「ここか、鳳翔さんの小料理屋は。いやまぁ、なんかそんな店とか似合いそうって思いはしたけど。」
あの後提督と別れ(夕張は提督に任せた。)、私室に戻り新しい軍服に着替えて向かった先は『食事処 鳳翔』。
地図を貰った後改めて鳳翔さんの居場所を聞こうと思ったら、地図にそのような店があると発見した。
これで居なければ面白いがな、主に俺の運が無さすぎて。
これは開発で紫電改が出ないかもしれん。
幸い店の灯りは点いているので、最悪誰かは居るだろう。
そう思い、店の扉を開ける。
そしてテーブル席の方から聞こえてくる大歓声。
奥のテーブル席で数名の艦娘が酒盛りをしていた。
え?この店の防音設備凄い。
どうやら大鳳の歓迎会は食堂からここへ場所を移しつつ今の今まで続いていたらしい。
と言っても、この店の中に駆逐艦などの艦娘の姿はなく、恐らく二次会とかなのだろう。
あ、訂正。
我店ノ奥側ニ駆逐艦ヲ発見セリ。
あ、違うあれ大鳳さんですわ。
背丈で見間違えた。
見なかった事にしよう。
それに、うるさいしここに長居はしたくない。
調理場にいる鳳翔さんに挨拶して早めに寝よう。
そう思い俺はカウンター席へ向かう。
そして、鳳翔さんへ声を掛ける。
「ご無沙汰しています、鳳翔さん。」
「あ、杉田さん。お久しぶり、でもないですね。訓練の時以来ですか?」
「ええ、その節はお世話になりました。空母への着艦はどうにも難しくて。」
「何を言っているんですか、すぐコツを掴んでからはずっと成功させていたではありませんか。」
「いやあ、なんとか物に出来ましたよ。これも鳳翔さんのお陰ですね、ありがとうございました。それと、またこれからお世話になります。よろしくお願いします。」
「ええ、こちらこそ。この鎮守府に配属になるのは知っていましたが、今日だとは知らずびっくりしましたよ。」
「提督殿が伝え忘れていたみたいですね。まぁ、気にしていませんよ。」
その時、酔っ払いの艦娘達からなぜかこちらへ野次を飛ばす。
「おっ、あんな所に不審者が居るぞ!」
「まぁ、あんなん私達なら返り討ちにしてやるけどね!」
そして、テーブル席から笑いが巻き起こる。
俺は両手で顔を覆いながら、繰り返し呟く。
「大丈夫です、気にしていません、問題ないです・・・。」
「・・・せめてこれで涙を拭いたらどうですか?」
あんなんって何だよ、あんなんって・・・。
そう言っておしぼりが差し出されるが、丁重にお断りした。
「鳳翔さーん!お酒もっと下さーい!」
「あとおつまみも追加お願いしまーす!」
「はい、ただいま。ですが、少し飲み過ぎてはありませんか?」
「大丈夫だって、この隼鷹を舐めてもらっては困るよー!」
「それにここには明日非番の人しかいませんから。」
歓迎会の面々から注文が入る。
非番だけだから問題は無いのだろう。
「あ、あの私、明日訓練があるのですけど・・・。」
何だか大鳳が俯いて何かを呟いた様子だが、呑んだくれ共が気付く様子は一切無い。
なんて言っていたのかは俺には定かではないけどね。
呑んだくれがうるさすぎて聞こえない。
「では、鳳翔さん、俺はこれで。」
「もう帰るのですか?何か食べたりは?」
「また今度にしますよ。明日訓練がありますし、それにどうせなら静かな時に鳳翔さんとゆっくり話したいので。」
「そうですね、それが良いかも知れません。では、訓練頑張って下さいね。楽しみにして待っていますから、出来るだけ早めに来てくださいね?」
「分かりました、善処します。それでは、お疲れ様です。」
「ええ、お疲れ様です。」
そうして俺は『食事処 鳳翔』を後にした。
そのまま帰りたかったが、機銃の残骸を工廠に忘れて来ていたのでそれを取りに戻り、そして私室へ戻った。
何故か少し目が冴えているような感じもしたが、かなり歩き回ったせいかそれもすぐに感じなくなり、程なく眠りに落ちた。
そうして俺の配属初日は幕を閉じた。