さて、今回は一気に展開が進んでハチくま編を終わらせて送還まで話が飛びます。
いい加減終わらせる必要がありましたのでごり押し感が否めませんが、ご了承ください。
それでは本編第31話、どうぞご覧ください。
パラディオンと母熊の拳により凄まじい衝撃が起こり、大量の粉塵が宙に舞う。
一発や二発ではない。既に二十合以上ぶつけ合っており、衝撃で森の一部まで吹き飛ぶ始末だ。
母熊はその体格に違わぬ剛腕を振るうが、重量差が圧倒的にあるはずのシンクもそれに拮抗するだけの力で迎え撃つ。輝力による身体強化の恩恵があるとはいえ、何も知らない人間がこの光景を見ればシンクは十分人外認定されているであろう。
「くっ――すごいですね、ハチくま母さん!」
「――ボウズもなかなかやるやないの」
互いにその力を称えあい、打ち合いを再開する。
母熊の戦いがここまで長引くことは思わなかったのか、新たに現れたハチくまや既にやられて"けものだま"になった個体も介入しようとする。
「――兄弟! おかんをお助けするんや!」
「そうはさせん!」
「シンクと母熊殿は一騎打ちの最中にござる。拙者たちがお相手いたすでござるよー」
ユキカゼの忍術で服の問題を解決した女性陣からエクレールとユキカゼがハチくまたちの前に立ちふさがり、介入を阻止する。
――ただし、水着姿で。
「ユッキー……もう少しマシな服を再現できなかったのか?」
「いやー、この『疾風早着替えの術』はまだまだ研究中の忍術で布地の少ないものしか再現できないのでござる」
しかもこの忍術、ちょっとしたはずみで解けてしまうため下手に攻撃をもらおうものならまた素っ裸に戻ってしまうという欠点も持ち合わせていた。そしてこれを知るのは術を行使したユキカゼのみで、他のメンバーはそれを知らない。
なお余談であるが、各々の水着はこんな感じである。
ユキカゼ ビキニ。
サラ ロングパレオ。
ベール ワンピース。
ジョーヌ バンドゥワンピース
エクレール ショートパレオ。
ノワール スク水。
閑話休題。
シンクと母熊の戦いは激しさを増し、輝力をさらに解放して身体能力を強化させたシンクがパラディオンを叩き付ける。母熊が片腕で受け止めると体が僅かに地面に陥没したが、彼女は臆することなくもう片方の腕でお返しとばかりにシンクを弾き飛ばして木に叩き付ける。
「いってて……。身体を強化しててこれじゃあ、僕もまだまだだ」
「――ボウズ、なんでウチらの蜜が欲しいんや?」
立ち上がるシンクを見ながら母熊が問うと、彼は口元に小さく笑みを浮かべて答える。
「お城で待ってる姫様やリコ……恩人で大切な友達の子たちに食べさせてあげたいんです!」
「――なるほど、ええ子やね。ならウチに一撃でも入れられたら好きなだけ分けたるわ」
「ありがとうございます! うおおおおっ!」
ハチ蜜を得るための条件が明確になったことでやる気が上がり、シンクは勝利をもぎ取るべく駆け出した。
◇
落ちていた意識が急速に浮上するのを感じ、尊は小さな呻き声とともに薄っすらと目を開ける。膝枕をしていたサラが真っ先にそれに気づき、顔を覗きこむ。
「大丈夫ですか、ミコトさん」
「サラ……ッ、状況は?」
気を失う前のことを思い出したが直ぐに思考の外に追いやり、確認を取ろうと身を起こす。
近くで響く轟音に目を向けてみれば、パラディオンを手に母熊と互角の勝負を繰り広げているシンクが目に入った。
体格のハンデをものともせず立ち向かうその姿に一瞬見惚れ、同時に他のメンバーが加勢に入っていないことに気づく。
エクレールとユキカゼはハチくまたちの相手をしており、ジェノワーズは自分たちと荷台を守っているのを確認したが、一人足りない。
「ノワール、ガウルはどうした? まだ吹っ飛ばされてどこかに行ったままか?」
「うん。けどガウ様だったら大丈夫。そのうちひょっこり戻ってくると思うから」
「おい、それでいいのか親衛隊」
信頼しているともとれる発言だが、欠片も心配していない様子に思わずツッコミが出る。
再び視線をシンクに戻すと、彼は尊と戦った時のように威力を抑えて速度重視の攻撃に切り替えて母熊を攻め立てていた。
しかし母熊もそれに十分対応しており、決定打に欠けていた。
「これは加勢した方が――」
「あかんよミコ兄」
「シンク君と母熊の一騎打ちですから、邪魔しちゃダメですよー」
「……なるほど、そういうことか」
だから誰もシンクに加勢せず、エクレールとユキカゼが他のハチくまの相手をしているのかと納得する。
ならば自分が介入するのは無粋以外の何物でもないとして尊は腰を落ち着け、戦いの行く末を見守ることにした。
「――ハチくま真拳秘技! 『剛熊拳』!」
ズドォン!
母熊の手から輝力砲が打ち出されるが、強化で機動力の上がっているシンクはそれを高いジャンプで回避し攻撃につなげる。
「せぇやああああ!」
今までで一番早い一撃が繰り出され決まったかと目を張るが、よく見ると母熊は腕を交差させることで完全に防ぎきっていた。
「マジか、あれを防ぐのか。あの熊何者だよ――ん?」
自分はあの熊より劣るのではと思ったところで妙な風が吹き、風下に意識が向く。
するとそこには電気を纏った巨大な輝力の塊が浮いており、それを作り出しているボロボロのガウルがいた。
「シンクぅぅぅ! そこどけぇぇぇ! 俺様がトドメを刺してやんぜぇぇぇ!」
「ちょ、ガウ様! 今は一騎打ちの最中だから乱入しちゃダメですー!」
「しかもその技、未完成じゃなかったっけ」
「……あ、これヤバい展開だ」
ノワールの言葉に尊は先ほどの二の舞が頭を過ぎり、せめてサラだけでも退避させようと腰を浮かす。
しかし、その行動は新たな闖入者によって阻まれた。
「なんじゃ、この有様は?」
「おおー、派手にやっているでござるな」
「みなさーん。大丈夫ですかー?」
「「レオ閣下!?」」「「「レオ様!?」」」「姫様!?」「御館様!?」
突然現れた三人に二人を除いて全員が驚愕する。
そんな様子が見えていないガウルは自分のタイミングで輝力を解放し、ありったけの力を込めてそれを叩き込む。
「くぅらええぇぇぇ! 『獅子王轟雷弾・壊』!」
ズガァァァァァァン!!
放たれた大技が尊たちを飲み込み盛大に弾ける。
ガウルの一撃によって攻撃範囲にあった森が丸ごと抉られ、まるで爆撃でもあったかのような惨状が広がっていた。
「ゲホッ! ケホッ! ガウルの奴、何も考えずにぶっ放しやがったな……て言うか、この流れってまさか……」
大きくせき込みながら愚痴をこぼす尊だが、妙なデジャヴを感じてこれから起こるであろうことを想像する。瞬間――
ビリッ! ビリリィッ!
あちこちから何かが破れる音が上がる。それは彼の目の前にいたサラも例外ではなく、彼女が身に纏っていた水着は一瞬にして細切れになりその肢体をさらけ出した。
一瞬の沈黙が二人の間に流れ、辺りから悲鳴が上がると同時にサラの顔が一気に赤くなった。
「きゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ズバシィィッ!!
「あぼぅ!?」
本日二度目の悲鳴とともに放たれたサラのビンタが的確に尊の頬を捉える!
最初のより早く鋭い一撃は征服王に叩かれた少年のように尊を吹っ飛ばし、彼を地面に沈ませた。
「ああっ! ご、ごめんなさいミコトさん!」
「……別にいいさ。なんとなく、こうなる気はしてたから」
意識を持っていかれることはなかったが倒れこんだまま小さく答え、全員が着替えを終えるまで尊は今日のことについて考えるのだった。
◇
ダルキアン卿がなんと母熊の友人であり、ハチくま真拳なるものを教えた師でもあったそうだ。
それを聞いたときあそこまで強い理由が腹にストンと収まったのだが、俺の中にある知り合いの強さ(補正なし)のヒエラルキーでダルキアン卿の評価が一段と高くなりトップを独走。さらにレオ閣下のやや下に母熊がランクインすることとなった。ちなみに自己評価では俺は最下位。
それはさておき、あの後は友好的に話がついて食料と引き換えに本命のハチ蜜を樽三つ分ももらってフィリアンノ城へと帰還し、送還の最終調整をしていたリコッタも交えてそのままハチ蜜パーティーと相成った。
苦労した分の補正もあったかもしれないが、ハチ蜜は俺の知ってるハチミツと違って深いコクと香りがあり、今まで口にしたどの蜜よりも美味いと断言できる代物だった。
余った分は全員で小分け出来たのでまたいつか集まった時に食べようという話になり、サラはハチミツを使ったレシピを集めてみようかなど考えているそうだ。
サラと言えば、あの日だけで二度も彼女の裸を見てしまったせいか妙に意識してしまうようになり、今でもふとした時にあの光景がもやもやと浮かんでしまう。
向こうもそれを気にしているのか、廊下でばったり会うと顔を赤らめて俯いてしまうことが何度かあった。何処の中学生だよ、本当に。
それ以外にフィリアンノ城でシンクの送迎会があったり、まったりとしたお茶会があったりとのんびりした日々があっという間に過ぎていき、とうとうシンクの送還の時がやってきた。
シンクの送還――つまり、俺とサラがクロノ世界に戻る時でもある。
「――よし、こんなもんかな?」
ヴァンネット城にあてがわれた自分の部屋で亜空間倉庫に詰め込んだ荷物の内容を確認し、最後に忘れ物がないかチェックして外にいたメイドに世話になった礼を述べておく。
隣の部屋にいるサラの様子を見ると、彼女も荷支度を終えたところなのか満足げに部屋を眺めていた。
「準備はいいか?」
「はい」
連れ立って正門に向かうと、レオ閣下にガウル、そしてジェノワーズがそれぞれのセルクルに騎乗して俺たちを待っていた。
全員、俺たちを見送るために来てくれるらしい。
「来たか。もういいのか?」
「大丈夫です、行きましょう」
向かう先はビスコッティの召喚台に通じる階段前。あちらからは荷物の整理や後片付けがあったため少し前に帰ってきたばかりだが、シンクの見送りのためまた向かうことになった。
もっとも、送還条件の関係で最後まで見届けることはできず、階段の前で待つことになるのだが。
そのシンクの送還を見送ったのち、俺たちもその場でサテライトゲートを開く予定だ。
再びこの世界に来るのは少なく見積もっても一月か……長いんだか短いんだか。
そんなことを思いながらヴァンネット城を出発し、セルクルに揺られること数時間。無事にビスコッティ組との合流を果たす。
シンクのカッターシャツにスラックスといういかにも学生という服装をみて日本が恋しくなったが、ここはぐっとこらえよう。
「尊さん、サラさん、閣下。わざわざありがとうございます」
「気にするでない。ワシらはミコトについてきただけじゃ」
「そういえば、ミコト殿とサラ殿は勇者が送還された後に独自で世界を渡られるのでしたね」
「ああ。 それでリコッタ、条件は全部クリアできたのか?」
ギリギリまで術式方程式に改良を加えていたというリコッタに確認を取ると、敬礼とともに返事が返ってくる。
「ばっちりであります。残念ながら時間が足りなかったので全ての改良は間に合いませんでしたが、勇者様を確実に元の世界に送り届けて再召喚が行えるようにできたであります」
「……そこまで出来てたのか」
条件さえクリアできていれば一安心だと思っていたが、まさか僅かな期間でそこまでできるとは……。ますますチート転生者疑惑に拍車がかかるな。
ルッカと会せたら一体どうなるか見てみたい気もするが、それは置いておくとしよう。
「勇者、そろそろ時間だ」
「わかった。 次に会えるのは三ヶ月後ぐらいですね」
「そのくらいだと、ここは夏か……。俺の感覚では冬真っただ中のはずなんだがな」
秋の後に夏が来るって何かの歌であったが、まさか実際に体験することになるとはな。
「――それじゃあ、また!」
手を振りながら階段を上るシンクに俺たちもそれぞれ返事をする。
それからしばらくして召喚台の方から桃色の光が立ち上り、一つの強い光が天に向かって消えていた。
それが何なのか、誰もが言わずともわかった。
「……いってしまいましたね」
「けど、また会えるでありますよ。絶対に」
「そうでなきゃ俺は困るぜ。結局、フィリアンノ城でもあいつとの決着がつかなかったしな」
そんな会話をしていると、召喚台からミルヒ姫様とタツマキが現れる。若干沈んだ表情をしていたが、俺たちを見るなりどこか無理をした笑みを浮かべる。やっぱりまた会えるとわかっていても、別れが辛いのだろう。
ともあれ、シンクの送還はこれで終わりだ。となると――
「――次は俺たちだな」
サラが俺の側により、今度は閣下たちが残念そうな表情になる。
「名残惜しいが、暫しの別れだ。お主たちが為すべきことを果たしたら是非また来てくれ」
「そん時は盛大に歓迎するぜ」
「ビスコッティでも、精いっぱいのおもてなしをさせていただきますね」
「ありがとうございます。今回は、本当にお世話になりました」
「次に来るときは、もっと力をつけてきますよ。閣下、ガウル。その時はまたよろしく頼みます」
これ以上の言葉は不要だろう。そう判断して俺はサテライトエッジをハルバードで召喚し、あの時のように頭上へと掲げる。
こちらのやろうとしていることを察したのか、全員が俺たちから離れて安全を確保する。
範囲外へと出たことを確認し、あちらの世界を思い浮かべながらハルバードを振り下ろす。
「開け! サテライトゲート!」
叩き付けられたハルバードが光の粒子となって足元を中心に広がると六角形の扉を形成する。
その光景に感嘆の声が耳に届く中、俺たちの体は扉の向こうへと吸い込まれた。
◇
三人の異世界人が全て元の世界に戻ったのを見届け、レオはおもむろに空を仰ぐ。
「あの三人には、大きな借りを作ったな」
「はい。思い出も、たくさんもらいました」
「新しい目標もできたし、戻ったらまたゴドウィンと鍛錬すっか」
「少し前の日常に戻るだけなのに、とても寂しいのであります」
「また会えるんだ。いつまでもそんな気持ちではいられないぞ」
「とかいいながら、実はエクレも寂しがってるくせに」
「せやなぁ~。なんだかんだでシンクとおると嬉しそうやったしな」
「ツンデレですね~。それもかなりの」
「お、お前らーっ!」
それぞれが再開への期待を胸に、彼らが救った日常へと戻っていく。
次に会ったとき、胸を張って彼らを迎えられるように。
春先に起こった出会いは一先ず終わりを迎え、次の季節に再びこの地で会うのを楽しみにするのだった。
◇
中世、デナドロ山。
「……ガイナーよ」
「どうした、マシューよ」
「……暇だな」
「……ああ、そうだな」
刀の手入れをしていた仲間に声をかけるフリーランサー。彼らは自らデナドロ三人集と名乗り、かつて人間に君主を持って魔王城へ攻め込んだ経験があった。
しかしその君主は魔王城の消滅と共に行方不明に。自分たちは衝撃に吹き飛ばされ魔王城の消滅に巻き込まれはしなかったものの、死線をさまよう旅路へと乗り出す羽目になってしまった。
「グランとリオンに腕試しをしようにも、奴らもいつの間にかいなくなってしまったしな」
「せめて御館様がいらっしゃればいいのだが……。どこにおられるのやら」
「なに、あのお方のことだ。時期に新たな力をつけて戻ってこられるだろう」
「……フッ、オルティーの言う通りだな。きっと今に我等の想像もつかぬ方法で現れるだろう」
ククッとマシューが笑ったその瞬間、
カッ!!
三人の頭上が突然青白い光で満たされた。
「「「なっ!?」」」
咄嗟に距離をとって臨戦態勢に入ると、光の中から何かが現れ落下する。
「いでっ!」
「きゃあ!」
ドスンという音とともに聞こえたのは若い男女の声。そして男の声を聞いた瞬間、デナドロ三人集は目を見開いた。
「そ、そのお声は……!」
ガイナーがわなわなと声を震わせる。
光が落ち着き、現れたのは見知らぬ青い髪の女性と――女性の下敷きになっているが――主と仰いだ黒髪の男性だった。
「「「――お、御館様あぁぁぁあああ!!」」」
本編31話、いかがでしたか?
次回よりとうとうクロノトリガー編に戻ります。
前作の流れをそのまま持ってくるつもりなので内容に大きな変化をさせるつもりはありませんが、犬日々編を挟んだのでそれに伴って細部で変化が発生するかと思われます。
暇があれば見比べていただくのも一興かと。
それでは、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。
おまけ①
尊による独断と偏見の戦闘能力格付けランキング(尊 補正なし)
S
ダルキアン
――――――――
A+
レオ エイラ
A
魔王 ハチくま母さん
A-
三人集
――――――――
B+
ロラン バナード ゴドウィン カエル
B
ユキカゼ クロノ シンク ガウル
エクレール ジェノワーズ ダルトン ビオレ ルージュ リゼル ロボ
B-
サラ マール ルッカ
――――――――
C
尊
除外
ミルヒ リコ
おまけ②
ステータス
名前:月崎 尊(24)
属性:天・水
魔法・精神コマンド
努力 MP2
サンダー ★ MP2
アイス ★ MP2
集中 MP4
加速 MP4
ケアル ★ MP4
熱血 MP6
レイズ ★ MP10
勇気 MP20
???
???
???
???
???
特殊スキル
UG細胞改
亜空間倉庫
ブーストアップ
次元跳躍
底力(Lv3)
紋章術者
クロノ世界でのステータス
Lv :32
HP :395
MP :60
力 :58
命中 :14
すばやさ:14
魔力 :38
回避 :17
体力 :65
魔法防御:50