「ねぇ、杉田さん。」
「・・・・・・。」
「逃がさないわよ?」
食堂にて。
入ってからご飯を受け取り、いざ席に向かおうとした時、夕張を発見してしまった。
重なる視線、そして刹那。
俺は笑顔で怒る人程怖いと体験する羽目になった。
「なんで私が怒っているか分かるよね?」
「・・・全く分かりま「あ?」した・・・。」
あっ、怖い。
悪夢とかとは違う方向で怖い。
「全く、何も言わず先に帰っちゃってさあ。私言ったよね?聞きたい事あるって、言ったよね?」
「は、はい。言っていましたね、ええ。」
「いくら提督が居たとは言え、なんで声を掛けずに帰っちゃったのよ?」
正直言って、鳳翔さんの所へ用事があった為、と言う事も出来た。
しかしそれでは鳳翔さんに責任転嫁してしまう。
しかもその後しつこく質問攻めに会うだろうな。
ここはいっそ突き放した方が良いかもしれない。
「うるさいな、喋りたくないと言っているだろう。」
「・・・・・・え?」
俺の一言に、夕張は完全に虚を突かれる。
その隙に俺は誰も座っていなかった四人用のテーブルへ向かう。
朝早くて助かった、これで座る所が無かったらかなり情け無い。
そしてこれで、しばらくは話し掛けては来ないだろうな。
見知った仲ならまだしも、昨日知り合ったばかりなのだから。
「そう、そういう態度に出る訳ね、それならこちらにだって考えはあるわ、青葉。」
「ここに。取材の依頼ですね?そして、これで私がスクープを掴めば?」
「新型のカメラを開発してあげるわ。」
「仰せのままに。喜んでその命、受けさせていただきます!」
夕張はどこからともなく現れた桜色の髪の毛をした艦娘と何やらコソコソと話し始める。
いや、本当にあの艦娘はどこに隠れていたんだ?
艦娘には忍術まで実装されているのか⁉︎(震え声)
「まぁ、気にしても仕方無いか。頂きます。」
「「頂きます。」」
こだまでしょうか?いいえ、何で?
見れば、夕張と先程の艦娘が俺の向かいの席へ座っている。
解せぬ。
((ドヤァ・・・。))
そして何故か二人とも謎のしたり顔である。
より一層解せぬ。
ここは一つ先手を打とう。
「初めまして、杉田庄一上等飛行兵曹です。」
「あ、これはご丁寧にどうも〜。私は重巡洋艦の青葉です〜。」
「このタイミングですぐに自己紹介するって、あなたなかなか肝が据わってるわね。」
「ズッ・・・、まぁ、そうでないとやっていけないからな。」
「人が話してるのにそっちのけで味噌汁すすらないでよ!」
「味噌汁の具は何が好きですか?」
「返事したじゃないか。味噌汁の具?そうだなぁ、やはり定番のワカメと豆腐かな。おっ、この魚美味しい。」
「ふむふむ。好きな料理とかは?」
「ちょっとー!」
夕張がちょっと作戦会議、と言い青葉とまたヒソヒソと話し始める。
「好きな料理とか聞いてどうするのよ!」
「いやあ、いつどこでこの情報が使えるか分からないので。」
「そんな事より私は聞きたい事があるのよ・・・!」
「参考までに聞きますが、何ですか?」
「そりゃもちろん、あの人の体の仕組みよ!いい?妖精になれる人間なんて聞いた事もない存在、研究せざるを得ないわ!」
「技術者魂は揺らぎませんね〜、そこが良いのですが。」
「もしかしたらその技術を艤装に応用できるかもしれないし!」
「へぇ〜、例えばどんな?」
「それはその技術を手に入れてから考えるわ!」
「でもあの731が簡単に流出するような手術を施しますかね?」
「それは今から見ていけば良いのよ!さぁ、やるわよ!」
やっと会話が終わったようでこちらへ向き直る。
しかし、時既に遅し。
俺は既に朝食を食べ終えていた。
「ご馳走様でした。」
「「ああ、そ、そんなぁ〜!」」
俺はその叫びを無視し、食器を返しに行く。
「ご馳走様でした間宮さん。美味しかったです。」
「ありがとうございます。あ、そうです、コーヒーでもどうですか?」
何食わぬ顔で聞く間宮さん。
ここで思わぬ伏兵か。
しかし、間宮さんのコーヒーでは是非に及ばず。
「む・・・。頂きます。」
((間宮さんグッジョブ!))
俺は孔明の罠にはまり、もうしばらく食堂に居ることになった。
ここぞとばかりにギリギリまで注がれた熱々のコーヒーと共に。