さて、ついに魔物戦の開始となります。
今回と次回がキリサキゴホウ戦となり、その次でオリジナル展開となります。
それでは早速、本編第26話、どうぞご覧ください。
「ミルヒ!」
「レオ様!」
「こ、これはいったい!?」
突然浮かび上がった足場にしゃがみ込みながら、レオは倒れこんだミルヒに向けて手を伸ばす。彼女のそばにいたサラも、不安定な足場の影響でしゃがみ込むことを余儀なくされていた。
「レオ様! ミルヒ姫様! サラ様!」
下に残されたルージュが声を張り上げるが、武闘台はどんどん空へと昇って行く。
そしてその頭上には、禍々しい色をした巨大な何かが降りてきていた。
脅えるような目を向けるミルヒと睨みつけるレオ。そして強く警戒したサラが何かに気づいたように口を開く。
「もしかして……これが星詠みの根源?」
「……そうか、これがダルキアンの言っていた、かつて地の底に封じ込められたといわれる魔物か」
「ま、魔物……」
グオオオォォォォォッッ!!
衝撃波を伴った咆哮が上がり、呼応するかのように大地から巨大な火柱が上がる。
戦場にいた兵たちが尋常ではない事態に気づき、我先にと砦から離れるように駆けだす。
火柱は見境なく噴き出し、一本が武闘台の端に直撃し、サラたちの足場を大きく揺らす。
「きゃあ!」
「ミルヒ!」「ミルヒオーレ姫!」
衝撃で倒れたミルヒに二人が声をかけるが、魔物の動向から目を切らせずにいた。
繭のような封印から逃れるように身をよじり、突き破ろうと腕を伸ばす。苦しんでいるような姿に、ミルヒが魔物の体に突き刺さっているあるものに気づく。
――あれは……刀?
それだけではない。魔物から漏れる声はどこか悲しげであり、まるで泣いているようにも聞こえる。
ついに二つの腕が繭を突き破り、それを欠如に封印がはじける。
揺らめく六つの尻尾に巨大な牙をもつ口。まるで体の具合を確かめるように体を二、三度震わせ――
グォガアアアァァァァァァァァァァァァァ!!!!
一度目のものが可愛く感じられるほど凶悪な咆哮が轟く。封印されていたことに対する怒りか、それとも自由になったことへの歓喜か。
魔物は狐の姿をした怨念のようなものを展開しながら目の前にいる三人を見据え、ミルヒの手にしたエクセリードをみて怨敵を見つけたかのように目を見開き、再び咆える。
ドドドォッ!
足場から触手のようなものが出現し、先端を様々な形の刃にして一斉に矛先を向ける。
「ぉおおおお!」
レオがグランヴェールを掲げ頭上にシールドを展開し、迫る攻撃をすべて防ぐ。そこへサラが右手に炎を溜め、天にかざす。
「『ファイガ』!」
放たれた爆炎が触手を焼き払い、消し炭にする。
突然の爆発に驚く二人だが、すぐに迫る追撃に備えレオが行動を起こす。
前方から迫る刃を再びシールドで防ぎ、止められて動かなくなったところを一気に薙ぎ払う。サラも後方から迫る攻撃に対して魔法を放ち、自分たちへ近づけさせないようにする。
「ミルヒ、無事か!?」
「は、はい――っ! レオ様、危ない!」
安否を気遣うレオの後ろから新たに二つの刃を向けるのが見え、ミルヒがとっさに前に出て短い剣を横に構える。
ガキィン!
しかし、そんな彼女の行動を嘲笑うかのように二本の刃はエクセリードを破壊し、彼女の体を鎧越しに切り裂いた。
「――み、ミルヒィィィィィィィィィィ!!」
「ッ!」
レオの悲鳴を聞いて振り返ったサラが負傷したミルヒを見るなり駆け出し、崩れ落ちる体を抱きとめる。
「姫様! 今治療を――あぐっ!?」
声をかけた瞬間、サラとミルヒが横から突き刺さった刃に弾き飛ばされ、二人して狐の怨念に取り込まれ魔物の方へと連れ去られる。
僅かなスキにミルヒだけでなくサラまでやられ連れていかれたという事実に一瞬我を忘れ、状況を飲み込んだ瞬間レオは心の奥底から激怒した。
「……き、キィィサァァマァァアアアアアアアアアア!!」
グランヴェールを通じて莫大な輝力がレオの体から噴出し、常人ならばそれだけで気絶してしまいそうな力が一点に収束される。
流石にこれはまずいと感じたのか、魔物の方も一瞬怯むような動作を見せると自身の尻尾をレオに向かって放つ。
「それがぁぁああああ! どおぉしたあああぁぁぁぁぁぁ!!」
ドゴォォォォォォ!!
一閃。
全力で振り抜かれたグランヴェールが轟音とともに尻尾を破壊し、レオは二人を取り戻すべく追撃を開始する。
幸いにして彼女であれば助走をつけた跳躍で魔物の頭部に飛び乗ることが可能な距離だ。グランヴェールを握りしめ、迫る触手さえも足場にして激走。
一本道になったことで横に逃げれなくなったと思ったのだろう、魔物は頭部から針のようなものを無数に打ち出し、レオの進行を妨げる。
しかし今のレオにそんな攻撃など豆鉄砲に等しく、グランヴェールで薙ぎ払いながら突き進み大きく跳躍。魔物の頭部の目の前に躍り出た。
「ぬぅらああぁぁぁぁ!!」
ズドォォォォン!!
渾身の一撃を額に直撃させ、回転しながら爆炎を抜けて近くに浮いていた足場へと着地する。
激情に任せて大規模な輝力技を連発したツケか、予想以上の疲労がレオにのしかかるが、それさえも今はどうでもいい。
――まだ間に合うはずじゃ! すぐに助け出せば、二人とも!
しかし煙の向こうから無傷の魔物が姿を現し、再び尻尾を振るってレオに襲い掛かる。
「何度来ようと同じこと!」
再び輝力を溜めてグランヴェールで迎撃。一瞬の拮抗からレオが全力で押し込もうと思いっきり踏ん張りを聞かせる。
だがそれがまずかったのか、小さな足場がその力に耐えきれず崩壊し、レオの体が宙に投げ出された。
「しまっ――!」
ここが両者の分かれ目となった。
落下するレオに向かって魔物が容赦なく攻め立て、彼女をルージュがいる武闘台跡地へとたたきつけた。
もはや障害はないと判断したのか、魔物はグラナ砦に背を向け移動を始める。
進路の先には――ビスコッティ共和国があった。
◇
「なんだなんだよなんなんですかぁー!? 窓がないから外の様子がまるで分らんぞ!」
天空武闘台に通じる螺旋階段を駆け上りながら、尊は引っ切り無しに鳴り響く轟音と揺れる足場に愚痴を漏らす。
道に迷ってしまったため武闘台に通じる階段を見つけるのに手間取ってしまい、ようやく発見したと思ったところで建物そのものが異常を起こした。
ただ事じゃないというのは漠然とわかるので早急にレオたちと合流すべく階段を駆け上がっていたわけなのだが、何度か足を踏み外しそうになりその度に動きを止めざるを得なかった。
そしてひときわ大きな衝撃があって以降まるで何事もなかったかのように砦の揺れが収まり、ようやく階段の終点へとたどり着く。
「サラ様! 閣下――っ!」
顔を出した瞬間目に飛び込んできたのは、クレーターだけの変わり果てた武闘台の姿だった。
さらにズシン、ズシンと聞こえる方角に顔を向けてみれば、巨大な何かがビスコッティに向かって進んでいるのが見えた。
「まさか……あれが魔物? いや、それよりも」
辺りを見渡しても人影は見つからず、クレーターの中をのぞき込んでみれば血を流しているレオと介抱するルージュ、そしてそれを見下ろすシンクとエクレールが見え、尊があることに気づいた。
――サラがいない!?
いつかのようにクレーターの中へ飛び込むと、こちらの音に気づいた三人が声を上げる。
「尊さん!」「ミコト殿!」「ミコト様!」
「みんな! これは一体どういうことだ!? サラ様は!?」
その問いにシンクたちが言いづらそうになり、ルージュは涙ながらに語る。
「サラ様は……ミルヒ姫様とともに……魔物に取り込まれて……」
「なっ!?」
何故ミルヒがここにいたのかと驚くよりサラが取り込まれたということに驚愕し、反射的に魔物がいた方角を忌々しそうに睨みつける。
「ふざけるなよ……あの野郎!」
自分が怒っているのを自覚しながら、まずは相手と戦ったであろうレオから話を聞くべく彼女のそばに近づく。
「気絶しているのか……だったら」
以前サラから聞いた話を思い返しながら右手をかざし、習得してから初めて使う魔法を唱える。
「『レイズ』……!」
尊の手から淡い光が溢れ、レオを包み込む。
大きな傷が徐々に塞がりはじめ、うめき声とともにレオが目を開けた。
「レオ様!」
「……ルー、ジュ。それに、ミコトに勇者たちか」
「レオ閣下。単刀直入にお尋ねします。サラ様があの魔物に取り込まれてどれくらいの時間が経過していますか?」
「くっ……まだ、五分と経っておらんはずだ。ワシの推測が正しければ二人は聖剣の守護によって守られているはずだが、それが続くのもミルヒの輝力次第じゃ。ワシらが助け出すより先にミルヒの輝力が尽きてしまえば……」
「姫様とサラ殿が魔物に消化され、命を落としてしまうということですか!?」
エクレールの言葉にレオが怒りを募らせたまま頷く。その答えに、男二人が拳をギリッと握り締める。
「させるかよ……!」
「ああ、させてたまるかよ!」
クレーターから出て魔物姿を捉えるが、巨大故に一歩一歩の移動距離が大きく、砦からどんどん遠ざかっていた。
どうにか移動できないかとシンクは周りを見渡し、点々と存在する浮き岩に注目する。
「浮き岩を足場にしてトルネイダーで滑空すれば……いける!」
「待て勇者! 今は守護のフロニャ力が酷く弱まっている! 落ちれば死ぬぞ!」
「んなもん、落ちなきゃいい!」
エクレールの警告にそう宣言して輝力武装を作り出すシンクを横目に、尊もどうにか追いつく方法がないか模索していた。
――俺も輝力武装を使えば同じように移動手段を得ることができるだろうが、問題はしっかりと形態を維持できるかだ。
風月庵で試してから大分輝力の扱いができるようになったが、輝力武装に関してはあれ以降全く手をつけていない。
――どうする? 一か八かの輝力武装より、途中までシンクに乗せてもらって近づいたら加速とヘイストの鉢巻きで走るか? いや、既にエクレールが乗り気だから俺が加わると墜落しかねない。だったら気合で輝力武装を形成して移動手段を確保するか……ええい! 現実的な手段がないのが非常に腹立たしい!
自分が輝力を十全に扱えないことにイライラしだす尊。その時――
「!? なんだ!?」
突如、頭の中にステータス画面が展開され、中央に一つの文が点滅していた。
evolution completion.
new ability release.
「……新能力、解放?」
――そういえば画面の端に『ability update.』とかあったな。あれが終わったってことか――まて、上の文が進化完了ってことは!?
頭の中で何かがカチリとはまり、反射的に特殊スキル欄を開いてみると、彼にしか見えないところで新しい項目が追加されていた。
紋章術者(New ability)
・輝力操作最適化
※フロニャルドにおいて、自在に紋章術が使用可能
※消費輝力が能力解放前の10%で使用可能
・フロニャルド以外での場合、MPを消費して紋章砲、輝力武装を使用可能
※・レベルに応じて消費MPが10ずつ加算
(レベル1=10・レベル2=20・レベル3=30(MAX))
・消費MP50で輝力武装を展開
自ら消滅させない限り顕現可能
ただし攻撃を加えられると消滅。また、二つ以上の同時展開ができない
複雑な物ほど消費MPが増加
移動系武装は推進力に輝力を使用する(操作内容によって消費量が変動)
・シルバーピアスの効力適用能力
「……は、はは、なんて出来すぎなタイミングで発現するんだろうな」
込みあがる笑みが抑えきれない。
尊に備わったUG細胞改による『自己進化』がここにきて完了し、彼が現在欲してやまなかった能力がまるで狙っていたかのように解放された。
「この能力解説に書かれていることが正しいのなら、今すぐにでも俺が作りたい物ができるはずだ!」
思い浮かべるは空を飛べる乗り物。しかしそれは元の世界にはないもので、空想の中でしか存在しえないもの。
尊の足元に青白い光があふれだし、彼の明確なイメージによって一つの乗り物が形成される。
その出来に尊は感心し、周りで見ていたシンクたちはそれが何なのか尋ねる。
「ミコト。それはなんじゃ?」
「ベースジャバーのユニコーンVer……といってもわかりませんよね。簡単に言えばこれで空を飛び、底面にある砲門から紋章砲を放ち敵を迎撃することができます」
そう、尊が作り出したのは機動戦士ガンダムUCに出てきたベースジャバーを人間サイズに縮小したものだ。
トルネイダーと違いある程度自由に空を飛ぶことができるが、推進力や迎撃用の砲門に輝力を使用するため調子に乗って使いすぎると輝力を使い切り墜落する可能性もある。
だがそれを差し引いても破格の性能を有しており、こと今の状況では実に頼もしい武装だ。
「シンク! 俺は空からこいつで攻める! お前たちは下から来てくれ!」
「わかりました!」
「待て! ワシも行くぞ!」
「いけませんレオ様! 傷は塞がっていますが、輝力を使いすぎてフラフラではありませんか!」
確かに傷こそ尊のレイズで回復したが、その前に魔物との戦闘で輝力を使い果たし体力が大幅に低下していた。現に今もルージュに支えられることで立っているのがやっとなのだ。
回復に必要な時間がまだ足りておらず、無理についていけば足手まといになりかねない自分にレオは悔しそうに顔をゆがませる。
「……ならばミコト、それに勇者と親衛隊長。頼みがある」
一度目を伏せ、託すように声を絞り出す。
「この世界を……ミルヒを頼む!」
「「「……はい!」」」
力強く答え、シンクはエクレールを乗せて発進し、尊もグリップを掴んでベースジャバーを飛翔させる。
「今行くぞ……サラ!」
第26話、いかがでしたでしょうか?
尊が新しく体得したスキルについて簡単に補足しますと、今まで彼が上手く輝力を扱えなかったのは『自己進化』の力が進化のために尊が使用する輝力を余分に食ったため発動が不安定になっていたという設定があります。
進化に必要な輝力を確保した後は安定して紋章術が使えるようになり、『自己進化』が輝力の消費量を最適化するようになりました。
この山場が終わり次第尊のステータスや能力を改めてまとめますので、詳しくはそちらで確認ください。
それでは、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。