所変わって、鎮守府近海。
「良い風ねえ〜・・・。」
「風を嗜むのも良いけど、そろそろ作戦海域よ?」
「羽黒、索敵機に反応は?」
「反応はありませんね、姉さんは?」
「こちらも無いわ、頃合いね。ではこの辺りで訓練を開始しましょう。大鳳、始めて貰えるかしら?」
「分かったわ、艦載機発艦及び着艦訓練開始!優秀な子達、行くわよ!」
大鳳が風に向かって航行し始め、それと同時にクロスボウを構える。
そして引き金を引く。
矢が風を切る音が響き、そして。
その矢が艦載機へと姿を変える。
艦船の方の空母では発艦に必要な距離の関係で艦爆や艦攻より短い距離で発艦できる戦闘機から発艦させて行くのだが、これでは戦闘機が速度の遅い艦爆や艦攻の発艦を待たねばならず、その分燃料が無駄になる。
だが、艦娘は違う。
艦娘の扱う艦載機は矢などに収納されるので、艦爆や艦攻から発艦させる事が出来る為、燃料の無駄を抑える事が出来る。
今回の大鳳の艦載機の編成は零式艦上戦闘機五二型、彗星、天山、零式艦上戦闘機六二型だ。
発艦の順序としては、俺は天山、六二型、彗星、五二型とか良いんじゃないかなと思います。
大鳳のクロスボウの弾倉の中はしっかりと空母の格納庫になっていた。
何を言ってるか分からないと思うが、とにかくそういう事だ。
鳳翔さんの時に矢も体験したが、これとあまり変わらなかったな。
しかし、一部の軽空母の式神って艦載機から見てどんな風になってるんだろうな。
どうも気になるな・・・。
「こんど、ためしてみたいな。あ、いたいた、おーい、れつきのみなさーん!」
妖精の姿だとなんか言葉使いが幼くなる様な気がしてならないのだが、気のせいだろうか?
「なんでしょうか?」
「およびでしょうか?」
俺は今回の訓練で一緒の小隊になった妖精達の元へ来ていた。
敬礼を交わした後、自己紹介をする。
「どうも、しょうたいちょうのすぎたです。よろしく。」
「よろしくです。」
「たよりにしております。」
「こちらこそ。あ、くれぐれもへんたいはくずさないようにおねがいします。へんたいをはずれたんどくでとんでいればねらわれるかのうせいがたかくなりますよ。では、そろそろおれたちもしゅつげきですね、がんばっていきましょう。」
「「はい!」」
そうしてそれぞれ持ち場に戻って行く。
俺は自分の機体の整備をしてくれている妖精に声を掛ける。
「どうですか、おれのきたいのむせんきはなおりそうですか?」
「あ、ぱいろっとさん。いやぁ、なんとかおうきゅうしょちはすませましたが、いつこわれるかわからないです。」
「それってつうしんはできるんですか?」
「いまのところはもんだいないです。」
「ならだいじょうぶです、ありがとうございます。ひこうまえてんけんはどのていどまでおわりましたか?」
「ほぼかんりょうしてますです!ささ、はやくこくぴっとへ!」
そう整備士に促され、俺は零戦へ乗り込む。
まずは燃料計を確認、燃料は良し。
座席に身体を固定するバンドを繋ぎ、補助翼、方向舵、昇降舵が正常に動くか確認、良し。
そして、主スイッチを「断」にする。
いよいよエンジン始動だ、おっと、その前に。
俺はエンジンの最終点検をしていた整備員に声を掛ける。
「まえはなれて!すいっちきりました、えなーしゃよろしくおねがいします!」
「はい!」
すると整備員が始動クランクを回し始める。
そして、エナーシャの回転数が最大になったところで、俺は叫ぶ。
「こんたくと!えんじんしどうします!」
叫んだと同時に引き手を引いてエナーシャとエンジンのシャフトを直結させ、さっき切っておいた主スイッチを入れる。
すると、零戦のプロペラが回り始める。
それを確認し、俺はスロットルレバーを前に倒し、燃料を送り込む。
エンジンのシリンダー内に火が入り、エンジンが音を響かせながら始動する。
その後、燃料計や油圧計、回転計が正常か確認し、他の整備員にも離れる様に指示する。
そして、列機の二人に通信を入れる。
「いよいよですか。くんれんですが、きをぬかずにいきましょう!」
『『はい!』』
するとどちらからも心地良い返事が返ってきた。
そしてしばらくして、大鳳から出撃の下知が下る。
「零戦五二型、出撃!」
すると、その場にあった零戦の姿は消え、ただ一機甲板に出たと思えば、何をした訳でもないのに零戦は一人でに加速する。
驚く暇もなく俺は操縦桿を握り、発艦へ操作する。
発艦に成功して間もなく、零戦の視界が光に包まれる。
光が消えると、周りには無数の零戦が共に飛んでいた。
いつ体験しても不思議な発艦だ・・・。
「はっかんにせいこう!つぎはへんたいひこうです、だいごしょうたい!」
『はい、たいちょう!』
『りょうかいです!』
そう通信を入れると、俺の機体の斜め後ろに零戦が二機付いて来るのが見えた。
今度、部隊のマークや塗装でも考えようかな。
あんなに一気に同じ塗装の零戦が発艦すると、見分けがつかない。
それはそうと。
やはり空は、良い。
あんな事があった後でも、恐らく俺は死ぬ時まで。
空に魅了され続けるのだろう。
やはり死に場所は、空が良い。
俺は風防を開け、風を感じながら心からそう思った。
その時、緊急の無線が入った。
『こちら大鳳!艦載機は急ぎ全機着艦せよ!』
「・・・りょうかい。」
おかしい、発艦したばかりだぞ?
まだ着艦には早過ぎる。
それにあの大鳳の切羽詰まった様子。
これは何かあったな。
「だいごしょうたい、きこえていたな、ちゃっかんする!じゅんばんはまもれ、しょうとつじこなんかおこしてくれるなよ!」
『『りょうかいです!』』