さて、今回から本格的にDOG DAYS編となります。
別枠で連載しているJumper -IN DOG DAYS-とは違った展開で進めていきますので、興味のある方、もしくは気になる方はそちらも併せて閲覧してみてください。
それでは、本編第15話、どうぞご覧ください。
第15話「戦争? いいえ、お祭りです」
お姫様抱っこ。
それは女性ならば一度は理想の相手にしてもらいたいと夢見る抱え方で、状況次第では天にも昇る幸せを感じられるだろう。
しかし現実的な話、このお姫様抱っこというのはする方もされる方もなかなかに体力を要するものだ。フィクションなどでは物語の都合上割りと簡単に行われ、なおかつ長距離をたやすく移動しているように見えるがそれは物語だからまだいいだろう。
では実際に女性一人を抱えてそれなりの距離を走った俺の体験談を報告させてもらうと――ぶっちゃけものすごく疲れた上に走りにく、数百メートルほど走ったところで体力の限界を感じた。別にサラが重すぎるというわけではないのだが、体勢的に本当に走りづらい。
俺にMSは拘束具ですという人やゴキブリ並みの生命力を持った角刈り警官ぐらいの体力があればもう少し粘れたかもしれないが、現実は非情である。
そんな現実にあっけなく敗北した現在の俺はというと――
「――そのチョコボもらったぁ!」
「ウボァー!?」
――背中にサラを背負ったまま『加速』とブーストアップを行使し、整った装備のネコ耳騎士を蹴り飛ばして見るからにチョコボな生物を強奪していた。騎士は『加速』+ブーストアップによって勢いがついた蹴りの衝撃で他の兵同様、コミカルな音を立てて丸くてモフモフな生命体へと変貌したが、それに触れることなくチョコボに跨る。
幸いというべきかこのチョコボは乗り手が変わってもおとなしく、手綱を握ればこちらに従順だった。
あと完全な余談だが、背中に感じたサラの感触はかなりの物だったと報告しよう。
……魔王の耳に入ったら殺されるかもしれんな。
「サラ様、腰に手を回してしっかり捕まってください!」
「は、はい!」
サラの腕が腰に巻き付いたのを確認し、チョコボをまっすぐに走らせる。同時にブーストアップの効果が切れ、副作用の強い疲労と眩暈が俺を襲う。20秒もすれば収まるものとはいえ、これはなかなかに厳しい。
「セルクルを奪ったぞ!」
「逃がすな! 追え! 追うんだっ!」
一方、後ろから追撃をしていたネコ耳兵たちは上の位の兵がやられても動揺するそぶりを見せず、俺たちをどうにかしようと躍起になっていた。
「待てー! セルクルを返せー!」
「待てと言われて待つバカはいない! アディオス、ネコ耳騎士団の諸君!」
最悪のコンディションの中、何事もないように声を張り上げて更に距離を稼ぐ。しかしこいつ、セルクルっていうのか。
一先ず進路を固定して突き進ませているが、正面の先にはアリ地獄を彷彿させるすり鉢の広場があり、さらにその先の方にはガルディア城や夢の国の城に勝るとも劣らない立派な石造りの城が見える。
とりあえずあそこまでいけば、何かわかるか?
淡い期待を抱きつつ、取り合えず目の前のすり鉢を迂回しようと進路を整える。
「『獅子王炎陣――』!!」
突如、すり鉢の中から力強い女性の声とともに巨大な火柱がいくつも上がり、打ち上げられた岩が天から降り注ぐ光の如くこちらに向かって飛来した。
◇
ビスコッティが誇る難関のひとつであるすり鉢エリアでは勇者として召喚された地球の少年、シンク・イズミとビスコッティ騎士団親衛隊長エクレール・マルティノッジがガレットの総大将、レオンミシェリ・ガレット・デ・ロワを相手に戦っていた。
しかし、二人の実力では『百獣王の騎士』にして『天下無双』の異名を持つ彼女へまともにダメージを与えることができず、体よくあしらわれる有様であった。
今し方も空中で挟撃を仕掛けようとしたものの、某配管工のように自分のセルクルであるドーマを足場にしてシンクたちの攻撃を回避したレオはそのままこの世界特有のエネルギー『輝力』を放って二人を地面に沈めたところである。
「いっつつ……勇者! おまえは何をしているんだ! 戦いの邪魔をしに来たのか!?」
「いや、そっちこそ! 僕のエリアルの邪魔をして!」
どっちもどっちな子供の責任転嫁。見てる分には少し微笑ましく思えるかもしれないが、忘れてはならない。ここが戦場で、三国志で例えるなら呂布のような戦闘力を持った人物が目の前にいるということを。
ゴゥッと何かが燃える音が響き二人が目を向けてみると、手にしたバトルアックスに輝力を溜め込み、地面に叩き付けて紋章砲という大技を放とうとしているレオがそこにいた。
「『獅子王炎陣――』!!」
彼女を中心に火柱がいくつも上がり、打ち上げられた岩が隕石の如く火柱とともに周りの一般兵を敵味方問わず飲み込んでいく。その余波はすり鉢の中だけでなく、縁にいる人間たちにも及んだ。
「ちょ、紋章術ってこんなことまでできるの!?」
「レオ姫の物は別格だ! さっさと逃げるぞ、死にたくなければな!」
その言葉に全面的に同意したシンクはすぐさまエクレールとともにレオから離れようとするが、彼女は口角を吊り上げてそれを完成させる。
「『――大爆破ぁ』!!」
さらに巨大な火柱がレオを包み、一気に収束を始める。瞬間――
ドオオォォォォォォォォン!!
レオのいた場所を起点に辺り一面で巨大な爆発が轟音とともに炸裂し、そのすさまじい衝撃はフィリアンノ城にまで届いた。
圧倒的な力に飲み込まれた兵たちはそのほとんどが"けものだま"となって戦闘不能となり、かろうじて"けものだま"を回避した者は衝撃に当てられて目を回した。
『決まったぁぁぁぁぁぁぁぁ! レオンミシェリ閣下必殺の紋章砲、『獅子王炎陣大爆破』がすり鉢エリアの兵たちを一掃! 味方も巻き込んでしまうのが難点ですが、これを受けて立っていられる者は――おや?』
熱い実況をするガレット国営放送の視聴率男、フランボワーズ・シャルレーが解説の最中それに気づく。
すり鉢の縁で動く二つの影。そのうちの一つがすり鉢の中に飛び込むと、一直線にレオの元へと駆けこんでいくのが見えたのだ。
◇
突然の噴火(?)で降り注いだ岩をシールドでどうにかやり過ごしたと思ったら、今度はすり鉢の中で起こった大爆発の衝撃でセルクルごと吹っ飛ばされる事態に見舞われた。
体が宙を舞った時点でブーストアップを使い体勢を整えながらサラを抱きかかえ、限りなく衝撃を和らげるため『集中』を追加してようやくすべてをやり過ごす。しかしブーストアップの副作用で再び調子が悪くなる。さっき使ってからの間隔が短いせいか、いつもより2割増しで気持ち悪い気がした。
「ッ、サラ様。ご無事ですか?」
「は、はい。ありがとうございます」
とりあえずサラが無事であることが分かりホッとするが、さっきの一撃は本当にシャレで済まない。ケモノ耳付きの人たちはどういうわけか死にそうな攻撃を受けてもその辺に転がっている毛玉になって生き延びているが、普通の人間なら間違いなく重傷レベルだろう。そんな危険極まりない技を放った人物には一言言わないと腹の虫が収まりそうにない。
すり鉢の中をのぞいてみると、それらしい人物はすぐに見つかった。何せその部分だけ足場は無事であり、まるでドラゴンボールで気を解放した時のようなドーナツ型のクレーターが形成されているのだから。
「サラ様、少しここにいてください。俺は今の爆発についてちょっと抗議してきます」
「えっと……穏便にしてくださいね?」
「元よりそのつもりですが、承知しました」
すり鉢の中に飛び込み、目を回している毛玉の人たちを踏まないようにしつつ迅速に中心部へと向かう。
あちらも俺の存在に気づいたのか、最初はどこかキョトンとした表情だったものがすぐに警戒するライオンのように睨みつけてきた。
「なんだ、貴様」
「通りすがりの迷い人さ。さっき君が起こした大爆発で危険な目にあったんで、その抗議にやってきた」
「ここは戦場じゃ。危険なのは当たり前であろう。そもそも、貴様はどこの者だ? 見たところビスコッティの勇者と同じ出身のようだが、あやつ以外に誰かが参戦したという話は――むっ!?」
突然空を見上げたかと思うと、上空から垂れた犬耳の少女と金髪の少年が飛来していた。というか、なんで空から?
『な、なんと勇者と親衛隊長! レオ様の攻撃を空に逃げることで回避していたぁ! だがこれでは、地上から狙い撃ちされるぞぉ!?』
どこからともなく大音量の実況があたりに響き、同時に歓声が上がる。
攻撃って、さっきの爆発のことだよな? それを空に回避だと? 一体どうやって……。
「貴様との話はあとじゃ! 巻き込まれたくなければ下がっておれ!」
「……そうさせてもらおう」
巻き込まれるのはこちらとしても本意ではない。いろいろ知りたいこともあるが、ここはおとなしくしておくとしよう。
下がりながら勇者と呼ばれた少年を観察してみると、ちょうど上空からレオンミシェリと呼ばれていた少女に強襲を仕掛けているところだった。見たところ年はおそらく中学生ほどだが、その身体能力は俺の知る中学生レベルから大きく並外れており、もう片方の親衛隊長とやらも同じくらいの年齢と推察でき、その動きからこちらも普通ではないことが察せられた。
真下にいるレオンミシェリに向かって勇者が手にした棒を振り下ろす。無論これを黙って受け入れるレオンミシェリでもなく、手にした戦斧で迎撃し勇者を押し返す。
この隙に親衛隊長が背後をとり、勇者とともに挟撃をかける。その攻撃を同時に受け止めて見せるが、彼女が防げたのはそこまでだった。
思うように踏ん張りが効かなかったのか、武器と盾が衝撃を殺しきれず砕けそこへ二人が同時に駆け出し、追撃を仕掛ける。
「でえやああああああ!!」
「うおおおおおおおお!!」
「くっ!!」
何とか躱そうとするレオンミシェリだが間に合わず――
ガキャァン!!
――二人の武器が彼女を起点に交錯し防具ごと上着を破壊する。
手ごたえを感じてやったと思い勇者が振り返ると、少々露出が多くなったレオンミシェリを見て思わず顔を赤くした。うん、この辺は年相応だな。
一方、防具を破壊されたレオンミシェリは露出が増えたことに動じることなく現状の確認を始めた。
「ふむ……チビとタレ耳と思い少々侮ったか。別にこのまま続けても構わんが、それではちと両国へのサービスが過ぎてしまうな」
わざわざモデルのようにポーズをとりながらそう呟くレオンミシェリを見て、親衛隊長がまさかと問う。
「レオ閣下、それでは……」
「うむ――ワシはここで、降参じゃ」
『『『――うおおおおおお!!』』』
どこからともなく出された小さな白旗が合図となり、辺りから無数の花火が打ち上げられ兵たちから歓声が沸いた。
『まさか、まさかのレオ閣下敗北!! 総大将撃破ボーナス350ポイントがビスコッティ軍に加算されます!! しかし今回は拠点制圧が勝利条件となるので現時点で戦終了とはなりませんが、この点差はあまりにも致命的!』
実況の興奮した声が響く中、これまで見てきたアスレチックと撃破ボーナスや勝利条件といった言葉から一つだけわかったことがある。
「これ、祭りだったんだな……」
ひとまずこれ以上の危険性はないと判断し、サラを迎えに行くべく降りてきたすり鉢を登ろうと手をかける。
と、不意に後ろから声をかけられた。
「少し良いか?」
「ん?」
振り返ってみれば、カメラマンを引き連れたレオンミシェリが笑みを浮かべて立っていた。
「お主、何もないところからいきなり現れたそうじゃな? ――詳しい話が聞きたい。迎えをよこす故、後で天幕まで来てくれ」
「……了解。こっちもいろいろ聞きたいんでな」
それだけ約束を交わし、今度こそすり鉢を登り始める。
なお、登り切った後ですり鉢の中から親衛隊長の絶叫と実況の服破壊という言葉を聞いて、何が起こったのか容易に想像できた俺は心の中でタレ耳の少女に合掌した。
本編第15話、いかがでしたでしょうか?
Jumper -IN DOG DAYS-がビスコッティルートだったのに対し、こちらはガレットルートで進めていくことになりました。
無論、ストーリーの都合上ビスコッティ組との絡みが頻繁に発生するかと思いますが。
このDOG DAYS編にもオリジナル設定、オリジナル展開を用意していますので、最後まで楽しんでいただければ幸いです。
それでは、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。