屋?」

 

 

 ある程度の差異はあるが見たことのある部屋に声を漏らしていると、サラが信じられないといった風に驚いているのに気づく。

 

 

「ま、まさか……この部屋は…………」

 

「サラ?」

 

 

ガチャッ

 

 

「おや?」

 

 

 突如、部屋の扉が開き新しい声が耳に届いた。

 振り向いた先にはジールの神官たちよりも明らかに位が高いとわかる服を纏った青い髪の男性がいた。

 マズイ、この部屋の主か? だとすれば俺たちは明らかに不審者――

 

 

「そんな……ち、父上…………」

 

「……サラ、なのかい?」

 

 

 ……え?


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