食堂に着いて思ったのは、人が多いって事だった。
ここは軍じゃないのか。
規則正しくなくて良いのか。
なんで飯食い終わっても居座って喋り続けているんだ。
そんなの歓迎会だとかそういう流れでしか許されないぞ。
あ、そういや今日は俺と大鳳の配属初日じゃないか。
あまりに歓迎されなさすぎて忘れていた。
取りあえずそんなツッコミを我慢しつつ、夕張の後を追い晩御飯を受け取りに行く。
その途中の好奇の目にさらされる時間がかなり地獄だった。
何ここ男少な過ぎるっていうか提督以外に男と会っていないぞ。
なんとか晩御飯を受け取り、食堂で働く間宮さんを始めとした面々に挨拶を済ませ、夕張の元へ急ぐ。
「すまない、待たせた。」
「まぁ、初日だし、質問攻めとかに遭うわよね。」
「皆こぞって俺の事不審者扱いしなければもっと気軽に挨拶を済ませられたのだがな。」
「な、なんの事かしら。」
雷電姉妹、夕張に続いて食堂や調理場の面々と、見られたほぼ全ての艦娘に不審者扱いされるとは。
先が思いやられる。
「だって、大鳳の事は聞いていたけど、あなたの事は初めて知ったもの。」
「・・・提督は皆には伝えてなかったのか?」
「いや、別に。でも昨日、「あっやべっ。」って言いながら秘書艦の雷と第六駆逐隊を連れて空き部屋をもう一つ準備していたわね。それでゴタゴタしてて忘れてたんじゃない?」
「・・・・・・なるほど。」
あー、これは忘れられてた感じですわ。
どうりで会う艦娘ほぼ全てに「軍服着てるけどこいつ誰?」って視線で見られるはずだよ。
てか、雷電姉妹が俺の私室知ってた理由それか。
「はぁ、なんかもう良いや。取り敢えずご飯を頂こう。では、頂きます。」
「それもそうね。頂きます。」
「お、ここのご飯美味し「しれぇこっち!こっちに不審者が!」
もう勘弁してくれよ。
その後、見るに見かねた提督殿が鎮守府ほぼ全域に渡り放送を入れる事によって俺が通報されるのは格段に少なくなった。
まぁ、この事態は殆ど提督殿の所為だけど。
この騒ぎを片付け、席に戻った時には晩御飯はすっかり冷めており、夕張は居眠りをしていた。
こんな所でよく寝れるものだな。
部屋に帰ってから寝れば良かったものを。
まぁ、今起こすのも可哀想だし、先に飯を食べよう。
そう思い俺はすっかり冷めてしまった味噌汁を飲んだ。
あ、美味しい。
次は是非とも温かいうちに飲みたいものだ。
飯を全て食い終えても夕張は起きなかった。
俺は間宮さんから先程のお詫びと配属祝いを兼ねてコーヒーを頂いた。
コーヒーはあまり飲んだ事は無かったが、ここのコーヒーはなかなか美味しいと感じた。
さて、どうしたものか。
貰ったコーヒーを啜りながら一人悩む。
俺としてはこの後私室に戻り軽く風呂に入った後、慣熟訓練の時に空母着艦訓練などでお世話になった鳳翔さんの所へ向かいたいのだが。
「隣、良いかね?」
「あ、提督殿。勿論であります。」
俺が立ち上がり敬礼しようとすると、提督はそれを片手で制した。
「菅野で良い。そう固くならなくても、ここでそんな事をする者などほぼ皆無だぞ?」
「それは軍としてどうかと思いますが・・・。」
「で、どうかね?上手くやっていけそうかね。」
「・・・それはまだ分かりません。何せ、初日なのですから。」
提督殿が前もって俺の配属の事を知らせてさえいればもっと楽でした。
その言葉が危うく喉まで出かかって慌てて引っ込めた。
「まぁ、それもそうだな。所で、次の出撃だが・・・。」
「はい。」
「君には、大鳳の艦載機で出撃してもらう。機体の方は、すまないがしばらくは零戦の五二型を使ってくれ。配備予定の紫電改の開発が遅れていてな。いやぁ、運が無いなぁ。」
「開発・・・運?」
なんだ、この鎮守府はそんなに技術力があるのか?
運ってなんだ、開発に運が関連してるのはなんなんだ?
それはそうと、五二型か。
悪くない、と思う。
むしろ二一型とかを回されなかっただけ良いだろう。
「了解しました。小隊などはすでに組んであるのですか?」
「だいたい決まっているはずだ。まぁ、君程の技量ならば小隊長は確定ではないかな。」
「恐縮であります。」
ここで謙遜してしまえば、提督の見立てを否定する事になる。
そんな事で提督との仲が険悪になるのは意味が無い。
「鎮守府近海で訓練をしてから改めて出撃なので、すぐさま実戦という事はない。存分に英気を養っておきたまえ。」
「了解しました。提督殿、一つ頼みたい事があるのですが・・・。」
「ふむ、何かね?」
「さっきの地図、もう一枚頂けませんか?」