さて、今回はJumper -IN DOG DAYS-の第5話をほぼ丸ごと流用して仕上げました。
なので展開的にはほとんどあちらと変わらない内容となっていますが、どうかご容赦ください。
それでは本編第17話、どうぞご覧ください。
呼び出されたイズミ君――いや、シンクのあとを追って天幕を出てみると、ゴドウィン将軍とロラン団長のほかに親衛隊長と呼ばれていた女の子が外で待っていた。
「あ、尊さん。これからお城の学者の人たちに元の世界に帰る手がかりを見つけてもらえないか相談しに行くんですけど、一緒に行きませんか?」
「いいのか? シンクと違って、俺たちは完全に招かれざる人間なんだが」
「構わないさ。それに勇者殿に話を聞かせてもらったが、君も元の世界に帰るために行動しているそうじゃないか。ならば勇者殿の送還が見つかった際に、それを利用できるかもしれないじゃないか」
「なるほど……」
確かに、ロラン団長の言葉にも一理ある。
あちらではラヴォスを倒さないと元の世界に帰ることができないのが確定しているが、ここはクロノトリガーとは完全に別の世界だ。うまくいけば、シンクの送還に便乗して地球へ帰還することもできるかもしれない。
チラッとサラに視線を送ると、彼女はこちらを見て小さく頷いた。俺の指示に従う、ということなのだろう。
「俺としては構わないんだけど、一応レオンミシェリ殿に話をつけておきたい」
「ならば俺のほうから閣下にお伝えしておこう。二人はこのまま、フィリアンノ城へ向かうといい」
「ありがとうございます、ゴドウィン将軍」
俺の代わりにサラが感謝の言葉を述べると、将軍はどこか機嫌が良さそうにガレット陣営へと戻っていった。
ロラン団長は事後処理があるとかで別行動をし、俺たちは団長の妹という親衛隊長のエクレールの案内で戦場で目指そうとした城、フィリアンノ城へと向かう。
その道中、シンクがダメ元で携帯を開いてみるが、アンテナが表示されるであろう場所には無情にも『圏外』の二文字が表示されていた。
「――やっぱダメかぁ……異世界だもんなぁ」
「地球から別の星に飛ばされたようなものだからな。それこそ諦めるしかないだろ」
もっと乱暴な言い方をすれば、糸電話でネット電話に繋げようとするくらい無理な話だ。そんな結果に項垂れるシンクを余所にサラは初めて見るそれを興味深そうに眺めており、その反対側を歩いていたエクレールがどこか呆れた風に切り出す。
「覚悟もないのに召喚に応じた貴様が悪い。自業自得だ」
「覚悟!? 覚悟も何もこのワンコが踊り場から降りようとしたところで落とし穴を仕掛けるから!」
「……落とし穴? タツマキがか?」
いつの間にかシンクの足元にいた犬――タツマキと呼ばれた犬が少し前に出て小さな魔法陣のようなものを展開した。何やら縁の方に文字らしきものが書かれているが、全く読めない。
「えっと、なになに? 『――ようこそフロニャルド、おいでませビスコッティへ』」
エクレールがそれを読み上げるとタツマキが前足で一部をチョイチョイと示し、視線が集中する。
「『注意 これは勇者召喚です。召喚されると帰れません。拒否する場合はこの紋章を踏まないでください』」
「え゛!?」
シンクの顔が絶望に染まり、タツマキは「そういうことだ」とでも言いたそうにうなずく。
いや……これはないな、いろいろと。
そして案の定、涙目でシンクが切れた。
「……こ、こんなんわかるかぁぁぁぁ!」
「知るか! 私に言うな!」
「エクレールさんの言うことも尤もですけど、これはちょっと……」
「はっきり言ってしまえば、拉致と何ら変わりないな」
しかもシンクは身動きできない空中で落下点に召喚の陣を設置されたらしいからな。そりゃもうコーラを飲んだらゲップが出るくらい確実にホールインワンだ。
おまけに文字も暗号みたいで全然わからん。俺はクロノ世界で使われている文字が何故か日本語だったからどうにかなったが。
「まあ、貴様を帰す方法は学術研究院の連中が調査中だ。時機にいい方法が見つかるはずだ」
「そりゃあ……そうなってくれたらうれしいけど……」
意気消沈するシンクがどこか縋るようにこちらを見る。まあ、あんな身体能力の持ち主でもまだ中学生なんだ。こうなるのが普通だよな。
「心配するな。最悪この世界に骨を埋める覚悟がいるかもしれないが、いざとなったら俺がなんとかしてみよう」
「なんとかなるんですか?」
「断言するには、まだ材料が足りてないけどな」
ここに来た時と同じようにサテライトゲートが使えて、なおかつラヴォスの干渉を受けなければそれでいい。
ただ、ゲートを開いてもやはりラヴォスを倒さなければならないと分かれば、潰した上で問題がないことが確認できるまでシンクにはここに滞在してもらうことになるだろう。
原作でいえば流れは既に終盤の頭。サブイベをこなすことを考慮すれば多少時間がかかるが、ひと月かかることはないはずだ。あとはそれまでの辛抱と割り切ってもらうしかないな。
「……ありがとうございます」
俺の回答に多少は楽になったのか、先ほどよりはマシな顔での礼が返ってくる。
そこへ区切りがついたと察したのか、エクレールが腰に下げていた袋を取り出してシンクの前に差し出す。
「とりあえず、勇者には姫様から賓客として扱うよう話が来ている。それだけでここでの暮らしに不自由はないが、まずはこれを受け取れ。今回の戦の活躍報奨金だ」
「報奨金って、お金? あの、お金はさすがに受け取れないよ」
「戦場の活躍における正当な報酬だ。受け取りを拒否すれば、財務の担当者が青ざめる」
「もらっておけ、シンク。何をするにしても金は必要になるし、何より持っていて困ることはない。それに大人の世界じゃ、もらってもらわないと困る事情もあるんだからな」
金がらみの問題は、俺も向こうの世界で嫌というほど味わったからな。トルース村でトマに酒を奢って予想以上の出費をしたり、サンドリノの村でトマと殴り合った時に発生した酒場と宿の修理代で金が消し飛んだり――あれ? トマと酒が絡んだ時しか問題になってないな……。
そういえばあいつとはチョラスで別れたのが最後だな。そろそろ虹色の貝殻を見つけたころだろうか? まあ見つけたところで、番人をしているあれに勝てるとは思えないが。
ところで俺の言葉もあってか流されるままエクレールから報奨金を受け取るシンクだが、その表情はどこか納得していないようだ。まあ、この辺も大人になればわかるだろう。
「兵たちは楽しいから戦に参加していうものもいるが、報奨金は自分がどれだけ戦で貢献できたかを測る目安となる。少なくとも、参加費分は取り戻したいというのがほとんどだろうな」
「えっ、参加費!?」
「妥当なところですね。こんな大掛かりな賞金付きイベントで、しかも一般人の方まで参加するなら動くお金も相当なものでしょう。どこかで緩和させないと、国の財政そのものが危うくなってしまいますし」
「参加者としても参加費分は回収しておきたいのは当然だろうし、あわよくば報奨金でさらに儲けたいってとこだろうな。少なくとも、俺ならそうする」
「そういうことです。 しかし、この二人に比べて勇者はあまり頭が回らないようだな」
「むぅ……」
どこか棘のある言い方に大げさに頭を抱えて見せるエクレールにシンクが不満そうな表情をする。
確かシンクの攻撃が誤って彼女の服を破壊したんだっけ? 確かにそんな目に遭わせられたのなら、この態度も納得せざるを得ないな。
……まあ、簡単なフォローくらいはしておくか。
「この辺は人生経験の差だな。特別な勉強とかしてない限りシンクぐらいの歳で政治と金について考えることはほぼないだろうし、それ以前にまったく知らない世界のルールなんて知らなくて当然なんだからな。エクレールだって、地球のイベントのルールなんてわからないだろ?」
「それは、そうですが……」
「もう少し相手の状況を理解した上で話してやるのも大切なことだ。元々違う世界の人間なんだから認識の相違が強いってのもあるんだし」
「……留めておきます」
どこか釈然としないまま頷いたエクレールが大通りに足を向けたのをきっかけに、俺たちも雑多の中へ移動を開始する。
道に広がる屋台を利用して硬貨の説明を受けたり、戦興業の仕組みや国が得た報奨金の使用例などを教えてもらってると、シンクが何か思い出したように尋ねる。
「そういえば姫様から戦が安全なものだって教えてもらったけど、大陸協定っていうのを守らなくて……人が死んじゃったりすることは、あるの?」
少し言いにくそうな声にエクレールは一度目を伏せ、答える。
「歴史を紐解けば、そういった争いがなかったわけでもない。特に、魔物を相手にした時などはな」
「魔物、ですか?」
予想だにしない言葉にサラが聞き返し、俺も耳を傾ける。
「我々が怪我をしないでいられるのも、戦場指定地に眠る戦災守護のフロニャ力のおかげです。元々守護力の強い場所に国や町などが作られ、それ以外の場所では怪我もしますし、運が悪ければ命を落とすこともあります」
「じゃあ魔物っていうのは……」
「守護力が弱い街道や山野では大型野生動物が出現する危険があり、それらが何らかの原因によって変異、凶暴化したものが魔物になると言われている。尤も、魔物の目撃情報自体が少ないためハッキリとはしていないがな。付け加えて言うなら、そういった危険な場所を通るときに戦興業の隊列に加われば、安全な移動が可能になる」
……なるほどな。安全なお気楽世界かと思えば、そういった裏事情もあるということか。
案外、戦興業もそういった脅威から身を守るための訓練を兼ねているのかもしれないな。
それにしても、フロニャ力か……。聞いたことのないものだが、魔力があっちの世界のものであるようにおそらくこの世界特有の力なのだろう。
もしかしたら魔法で魔力を使うように、レオンミシェリ殿が使用したあの爆発もそれが関係しているのか?
一人そんなうちに城の入り口の一つにたどり着き、エクレールに案内されたのはかなり広い図書館のような場所だった。
あちこちでトレンチャーキャップに白衣を纏った人が本を引っ張り出しては羽ペンを使ってノートらしきものをとっている。
その中で一人、一際大きな机に座っていた女の子がこちらに気付くと同時にパタパタと駆け寄る。
「勇者様とガレットからお越しの方たちでありますね? 自分はビスコッティ学術研究院の首席研究士、リコッタ・エルマールであります」
「……首席!? 君がか!?」
思わず声を大にして驚いた俺は悪くないだろう。見た目小学生後半の女の子がこの学院におけるトップというのだ。
サラもシンクも同じ心境なのか、二人とも驚いた表情で固まっている。
「まあ、ミコト殿の言いたいこともわかりますが……。それでリコ、成果の方はどうだ?」
「……申し訳ないであります。現在、学院の総力を挙げて勇者様の帰還方法を模索中でありますが、力及ばず、未だに、全く、どうにもこうにも……」
言葉が続くにつれて言葉の中から申し訳なさが伝わり、後半に至っては一区切りごとに頭を下げだす始末。
なんというか、こんな女の子に頭下げさせるのは大人として悪いイメージしか沸いてこない。
「謝ることじゃない。私も勇者も、そう簡単に方法が見つかるとは思ってないんだからな」
「――あ、うん。そうだよ、だから頭上げて」
エクレールの目配せを察してシンクが声をかける。確かにこんな短時間で見つかるなら、今リコッタちゃんはこんなに申し訳なさそうにしていないはずだ。
「本当でありますか?」
「うん、ただ春休み終了の三日前の前日には家にいないといけないから……最大で16日がタイムリミットかな」
――春休み?
「16日でありますか! それなら希望が見えてきたであります!」
「本当!?」
「おまかせください、であります!」
先ほどの意気消沈とした空気から一転、リコッタちゃんが嬉しそうに頷いて見せる。
――しかし、俺はシンクの言葉にどうにも嫌な予感を感じずにはいられなかった。
◇
エクレールとリコッタの案内の元、シンクが召喚されたビスコッティの召喚台に尊たちは訪れていた。
事の発端はフィリアンノ城で、シンクがリコッタに召喚台に行けば圏外となっている携帯電話の電波が入らないかと尋ねたことからだ。
エクレールが召喚に使用された剣に輝力を通すことで召喚の陣を展開するが、やはり一方通行なためかシンクが力任せに腕を押し込んでも逆に戻される力が働いて肘にも届かず失敗する。
「いい加減諦めたらどうだ? 無理なのはわかっただろ?」
「いや、人生何事もチャレンジ! ネバーギブアップだよ!」
「そのポジティブさ、まるで松○修○だな」
「まつ……どなたですか?」
隣のサラからネットで地球温暖化の原因とも噂されている有名人について質問されるが「気にするな」と打ち切り、尊も試しに腕を突っ込んでみる。結果は腕が入ったシンクにも劣り、手のひらが陣に触れただけで終わってしまう。
正規手段でここに来たシンクとは違うから無理なのかと考察していると、不意に後ろからガチャガチャとやかましい音が近づいてくる。
「勇者様ー! おまたせしました!」
「えっと……リコッタ、それなに?」
大掛かりな装置を牽引したセルクルと共に現れたリコッタをみて、シンクが質問する。一方、尊は浮遊した足場をどうやって車輪付きの装置で運んできたのか気にしていた。
「放送で使うフロニャ周波を強化増幅する機械であります。自分が5歳の時に発明した品でありますが、今は大陸中で使用されているであります」
「……はぁ!?」「……えぇ!?」
前半の話だけを聞けば尊もシンクもそこまで驚かなかったであろう。
しかし、5歳の時の発明と聞いては目の前の少女が改めて普通ではないと実感させられたような気がした。
「……この子もルッカと同じか?」
尊が思わず未来の技術もすぐさま自分のモノにしたメカチート転生疑惑の少女のことをぽつりとつぶやくと、どこかの世界でメガネの少女がくしゃみをしたそうな。
それはさておき、手慣れた動きでリコッタが操作すると、装置が低い音を上げて作動した。
「さ、勇者様」
「あ、うん」
促されて携帯電話を開くと圏外の文字が消滅し、代わりに三本のアンテナが出現した。
「おお! 立った! リコッタすごい!」
「……何でもありだな、フロニャ力」
高すぎる汎用性に舌を巻き、尊も繋がるのか試そうとする――が、そもそも現在、自分の携帯電話を持っていないことに気付き軽く項垂れる。
早速とばかりに連絡を取り始めたシンクが友達と連絡でき一安心したのを確認し、通話が終わると同時に声をかける。
「シンク、悪いが俺にも電話を貸してくれないか? 自分の携帯、今持ってないんだ」
「はい、どうぞ」
電話を受け取り、早速自分が覚えている数少ない電話番号を間違いなく入力したのを確認し、嫌な予感が的中しないことを祈りながら通話ボタンを押す。
数回のコールが鳴り、電話の相手が出る。
『もしもし?』
「もしもし? 月崎さんのお宅でしょうか?」
『――いえ、違いますが』
――嫌な予感が、的中した。
本編第17話、いかがでしたでしょうか?
次回はガレット陣営に戻り、閣下から紋章術のレクチャーを受けてもらう予定です。
おそらく要人誘拐奪還戦の頭ぐらいまで進ませると思いますが、ガレット陣営にいるので戦の内容はあちらと大きく異なる可能性があります。
クロノトリガー編に戻るのは試算であと11話ほどの予定となりますが、それまでどうかお付き合いください。
それでは、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。