Jumper -世界のゲートを開く者-   作:明石明

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心の力に関してオリジナル設定及び自己解釈があります。
申し訳ありませんが、原作と違うというコメントはお控えください。


第11話「流れは再び交わりて」

 魔王との命を賭けた鬼ごっこを生き延びた翌日。改めてエンハーサを訪れた俺はまず自分の属性の特異性について調べるべく、宮殿内の書物を手あたり次第引っ張り出していた。ちなみに昨日予想した通り、エンハーサへ向かうための移動ポートがジールの中に存在していたので今回はこれを使ってやってきた。これでもう吹雪に晒される心配もないというわけだ。

 さて、調べたことをまとめると、書物には原作で知ることのなかった属性を持つ者の特徴についてこんなことが記されていた。

 天の属性を持つ者は結束の心の力が最も高い。

 水の属性を持つ者は癒しの心の力が最も高い。

 火の属性を持つ者は助力の心の力が最も高い。

 冥の属性を持つ者は生死の心の力が最も高い。

 こうしてみればなるほど、自分はともかく他のメンバーに思い当たるものが存在しているな。

 パーティー全体の(かなめ)として仲間の絆を束ねるクロノ。

 回復の力に秀でて仲間たちの傷を癒すマールとカエル。

 仲間たちの足りないあと一手を助言などで手助けするルッカ。

 そして命の終わりを告げる黒い風の泣く声を感じ取る魔王。

 これに従えば二つの属性を持つ俺は結束と癒しの心の力が高いということになる。癒しの力はケアルやレイズがあることからまだ納得できるが、俺に仲間を結束させる力なんてあるのだろうか? ソロで活動している以上、こればかりはわからないな。

 他にわかったことは俺のように属性が重複している人間は稀に現れることがあり、属性が重複=魔力値が高いと言うわけではないと言うことだ。

 魔力値が高いものならば属性が一つであろうと複数の属性魔法を扱うことができ、冥の属性の持ち主はこの傾向が非常に強いともある。また相性がよければ他の属性魔法を習得できる可能性もあり、それには相応の修行が必要とも記されていた。

 つまり俺も頑張ればファイア系の魔法を習得できる可能性があると言うことだが、まあこれは今気にすることではないな、サンダガやアイスガを覚えられた後に考えてみよう。

 区切りをつけて広げた書物を元の棚に戻し、テラスの喫茶店で一服すべく移動する。

 ――と、不意に一陣の風が吹き抜ける。

 

 

「「やあ、君が新しくジールに来たって人かい?」」

 

 

 後ろから声をかけられて振り向くと、人間とは少し違う姿をした二人の子供がステップを踏みながらそこにいた。

 見たことのあるその姿にもしやと思いつつ、問いかける。

 

 

「君たちは?」

 

「僕はグラン」「僕はリオン」

 

「「サラ様が君の話をしていたから、気になって会いに来たんだ」」

 

 

 名乗った二人が予想通り――後の聖剣グランドリオンに宿る精霊のグランとリオンだった。

 会いに来た理由がサラの会話からということで彼女が俺のことをなんといっていたのか気になるが、余計な詮索はしない方がいいだろう。特に昨日みたいな目に遭う可能性がある以上はな。

 

 

「そうか。まあ、これからよろしく」

 

「うん。マスクのセンスはあれだけど、心の力はとても澄んでいるね」

 

「だね。マスクもまともだったらもう少し評価は上げれたよ」

 

「……そうか」

 

 

 なんだ、このマスクはそこまで叩かれなければならない代物なのか? 本家の大佐が聞いたら泣くかもしれないぞ。

 しかしこれを外して過ごすわけにはいかない。外して過ごせるのは古代編が終わった後だ。

 

 

「ところで、今日は何しにこっちへ来たんだい?」

 

「ちょっと調べ物をな。君たちは?」

 

「僕たちは気ままにジールを回っているだけさ」

 

「そう、風みたいにね!」

 

 

 それだけ言い残し、二人は風を残して姿を消した。

 ジールを回っているというは本当だろうが、本当の目的はおそらく俺という人間を見定めに来たのだろう。

 どこから湧いたかもわからない男の話がサラの口から語られる。警戒するには十分すぎる理由だしな。この話が魔王の耳に入ったら……

 

 

「……昨日の二の舞どころじゃないな。寝首を掻かれないように気を付けよう」

 

 

 部屋のロックを厳重にしようと心に誓いながら、俺は当初の目的を果たすべく移動を再開した。

 

 

 

 

 

 

 数日後、魔神器の資料が納められた書斎に閉じこもっているとなにやら廊下の方が騒がしくなっていた。

 外していたマスクを装着し、マントを身につけて表に出る。すると武装したダルトン部隊がぞろぞろと歩いていた。何事かと思い、移動していた一人に声をかける。

 

 

「すまん、これは何の騒ぎだ?」

 

「あ、シド殿。先ほど侵入者が現れましてね。ダルトン様のゴーレムに敗れたところを捕らえて移送したところです」

 

「侵入者だと?」

 

 

 しかもダルトンのゴーレムに敗れた……。と言うことはクロノたちか?

 まあクロノたちだとしても、初めて戦うダルトンゴーレムに負けるのも不思議ではない。特にあのまねっこ能力によるエネルギーボールは初見殺しに近いし。

 

 

「……わかった。ありがとう、仕事に戻ってくれ」

 

「ハッ!」

 

 

 列に戻っていく兵を眺めていると、不意に一つの会話が耳に届いた。

 

 

「しっかし、シド様っていい人だよな。俺らなんかでも気さくに声掛けてくれるし」

 

「そうそう。ダルトン様とは大違いだな」

 

「いや、そうでもないぞ。最近のダルトン様は俺らのことにも気をかけてくれるし」

 

「ああ、あれは最初すごく気持ち悪かったが……まあ俺らに対する扱いが良くなるならまだいいかな」

 

「この調子で給料も上げてくれたらいいんだけどなー」

 

「まったくだ」

 

 

 ……予想以上にダルトンの変化が大きいようだ。

 ともかく、思ったより遅かったがついにクロノたちが来たか。負けたのも仕方ないと言えば仕方ないが、やはり一度封印の箱を回収してもらう旅に出てもらうとしよう。

 一旦書斎に戻って適当な紙にシド名義でメモを書き、手近な袋へ餞別の金と一緒に入れて口を縛る。

 あとは魔王と合流して捕らえられた場所に向かうとするか。

 方針を決めて行動すること数分、向こうも俺に用があったのか、割りとあっさり魔王と合流することに成功する。

 

 

「カエルの仲間どもが乗り込んできたぞ」

 

「ダルトン部隊の連中から聞いた。しかし、ゴーレムごときにやられるようなら戦力には数えられないな」

 

「何だと? ではどうするつもりだ」

 

「まあ焦るな……ちょうどいい。俺の知っている中でも真理を突いた名言を教えてやる」

 

「真理を突いた名言だと?」

 

「『レベルを上げて物理で殴ればいい』。力が足りないならレベルを上げまくったらいいという至極単純明快な言葉だ」

 

 

 もっともこの世界では魔法でないとダメージを与えられない敵もいるが、事実レベルを上げまくったらまず負けることはなかったからな。

 強くてニューゲームを使って武器縛り(全員最弱武器)でクリアした実績がそれを物語っている。あの時ラヴォスをモップでボコボコにしたのはいい思い出だ。

 

 

「……つまり、連中を強くさせるということか?」

 

「そういうことだ。確実に奴を仕留めるためにも、強くなってもらうことに越したことはない」

 

「フン、矛先がこちらに向かなければいいがな」

 

「その辺の保証はできないが、まあ勝算を上げるためと割り切ってくれ」

 

 

 そうなだめながら俺たちはサラも向っているであろうクロノたちが捕らえられている場所へと足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 クロノたちはダルトンのゴーレムに負けた後ジール宮殿内のとある場所に捕らえれていたが、それを是としないサラが三人を解放してある助力を求めていた。

 

 

「――さあ、急いで宮殿から逃げてください。そして出来ることなら、命の賢者様を助けていただきたいのです」

 

「命の賢者様?」

 

「命の賢者様は計画に反対したため嘆きの山に幽閉されてしまい、身動きが取れない状態になってしまっているのです」

 

 

 その言葉にクロノたちは納得した。あの女王が主導のもとに行われているラヴォスを呼び出す計画だ。たとえ位の高い人物でも、邪魔になるなら排除なり何なりするのも不思議ではない。

 

 

「それよりお前、エイラたち助ける。大丈夫か?」

 

「心配ありません。それよりお願いです、どうか賢者様を……」

 

「そこまでだ、サラ」

 

 

 突然響いた新しい声。

 その発信源はローブをまとった予言者と、銀色の仮面をつけたシドだった。

 

 

「サラ様、彼らは計画の邪魔を企てた者たちです。再び邪魔をする恐れがあるならば、我々は彼らを排除しなければなりません」

 

「シドさん! あなたまでそんなことを言うのですか!?」

 

「おっと、落ち着いてください。なにも殺すと言っているのではありません。予言者が言うには、彼らは普通の手段でここに来た者ではないそうなのです」

 

「その通りだ。本来なら消えてもらいたいところだが、シドに免じて命だけは助けてやる……ただしサラ、あなたには力を貸してもらうぞ」

 

 

 シドがサラをなだめる中、予言者がそう付け加えてクロノたちの前に立つ。

 

 

「さあ、お前たちがどうやってこの時代へ来られたのか教えてもらおうか……」

 

 

 既視感を感じる二つの声。それに不信感を覚えながらもクロノたちは悔しさを押し殺し、自分たちがこの時代に来るきっかけとなった洞窟のゲートへと案内することに。

 

 

「ほう、こんな所から……」

 

「転移ゲートの一種のようですね。自然にこのようなものが発生するとは考えにくいですが……」

 

 

 予言者とシドが考察するように呟く中、遅れてサラも洞窟に足を踏み入れる。

 

 

「さあ、サラ。こいつらをこのゲートに放り込んだらそこに結界を張るのだ」

 

「そ、そんな! 嫌です!」

 

「サラ様。そうしなければ我々は本当に彼らをこの手にかけなければならないのです。 仮に私が見逃したとしても、予言者は本気ですよ」

 

 

 シドは頑なに拒もうとするサラにそう告げると、彼女に小さく耳打ちする。

 

 

「……安心してください、サラ様。彼らは必ずここに戻ってきますから」

 

「……え?」

 

 

 呆気にとられたように顔を向けると、シドの口元が小さく笑っていた。

 

 

「さて、私からせめてもの餞別だ。これを受け取ったらゲートに入ってもらう」

 

 

 シドはマントの下からジャラジャラ音が鳴る袋を取り出し、クロノへ放り投げる。

 それを受け取ったクロノたちは不審そうにしながらもそのままゲートホルダーをかざしてゲートへと足を踏み入れた。

 それを見届けたサラはゲートが収まったのを見計らい、ゲートにピラミッド型の封印を施すのだった。

 

 

 

 

 

 

 原始のティラン城跡地。そこに発生したゲートから出てきたクロノたちは予言者と仮面の男について頭をひねらせていた。

 

 

「あのシドって呼ばれてた人……誰かに似てる気がするんだけど」

 

「マールもそう思うか? 俺も会ったときからずっと引っかかってるんだ」

 

「それよりクロ。最後なにもらった?」

 

 

 エイラに促されて最後に渡された袋を開いてみると、中から1500Gほどのお金と一枚のメモが入れられていた。

 

 

「なにこれ?」

 

 

 メモを取り出したマールが広げてみると、そこにはあまりに予想外のことが記されていた。

 

 

 

『宮殿に乗り込んだ少年たちよ。

 シンボルに封じ込められた理の賢者の発明を求めるならば力を求めよ。

 その力があれば君たちはより先へと進みやすくなるだろう。

 力を得て戻ってくるといい。全てはこの星のために。

                               SID』

 

 

 

「く、クロノ! これって……!」

 

「ああ。あのシドって人は俺たちに協力しようとしてるみたいだ」

 

「シンボルってなんだ?」

 

「そこまではわからないけど、あそこにあった扉と同じものが未来にもあったよね?」

 

「そういえば……。もしかしたら旅の途中で見つけた不思議な箱もこのペンダントで……」

 

「エイラ、クロたちの話、よくわからない。けど、アテあるなら行く!」

 

 

 エイラの言葉にクロノたちは頷き、まずは未来の扉を開けるべく不思議山のゲートへと向かった。

 


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